平成20年度新司法試験論文民事系第1問参考答案

第1.設問1の(1)
1.Y1への545条1項ただし書の適用を検討するにつき、同項本文の趣旨、すなわち法定解除の法的効力を明らかにする必要がある。
 法定解除の効果につき、未履行債務について履行拒絶の抗弁権が生じ、既履行債務については新たな返還請求権が生じるという考え方がある(間接効果説)。
 しかし、この説は原状回復請求権の発生根拠や、遡及効を制限する規定(620条等)との整合性が不明確であり、妥当でない。
 そもそも、法定解除の趣旨は契約当事者を契約の法的拘束から解放することにある。そうである以上、端的に解除の効果は契約の遡及的無効であると考えるべきである(直接効果説)。
2.では、「第三者」の意義をいかに解するか。
 直接効果説からは、545条1項ただし書は、遡及効により特に害される者を保護する趣旨の規定と考えられる。従って、「第三者」とは、解除の対象となった契約を前提として、解除前にその目的物につき新たに権利を取得した者をいう。
 Y1は、XA間の売買契約を前提として、解除前に新たに甲不動産について賃借権を取得した者であるから、「第三者」にあたる。
3.もっとも、Y1はAの代金400万円未払いを認識していた。そこで、保護されるための主観的要件が問題となる。
 直接効果説からは、545条1項ただし書は特別の保護規定となるから、「第三者」は解除事由につき善意でなければならないとも思える。
 しかし、解除事由があったとしても必ずしも解除されるとは限らず、明文上も善意の要求はない。
 従って、善意は不要である。
 よって、Y1がAの代金400万円未払いを認識していた点は結論に影響しない。
4.では、「第三者」として保護されるために対抗要件は必要か。
 直接効果説からは、「第三者」は原権利者と対抗関係に立たないことから、対抗要件を具備する必要はないとも思える。
 しかし、虚偽表示(94条)等とは異なり、原権利者に帰責性が認められないこととの均衡を図る必要がある。従って、権利保護の要件としての意味において、対抗要件を具備することを要する。
 Y1は、甲不動産の引渡しを受けているから、借地借家法上の対抗要件(借地借家法31条1項)を具備している。
5.以上から、Y1の反論@は認められる。
第2.設問1の(2)
1.反論Aについて
(1) 無断転貸により解除しうるのは「賃貸人」である(612条2項)。そこで、XA間売買の解除によって、Xが賃貸人たる地位を取得したかを検討する。
ア.一般に、賃貸不動産が譲渡された場合には、賃借人が対抗要件を具備している限り、賃貸人たる地位も不動産の譲受人に移転するとされる。
 なぜなら、それが譲渡当事者間の合理的意思に合致するし、所有者と賃貸人とを分離させると法律関係が錯綜するからである。
 また、賃貸人の地位の移転には、債務引受が含まれているが、賃借人の承諾は不要とされる。賃貸人の債務は非個性的だからである。
イ.では、本問のように、解除によって所有権を回復した者に対して、「第三者」として賃借権を対抗できる者がいる場合はどうか。
 この点、解除される契約当事者間の意思には必ずしも合致しない可能性もある。しかし、これによって、賃貸人の地位の移転を否定すべきではない。判例も、譲渡当事者間に賃貸人の地位を留保する特約がある場合において賃貸人の地位の移転を認めており、当事者意思は決定的理由となりえないと考えられるからである。
 むしろ、所有者と賃貸人との分離防止という点を重視すべきである。所有者と賃貸人の分離は、賃借人を転借人の地位に転落させ、不測の不利益を与える結果になるからである。
 従って、解除による所有権を回復した者に対して「第三者」として賃借権を対抗できる者がいる場合にも、賃貸人の地位は回復者に移転すると考える。
ウ.Y1は、解除によって甲不動産の所有権を回復したXに対して「第三者」として賃借権を対抗できるから、賃貸人の地位はXに移転する。
(2) もっとも、XがY1に解除を対抗するには、賃貸人たる地位をY1に対抗できなければならない。
 賃貸人の地位の移転を賃借人に対抗するには、所有権登記を要する。なぜなら、登記により画一・明確に賃貸人を確定しなければ、賃借人が二重払いの危険を負うことになるからである。
 XはA名義の所有権移転登記の抹消により、所有権登記を回復しているから、Y1に対して賃貸人の地位を対抗することができる。
