最新最高裁判例

最高裁判所第三小法廷判決平成20年06月10日

【事案】

 採石業を営む上告人が,被上告人Y1(以下「被上告会社」という。)の採石行為によって上告人の採石権が侵害されたので,被上告会社及び被上告会社の代表者として上記採石行為を指示した被上告人Y2は連帯して不法行為責任を負うと主張して,被上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

【判旨】

 上告人は本件和解前には本件土地1についても採石権を有していたところ,被上告会社は,本件和解前の平成7年7月20日から同月27日ころまでの間に,本件土地1の岩石を採石したというのであるから,上記採石行為により上告人に損害が発生したことは明らかである。そして,被上告会社が上記採石行為により本件土地1において採石した量と,本件和解後に被上告会社が採石権に基づき同土地において採石した量とを明確に区別することができず,損害額の立証が極めて困難であったとしても,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,相当な損害額が認定されなければならない。そうすると,被上告会社の上記採石行為によって上告人に損害が発生したことを前提としながら,それにより生じた損害の額を算定することができないとして,上告人の本件土地1の採石権侵害に基づく損害賠償請求を棄却した原審の上記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成20年06月10日

【事案】

 いわゆるヤミ金融の組織に属する業者から,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの。以下「出資法」という。)に違反する著しく高率の利息を取り立てられて被害を受けたと主張する上告人らが,上記組織の統括者であった被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案。

【判旨】

 民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものと解すべきである。したがって,反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである。

 これを本件についてみると,著しく高利の貸付けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許されない。

 

最高裁判所第三小法廷判決平成20年06月10日

【事案】

 本件は,預託金会員制のゴルフクラブの会員である上告人が,同クラブの名称を用いてゴルフ場を経営していた会社の会社分割によりその事業を承継し引き続き同クラブの名称を使用している被上告人に対し,会社法22条1項が類推適用されると主張して,預託金の返還等を求める事案である。上告人は,会社法施行前は,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)26条1項が類推適用される旨主張していたが,会社法の制定により,会社間における事業の譲渡に関しては会社法に同項と同内容の規定である22条1項が設けられ,会社法の施行前に生じた事項にも適用されるものとされた(同法附則2項)ので,同法施行後は同法22条1項の類推適用を主張するものと解される(以下,旧商法26条1項も含む趣旨で会社法22条1項ということがある。)。

【判旨】

 預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の事業主体を表示するものとして用いられている場合において,ゴルフ場の事業が譲渡され,譲渡会社が用いていたゴルフクラブの名称を譲受会社が引き続き使用しているときには,譲受会社が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,譲受会社は,会社法22条1項の類推適用により,当該ゴルフクラブの会員が譲渡会社に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当であるところ(最高裁平成14年(受)第399号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号367頁参照),このことは,ゴルフ場の事業が譲渡された場合だけではなく,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継された場合にも同様に妥当するというべきである。
 なぜなら,会社分割に伴いゴルフ場の事業が他の会社又は設立会社に承継される場合,法律行為によって事業の全部又は一部が別の権利義務の主体に承継されるという点においては,事業の譲渡と異なるところはなく,事業主体を表示するものとして用いられていたゴルフクラブの名称が事業を承継した会社によって引き続き使用されているときには,上記のような特段の事情のない限り,ゴルフクラブの会員において,同一事業主体による事業が継続しているものと信じたり,事業主体の変更があったけれども当該事業によって生じた債務については事業を承継した会社に承継されたと信じたりすることは無理からぬものというべきであるからである。なお,会社分割においては,承継される債権債務等が記載された分割計画書又は分割契約書が一定期間本店に備え置かれることとなっているが(本件会社分割に適用される旧商法においては,同法374条2項5号,374条の2第1項1号,374条の17第2項5号,374条の18第1項1号。),ゴルフクラブの会員が本店に備え置かれた分割計画書や分割契約書を閲覧することを一般に期待することはできないので,上記判断は左右されない。

