平成20年度旧司法試験論文の感想(憲民商)

全体について

7月20日、21日に、旧司法試験の論文式試験が実施された。
問題は、法務省HPで公開されている
全体の印象としては、学者の答練、演習書の問題に似ているという感じだ。
以前であれば、小問1がヒントでそれから後の小問を解かせるといった配慮があった。
しかし、今年に関しては論点を単に訊くだけの小問を並べたというような、淡白な作りである。
その意味で、問題が練られていない。
そういう感じを受けた。

憲法第一問について

希望ヶ丘自治会会費増額無効訴訟(最判平20・4・3、判例集未登載)を素材にした出題である。
判例の事案では、寄付の相手方が赤い羽根共同募金等である。
赤い羽根共同募金の目的は、地域福祉の充実である(赤い羽根共同募金HP)。
また、会費の増額幅は、6000円から8000円である。
割合にすると、およそ33%の増額である。
判例は、結論として思想信条の自由を侵害し、公序良俗に違反するから増額は無効と判断している。
また、判例集登載のもので類似の裁判例として、鳥栖市自治会神社関係費訴訟(佐賀地判平14・4・12)がある。
こちらは、信教の自由との関係が問題になった事例である。
結論的には、徴収の違法性を認めている。
判例・裁判例は社会的許容限度を超えているか、という基準を用いている。
これは、三菱樹脂事件判例の規範である。
目的の範囲ではなく、公序良俗違反の枠組みで処理しているのは、法人格のない自治会も少なくないからだと思われる。

本問の事案は、寄付の相手方が、「地域環境の向上と緑化の促進を目的とする団体」である。
福祉の場合、受益者はやや限定されるが、環境や緑化の受益者は幅広いという違いがある。
そして、会費の増額幅は、5000円から6000円である。
割合にすると、20%の増額である。
微妙であるが、増額割合は判例の事案より小さい。

もっとも、ほとんどの受験生が、上記判例は知らないはずである。
従って、八幡製鉄事件、国労広島事件、南九州税理士会事件、群馬司法書士会事件などを参考にして検討することになる。
すなわち、目的の範囲(地方自治法260条の2第1項)か否か、という観点から検討するのが素直なアプローチといえる。
そして、視点としては、団体の性質、構成員の不利益、増額の使途、金額の多寡などということになろう。

団体の性質については、地方自治法の260条の2を見て、推測していくしかない。
2項から、公益性・公共性のある団体ということがわかる。
これは、目的の範囲を狭くする要素である。
また、6項からは、私的団体であることがわかる。
これは、私人間効の問題であることの根拠として冒頭で挙げるべき条文だろう。
7項は、任意加入の団体であることをうかがわせる条文である。
このことから直ちに脱退の自由があるとはいえないが、一応の根拠にはなる。
なお、最判平17・4・26は法人格のない自治会について、強制加入団体ではなく、会員は一方的に脱退できると判示している。
8項・9項は構成員の思想信条との関係で一定の配慮が要請されていることの根拠になる。

次に、構成員の不利益であるが、これについて具体的な記述が問題文にない。
これが、旧司法試験の難しさともいえる。
新司法試験では、詳細な事例があがっているので、それを拾えばよいので楽である。
しかし、本問のように何も書いていないと、ある程度事前の知識で補充せざるを得なくなる。
冒頭に挙げた判例においては、構成員は自治会に加入していないと社会生活に支障をきたすとされていたようである。
自治会の施設などが利用できなくなるためである。
この点を強調すると、事実上の強制加入というような認定もできるだろう。
もっとも、このあたりの感覚は受験生によって随分違うように思われる。
団地等で、入居者全員が自治会に加入しているような環境で生活していた受験生ならば、事実上強制加入だと感じるだろう。
脱退して自分だけ会費を払わないとか、自治会活動をしないということは、他の入居者との関係でありえないことだからである。
他方、これまで自治会とさほど接点の無かった受験生ならば、加入しなくても何ら不利益はないと感じるだろう。
自治会とは、たまにゴミだしに文句をつけたり、休日に勝手に近所を掃除したりする団体という程度の感覚しかないかもしれない。
その感覚の違いで、現場でのあてはめの姿勢が大きく割れたのではないか。
その意味では、普段自治会との関わりを持っている人は、あてはめがしやすかったと思われる。
とはいえ、問題文に何ら記載がないのに具体的にあてはめるには限界がある。
最低限、当該地域の自治会加入割合や、会員の受ける便益くらいは記述すべきだったのではないか。
不親切な出題だと思う。

増額の使途は、地域環境の向上と緑化の促進を目的とする団体への寄付ということになる。
政党への寄付と比較すれば、思想信条との関わりは希薄といえる。
また、A自治会は地域住民への利便を提供している団体である。
そうすると、地域環境の向上と緑化の促進は、地域住民の利便になるから、目的の範囲に合致しやすいと考えられる。
冒頭の希望ヶ丘判例の赤い羽根については、その使途の不透明性や、募金のノルマを決めて集金を強いる等の問題があったようである。
しかし、本問ではそういった事情はない。
従って、素直にあてはめるより他はないのではないかと思う。
問題文だけだと、寄付を要請する経緯や団体の性質がわからないので、出題として不適切と思う。

金額の多寡については、これは一概にはいいがたい。
参考までに、東京都福生市が平成16年に行ったアンケートがある(参照リンク)。
これによると、会費は2400円から3600円が一般的なようである(5ページ参照)。
そうすると、5000円は元々高額なのに、さらに1000円増額するのは問題だ、ということになる。
また、寄付に会費全体の6分の1を支出するのは不当だ、という言い方もできよう。
他方、1000円程度の増額はそれほど高額とはいえない、という認定も可能と思われる。

