最新下級審裁判例

名古屋高裁判決平成20年07月16日

【事案】

 被控訴人が,平成19年愛知県条例第47号による改正前の愛知県個人情報保護条例(平成16年愛知県条例第66号。本件条例)16条1項に基づき,愛知県警察本部長(処分行政庁)に対し,地上10階建ての独身寮から落下して死亡した長男の死亡現場を見分した調書等の開示を請求したところ,同本部長から,平成17年6月20日付け写真撮影報告書(本件写真撮影報告書)及び同年8月19日付け死体見分調書(本件死体見分調書)のうち原判決別紙の不開示部分A〜Eを除く部分を開示する旨の一部開示決定(本件決定)を受けたことから,本件決定のうち,原判決別紙の不開示部分B,C及びE(本件不開示部分。なお,本件不開示部分のうち個々の不開示部分を指す場合には,単に「不開示部分C」などという。)を不開示とした部分の取消しとその開示決定の義務付けを求めた抗告訴訟。

【判旨】

 本件条例は,個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定め,実施機関の保有する個人情報の開示等を請求する個人の権利を明らかにし,もって県政の適正な運営を図りつつ,個人の権利利益を保護することを目的として制定され(1条),その観点から,実施機関に対し,保有個人情報について,17条各号に掲げる不開示情報が記載されている場合を除いて,原則として開示することを義務付けている(同条柱書)。
 そして,本件条例17条6号(以下,単に「17条6号」という。)は,「開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報と規定しているところ,その趣旨は,公共の安全と秩序の維持の確保は県民全体の基本的な利益であり,これらの利益を守ることは地方公共団体である愛知県にとって重要な責務であることから,これらの利益を保護するため,同号に該当する情報を不開示とするものと解される。そして,同号が「おそれがあると認めるに足りる相当の理由がある情報」とは規定せず,「おそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定したのは,犯罪の予防,鎮圧又は捜査等に支障を及ぼすおそれの有無についての判断は,その性質上,犯罪や捜査等に関する将来の予測を含む専門的,技術的判断を要するという特殊性があることから,実施機関の第1次的な判断を尊重する趣旨を明確にしたものであって,その裁量を制限する趣旨ではないものと解される。
 したがって,裁判所は,17条6号に掲げる不開示情報に該当するか否かについての実施機関の判断が違法となるかどうかを審理,判断するにあたっては,その判断が実施機関の裁量権の行使としてされたものであることを前提にして,それが合理性を持つものとして許容される限度内のものであるかどうか,すなわち,不開示の判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある等により同判断が全く事実の基礎を欠くかどうか,あるいは,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により同判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかなど,裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったと認められる点があるか否かを審理し,これが認められる場合に限り違法とすべきものであって,開示請求者においては,かかる裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったことを基礎付ける具体的事実について主張立証することを要するものと解するのが相当である。
 もっとも,不開示事由の存在は,実施機関に上記のような裁量権が認められない場合にあっては,不開示決定が適法であることを主張する実施機関の側で主張立証すべきものと解されることや,不開示事由の存否が問題となる当該文書又はそのうちの不開示部分は開示請求者及び裁判所の目に触れる状況に置かれることがないことからすれば,まず,実施機関において,当該情報が,その性質上その他の理由により,17条6号所定の「開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と判断し得る情報であることについて主張立証する必要があるというべきである。

