「司法試験平成19年行政法裁判例集(下)」
を出版しました

でじたる書房より、司法試験平成19年行政法裁判例集(下)を出版しました。
価格は税込みで315円です。

平成19年の7月から12月までの行政法裁判例のうち、新司法試験の論文式試験において出題され得る論点を含むものを収録しました。
収録した裁判例の数は28、総ページ数は76ページです。
印刷に便利なPDF形式となっています。

以下は、本書の一部抜粋です。

●横浜地裁決定平成19年07月02日

【事案】
 申立人が一般乗用旅客自動車運送事業(1人1車制個人タクシー事業(以下「個人タクシー事業」という。)に限る。)の許可処分(以下「本件事業許可処分」)の期限の更新の申請をした(以下「本件申請」という。)ところ、関東運輸局長が上記期限を更新しない処分をした(以下「本件処分」という。)ことから、本件処分の取消しを求める訴え(当庁平成19年(行ウ)第36号営業免許更新不許可処分取消請求事件)を本案として、本件処分の効力停止を求めた事案。

【判旨】
 行政事件訴訟法は、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる旨規定しており(25条2項)、行政処分の執行停止は、当該処分の効力等を停止することが申立人の権利の保全、損害の発生・拡大の防止に直接役立つ場合に初めてこれを認める実益が認められるものと解される。
 したがって、対象となっている処分の効力等を停止することが申立人の権利の保全、損害の発生・拡大の防止に直接役立つとはいえない執行停止の申立ては、申立ての利益を欠くものとして不適法になるというべきである。
 本件申立ては、本件事業許可処分に付された期限の更新をしないとした処分を対象とするものであるところ、上記のような拒否処分は、それ自体何らの積極的な内容を有しておらず、その効力を停止してみても、単に当該処分がされなかった状態を回復するにすぎず、それ以上に行政庁に対する申請が認められたのと同一の状態が形成されることになるものではない
 したがって、拒否処分の執行停止は、一般的には、申立人の権利の保全等に役立つ結果とならず、申立ての利益を欠くものとして不適法である。しかし、拒否処分であっても、その執行停止により当該処分がされなかった状態、すなわち申立人が申請をした状態を回復することに何らかの法的利益が認められるような場合には、申立人の権利の保全等に役立つということができるから、執行停止の申立てに申立ての利益を認めることができると解される。
 そこで、本件処分について、申立人が申請をした状態を回復することに何らかの法的利益が認められるかどうかを検討する。
 本件申請は、本件事業許可処分に付された期限の更新を求めるものである。ところで、本件事業許可処分は、その許可の期限を平成18年11月30日までとし、ただし書として「(申立人が)この期限までに更新を申請した場合においては、これを更新する旨または更新しない旨の通知を受ける日までの期間は、本許可に係る事業を引続き経営することができる。」としていた(以下「本件ただし書」という。)。そして、関東運輸局長は、平成19年4月12日付けで本件処分の通知をしたもので、申立人は、そのころこれを受領したものと推認することができる。
 相手方は、申立人の申立ての利益に関し、本件処分の効力が停止されたとしても、申立人が上記通知を受けた事実には何ら影響がなく、本件事業許可処分に係る事業を引き続き経営することができることになるわけではないから、本件申立てに申立ての利益は認めることができない旨主張する
 確かに、行政処分の効力の停止は、その効力の発生を停止するにすぎず、その効果は将来に向かってのみ生ずるから、本件処分の効力が停止されても、同処分の通知がされた事実自体には影響を与えないと解する余地もある。
 しかしながら、本件処分は、本件申請をした申立人という特定の相手方に対して行われる行政処分であるところ、このような行政処分は、それが相手方に告知されることによってその効力を生ずるものであって、本件処分の効力を論ずるに当たって、処分とその通知とは切り離して考えるべきものではない。したがって、本件処分の通知がされたこと自体は本件処分の効力停止の申立てを妨げる事情とはならないというべきである。そして、本件ただし書は、本件事業許可処分に付された期限の更新申請があった場合に、申請者が、申請に対する処分の効力が生ずるまでの期間、本件事業許可処分に係る事業経営を継続することを認める趣旨と解するのが相当である。
 そうすると、本件処分の効力が停止され、申立人が本件申請をした状態になった場合、本件ただし書を理由として、申立人は、申請に対する処分の効力が生ずるまでの期間、本件事業許可処分に係る事業経営を継続することができるものと解される。
 したがって、申立人には、本件処分の効力停止によって申請をした状態を回復することについて、本件事業許可処分に係る事業経営を継続することができるという法的利益が認められるから、本件申立てには申立ての利益が認められるといえる。

 行政事件訴訟法は、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは執行停止をすることができる旨規定している。そして、同法は、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとしている(25条3項)。
 申立人は、本件事業許可処分及び同処分に付された期限が更新されることを前提に営業用自動車を割賦払で購入し、住宅ローン等も組んだこと、母子家庭で知的障害の姉を扶養していること、個人タクシー事業により得られる収入によって生活を維持してきたことなどの事情を主張する。そして、申立人は、本件処分によって日々の生活にも困窮する状況に陥り、後日の損害賠償によっては真の損害の回復を図り得ない重大な損害が生ずる旨主張する
 申立人は、個人タクシー事業経営のために購入した営業用自動車に関して国民生活金融公庫から265万3400円の融資を受け、上記融資金を分割して返済していかなければならない事情にあることが疎明される。しかし、本件処分は、申立人自身による個人タクシー事業経営の許可の期限を更新しないとするにすぎず、申立人が、法人タクシーの従業員として勤務するなどして、タクシーを運転することまで禁止するものではない。そうすると、本件処分によって申立人が個人タクシー事業を経営することができなくなることから、申立人の収入が減少することはあっても、直ちに収入の途を全面的に失うとまではいい難い
 そして、申立人において個人タクシー事業の経営以外の労働が不可能であるという事情を疎明する資料もなく、本件処分によって申立人に生ずる損害については金銭的な賠償によって事後的に回復することが可能であるということができる。
 これに対し、申立人は、本件拒否処分によって申立人に生ずる損害として、申立人の将来の個人タクシー事業の再開が不可能となり、その生活が破綻することなども主張する。しかし、前述のごとく本件処分によって申立人に生ずる財産的損害が限定的なものと解される以上、それに起因する非財産的損害についても、損害発生の蓋然性は抽象的なものといわざるをえない。
 なお、申立人は、本件処分によって生ずる損害と関連して、申立人の家庭が母子家庭であることや知的障害の姉を扶養していることなども主張する。
 しかし、それらのことと関連して、本件処分によって申立人に具体的にいかなる性質の損害がどの程度生ずるのかといった点まで疎明されているわけではない。
 以上のことからすれば、本件処分によって申立人に生ずる損害は、損害の回復の程度、損害の性質及び程度、処分の内容及び性質に照らし、社会通念上金銭賠償による事後的な回復をもって満足することもやむを得ないものというべきであり、行政事件訴訟法25条2項本文が規定する重大な損害があると認めることはできない

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