平成20年度旧司法試験論文刑法第1問参考答案(その1)

第1.甲は保護責任者遺棄致死罪(219条)の罪責を負う。以下、理由を述べる。
1.まず、Xは頭部より流血し、意識不明の状態であるから「病者」にあたり、甲はXの子であるから、保護責任者にあたる。そして、Xを病院前路上に放置する行為は、誰かに救助される蓋然性があったとしても、Xの生命身体に対する抽象的危険を生じさせる以上、「遺棄」にあたる。
2.また、甲は上記抽象的危険発生の基礎となる事実を認識していたものの、当該行為が犯罪を構成するとの意識を欠いていたとも思われるところ、甲は、丙の提案を漫然と受け入れたもので、違法性の意識を欠くにつき相当の理由があるとはいえないから、故意は阻却されず(38条3項本文)、また、自己の嫌疑免脱のため重傷の親を放置する行為に刑の減軽を受けるべき情状(同項ただし書)があるとも認められない。
 よって、保護責任者遺棄の故意が認められる。
3.次に、甲の行為とXの死との因果関係を検討する。
(1) まず、甲の放置行為後の丙の行為についてまで甲が帰責されるかという点に関連して、甲丙間の共同正犯(60条)の成否を検討する。
ア.共同正犯が成立するためには、共同実行の意思と共同実行の事実を要するところ、本問において、甲はXが救助されることを意図して行為していたのに対し、丙は積極的にXの死を意図して行為しただけでなく、自らの殺意を甲に秘してXが助かる旨の欺罔行為によって甲を錯誤に陥れて放置行為に協力させたのであるから、甲は丙の一連の殺害行為に利用された道具に過ぎない。よって、共同実行の意思は認められない。
イ.以上から、甲丙間の共同正犯は否定すべきである。
(2) そうすると、甲についてXの死を帰責するためには、行為後の丙の介在行為を考慮しつつ、甲独自の因果関係を検討する必要がある。
ア.因果関係の相当性判断の基礎事情としては、構成要件が社会通念を基礎とした行為規範であることに照らし、行為時に行為者が特に認識又は予見していた事情、及び、一般人が認識又は予見できた事情を考慮すべきである。
イ.本問において、たとえ丙が植え込みの陰にXを移動させる行為を甲が予見しておらず、一般人にも予見不能であって、判断の基礎として考慮できないとしても、Xが何者かに救助されて適切な治療が受けられたであろうという仮定的事情もまた考慮すべきでないから、頭部から流血し意識不明となっていたXが失血死することは社会通念上相当である。
ウ.よって、甲の行為とXの死との因果関係を肯定できる。
4.以上から、冒頭の結論となる。
第2.乙は、殺人罪(199条)の罪責を負う。以下、理由を述べる。
1.乙は、殺意を持って、Xの頭部をゴルフクラブで数回殴打しており、殺人の実行行為、故意の存在を認めうる。
2.そして、たとえ行為後の甲及び丙の行為を乙が予見しておらず、一般人にも予見不能であって、判断の基礎として考慮できないとしても、Xが何者かに救助されて適切な治療が受けられたであろうという仮定的事情もまた考慮すべきでないから、頭部から流血し意識不明となっていたXが失血死することは社会通念上相当であって、Xの死と乙の行為との因果関係を肯定できる。
3.また、乙はXの介護のため精神的・肉体的に疲れきって当該行為に及んだものであるが、現状から逃避するためにXを殺害するという判断は、その是非はともかくとして一つの合理的判断であり、事理弁識能力が著しく減退していたとは認められないから、心神耗弱(39条2項)にはあたらない。
4.以上から、冒頭の結論となる。
第3.丙は、殺人罪の罪責を負う。以下、理由を述べる。
1.丙の行為は、自然的に観察すると、病院前路上へのXの放置と、その後のXの植え込みへの移動という二つの行為に見える。しかし、これらはXの死に向けられた一連の行為であるから、刑法上は1個の行為である。
2.また、上記行為は、Xが救助される可能性を低下させXの死に対する具体的危険を生じさせる行為であるから、作為による殺人の実行行為と評価しうる。
3.そして、丙には殺意があり、丙の行為により頭部から流血して意識不明となっていたXが失血死することは社会通念上相当であるから、因果関係も認められる。
4.以上から、冒頭の結論となる。

以上

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