 本件の不開示部分Cは,本件報告書中の「死体の状況」及び「見分官の判断」欄の記載の一部並びに飛降現場断面図及び現場見取図のうちタイトル(表題)を除くすべての部分であり,不開示部分Eは,死者の状況を明確にするための本件写真撮影報告書に添付された写真合計18枚のうち,写真番号7ないし18(合計12枚)であるところ,これらの記載項目の性質及び想定される内容,不開示とされた部分の前後の文脈,更には開示された部分との対比等に加え,そもそも本件報告書にしても本件写真撮影報告書にしても,これらの文書若しくは写真の性質上,対象者であるαの死亡が犯罪に起因するものかどうかを検討し判断する際の着眼点,本件における個別具体的な検討及び判断の過程並びに結果等が,自ずとその記載や写真に具体的に表現され,あるいは反映されるものであることからすれば,不開示部分C及びEには,αの死亡の事件性に関する個別具体的な調査内容,判断過程及び結果等についての記載や写真があるものと推認することができる。
 そして,本件における非犯罪死との判断は,当然のことながら,調査等の結果,その判断時点において判明し把握し得た情報をもとにしたものにすぎないのであり,このように一旦は犯罪によるものではないと判断されても,それが固定されるわけではなく,後に新たに判明した事情により犯罪に関わるとの疑いが生じることもあるのであって,現に自殺や事故を装った犯罪が多く存在することからは,そのような可能性を否定することはできない。そうであるとすると,上記のような記載や写真を含む不開示部分C及びEが開示されれば,仮にαの死亡が犯罪に起因するものであった場合には,その犯罪に関わった者において,開示された情報をもとにして,控訴人の主張するように証拠隠滅等の隠蔽工作や,その他の対抗措置,防衛措置を講じるおそれがあるということができる。また,仮に本件では犯罪との関わりが疑われる事態が生じないとしても,上記のような記載や写真を含む不開示部分C及びEが開示されると,これによって本件のような事案において犯罪に起因するものかどうかを検討し判断する際の着眼点や検討及び判断の過程等が具体的に明らかとなり,その結果,犯罪行為を行い又は行おうとする者による証拠隠滅や,対抗措置,防衛措置等に利用されるおそれがあるということもできる。これらが,犯罪の予防や捜査等の支障となることは明らかである。
 以上によれば,不開示部分C及びEには,17条6号所定の「開示することにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と判断し得る情報が記録されているものと認めるのが相当である。
  したがって,不開示部分C及びEが不開示情報に該当するとした実施機関である愛知県警察本部長の判断については,それが裁量権の範囲をこえ又はその濫用によるものと認められない限り,これを違法ということはできない。そして,本件においては,愛知県警察本部長の上記判断について,その基礎とされた重要な事実に誤認がある等により同判断が全く事実の基礎を欠き,あるいは,事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により同判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるなど,裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったと認めるに足る証拠はない。

 以上によれば,実施機関である愛知県警察本部長による不開示部分C及びEを不開示とした判断には,裁量権の逸脱又は濫用は認められず,これに基づく本件決定は適法というべきである

 

大阪地裁判決平成20年07月17日

【事案】

 原告が,テレビ局社屋から出てきて,タクシーに乗り込む際に無断で写真撮影されたこと等について,取材方法としての社会的相当性を逸脱する行為であり,これにより原告の肖像に関する人格権ないし人格的利益を侵害されたとして,被告株式会社光文社(以下「被告会社」という。)及び同社の雑誌記者である被告Aに対し,不法行為(被告会社については使用者責任)に基づいて,連帯して慰謝料30万円の支払(上記不法行為の日である平成19年6月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)を求める事案。

