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最高裁判所第三小法廷決定平成20年05月08日

【事案】

 婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審が抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をした事案。

【判旨】

 憲法32条所定の裁判を受ける権利が性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件につき裁判所の判断を求めることができる権利をいうものであることは,当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和26年(ク)第109号同35年7月6日大法廷決定・民集14巻9号1657頁,最高裁昭和37年(ク)第243号同40年6月30日大法廷決定・民集19巻4号1114頁参照)。したがって,上記判例の趣旨に照らせば,本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審において手続にかかわる機会を失う不利益は,同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接の関係がないというべきであるから,原審が,抗告人(原審における相手方)に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできず,本件抗告理由のうち憲法32条違反の主張には理由がない。
 なお,本件は,家事審判の手続において妻である相手方が夫である抗告人に対して婚姻費用の分担金の支払を求める事案であり,原々審が,抗告人の負担すべき分担金として,抗告人に対し,過去の未払分95万円と1か月12万円の割合による金員の支払を命ずる審判をしたのに対し,原審は,抗告人の負担すべき分担金として,過去の未払分167万円と1か月16万円の割合による金員の支払を命ずる決定をしたものである。原審は,抗告人が相手方に対して正式に離婚が決まるまでの間婚姻費用として支払う旨約した月額5万円の仮払金の既払分を原々審の審判と同じく25万円であるとしているが,本件抗告理由において,抗告人は,原決定までの間に更に仮払金を支払ったと主張している。仮に抗告人の主張するような仮払金支払の事実があったとすれば,抗告人は,原決定の執行力を排除するために,その事実を異議の事由として請求異議の訴えを提起することができるものと考えられるが,本来,仮払金支払の事実の有無については,原審において審理されるべきものである。ところが,本件記録によれば,原審においては,抗告人に対して相手方から即時抗告があったことを知らせる措置が何ら執られていないことがうかがわれ,抗告人は原審において上記主張をする機会を逸していたものと考えられる。そうであるとすると,原審においては十分な審理が尽くされていない疑いが強いし,そもそも本件において原々審の審判を即時抗告の相手方である抗告人に不利益なものに変更するのであれば,家事審判手続の特質を損なわない範囲でできる限り抗告人にも攻撃防御の機会を与えるべきであり,少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという配慮が必要であったというべきである。以上のとおり,原審の手続には問題があるといわざるを得ないが,この点は特別抗告の理由には当たらないところである。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成20年05月19日

