平成20年度旧司法試験論文刑法第1問参考答案(その2)

第1.乙の罪責
1.乙が少なくとも殺人未遂(203条・199条)の罪責を負うことは疑いが無い。問題は、乙の行為後における甲丙の介在行為にかかわらず、乙の行為とXの死との間に因果関係が認められるかである。
2.そもそも、因果関係の機能は、社会通念上偶然といえる結果を刑法的評価から除去し、処罰の適正化を図る点にある。従って、当該行為がなければ結果が発生しなかったであろうという関係(条件関係)だけでなく、当該行為から結果が発生することが、社会通念上相当と認められること、すなわち相当因果関係が認められることも必要というべきである。
 そして、上記の相当性を判断するにあたり、いかなる範囲の事情を判断の基礎とすべきか争いがあるが、因果関係は客観的帰責の問題であるから、客観的に存在した全ての事情を考慮すべきである。
 また、行為後に介在事情が生じた場合については、実行行為と介在事情のいずれが結果を発生させたのかという観点から判断すべきであるから、@実行行為に存する結果発生の可能性の大小、A介在事情の異常性の大小、及び、B介在事情の結果への寄与の大小を総合的に考慮して相当性を判断すべきである。
3.本問において、@乙はゴルフクラブという鈍器でもって、人体の要所である頭部を、複数回にわたって殴打したのであるから、実行行為に存する結果発生の可能性は極めて大きい。他方、A甲丙の介在行為、特に丙の植え込みへの放置行為は若干の異常性があるといえるものの、Xの救助を放棄すること自体は格別に異常性が大きいとまではいえず、Bその結果への寄与は、Xに既に発生していた死の危険を回復させないという性質のものであるから、大きいとはいえない。
 以上を考慮すると、乙の行為からXの死が発生することは社会通念上相当と認められる。
4.よって、乙の行為とXの死との間の因果関係が認められる。
5.以上から、乙は殺人罪(199条)の罪責を負う。
第2.丙の罪責
1.丙はXを病院の前の路上に寝かせて立ち去り、その後さらにXを人目に付かない植え込みの陰に運ぶという行為を行っている。
 上記行為は、自然的には二つの作為である。しかし、刑法上は法益との関係で行為評価を行うべきである。かかる観点からは、丙の行為はXの死に向けられた一つの行為であり、新たにXの死に対する因果性を設定するのではなく、既に設定されたXの死に至る因果の流れを遮断しないという意味で、不作為である。
2.そして、上記行為は、丙のXに対する殺意に基づくものであるから、殺人罪の不真正不作為犯の成否を検討する。
(1) 一般に、作為の形式で規定された犯罪を不作為で実現した場合でも、同罪が成立しうる。なぜなら、法益を侵害することは不作為によっても可能だからである。
 もっとも、不作為の範囲は無限定であるから、罪刑法定主義・自由保障の観点から、@作為義務、A作為可能性・容易性及びB作為との構成要件的同価値性が必要である。
(2) 本問において、@丙はXの親族ではないが、甲と共にXを車に乗せて病院へ運んでいたのであるから、条理上の作為義務を負う。また、A病院の前までXを運んでいた以上、治療を受けさせることは可能かつ容易であったといえる。さらに、B夜間に人目に付かない植え込みの陰に放置されれば発見は困難となることから、作為との構成要件的同価値性が認められる。
(3) よって、丙には殺人罪の不真正不作為犯が成立する。
3.以上から、丙は殺人罪の罪責を負う。なお、後述のように、甲とは共同正犯(60条)となる。
第3.甲の罪責
1.甲は、丙と共に、病院の前の路上にXを放置する行為を行っている。そこで、丙との共同正犯の成否を検討する。
2.前述のように、丙には殺人罪が成立するが、甲には殺意がなく、保護責任者遺棄(218条)の故意しかなかったといえる。そこで、異なる故意を有する者の間で共同正犯が成立しうるのかが問題となる。
(1) そもそも、共同正犯において一部実行全部責任とされる根拠は、複数人が互いに相手の行為を自己の犯罪実現の手段としている点にある。従って、共同正犯の本質は、行為の共同にあるというべきである。そうすると、異なる故意を有する者の間においても、各自の意図した犯罪について共同正犯が成立しうる。
 もっとも、犯罪としての類型性も無視できないから、行為の共同が構成要件の重要部分を占めていることを必要とする。
(2) 本問において、甲と丙が共同した行為は、不作為の殺人及び保護責任者遺棄の重要部分たる放置行為であるから、共同正犯関係を認めることができる。
3.そうすると、甲は丙の行為についても責任を負うから、Xの死についても甲に帰責される。
4.よって、甲は保護責任者遺棄致死罪(219条)の罪責を負い、丙とは共同正犯となる。

以上

戻る