 被上告人は,本件会社分割によりAから本件ゴルフ場の事業を承継し,Aが事業主体を表示する名称として用いていた本件クラブの名称を引き続き使用しているというのであるから,被上告人が会社分割後遅滞なく本件ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り,会社法22条1項の類推適用により,本件クラブの会員である上告人に対し,上告人がAに預託した本件預託金の返還義務を負うものというべきである。
 そして,本件会社分割後にA及び被上告人から上告人を含む本件クラブの会員に対して送付された本件書面の内容は,単に,本件会社分割により被上告人が本件ゴルフ場を経営する会社として設立されたこと及び本件クラブの会員権を被上告人発行の株式へ転換することにより本件クラブを被上告人経営の株主会員制のゴルフクラブに改革することを伝え,本件クラブの会員権を被上告人発行の株式に転換するよう依頼するというものであったというのであり,この内容からは,被上告人が,上記株式への転換に応じない会員には本件ゴルフ場施設の優先的利用を認めないなどAが従前の会員に対して負っていた義務を引き継がなかったことを明らかにしたものと解することはできない。それゆえ,本件書面の送付をもって,上記特段の事情があるということはできず,他に上記特段の事情といえるようなものがあることはうかがわれない。
 したがって,被上告人は,上告人に対し,本件預託金の返還義務を負うものというべきである。

 

最高裁判所第一小法廷判決平成20年06月12日

【事案】

 平成19年(受)第808号上告人・同第811号附帯被上告人Y1(以下「Y1」という。)が,平成19年(受)第808〜810号被上告人・同第811〜813号附帯上告人(以下「原告」という。)が中心となって開催したいわゆる従軍慰安婦問題を裁く民衆法廷「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以下「本件女性法廷」という。)を取り上げたテレビジョン放送番組(以下「本件番組」という。)を放送したことについて,本件番組のための取材を受け,これに協力した原告が,@Y1,A本件番組について取材,制作に関与したAを原審係属中に吸収合併した平成19年(受)第809号上告人・同第812号附帯被上告人Y2(以下,時期を問わず,「Y2」という。)及びBY2と共に本件番組について取材,制作に関与した平成19年(受)第810号上告人・同第813号附帯被上告人Y3(以下「Y3」という。)に対し,不法行為又は債務不履行を理由とする損害賠償を求める事案。
 原告は,@実際に制作,放送された本件番組の趣旨,内容は,原告が取材を受けた際に説明を受けたものとは異なっており,被告らは,本件女性法廷をつぶさに紹介する趣旨,内容の放送がされるとの原告の期待,信頼が侵害されたことについて不法行為責任を負う,A被告らは,本件番組の趣旨,内容が変更されたことを原告に説明しなかったことについて,債務不履行責任又は不法行為責任を負うと主張している。なお,原告は,原審において,上記Aのうちの不法行為を理由とする請求を選択的に追加するとともに,Y1に対する関係で請求額を増額した。

【判旨】

 放送法は,「放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること」等の原則に従って,放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ることを目的として制定されたものである(同法1条)が,同法3条は,「放送番組は,法律に定める権限に基く場合でなければ,何人からも干渉され,又は規律されることがない。」と規定し,同法3条の2第1項は,「放送事業者は,国内放送の放送番組の編集に当たっては,次の各号の定めるところによらなければならない。一公安及び善良な風俗を害しないこと。二政治的に公平であること。三報道は事実をまげないですること。四意見が対立している問題については,できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」と規定し,同法3条の3第1項は,「放送事業者は,放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め,これに従って放送番組の編集をしなければならない。」と規定している。これらの放送法の条項は,放送事業者による放送は,国民の知る権利に奉仕するものとして表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあることを法律上明らかにするとともに,放送事業者による放送が公共の福祉に適合するように番組の編集に当たって遵守すべき事項を定め,これに基づいて放送事業者が自ら定めた番組基準に従って番組の編集が行われるという番組編集の自律性について規定したものと解される。
 このように,法律上,放送事業者がどのような内容の放送をするか,すなわち,どのように番組の編集をするかは,表現の自由の保障の下,公共の福祉の適合性に配慮した放送事業者の自律的判断にゆだねられているが,これは放送事業者による放送の性質上当然のことということもでき,国民一般に認識されていることでもあると考えられる。
 そして,放送事業者の制作した番組として放送されるものである以上,番組の編集に当たっては,放送事業者の内部で,様々な立場,様々な観点から検討され,意見が述べられるのは,当然のことであり,その結果,最終的な放送の内容が編集の段階で当初企画されたものとは異なるものになったり,企画された番組自体が放送に至らない可能性があることも当然のことと国民一般に認識されているものと考えられる。
 放送事業者が番組を制作し,これを放送する場合には,放送事業者は,自ら,あるいは,制作に協力を依頼した関係業者(以下「制作業者」という。)と共に,取材によって放送に使用される可能性のある素材を広く収集した上で,自らの判断により素材を取捨選択し,意見,論評等を付加するなどの編集作業を経て,番組としてこれを外部に公表することになるものと考えられるが,上記のとおり,放送事業者がどのように番組の編集をするかは,放送事業者の自律的判断にゆだねられており,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が当初企画されたものとは異なるものになったり,企画された番組自体放送に至らない可能性があることも当然のことと認識されているものと考えられることからすれば,放送事業者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならないというべきである。
 もっとも,取材対象者は,取材担当者から取材の目的,趣旨等に関する説明を受けて,その自由な判断で取材に応ずるかどうかの意思決定をするものであるから,取材対象者が抱いた上記のような期待,信頼がどのような場合でもおよそ法的保護の対象とはなり得ないということもできない。すなわち,当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において,取材担当者が,そのことを認識した上で,取材対象者に対し,取材で得た素材について,必ず一定の内容,方法により番組中で取り上げる旨説明し,その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは,取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容,方法で当該番組において取り上げられるものと期待し,信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。そして,そのような場合に,結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には,当該番組の種類,性質やその後の事情の変化等の諸般の事情により,当該番組において上記素材が上記説明のとおりに取り上げられなかったこともやむを得ないといえるようなときは別として,取材対象者の上記期待,信頼を不当に損なうものとして,放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地があるものというべきである。