【事案】

 株式会社B銀行(以下「B銀行」という。)は,平成12年9月22日,株式会社C(以下「C」という。)に対し,57億円を貸し付けた(以下「本件融資」という。)。本件融資の担保としては,千葉県木更津市内のCが所有するゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)に係る極度額32億円の第1順位の根抵当権,極度額36億4000万円の第3順位の根抵当権,被告人らによる連帯保証があった。
 本件当時,Dが代表取締役頭取を務めていたB銀行の財務状態は芳しくなく,平成12年3月期には100億円以上の損失を出していた。また,大蔵省等による検査,日本銀行の考査で,財務状況の悪化や審査管理の不十分さが度々指摘され,平成12年3月17日,金融監督庁は業務改善命令を発出した。
 E株式会社(以下「E」という。)は,被告人が設立した会社であり,本件当時,被告人が代表取締役会長であった。被告人は,会社を次々と設立,買収するなどし,その結果,Eを中心とする十数社から成るAグループと呼ばれる企業集団が形成されていた。Cは,平成12年4月,本件ゴルフ場の譲渡先となる会社として被告人が設立した会社であり,本件当時,被告人が実質的な経営者であった。 B銀行はAグループの企業に多額の融資をしていたが,同グループの融資先企業は,Eを含め経営不振に陥り,元本はおろか利息の支払も満足にできず,慢性的な資金難状態で実質的に破たんしていた。B銀行は,このような状況の下,返済期限の延長や利息の追い貸し,利払資金のう回融資等に及び,不良債権であることの表面化を先送りしてきた。その一方,Aグループの企業を他の不良債権の付け替え先として利用していた。このようにして,Aグループの企業に対する貸出金残高は,平成12年3月時点で200億円近くに上っていた。
 Eは,F銀行やB銀行等から百数十億円の融資を受けて,本件ゴルフ場の開発を行ったが,会員権の販売が低迷したため,造成工事を受注したG社に工事代金を一部しか支払えないまま,平成9年9月,本件ゴルフ場を開場した。
 しかし,会員権の販売状況は,計画を大幅に下回り,正会員権の価格を当初の約3分の1にまで引き下げるなどしたものの,販売は伸びず,平成11年8月から平成12年5月までの10か月間の実績は,約8293万円,年間換算で約9952万円にとどまった。一方,平成12年9月時点で,会員数は約850名であり,償還を要する預託金額は約41億円に達し,その償還開始時期も平成14年3月に迫っていた。
 また,Eのゴルフ場部門の経営状態も,赤字続きで,平成12年3月期には数千万円の損失を出していたが,Eの資産としては,本件ゴルフ場以外にはB銀行の債権の回収に充てられる見込みのものはなかった。
 前記のとおり本件ゴルフ場の開発に関してEに融資していたF銀行とB銀行以外の金融機関は,平成11年3月ころ,Eに対する約100億円の債権を不良債権として処理すべく,これを極めて低額で外資系の会社に譲渡したことから,被告人は,株式会社H(以下「H」という。)を経営するIに依頼し,同社を介してAグループの企業に,B銀行からの融資金で,同債権を低額で買い取らせた。
 被告人は,G社にも同種の方法により債権譲渡を働きかけようと考え,自己の支配する企業が,B銀行から融資を受けてEから本件ゴルフ場を買い取った上,G社に相当額を支払ってEに対する債権を譲り受ける形を取るなどして,Eの債務圧縮を実現する案(以下「再生スキーム」という。)をD及びB銀行の担当者(以下「Dら」という。)に提案するとともに,IにG社との交渉を依頼した。この再生スキームは,B銀行が,平成12年9月末を基準として行うこととされていた次回の金融庁検査に対応する上でも,利点のあるものであった。
 被告人は,Iから,本件ゴルフ場の評価額を60億円から70億円とする不動産鑑定評価書を入手することができれば,G社に対する交渉材料として利用できる旨言われ,評価額が上記金額となる不動産鑑定評価書を作成させることとし,その旨不動産鑑定士に依頼した。不動産鑑定士は,求めに応じて本件ゴルフ場の価格を67億5273万円とする不動産鑑定評価書を作成し,Eに提出した。同鑑定評価書は,Iに提供され,さらに,本件融資の決定に当たってはB銀行にも提供された。しかし,本件当時の本件ゴルフ場の客観的な担保価値は,十数億円程度にすぎないものであった。
 被告人とDらとの間での話合いの結果,本件ゴルフ場の売買代金の支払名目でなされる本件融資金のうち,約25億円をAグループの企業のB銀行に対する債務の返済に,約17億円をEのG社に対する債務の返済に,約5億円をHへの手数料等の支払に,約4億5000万円をAグループがB銀行の増資を引き受けた見返りに行われた融資の返済に,約2億円をCの運転資金及びホテルJに対するB銀行からのう回融資の返済等に,約3億円をその他諸経費の支払にそれぞれ充てることとし,本件融資金額を57億円とすることが決まった。その結果,平成12年9月5日,EとCとの間で,Cが約41億円の預託金返還債務を引き継いだ上,本件ゴルフ場を譲り受けるとの売買契約が締結された。また,同月11日,E,G社及びHの間で,@Eは,G社に対する合計約156億円の債務のうち,17億円を支払う,AG社は,Hに,Eに対する上記債権の残額を300万円で譲渡する,BG社は,本件ゴルフ場における自社の担保権の抹消に同意するなどの合意が成立した。
 本件融資については前記のとおり被告人らによる連帯保証があったものの,これらの連帯保証人に本件融資金を返済する能力はなく,また,C,更にはEにも,本件ゴルフ場以外には本件融資金の返済に充てられるべき資産はなかったところ,本件当時の本件ゴルフ場の客観的な担保価値は前記のとおりであって,本件融資は担保価値の乏しい不動産を担保に徴求するなどしただけのものであった。
 本件当時のEの経営状態は前記のとおり実質的に破たん状態であったところ,本件ゴルフ場の会員権の販売状況,経営状態も,前記のとおり劣悪な状況にあり,会員権の販売や営業収入の増加により本件融資金の返済が可能であったとは到底いえない。本件融資は,借り主であるC,更にはEが貸付金の返済能力を有さず,その回収が著しく困難であったものである。
 そうすると,B銀行における資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等の業務を担当していたDらは,同銀行の資産内容を悪化させることのないよう,貸付けに当たっては,回収の見込みを十分に吟味し,回収が危ぶまれる貸付けを厳に差し控え,かつ,十分な担保を徴求するなどして債権の保全及び回収を確実にするとの任務を有していたところ,本件融資の実行は,同任務に違背するものであった。
 Dらは,本件融資について,借り主であるC,更にはEが貸付金の返済能力を有さず,その回収が著しく困難であり,前記の67億余円という不動産鑑定評価額が大幅な水増しで,本件ゴルフ場の担保価値が乏しく,本件融資の焦げ付きが必至のものであると認識していた。しかし,本件融資を実行しない場合,Eは早晩経営が破たんし,そうなれば,E等とB銀行との間の長年にわたる不正常な取引関係が明るみに出て,Dらは経営責任を追及されるであろうし,前記のEのG社に対する債務の処理ができなければ,金融庁からの更に厳しい是正措置の発出も必至の状況にあったから,Dらは経営責任を追及される状況にあったものというべく,本件融資はDらの自己保身のためであるとともに,Eの利益を図る目的も有していた。
 被告人は,本件融資について,その返済が著しく困難であり,本件ゴルフ場の担保価値が乏しく,本件融資の焦げ付きが必至のものであることを認識しており,本件融資の実行がDらの任務に違背するものであること,その実行がB銀行に財産上の損害を加えるものであることを十分に認識していた。
 そして,被告人の経営するE等はB銀行との間で長年にわたって不正常な取引関係を続けてきたものであるところ,本件融資の実行はEの経営破たんを当面回避させるものであり,それはDらが経営責任を追及される事態の発生を回避させるというDらの自己保身につながる状況にあったもので,被告人はDらが自己の利益を図る目的も有していたことを認識していた。

