平成20年度旧司法試験論文民法第2問参考答案

第1.設問1
1. Cは、支払った80万円について、不当利得(703条)に基づいてA又はBに返還を求めることが考えられる。そこで、CのAに対する支払いの効力が、AB間の売買契約の無効によって影響を受けるかを検討する。
(1) CがAに対して80万円の支払いをしたのは、BC間の契約に基づく。BC間の契約は、当事者の一方たるCが第三者Aに対して給付をすることを約するものであるから、第三者のためにする契約(537条1項)にあたる。
(2) 一般に、第三者のためにする契約において、対価関係(本問のAB間の法律関係)の無効は補償関係(本問のBC間の法律関係)の効力に影響を与えない。理由は、以下の通りである。
ア.第三者のためにする契約は特殊の契約類型ではなく、通常の契約と基本的な性質は同じであって、ただ、諾約者(本問のC)が受益者(本問のA)に給付すべき特約がある点、受益者が受益の意思表示により諾約者に対する権利を取得する点(537条2項)が異なるに過ぎない。
イ.そうすると、対価関係と補償関係は別個の法律関係であり、対価関係の有効性は第三者のためにする契約の成立要件でも、有効要件でもないと解される。
ウ.よって、対価関係が無効となっても、補償関係は何らの影響も受けないこととなる。
(3) 以上から、本問で、CのAに対する支払いは、補償関係たるBC間の契約に基づくものであるから、対価関係たるAB間の売買契約の無効は、CのAに対する支払いの効力に何らの影響も与えない。
2.そうすると、CのAに対する80万円の支払いは、有効な弁済である。
 従って、CはBに対する代金債務を免れる以上、Cには損失がないから、不当利得は成立しない。
3.よって、Cは、A及びBのいずれに対しても、80万円の支払いを求めることはできない。
第2.設問2
1.Cの取消しによって、BC間の売買契約は遡及的に無効となる(121条本文)から、Cはその履行として支払った80万円について、不当利得として、A又はBに返還を求めることが考えられる。そこで、利得がAとBのいずれに帰属するかに関連して、CのAに対する80万円の支払いによって、甲債権が消滅するかを検討する。
(1) 甲債権の弁済のためにCがAに80万円を支払う旨の合意は、BC間売買契約に含まれる特約であるから、Cの取消しによって、当該合意も遡及的に無効となる。
(2) しかし、利害関係のない第三者の弁済も債務者の意思に反しない限り有効である(474条2項反対解釈)。
 本問において、Cの弁済はBの意思に反しないと考えられるから、Cの弁済は有効な第三者弁済である。
(3) なお、CのBC間契約の取消しの効果は、Aに対する弁済には及ばない。なぜなら、前述のように、BC間の契約関係と、AB間の契約関係は別個の法律関係であるから、BC間の契約関係の取消しの効果が、AB間の法律関係についての弁済にまで及ぶと考えることはできないからである。
 仮に、CがBの詐欺によって、悪意のAに弁済するに至ったとして、第三者の詐欺(96条2項)を主張して別途弁済自体の詐欺取消しを主張する場合、弁済の取消しは可能であるが、本問ではそのような事情はないから、Cの弁済の効力は否定されないものというべきである。
(4) 以上から、甲債権は、CのAに対する支払いによって、80万円の限度で消滅する。
2.そうすると、AはCから受領した80万円について甲債権を失うから、Aには利得がない。従って、Aに対する不当利得は成立しない。
 そこで、Bに対する不当利得の成否を検討する。
(1) 不当利得が成立するためには、利得及び損失が発生していること、両者に因果関係が認められること、法律上の原因を欠いていることを要する(703条)。
(2) まず、Bには80万円について甲債務を免れた点で利得があり、Cには80万円の出捐をした損失がある。
 次に、Cの出捐(弁済)の法的効果によりBが甲債務を免れる関係にあり、社会観念上の連結はもとより、法律上の連結をも認められるから、因果関係が認められる。
 そして、BC間の売買契約が取消しにより遡及的に無効となっていることから、Bの利得は法律上の原因を欠いている。
(3) 以上から、Bに対する不当利得が成立する。なお、Cの取消しはBの詐欺によるものであることから、Bは悪意の受益者として利息及び損害賠償を支払う義務を負う(704条)。
3.以上から、CはAに対しては80万円の支払いを求めることはできないが、Bに対しては80万円の支払いを求めることができ、さらに利息及び損害賠償の請求もすることができる。

以上

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