【判旨】

 人は,その承諾なしに,みだりにその容ぼう,姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有すると解される。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(最判平成17年11月10日判決・民集59巻9号2428頁)。
 これを本件についてみるに,本件取材は原告に何の事前連絡もなく,いきなり取材を実施する「直撃」と称するもので,また,その取材(撮影)態様も,番組の収録を終えてテレビ局から出てきたばかりの原告に対し,「Gさん」と声をかけながら,いきなりフラッシュをたきながら複数回写真撮影を敢行し,原告のマネージャーに中止を申し入れられるまで撮影を継続した等というものであり,原告にとってみれば,問答無用の形で撮影をされたという感覚を持つとともに,かかる取材方法に対し,戸惑いのみならず憤りを覚えたであろうことは至極もっともである(原告がその日のうちに本件を提訴していることからも,その点が十分窺われるところである。)。
 しかしながら,一方で,原告は,本件当時,弁護士として相当数のテレビ番組等に出演し,時事問題等についてコメントする等しており,全くの一私人とは立場を異にしていたというべきであり,その言動については相当程度の社会的影響力があったと考えられる。また,その取材目的も,原告が平成15年10月5日にTV番組内でした「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」とする発言に関するものであるところ,かかる発言が本件当時から約3年8か月前になされたものであるとはいえ,その発言内容や原告の上記社会的地位及び活動内容等に鑑みれば,その真意や現在の意見等を取材するという目的は,原告の主張するように専ら読者の興味をそそり,又は,営利目的に出ただけのものなどということはできず,相応の合理性及び公共性を有するものというべきである。
 ただ,本件取材目的を達するために本件撮影をする緊急性・必要性があったかどうかについては,現に本件特集記事において過去の写真が使われた例も相当数あることや,上記発言が3年8か月以上も前になされたものであること及び上記取材目的に照らしても,原告に取材目的を告げる前に(あるいはそれと同時に),原告が眩しいと感じる程にフラッシュをたきながら複数回写真撮影をする必要がいかほどあったのかは疑問を呈さざるを得ず,単に被写体である原告が困惑したり,驚愕する表情を撮影し,これを紙面に掲載することで読者の関心ないし好奇心を引くという意味合いが多分に強いものであったというべきである。
 しかしながら,一方で,被告Aが供述するように,かかる状況により撮影された写真を添付することにより,記事にドキュメンタリー性をもたせるという側面も写真週刊誌等の媒体における表現方法として一概に否定できないところもあり,また,本件取材(撮影)の時間及び場所に照らしても原告との関係では著しく相当性を欠くとまではいえず(原告の主張する「撮影の禁止された他人の敷地内」という撮影場所については,読売テレビとの関係で違法行為となるか否かは格別としても,原告との関係では公道その他のオープンスペースでの取材と格段の差異があるとまではいい難い。),さらには,前記のとおりの原告の社会的地位及び活動内容並びに取材目的に照らせば,このような撮影方法が「非礼」なものであることは格別としても,原告にとって社会生活上受忍限度を超えるであるとか,あるいは,金銭的慰謝の措置を講じるだけの違法性を有するものとまでいうことは相当ではない。
 以上検討したところによれば,原告においては,本件取材,ことに本件撮影により相当の憤りを覚えたことは想像に難くはないものの,一方で,原告の当時の社会的地位及び活動内容並びに本件取材の目的及び必要性等に鑑みれば,本件撮影を含む本件取材によって,社会生活上受忍の限度を超えるだけの人格的利益の侵害が原告に生じたとまでいうことはできない。

 

知財高裁判決平成20年08月06日

【判旨】

 特許法36条4項は,「・・・発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と定めるところ,この規定にいう「実施」とは,本願発明のような物の発明の場合にあっては,当該発明に係る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならない。
 そして,本願発明のようないわゆる医薬用途発明においては,一般に,当業者にとって,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該発明に係る医薬を当該用途に使用することができないから,そのような発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明に,薬理データの記載又はこれと同視し得る程度の記載をすることなどにより,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を裏付ける記載を要するものと解するのが相当である。

 

知財高裁判決平成20年08月26日

【事案】

 1審原告(控訴人)は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「特許協力条約」という。)に基づき特許庁長官に対して国際出願をし,その後国際予備審査の請求をした者であるが,特許庁審査官が作成した特許性に関する国際予備審査報告には誤りがある旨主張して,被控訴人(1審被告)を相手として,原審(東京地方裁判所)に,再審査を求める訴えを提起した。原審は,本件訴えは不適法であるとして却下した。これに対して控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。

【判旨】

 国際予備審査は,国際予備審査機関においてPCT国際出願に係る発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性等を有するか否かについて,「予備的なかつ拘束力のない見解を示す」ものにすぎず(特許協力条約33条(1)項),直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法により認められているものではないから,その再審査も行政事件訴訟法(以下「法」という。)3条6項1号にいう「処分」には該当しない。
 また,国際予備審査報告に,何らかの法的効力があるわけではなく,出願人が後に権利を取得したい指定国に国内移行する際の判断資料になることがあり得るとしても,そのような効果はあくまでも事実上のものであるといえる。したがって,国際予備審査報告について再審査がされないことにより,法37条の2第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があるということもできない。
 以上によれば,本件訴えは,法37条の2第1項所定の「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれ」があるとはいえず,不適法な訴えとして却下すべきである。

 