【判旨】

 被告人は,特別背任罪の行為主体の身分を有していないが,上記認識の下,単に本件融資の申込みをしたにとどまらず,本件融資の前提となる再生スキームをDらに提案し,G社との債権譲渡の交渉を進めさせ,不動産鑑定士にいわば指し値で本件ゴルフ場の担保価値を大幅に水増しする不動産鑑定評価書を作らせ,本件ゴルフ場の譲渡先となるCを新たに設立した上,Dらと融資の条件について協議するなど,本件融資の実現に積極的に加担したものである。このような事実からすれば,被告人はDらの特別背任行為について共同加功したものと評価することができるのであって,被告人に特別背任罪の共同正犯の成立を認めた原判断は相当である。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成20年05月20日

【事案】

 本件の被害者であるA(当時51歳)は,本件当日午後7時30分ころ,自転車にまたがったまま,歩道上に設置されたごみ集積所にごみを捨てていたところ,帰宅途中に徒歩で通り掛かった被告人(当時41歳)が,その姿を不審と感じて声を掛けるなどしたことから,両名は言い争いとなった。
 被告人は,いきなりAの左ほおを手けんで1回殴打し,直後に走って立ち去った。
 Aは,「待て。」などと言いながら,自転車で被告人を追い掛け,上記殴打現場から約26.5m先を左折して約60m進んだ歩道上で被告人に追い付き,自転車に乗ったまま,水平に伸ばした右腕で,後方から被告人の背中の上部又は首付近を強く殴打した。
 被告人は,上記Aの攻撃によって前方に倒れたが,起き上がり,護身用に携帯していた特殊警棒を衣服から取り出し,Aに対し,その顔面や防御しようとした左手を数回殴打する暴行を加え,よって,同人に加療約3週間を要する顔面挫創,左手小指中節骨骨折の傷害を負わせた。

【判旨】

 被告人は,Aから攻撃されるに先立ち,Aに対して暴行を加えているのであって,Aの攻撃は,被告人の暴行に触発された,その直後における近接した場所での一連,一体の事態ということができ,被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから,Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては,被告人の本件傷害行為は,被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。そうすると,正当防衛の成立を否定した原判断は,結論において正当である。

 

最高裁判所大法廷判決平成20年06月04日

【事案】

 法律上の婚姻関係にない日本国民である父とフィリピン共和国籍を有する母との間に本邦において出生した上告人らが,出生後父から認知を受けたことを理由として平成17年に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ,国籍取得の条件を備えておらず,日本国籍を取得していないものとされたことから,被上告人に対し,日本国籍を有することの確認を求めている事案。

