平成20年度旧司法試験論文憲法第2問参考答案

第1.本問の制度による助成金の交付は、公金の支出である。憲法89条は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため(前段)、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し(後段)、公金を支出してはならないとする。そこで、本問の制度が、89条前段及び後段に抵触しないかを検討する。
1.まず、89条前段との関係を検討する。
(1) 89条前段は、国家の宗教的中立性、すなわち、政教分離を規定したものである。
 政教分離原則は、国家と宗教が癒着する場合、しばしば権力の濫用・堕落が生じるという歴史的な反省と、信教の自由を制度の面から保障しようとする趣旨に出たものと考えられる。その趣旨からは、国家と宗教との完全な分離が望ましい。
 もっとも、宗教は個人の内面にとどまらず、あらゆる場面で関わりを有するものであるから、国家と宗教との関わりを完全に分離することは不可能である。
 そこで、憲法の定める政教分離原則は、国家と宗教との関わりを一切否定するものではなく、目的において宗教的意義を有し、特定の宗教の援助・助長、圧迫・干渉となる場合を禁じるものと解すべきである。
(2) そうすると、89条前段にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、上記のような政教分離原則との抵触が生じる範囲に限定して理解すべきであるから、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体をいうと解すべきである。
(3) 本問では、特定の宗教又は思想信条の信奉、普及又は実践を目的とせず、客観的にもこれと遮断された態様で営まれることを助成の要件としており(要領1)、助成金の交付を受けた事業者が教育等公益事業の実施内容及び収支について委員会に報告し、審査を受けた際に、その結果において上記要件を満たしていないと認められたときは、委員会は事業者に対して、助成金の返還等を命じることができるとされている(要領3)。
 従って、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体に対して助成が行われることはないと考えられる。
(4) よって、本問の制度は89条前段に抵触しない。
2.次に、89条後段との関係を検討する。
(1) 89条後段が「公の支配」に属することを要求している趣旨は、公の財産が慈善、教育、博愛の名目で濫用されることを防止するために、公権力による監督を要求する点にある。
 従って、「公の支配」に属しているというためには、かかる濫費を防止するために必要な程度の監督がなされていれば足りるというべきである。
(2) 本問では、委員会は事業者に対し、いつでもその遂行に係る教育等公益事業に関して報告を求め、助言又は勧告をすることができる(要領4)から、助成金の使途に疑問がある場合において、委員会が適宜報告を求め、助言又は勧告をすることによって、濫費を防止することができる。
 よって、助成対象となる教育等公益事業は「公の支配」に属しているといえる。
(3) 以上から、本問の制度は89条後段に抵触しない。
第2.本問の制度において、助成金交付の決定権を有するのは、内閣から独立して職権を行使する委員により構成される委員会である(要領2)。このような、いわゆる独立行政委員会を設置することは、内閣に行政権を帰属させた65条に違反しないか。
1.そもそも、65条の趣旨は、公権力を立法、行政、司法に分立させる権力分立と、議院内閣制(66条3項等)を基礎とした民主的責任行政を実現する点にある。そこで、独立行政委員会を設置することが、上記趣旨と抵触しないかを検討する。
2.まず、権力分立との関係を検討する。
 権力分立の原理は、公権力を分離して相互の抑制均衡を図ることによりその濫用を防ぎ、国民の権利自由を守ることにその趣旨がある。
 そして、行政権との関わりにおいては、歴史的に権力を独占してきた君主の権限から立法・司法の作用を独立させ、行政権を抑制してきた点を重視すべきである。
 このような観点からは、独立行政委員会は行政権の抑制に資するといえるから、権力分立の原理に反するとはいえず、むしろ、権力分立の原理に合致するものといえる。
3.次に、民主的責任行政との関係を検討する。
(1) 民主的責任行政の原理は、民意を代表する国会に対して責任を負う内閣に行政権を帰属させることで、行政に対する民主的統制を及ぼそうとする原理である。
 そうすると、内閣から独立した組織が行政権を行使する場合、民主的統制が及ばなくなるから、独立行政委員会を認めることはできないようにも思える。
 しかし、行政作用の範囲は広範にわたっており、その中には専門性・中立性が要求され、必ずしも直接的な民主的統制になじまないものもある。かかる場合には、民主的統制の態様を緩和することも許容すべきである。
 そこで、専門性・中立性の要求される事項については、国会や内閣による一定の監督が及ぶ限りにおいて、独立行政委員会を認めても、民主的責任行政の原理には反しないと解すべきである。
(2) 本問では、教育等公益事業の評価には専門性が要求されると共に、助成対象の選定には中立性が要求される。また、委員会の委員は国会の同意を得て内閣総理大臣が任命するとされているから、人事を通じて国会や内閣による一定の監督が及ぶといえる。
 よって、本問の委員会は、民主的責任行政の原理に反しない。
4.以上から、本問の制度において設置される独立行政委員会は、65条に違反しない。
第3.以上から、本問の制度は合憲である。

以上

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