平成20年度旧司法試験論文刑訴法第2問参考答案

第1.各設問の書面及び録音テープは、証人Bの公判廷供述の証明力を争うものであるから、328条の証明力を争うための証拠(弾劾証拠)として証拠とできるかをそれぞれ検討する。
第2.設問1
1.本問の書面は、公判廷供述者Bとは異なるCの供述を内容とするものであるから、弾劾証拠が自己矛盾供述に限られるかを検討する。
(1) 一般に、供述証拠は、知覚、記憶、表現・叙述の各過程において誤りが混入しやすく、その信用性について反対尋問や供述態度の観察による吟味が必要なところ、公判廷外供述にはそのような吟味の機会がない。そのため、公判廷外供述を内容とする証拠は原則として証拠能力が否定される(320条1項、伝聞法則)。
(2) もっとも、伝聞法則の適用される供述証拠(伝聞証拠)とは、上記趣旨に照らし、供述内容の真実性を立証するための証拠に限られる。
 従って、供述内容の真実性を立証するための証拠でない場合は、伝聞法則は適用されない(非伝聞)。
(3) また、伝聞証拠であっても、事案の真相解明のためには利用せざるを得ない場合もあるから、証拠としての必要性と、信用性の情況的保障の両面を考慮して、一定の例外を認めている(321条から324条まで、伝聞例外)。
(4) 以上を踏まえて考えると、328条を伝聞例外と考えることはできない。なぜなら、同条は必要性や信用性の情況的保障を問題としていないからである。
 従って、同条は非伝聞の場合を注意的に規定したものである。
 そして、他者の供述を利用する場合はその供述内容の真実性が前提とならざるを得ない以上、非伝聞となるのは、自ら矛盾する供述をしたこと(以下、「自己矛盾性」という)自体の立証によって公判廷供述の信用性を減殺させる場合である。
(5) 以上から、弾劾証拠は自己矛盾供述に限られる。
2.そうすると、本問書面はBの自己矛盾供述ではないから、弾劾証拠にあたらない。
3.よって、裁判所は本問の書面を証拠として採用できない。
第3.設問2
1.本問の捜査報告書におけるBの供述は、甲のAに対する暴行の有無という点でBの公判廷供述と矛盾しているから、自己矛盾供述である。もっとも、供述者たるBの署名押印を欠いていることから、供述録取書を弾劾証拠とするために供述者の署名押印を要するかを検討する。
(1) 317条は証拠裁判主義を定め、犯罪事実の存否の認定には、刑訴法に基づき証拠能力が認められ、適式な証拠調べ手続きを経た証拠によらなければならない(厳格な証明)とされる。他方、訴訟法的事実については、そのような制約はない(自由な証明)。
(2) この点、自己矛盾性は弾劾証拠としての採否を判断するための事実であるから、形式的には訴訟法的事実であるが、自己矛盾性の立証を自由な証明に委ねれば、弾劾証拠の名目で信用性の乏しい公判廷外供述が容易に証拠となり、前記伝聞法則の趣旨を没却することになる。
 そもそも、自己矛盾性は、その立証により実質証拠たる公判廷供述の証明力を減殺するものであり、その実質は犯罪事実の存否の認定に用いる補助事実である。従って、その立証には厳格な証明を要するというべきである。
(3) そして、供述者の署名押印を欠く供述録取書については、他に署名押印と同視しうる事情のない限り、録取の正確性を担保できないことから、証拠能力は認められない。
(4) そうすると、署名押印又はこれと同視しうる事情を欠く供述録取書は、自己矛盾性を立証するための証拠能力を欠くから、弾劾証拠として証拠とすることはできない。
(5) よって、供述録取書を弾劾証拠とするためには、供述者の署名押印又はこれと同視しうる事情のあることを要する。
2.本問では、供述者Bの署名押印も、これと同視しうる事情もないから、本問の捜査報告書は弾劾証拠とすることができない。
3.よって、裁判所は本問の捜査報告書を証拠として採用することができない。
第4.設問3
1.本問の録音テープは、Bの供述を警察官が録音したものであるから、録音による録取が署名押印と同視しうる事情といえるかを検討する。
(1) そもそも、署名押印が要求される趣旨は、録取内容の正確性を担保する点にある。そうである以上、署名押印と同等かそれ以上に録取内容の正確性が担保されていれば、署名押印と同視しうる事情があるといえる。
(2) 録音による録取は、その機械的正確性から、読み聞かせの過程に誤りの混入しうる署名押印よりも録取内容の正確性が担保されている。従って、録音による録取は、署名押印と同視しうる事情といえる。
2.従って、本問の録音テープには、Bの署名押印と同視しうる事情があるから、弾劾証拠とすることができる。
3.よって、裁判所は本問の録音テープを証拠として採用することができる。

以上

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