平成20年度旧司法試験論文憲法第1問参考答案

第1.A自治会のした決議は、事実上自治会費増額分の寄付を会員に強制するものである。寄付は、その無償性・非対価性から思想良心の発露の一形態と考えられる。特定団体への寄付を強制する本問決議は会員の思想・良心の自由を侵害して憲法19条又はその趣旨に反するのではないか。
第2.まず、地方自治法260条の2(以下、「本条」という)第6項は、地縁による団体を公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならないと規定し、その公権力性を否定している。従って、A自治会は地縁による団体の認可を受けたとしても、私的団体であることに変わりがない。そこで、憲法が私人間に適用されるのか、憲法の私人間効力が問題となる。
1.そもそも、憲法は公権力を拘束して個人を守るための法であり、その名宛人は国家をはじめとする公権力である。従って、一部の規定(15条4項、27条3項等)を除いて、憲法の私人間への適用は予定されていない。私人間の規律は、基本的に私的自治の原則に委ねられる。
 もっとも、私人間においても適切な権利利益の調整は必要であり、立法又はその解釈において、憲法の趣旨を考慮することは許容される。
 従って、かかる限度において、憲法は私人間にも間接的に適用されると考えられる。
2.本問において、地縁による団体は「目的の範囲」において権利能力を有するものとされており(本条第1項)、これは立法的に団体の結社の自由(21条1項)と構成員の権利利益との調整を図るものといえる。従って、その解釈においても、憲法の趣旨を考慮すべきと解される。
 具体的には、本問決議が会員の思想・良心の自由を侵害して19条の趣旨に違反する場合には、団体法理に基づいて会員が負うべき協力義務の限界を超えたものとして、本問決議は「目的の範囲」に含まれない無効なものとなる。
 その際には、当該団体の性質、会員の蒙る不利益、寄付の使途・金額等を考慮すべきである。
第3.以上の見地に立って、本問決議が、「目的の範囲」に含まれるかを検討する。
1.まず、A自治会の性質から検討する。
(1) A自治会は、地縁による団体の認可を受けた団体であるから、良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行っているものでなければならない(本条第2項1号)。すなわち、A自治会は公益性・公共性を有する団体といえる。
 そうすると、会社のような営利性を有する団体とは異なり、その許容される活動範囲は限定的なものとなる。広汎な活動を許せば、公益性・公共性に抵触する場合があるからである。本条第9項が、認可地縁団体を特定政党のために利用できないものとしていることには、上記趣旨が含まれていると解される。
(2) 他方、本条第7項が加入拒否事由のみを規定していることから、自治会が地縁による団体の認可を受けたとしても、その加入・脱退は原則として個人の自由であると解される。
 この点、自治会は地域生活を営む上で事実上加入が強制されているのではないかとも思える。すなわち、ゴミの収集方法等地域住民間の日常ルールの連絡や、夏祭り等の地域イベントへの参加のような自治会の提供する便益を受けられないことが、地域生活上重大な支障となりうるために、住民が加入せざるを得ない場合もありそうである。
 しかし、地域の共同性が希薄化した今日においては、自治会の役割は形骸化しており、自治会加入が地域生活上不可欠といえる特別の事情のない限り、事実上加入が強制されているとはいえないと考えられる。そして、本問では、そのような事情はみられないことから、事実上加入が強制されているとは認められない。
 よって、A自治会は純然たる任意加入の団体といえる。
 そうすると、会員はA自治会の決議が自己の思想・良心と抵触する場合には、脱退をすることができるから、会員の蒙る不利益は限定的であるといえる。
2.以上のようなA自治会の性質を踏まえ、以下検討する。
(1) A自治会のように、公益性・公共性を有する一方で任意加入である団体が寄付を行う場合においては、寄付の目的が政治性を帯びるものであってはならないが、そうでない限り、当該団体の目的と関連性が認められる範囲において、相当な金額の寄付をなしうるものというべきである。なぜなら、公益性・公共性から、政治性を帯びる寄付は許されないが、任意加入であることから、相当な範囲の寄付を行うことが構成員を不当に害するとはいえないからである。
(2) 本問において、寄付は、長年地域環境の向上と緑化の促進を目的とする団体に対するものであって、その目的が政治性を帯びるものとは認められない。
 そして、地域環境の向上と緑化の促進は地域住民への利便に資するから、A自治会の目的と関連性がある。
 また、自治会費の増額は年間1000円にとどまり、月額にして100円にも満たないことを考慮すると、相当な金額であるということができる。
3.よって、本問決議は会員の思想・良心の自由を侵害するものではなく、「目的の範囲」に含まれる。
第4.以上から、本問の決議は、憲法19条及びその趣旨に反しない。

以上

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