本問で、私人間効及び団体と構成員の人権の調整が問題になることは明らかである。
従って、これを書かない受験生はいないはずである。
そうなると、論点では差が付かない。
差が付くのは、まず、あてはめで視点を示しているか。
それと、団体の性質、構成員の不利益をどれだけ具体的に考慮できているか。
このあたりだろうと思われる。

憲法第2問について

NPOに対する助成がテーマである。
が、その問題意識を深く書くことは、かえって合格から遠くなる。
書くべき論点は3つであり、独立行政委員会と65条、89条前段(政教分離)、89条後段(公の支配)である。
これを当たり前に論述すれば、十分合格答案になると思う。
逆に、他の人に差を付けようと考えて論点を作り出し、上記の論述が薄くなると、評価を下げるおそれがある。
書きたくなるのは、独立行政委員会の監督の間接性、助成による選別と団体の思想信条の自由等との関係などである。
しかし、おそらくこの点は書いてもほとんど点は伸びないのではないか。
上に挙げた基本の3論点をしっかり書いたことを前提とした加点事由程度である。
開き直って論証を吐き出した人が無難に上位になると思われる。

民法第1問について

問題文は短いが、マイナー論点を含む多論点問題である。
小問1は、「第三者」(545条1項ただし書)の意義・要件、動産賃借権の対抗力、その肯否に応じて賃貸人の地位の移転or留置権(牽連性)。
小問2は、賃貸人の地位の移転時期or賃貸借契約終了時期、「事由」(468条2項)の意義、解除対象契約目的物の賃料譲受人の「第三者」該当性、債権譲渡の第三者対抗力、付随的に将来債権の譲渡の有効性。
以上をコンパクトに整理して論述できるかどうか。

動産賃貸借の対抗力については、引渡しでよいとするのが多数説とされる。
もっとも、それほどメジャーな論点ではなく、現場では605条を反対解釈して否定した人が多かったと思われる。
答案の構成上も、否定説に立った方がすっきりと構成できる。
Cの対抗を認めてしまうと、動産賃貸借の賃貸人の地位の移転を論じなければならず、やっかいだ。

小問2では、賃料(又はそれに相当する使用利益)をCが誰に払うのかという点が問題となる。
基本的な構成は、債権譲渡と解除の論点と同様である。
しかし、有名な論点は、解除対象契約自体から発生した債権の譲渡の場合である。
本問では、解除対象契約はAB間売買であり、Dの債権は、BC間賃貸借から生じているから、上記論点とは異なる。
その点を考慮して論証をする必要がある。
将来債権の譲渡については、有効を前提として書いても問題ないだろう。

論点を拾った数と、整理して論述できているかで差が付くと思われる。

民法第2問について

第三者のための契約について問う問題である。
小問1は、対価関係の無効が第三者のための契約の有効性に影響を与えないという択一知識の説明。
小問2は、給付後の補償関係の欠缺による不当利得の処理である。
取消しの効果が弁済の効果に影響するかによって、利得の所在が変わる。
普段から準備しているところではないので、厚く書くのは難しい。
他に書くことがないので、下手をすると2ページで終わってしまうかもしれない。
しかし、それはそれで、やむを得ないだろう。

商法第1問について

小問1は362条1項1号違反の取引の効力。
小問2は事業譲渡の意義と、商号自体の続用でない場合の22条1項類推適用の可否。
論点は比較的明確なので、論述の正確さ、あてはめの的確さで多少差が付く程度と思われる。
なお、X株式会社の商号は「X株式会社」である(6条1項)。
従って、「リストランテL」は商号でないことに注意を要する。
商号ではない名称の続用については、最判平16・2・20がある。

商法第2問について

小問1は、125条3項3号該当性。
小問2は、株式発行の法令違反の有無(210条1号)、「著しく不公正な方法」にあたるか(同条2号)。

小問1については、乙は丙の親会社、それも3分の2を超える多数の株式を保有していることから、該当するとしてよいだろう。
125条3項3号の合理性については、敵対的買収の際の個人株主への勧誘ができなくなるために、批判的な意見が多い。
もっとも、答案では淡々とあてはめれば足りると思われる。

小問2については、必要な募集手続について、適切な条文操作をしなければならない。
第三者割当てであるから(202条5項参照)、199条2項・309条2項5号で原則は株主総会特別決議。
もっとも、公開会社は、取締役会決議で足りる(201条1項)。
ただし、それは払込み金額が特に有利な金額でない場合に限られる(「第百九十九条第三項に規定する場合を除き」)。
従って、本問の払込み金額が特に有利な金額であると考えれば、株主総会特別決議が必要となる(199条3項・2項)。
その場合、本問では取締役会で募集事項を決定しているから、法令違反があることになる。

「著しく不公正な方法」については、その意義をどう捉えるかによって結論が変わってくる。
ブルドックソース事件最決は新株予約権無償割当てについてであるが、「専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合」とする。
そうすると、丁社とは既に業務提携契約を結んでいることから、専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合とはいえないとも認定できる。
他方、忠実屋・いなげや事件の東京地裁決定は、「現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたとき、又は、特定の株主の持ち株比率が著しく低下されることを認識しつつなされる場合で、新株発行を正当化する合理的理由が無いとき」とする。
これによれば、払込み期日や議決権行使の基準日の設定の恣意性から、前段か、少なくとも後段にはあたると認定できる。
また、ライブドア・ニッポン放送事件の東京地裁決定は、新株予約権の発行について、「現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がない限り」、不公正発行にあたるとする。
これによれば、支配権維持の主要な目的と正当化事情の欠缺の両方を充たす必要がある。
本問では、いずれも充たすと認定することは可能と思われる。
すなわち、規範とあてはめについて、色々な考え方がありうる。
自分なりの規範を立てて、具体的にあてはめれば足りると思われる。

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