●国籍法2条1号,3条について

 国籍法2条1号は,子は出生の時に父又は母が日本国民であるときに日本国民とする旨を規定して,日本国籍の生来的取得について,いわゆる父母両系血統主義によることを定めている。したがって,子が出生の時に日本国民である父又は母との間に法律上の親子関係を有するときは,生来的に日本国籍を取得することになる。
 国籍法3条1項は,「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる。」と規定し,同条2項は,「前項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を取得する。」と規定している。同条1項は,父又は母が認知をした場合について規定しているが,日本国民である母の非嫡出子は,出生により母との間に法律上の親子関係が生ずると解され,また,日本国民である父が胎児認知した子は,出生時に父との間に法律上の親子関係が生ずることとなり,それぞれ同法2条1号により生来的に日本国籍を取得することから,同法3条1項は,実際上は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子で,父から胎児認知を受けていないものに限り適用されることになる。

【判旨】

 所論は,国籍法3条1項の規定が,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別(以下「本件区別」という。)が生じており,このことが憲法14条1項に違反するとした上で,国籍法3条1項の規定のうち本件区別を生じさせた部分のみが違憲無効であるとし,上告人らには同項のその余の規定に基づいて日本国籍の取得が認められるべきである旨をいうものである。そこで,以下,これらの点について検討を加えることとする。

 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
 憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。しかしながら,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的理由のない差別的取扱いとなるときは,憲法14条1項違反の問題を生ずることはいうまでもない。すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。
 日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。

 国籍法3条の規定する届出による国籍取得の制度は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子について,父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得すること(以下「準正」という。)のほか同条1項の定める一定の要件を満たした場合に限り,法務大臣への届出によって日本国籍の取得を認めるものであり,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した嫡出子が生来的に日本国籍を取得することとの均衡を図ることによって,同法の基本的な原則である血統主義を補完するものとして,昭和59年法律第45号による国籍法の改正において新たに設けられたものである。
 そして,国籍法3条1項は,日本国民である父が日本国民でない母との間の子を出生後に認知しただけでは日本国籍の取得を認めず,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させることとしており,これによって本件区別が生じている。このような規定が設けられた主な理由は,日本国民である父が出生後に認知した子については,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって,日本国民である父との生活の一体化が生じ,家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから,日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にあるものと解される。また,上記国籍法改正の当時には,父母両系血統主義を採用する国には,自国民である父の子について認知だけでなく準正のあった場合に限り自国籍の取得を認める国が多かったことも,本件区別が合理的なものとして設けられた理由であると解される。
 日本国民を血統上の親として出生した子であっても,日本国籍を生来的に取得しなかった場合には,その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。
 また,国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下においては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があったものということができる。
 しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。
 また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。さらに,国籍法3条1項の規定が設けられた後,自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において,今日までに,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。
 以上のような我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。
 一方,国籍法は,前記のとおり,父母両系血統主義を採用し,日本国民である父又は母との法律上の親子関係があることをもって我が国との密接な結び付きがあるものとして日本国籍を付与するという立場に立って,出生の時に父又は母のいずれかが日本国民であるときには子が日本国籍を取得するものとしている(2条1号)。その結果,日本国民である父又は母の嫡出子として出生した子はもとより,日本国民である父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も,生来的に日本国籍を取得することとなるところ,同じく日本国民を血統上の親として出生し,法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては,生来的に日本国籍を取得しないのみならず,同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。このような区別の結果,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。
 日本国籍の取得が,前記のとおり,我が国において基本的人権の保障等を受ける上で重大な意味を持つものであることにかんがみれば,以上のような差別的取扱いによって子の被る不利益は看過し難いものというべきであり,このような差別的取扱いについては,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。とりわけ,日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。また,父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。
 上記事情を併せ考慮するならば,国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。
 確かに,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子についても,国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍を取得するみちが開かれている。しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これを届出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別が前記立法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない。
 なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由の一つであると解される。しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとはいい難く,上記の結論を覆す理由とすることは困難である。
 以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記のとおり他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
 そうすると,本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。
 したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。

 以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。
 このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。
 すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。
 そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。
 したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。

 原審の適法に確定した事実によれば,上告人らは,上記の解釈の下で国籍法3条1項の規定する日本国籍取得の要件をいずれも満たしていることが認められる。上告人らの国籍取得届が,被上告人が主張する父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという要件を満たす旨の記載を欠き,また,同要件を証する添付書類の添付を欠くものであったことは,同項所定の届出としての効力を左右するものではない。そうすると,上告人らは,法務大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を取得したものと解するのが相当である。

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