(3) 以上から、Xは賃貸人の地位に基づいて賃貸借契約を解除できる。
 よって、Y1の反論Aは認められない。
2.反論Bについて
 解除による賃貸借契約終了に基づく目的物返還義務は、原状回復義務(545条1項)の一内容であると考えられる。そして、解除による原状回復義務を負うのは、「各当事者」である。
 賃貸借契約における契約当事者は賃貸人及び賃借人である(601条)。従って、解除による賃貸借契約終了に基づく返還義務を負うのは、現に目的物を占有又は使用している者ではなく、賃借人である。
 よって、反論Bは、主張自体失当であり、認められない。
第3.設問1の(3)
1.主張立証すべき事実を検討するにあたり、主張立証責任の所在を明らかにすることが必要である。
 無断転貸があった場合、賃貸人は、条文上は無条件で無催告解除できるとされている(612条2項)。もっとも、賃貸借は継続的契約であることから、信頼関係を重視し、背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、例外的に解除はできないものとされる。
 このように、背信性の欠缺は例外的な要件事実であることから、解除の効力を争う賃借人が主張・立証責任を負う。
 そして、背信性の有無は規範的評価を要するから、賃借人は、これを基礎付ける評価根拠事実を主張・立証すべきこととなる。
2.具体的には、以下の事実を主張・立証すべきである。
(1) まず、Y2がY1の叔父であることが挙げられる。なぜなら、親族間において使用を融通し合うことは一般に不自然なことではないからである。
(2) 次に、AとY1間の賃貸借契約の締結に当たり、Y1の扶養家族(配偶者と小学生一人)との同居についてAが了解を与えていたことが挙げられる。なぜなら、Y2は配偶者といずれも小学生である子二人とともに甲不動産に居住したが、これはAが了解を与えた家族構成と比べて、小学生の子が一人加わったに過ぎず、大きな違いはない。従って、Aにとって不測の損害を与えることはないと考えられるからである。
(3) さらに、Y1Y2間の転貸借契約は、賃料、賃貸期間、賃貸目的、権利金及び敷金という賃貸条件について、全て原賃貸借契約と同じであり、賃料等の前払いといった原賃貸人に不利益となりうる特別の条件もなかったことが挙げられる。なぜなら、転貸借によってAに不利な条件を課するものではないといえるからである。
第4.設問2
1.まず、相続開始から遺産分割までの間に相続財産を構成する賃貸不動産(以下、単に「不動産」という)を使用管理した結果として生ずる賃料債権(以下、単に「賃料」という)が、相続財産には含まれるかを検討する。
 相続財産とは、相続開始の時において、被相続人の財産に属した一切の権利義務のうち、被相続人の一身に専属したものを除いたものをいう(896条)。賃料は相続開始後に発生し、相続開始時には存在しない以上、相続財産には含まれない。
2.次に、遺産分割の効力との関係を検討する。
 遺産分割は相続開始時に遡って効力を生じる(909条本文)。
 遺産分割の効力が賃料に及ぶと考えると、賃料は遺産分割により不動産を取得した相続人に全て帰属することになる。
 しかし、賃料は相続財産に含まれないから、遺産分割の対象とならない。
 また、元物たる不動産が遺産分割の対象とされることによって、その果実たる賃料に遡及効が及ぶことも無いと考える。
 なぜなら、遺産分割の遡及効は、相続開始時から遺産分割までの相続財産の帰属を確定する趣旨にすぎず、相続財産から分離独立した果実には及ばないと考えられるからである。
 以上から、遺産分割の効力は、賃料には及ばない。
3.そうすると、賃料は可分な金銭債権であることから、共同相続人間に相続分に従って確定的に分割帰属(427条)し、遺産分割によって影響を受けないことになる。
 従って、これと同旨の設問見解は支持できる。結論的にも、相続人間の公平を図ることができるから、妥当である。
4.以上から、Xの遺言の無い本問において、Xの死亡後にY2から収受していた甲不動産の賃料相当額である90万円は、法定相続分(900条1号)に従い、各45万円ずつBとCに分割帰属する。
 よって、BがCに対して90万円を支払うよう求めることはできない。

以上

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