平成20年度旧司法試験論文民法第1問参考答案

第1.設問1
1.解除により本件機械の所有権を回復したAは所有権に基づき、Cに対して本件機械の引渡しを請求することが考えられる。これに対し、Cは「第三者」(545条1項ただし書)にあたるとしてこれを拒めるか。
(1) まず、「第三者」の意義について検討する。
ア.そもそも、法定解除の趣旨は当事者を契約の拘束力から解放することにあるから、その効果は端的に契約の遡及的無効と解すべきである。従って、「第三者」とは、かかる契約の遡及効によって特に害される者、すなわち、解除対象たる契約を前提として、解除前に新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。
イ.本問で、CはAB間の売買契約を前提として、解除前に本件機械について新たに賃借権の設定を受けたものであり、独立の法律上の利害関係を有するに至ったと評価できる。
 よって、Cは「第三者」にあたる。
(2) 次に、「第三者」にあたる場合に、545条1項ただし書の保護を受けるために必要なその他の要件を検討する。
ア.まず、善意は不要である。なぜなら、解除の基礎となる事情が存在していたとしても、必ずしも解除されるとは限らないからである。
イ.他方、解除の場合は虚偽表示(94条)とは異なり、解除者に帰責性がないこととの均衡上、「第三者」は権利保護要件として、対抗力の認められる公示を具備することを要するというべきである。
ウ.そして、本問のような動産の賃借権においては、対抗力の認められる公示は民法上存在しないと解される。なぜなら、債権には排他性が認められないのが原則であるところ、不動産賃借権については605条が存在するが、動産賃借権については対抗力を認める規定が存在しないからである。
 従って、動産賃借権は「第三者」として保護される余地はないものというべきである。
エ.以上から、Cは権利保護要件を具備しえないから、545条1項ただし書による保護を受けることができない。
(3) よって、Cは「第三者」にあたるとして、Aの引渡請求を拒むことはできない。
2.また、Bに対する賃貸借契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を被担保債権としてCが本件機械の留置権を主張し、Aの引渡請求を拒むこともできない。
 なぜなら、Bに対する損害賠償請求権の発生時は、客観的にBの債務が履行不能となるAの引渡請求時であるところ、その時点においてBは本件機械の所有者ではないから、留置権の成立要件たる債権と物との牽連性(「その物に関して生じた債権」)を欠いているからである。
3.以上から、CはAの本件機械の引渡請求を拒むことができない。
第2.設問2
1.AC間の法律関係
(1) AがCに対して本件機械の引渡請求をする場合、引渡請求時までの本件機械の使用利益を不当利得としてCに返還請求することができるかを検討する。
(2) Cによる本件機械の使用は、Bとの賃貸借契約によるものであるが、Aの解除によって遡及的にBが無権利となったとしても、賃貸借契約は他人物賃貸借としてなお有効であり(559条・560条)、AのCに対する引渡請求時に初めて客観的履行不能が確定して賃貸借契約は終了する。
 そうすると、Aが引渡請求をするまではCは賃料義務を負うから、Cには利得が無い。
(3) よって、AはCに対して引渡請求時までの本件機械の使用利益の返還請求をすることはできない。
2.CD間の法律関係
(1) DのCに対する1年分の賃料債権の支払い請求の可否を検討する。
(2) まず、Dが譲受けた際には賃料は未だ発生していないが、その基礎となる賃貸借契約はすでに存在し、内容も明確であることから、賃料の譲渡は有効である。
(3) そして、Aの引渡請求以前の賃料については、前記の通り、依然賃貸借は有効であるから、DはCに対して支払いを請求できる。
(4) では、Aの引渡請求以後の賃料について、Cは賃貸借契約の終了を主張してDへの支払いを拒めるか。
ア.債務者は通知を受けるまでに生じた事由をもって譲受人に対抗できる(468条2項)ところ、債権譲渡により債務者に抗弁喪失の不利益を負わせるべきでないという同項の趣旨から、「事由」には抗弁の基礎となる事実も含まれると解されるから、Aの解除及び本件機械の引渡請求自体が通知以後に生じていたとしても、その基礎となる代金未払いの事実は通知以前に存在している以上、Cは賃貸借の終了をDに対抗しうる。
イ. 他方、Dは解除前にAB間の売買契約を前提として成立したBC間の賃貸借について、新たに賃料債権を譲り受けた者であるとして、独立の法律上の利害関係を有する者として「第三者」(545条ただし書)にあたるか。
 この点、「第三者」には、直接の相手方のみならず、その転得者も含まれると解し得る。しかし、債権譲渡により債務者に抗弁喪失の不利益を負わせるべきではないとする468条2項の趣旨から、545条ただし書の「第三者」にいう「法律上の利害関係を有する者」とは、物について権利を取得した者に限られ、債権の譲受人は、「第三者」にあたらないというべきである。
 よって、Dは「第三者」にあたらない。
ウ.以上から、CはAの引渡請求以後の賃料について、賃貸借契約の終了を主張してDへの支払いを拒むことができる。

以上

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