平成20年度旧司法試験論文の感想(刑民訴刑訴)

刑法第1問について

甲については、遺棄の法的性質、故意、因果関係(行為後の事情)、違法性の意識。
乙については、因果関係(行為後の事情)、責任能力(心神耗弱か)。
丙については、甲との共同正犯の成否、保護責任の有無、65条1項2項の関係、殺人について作為と不作為の区別。

難問である。
理由は二つある。
一つは、甲乙丙について論述しなければならないことである。
そのため、限られた時間・紙幅の中でうまくまとめなければならない。
もう一つは、構成の難しさである。
本問で最も悩むのは、甲丙間の共同正犯の成否だろう。
丙は甲に自らの殺意を秘して、遺棄を提案している。
丙からみると、甲との共同行為は一連のX殺害行為の一部といえる。
すなわち、甲は、丙に騙されて丙の殺害行為を手助けする道具である。
そう考えると、これは共同正犯ではないのではないかと思えてくる。
しかし、共同正犯を否定すると丙の保護責任や65条の問題を論じることができなくなる。
また、仮に共同正犯を認めても、危険の引受けを理由に保護責任を認めるのが自然である。
そうすると、やはり65条論は出て来ない。

問題文一行目でわざわざ丙を親族から外しているから、65条が訊かれている。
これが、直感的な判断である。
他方、他の論点との兼ね合いを考えると、書く余地があまりなさそうだ。
これをどう現場で折り合いを付けるか。
相当に悩ましい。
しかし、最初で述べたように、悩む時間はさほど与えられていない。
悩みすぎれば、書く時間を失って途中答案になりかねない。

思い切って共同正犯を否定するか。
それとも、共同正犯を肯定して保護責任を否定し、65条論まで書くか。
共同正犯も保護責任も肯定して、65条論はあきらめるか。
早めにどれかを決断する必要がある。
どれがベストとはいえない以上、最も自分の感覚に合う認定に従うべきである。
個人的には、共同正犯を否定する筋で書きたい。

(追記)
本問は、どうやらシャクティ治療事件(最決平17・7・4)が素材のようである。
遺棄の事例であり、非親族に殺意があり、親族に殺意がない点で酷似している。
判例は、不作為の殺人を成立させ、親族とは保護責任者遺棄致死の限度で共同正犯としている。
判例のように処理するなら、共同正犯の本質論が、メイン論点として浮上する。
ただ、判例の事案は、本問の丙のように明確な殺意のもとに遺棄の指示をしていない。
また、病院前への放置と植え込みへの移動といった2段階の行為がない。
判例の事案だと、両者が共に漫然と放置したという感じが強い。
しかし、本問の丙はXの死を意欲して能動的に動いている。
その点に注意する必要がある。

上記判例に現場で気付いた場合、共同正犯を否定する筋はありえない感じがする。
共同正犯の本質論を落とすことになるからだ。
他方、判例の事案との違いにまで気付いてしまうと、共同正犯をそのまま認めてよいか迷う。
やはり、難問である。

なお、介護の心身疲労による心神耗弱の可否は、裁判例がある。
松山地判平19・10・22新潟地判平19・6・26山口地判平15・11・26などである。
乙については行為後の事情くらいしか書くことが無いので、短く触れる程度に書く意味はあるだろう。

刑法第2問について

甲について、親族相盗例の親族の範囲、盗品であることの秘匿と欺罔行為、詐欺の因果性(相手方知情)、現金の横領。
乙について、親族関係の錯誤、(共謀)共同正犯、間接正犯と教唆の区別。
丙について、盗品等有償譲受けの意思連絡の要否、盗品の財物性、盗品犯を認めれば詐欺との罪数(1個の行為か)。

乙とXは非直系・非同居であるが、親族ではあるので、親告罪になること(244条2項)。
甲乙は同居の親族なので、甲の横領の刑は免除されること(255条)。
これらは見落としやすいので注意したい。
各論の問題であり、甲乙の関係性についての記述もないので、乙の命令の性質については簡単に処理したい。
最判平13・10・25などを参考にして、共謀共同正犯にすることも考えられる。
ただ、共謀共同正犯論を論じるのは面倒である。
書くことの多い本問では、簡単に教唆としてしまってもよいと思う。
また、甲の代金費消については、盗品そのものの横領ではない。
従って、盗品の横領は論じる必要はない。
もっとも、乙の代金返還請求は民事上許されないはずであり、一種の不法原因給付(寄託)物といえる。
その意味で、通常の現金の横領の論点に加え、要保護性をやや慎重に論述する必要がある。

個々の論証の中身よりも、論点をいくつ拾ったか、整理して論述できたかで差が付くと思われる。
第1問、第2問ともに書くことが多いので、時間不足になった受験生が多かったのではないか。

民訴法第1問について

昭和63年以降、民訴の第1問はすべて一行問題である。
今年も一行問題だった。
しかも、ここ数年はマイナー分野から出題されていた。
そのため、多くの受験生は十分な事前準備をして臨んだものと思われる。
その意味では、本問は解き易く感じたのではないか。
弁論準備手続は、長らくヤマとされた争点整理手続の一つであり、事前に答練等で繰り返し出題されていた。
しかも、条文は一箇所に固まっており、数も少ない。
従って、多くの人がそれなりに書いてくるため、書き負けると差が付きやすい。

差が付くのは、まず口頭弁論の諸原則を丁寧に書いているか。
弁論準備手続が主題なのだからと、雑に書いていると評価を下げる可能性が高い。
次に、その諸原則と、個々の弁論準備手続の特徴とをリンクさせているか。
普段考えたことがなくても、こじつけでいいからリンクさせるべきである。
以上を丁寧にやろうとすると、意外と紙幅を要するので、全体のバランスにも注意を要する。
ぱっと見た感じでは、誰もが同じことを書くので差がつかなそうに見える。
しかし、本問は意外と差が付く問題だと思う。