知財高裁判決平成20年08月26日

【判旨】

 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定する。したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,自然法則を利用した手段が何ら含まれていない場合には,そのような技術的思想の創作は,特許法2条1項所定の「発明」には該当しない。
 ところで,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在であり,通常は,人の行動に対して,反復類型性を予見したり,期待することは不可能である。したがって,人の特定の精神活動(社会活動,文化活動,仕事,余暇の利用等あらゆる活動を含む。),意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえないから,特許法2条1項所定の「発明」に該当しない。
 他方,どのような課題解決を目的とした技術的思想の創作であっても,人の精神活動,意思決定又は行動態様と無関係ではなく,また,人の精神活動等に有益・有用であったり,これを助けたり,これに置き換える手段を提供したりすることが通例であるといえるから,人の精神活動等が含まれているからといって,そのことのみを理由として,自然法則を利用した課題解決手法ではないとして,特許法2条1項所定の「発明」でないということはできない。
 以上のとおり,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,その構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様を含んでいたり,人の精神活動等と密接な関連性があったりする場合において,そのことのみを理由として,特許法2条1項所定の「発明」であることを否定すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察し,かつ,明細書等の記載を参酌して,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されていると解される場合には,同項所定の「発明」に該当するというべきである。

 本願発明の特徴は,以下のとおりである。
 すなわち,英語においては,発音のパタンが多く,文字と発音の「ズレ」も著しいため,発音から文字の綴り字を推測することは難しい。その点を解決するための手段として,本願発明は,非母語話者であっても,一般に,音声(特に子音音素)を聞いてそれを聞き分け識別する能力が備わっていることを利用して,聞き取った音声中の子音音素を対象として辞書を引くことにより,綴り字が分からなくても英単語を探し,その綴り字,対訳語などの情報を確認できるようにし,子音音素から母音音素へ段階的に検索をすることによって目標単語を確定する方法を提供するものである。
 そして,子音を優先抽出して子音音素のローマ字転記列をabc順に採用している点からすると,本願発明においては,英語の非母語話者にとっては,母音よりも子音の方が認識しやすいという性質を前提として,これを利用していることは明らかである。そうすると,本願発明は,人間(本願発明に係る辞書の利用を想定した対象者を含む。)に自然に具えられた能力のうち,音声に対する認識能力,その中でも子音に対する識別能力が高いことに着目し,子音に対する高い識別能力という性質を利用して,正確な綴りを知らなくても英単語の意味を見いだせるという一定の効果を反復継続して実現する方法を提供するものであるから,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されており,特許法2条1項所定の「発明」に該当するものと認められる。

 審決の判断は,@「対訳辞書の引く方法の特徴というよりは,引く対象となる対訳辞書の特徴というべきものであって,・・・対訳辞書の特徴がどうであれ人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めに留まるものである」などと述べるように,発明の対象たる対訳辞書の具体的な特徴を全く考慮することなく,本願発明が「方法の発明」であるということを理由として,自然法則の利用がされていないという結論を導いており,本願発明の特許請求の範囲の記載の全体的な考察がされていない点,及び,Aおよそ,「辞書を引く方法」は,人間が行うべき動作を特定した人為的取り決めであると断定し,そもそも,なにゆえ,辞書を引く動作であれば「人為的な取り決めそのもの」に当たるのかについて何ら説明がないなど,自然法則の利用に当たらないとしたことの合理的な根拠を示していない点において,妥当性を欠く。したがって,審決の理由は不備であり,その余の点を判断するまでもなく,取消しを免れない。
 のみならず,前記のとおり,本願の特許請求の範囲の記載においては,対象となる対訳辞書の特徴を具体的に摘示した上で,人間に自然に具わった能力のうち特定の認識能力(子音に対する優位的な識別能力)を利用することによって,英単語の意味等を確定させるという解決課題を実現するための方法を示しているのであるから,本願発明は,自然法則を利用したものということができる。本願発明には,その実施の過程に人間の精神活動等と評価し得る構成を含むものであるが,そのことゆえに,本願発明が全体として,単に人間の精神活動等からなる思想の創作にすぎず,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとすべきではなく,審決は,その結論においても誤りがある。

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