 これを本件についてみると,本件番組の取材に当たったY3の担当者は,原告に対し,@本件提案票の写しを交付し,A本件番組は,ドキュメンタリーと対談とで構成され,本件女性法廷が何を裁くかということや本件女性法廷の様子をありのままに視聴者に伝える番組になると説明し,B昭和天皇についての判決がされれば,判決の内容として放映すべきであると述べ,C本件女性法廷の全部及びその準備活動等その開催に向けた一連の活動について取材,撮影したいと申し入れ,D実際に,原告の運営委員会の傍聴や撮影,Bに対するインタビュー,本件女性法廷の会場の下見への同行,リハーサルの撮影を行い,本件女性法廷の開催当日,他の報道機関が2階席からの取材,撮影しか許されなかったのに対し,1階においても取材,撮影することが許され,本件女性法廷の一部始終を撮影したというのである。しかしながら,上記DのY3による実際の取材活動は,そのほとんどが取材とは無関係に当初から予定されていた事柄に対するものであることが明らかであり,原告に格段の負担が生ずるものとはいえないし,上記CのY3による当初の申入れに係る取材の内容も,原告に格段の負担を生じさせるようなものということはできない。また,上記@〜CのY3の担当者の行為は,取材を申し入れた時点において提案ないし予定されている番組の趣旨内容及び取材内容に関するもの,あるいは取材担当者の個人的な意見を述べたにとどまるものであることが明らかであり,Y3の担当者の原告に対する説明が,本件番組において本件女性法廷について必ず一定の内容,方法で取り上げるというものであったことはうかがわれないのであって,原告においても,番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が上記説明と異なるものになる可能性があることを認識することができたものと解される。
 そうすると,原告の主張する本件番組の内容についての期待,信頼が法的保護の対象となるものとすることはできず,上記期待,信頼が侵害されたことを理由とする原告の不法行為の主張は理由がない。

 

最高裁判所第三小法廷決定平成20年06月18日

【判旨】

 医療観察法は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,継続的かつ適切な医療等を行うことによって,その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,もってその社会復帰を促進することを目的とするものである。このような医療観察法の趣旨にかんがみると,対象者の行為が対象行為に該当するかどうかの判断は,対象者が妄想型統合失調症による幻覚妄想状態の中で幻聴,妄想等に基づいて行為を行った本件のような場合,対象者が幻聴,妄想等により認識した内容に基づいて行うべきでなく,対象者の行為を当時の状況の下で外形的,客観的に考察し,心神喪失の状態にない者が同じ行為を行ったとすれば,主観的要素を含め,対象行為を犯したと評価することができる行為であると認められるかどうかの観点から行うべきであり,これが肯定されるときは,対象者は対象行為を行ったと認定することができると解するのが相当である。なぜなら,上記のような幻聴,妄想等により対象者が認識した内容に基づいて対象行為の該当性を判断するとすれば,医療観察法による医療が最も必要とされる症状の重い者の行為が,主観的要素の点で対象行為該当性を欠くこととなりかねず,医療観察法の目的に反することとなるからである。

 

最高裁判所第二小法廷決定平成20年06月24日

【判旨】

 本件は,保管記録に係る刑事確定訴訟の被告人であった申立人からの当該記録の閲覧請求であるが,訴訟関係人のする刑事確定訴訟記録法に基づく保管記録の閲覧請求であっても,それが権利の濫用に当たる場合には許されないものというべきである。そして,同法6条の規定に照らすと,関係人の名誉又は生活の平穏を害する行為をする目的でされた閲覧請求は,権利の濫用として許されないと解するのが相当である。

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