なお、通常は口頭弁論の諸原則に適時提出主義はあまり挙げられない。
しかし、本問では、説明義務(174条)との関係があるので、挙げた方がよい。

民訴法第2問について

設問1は、補助参加人の控訴期間、付随的に判決効の拡張の可否。
設問2は、被参加人が証拠提出を怠った場合の参加的効力の肯否。

設問1は、わざわざ日付が書いてあるので、285条を確認して論点に気付けるかがポイントとなる。
Yへの送達時からは2週間経過しているが、Zへの送達時からは2週間が経過していない。
そこで、補助参加人独自の控訴期間が認められるかが問題となる。
最判昭37・1・19は補助参加人の控訴期間は、被参加人の控訴期間に限られるとする。
もっとも、補助参加人に判決効が及ぶ場合(共同訴訟的補助参加の場合)には、独自に控訴期間が進行するとされる(東京高判49・7・29)。
そうすると、判決効の拡張の可否が問題となる。
これは否定するのが一般だろう。
従って、Z独自の控訴期間は認められず、控訴は不適法ということになる。

受験生の多くは判例を知らないはずなので、補助参加人の従属性・独立性から結論を導けばよい。
従属性を強調すれば否定説となるし、独立性を重視すれば肯定説となる。
そして、共同訴訟的補助参加の場合は独立性が強くなるという観点から、判決効の拡張を論じられればベストである。
むしろ、判例だけを挙げて結論を出すより、その方が評価は高いと思われる。

設問2については、参加的効力を否定して主債務の存在を争えるとするのが筋だろう。
信義則上敗訴者責任を分担させるべきではないといえるからである。
条文上は、46条4号にあたりそうである。
もっとも、証拠の提出は性質上補助参加人のなしえない訴訟行為ではない。
単にZが知らなかったというだけである。
従って、直接適用ではなく、類推適用にした方が無難である。

刑訴法第1問について

論点は3つであり、立ち入り手段と「必要な処分」(111条1項)、令状の事後呈示(110条)、捜索場所に居合わせた第三者の携帯物の捜索の可否である。
前二者については、今年度の新司法試験刑事系第2問と同じ論点である。

前半は最判平14・10・4を素材にしている。
もっとも、令状呈示の態様が異なる。
判例の事案では、立入り後直ちに令状呈示が行われている。
これに対し、本問では、覚せい剤を取り上げた後である。
この点をどう評価するか。
証拠隠滅防止は甲を制止した時点で達せられる。
そう考えれば、制止後速やかに令状を呈示すべきで、覚せい剤を取り上げた後では違法だと考えうる。
他方、制止して覚せい剤を取り上げるまでは一連の必要不可欠の動作で、令状を出していたら振り切られる。
そう考えれば、適法と考えることができよう。

乙のバッグの捜索については、最判平6・9・8東京高判平6・5・11が素材となっている。
ただ、上記判例・裁判例は、内妻や居候の女性についてのものである。
単なる知人で、偶然居合わせたと思われる乙とは立場が異なる。
その点に留意して厳しい基準を立て、違法と考えることは可能である。

差が付くのは、論点を拾えているか、原則例外の流れから規範を立ててあてはめているかである。
条文→趣旨→原則論→不都合性→例外論という流れで丁寧に書きたい。

刑訴法第2問について

設問1は、弾劾証拠が自己矛盾供述に限られるか。
設問2は、弾劾証拠とする供述録取書に供述者の署名押印を要するか。
設問3は、録音テープの性質(署名と同視しうる事情)。

最判平18・11・7を素材にした出題である。
設問1については、基本論点であり、誰もが準備しているところである。
しかし、設問2、3については、判例を知らないと現場で気付くのは厳しいかもしれない。

問題は、「自己矛盾供述であること」について、どの程度の証明を要するかということである。
自己矛盾性を訴訟法的事実であるとして自由な証明で足りると解すると、署名押印は不要となる。
他方、伝聞法則の趣旨を重視すると、判例のように厳格な証明を要すると考えることができる。
そうすると、Bの署名押印がないと、B→警察官の伝聞性を払拭できないから、署名押印を要することになる。

すなわち、本来、321条1項で問題となる供述録取書は、再伝聞である。
しかし、同項柱書で要求される署名押印によって、録取過程の伝聞性が払拭され、単なる伝聞となる。
供述書に署名押印が要求されていない(最判昭29・11・25)のは、録取過程がないからである。

自己矛盾供述においても、この録取過程の伝聞性の問題は依然残っている。
従って、厳格な証明を要する場合には、署名押印又はそれと同視しうる事情により録取過程の正確性が担保されていなければならない。
そうすると、設問2は録取の正確性が担保されていないから、弾劾証拠として採用できない。
他方、設問3は録音の機械的正確性から、署名押印と同視しうる事情があるから、弾劾証拠として採用できる。
このように考えることになるだろう。

なお、判例の原審のように考えることも可能と思われる。
すなわち、設問2では署名押印が無い以上、捜査報告書は警察官の供述書である。
そうすると、警察官の供述はBの自己矛盾供述にならないから、弾劾証拠にできない。
他方、設問3では、録音テープであるから、Bの供述といえる。
従って、自己矛盾供述にあたり、弾劾証拠にできる。
現場では、上記のように考えた受験生もいたと思われ、これはこれであり得る考え方だろうと思う。

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