最新最高裁判例

最高裁判所大法廷判決平成20年09月10日

【事案】

 被上告人の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定について,施行地区内に土地を所有している上告人らが,同決定の違法を主張して,その取消しを求めている事案。

【判旨】

 市町村は,土地区画整理事業を施行しようとする場合においては,施行規程及び事業計画を定めなければならず(土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前のもの。以下「法」という。)52条1項),事業計画が定められた場合においては,市町村長は,遅滞なく,施行者の名称,事業施行期間,施行地区その他国土交通省令で定める事項を公告しなければならない(法55条9項)。そして,この公告がされると,換地処分の公告がある日まで,施行地区内において,土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築,改築若しくは増築を行い,又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項),これに違反した者がある場合には,都道府県知事は,当該違反者又はその承継者に対し,当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項),この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。このほか,施行地区内の宅地についての所有権以外の権利で登記のないものを有し又は有することとなった者は,書面をもってその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければならず(法85条1項),施行者は,その申告がない限り,これを存しないものとみなして,仮換地の指定や換地処分等をすることができることとされている(同条5項)。
 また,土地区画整理事業の事業計画は,施行地区(施行地区を工区に分ける場合には施行地区及び工区),設計の概要,事業施行期間及び資金計画という当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的に定めるものであるが(法54条,6条1項),事業計画において定める設計の概要については,設計説明書及び設計図を作成して定めなければならず,このうち,設計説明書には,事業施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く。)の合計の事業施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合が記載され(これにより,施行地区全体でどの程度の減歩がされるのかが分かる。),設計図(縮尺1200分の1以上のもの)には,事業施行後における施行地区内の公共施設等の位置及び形状が,事業施行により新設され又は変更される部分と既設のもので変更されない部分とに区別して表示されることから(平成17年国土交通省令第102号による改正前の土地区画整理法施行規則6条),事業計画が決定されると,当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて,一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。そして,土地区画整理事業の事業計画については,いったんその決定がされると,特段の事情のない限り,その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ,その後の手続として,施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は,このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり,しかも,施行地区内の宅地所有者等は,換地処分の公告がある日まで,その制限を継続的に課され続けるのである。
 そうすると,施行地区内の宅地所有者等は,事業計画の決定がされることによって,前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ,その意味で,その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり,事業計画の決定に伴う法的効果が一般的,抽象的なものにすぎないということはできない。
 もとより,換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は,当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが,換地処分等がされた段階では,実際上,既に工事等も進ちょくし,換地計画も具体的に定められるなどしており,その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には,事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。それゆえ,換地処分等の取消訴訟において,宅地所有者等が事業計画の違法を主張し,その主張が認められたとしても,当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり,換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても,宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると,事業計画の適否が争われる場合,実効的な権利救済を図るためには,事業計画の決定がされた段階で,これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
 以上によれば,市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は,施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって,抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって,上記事業計画の決定は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。
 これと異なる趣旨をいう最高裁昭和37年(オ)第122号同41年2月23日大法廷判決・民集20巻2号271頁及び最高裁平成3年(行ツ)第208号同4年10月6日第三小法廷判決・裁判集民事166号41頁は,いずれも変更すべきである。

 

最高裁判所第二小法廷判決平成20年09月12日

【事案】

 宗教法人である上告人が,死亡したペット(愛がん動物)の飼い主から依頼を受けて葬儀,供養等を行う事業に関して金員を受け取ったことについて,被上告人から,上告人の行う上記事業(以下「本件ペット葬祭業」という。)が法人税法施行令(別表記載のものをいう。以下同じ。)5条1項1号,9号及び10号に規定する事業に該当し,法人税法2条13号の収益事業に当たるとして,平成8年4月1日から同13年3月31日までの5事業年度に係る法人税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を受けたため,その取消しを求めている事案。

【判旨】

 本件ペット葬祭業は,外形的に見ると,請負業,倉庫業及び物品販売業並びにその性質上これらの事業に付随して行われる行為の形態を有するものと認められる。法人税法が,公益法人等の所得のうち収益事業から生じた所得について,同種の事業を行うその他の内国法人との競争条件の平等を図り,課税の公平を確保するなどの観点からこれを課税の対象としていることにかんがみれば,宗教法人の行う上記のような形態を有する事業が法人税法施行令5条1項10号の請負業等に該当するか否かについては,事業に伴う財貨の移転が役務等の対価の支払として行われる性質のものか,それとも役務等の対価でなく喜捨等の性格を有するものか,また,当該事業が宗教法人以外の法人の一般的に行う事業と競合するものか否か等の観点を踏まえた上で,当該事業の目的,内容,態様等の諸事情を社会通念に照らして総合的に検討して判断するのが相当である。
 本件ペット葬祭業においては,上告人の提供する役務等に対して料金表等により一定の金額が定められ,依頼者がその金額を支払っているものとみられる。したがって,これらに伴う金員の移転は,上告人の提供する役務等の対価の支払として行われる性質のものとみるのが相当であり,依頼者において宗教法人が行う葬儀等について宗教行為としての意味を感じて金員の支払をしていたとしても,いわゆる喜捨等の性格を有するものということはできない。また,本件ペット葬祭業は,その目的,内容,料金の定め方,周知方法等の諸点において,宗教法人以外の法人が一般的に行う同種の事業と基本的に異なるものではなく,これらの事業と競合するものといわざるを得ない。前記のとおり,本件ペット葬祭業が請負業等の形態を有するものと認められることに加えて,上記のような事情を踏まえれば,宗教法人である上告人が,依頼者の要望に応じてペットの供養をするために,宗教上の儀式の形式により葬祭を執り行っていることを考慮しても,本件ペット葬祭業は,法人税法施行令5条1項1号,9号及び10号に規定する事業に該当し,法人税法2条13号の収益事業に当たると解するのが相当である。

 

最高裁判所第一小法廷決定平成20年09月30日

【事案】

 被告人は,強盗致傷等の罪で起訴されたが,この強盗致傷の行為(以下「本件犯行」という。)に関与したことを否認している。
 上記被告事件の公判前整理手続で,検察官は,被告人の知人であるA(以下「A」という。)の証人尋問を請求し,これが採用されたことから,準備のためAに事実の確認を行ったところ,Aは,検察官に対し,被告人がAに対し本件犯行への関与を自認する言動をした旨の供述を行うに至った。
 Aについては,捜査段階でB警察官(以下「B警察官」という。)が取調べを行い,供述調書を作成していたが,上記の供述は,この警察官調書には記載のないもの(以下,Aの上記の供述を「新規供述」という。)であった。
 そこで,検察官は,この新規供述について検察官調書を作成し,その証拠調べを請求し,新規供述に沿う内容を証明予定事実として主張した。
 弁護人は,この新規供述に関する検察官調書あるいはAの予定証言の信用性を争う旨の主張をし,その主張に関連する証拠として,「B警察官が,Aの取調べについて,その供述内容等を記録し,捜査機関において保管中の大学ノートのうち,Aの取調べに関する記載部分」(以下「本件メモ」という。)の証拠開示命令を請求した。
 本件大学ノートは,B警察官が私費で購入して仕事に利用していたもので,B警察官は,自己が担当ないし関与した事件に関する取調べの経過その他の参考事項をその都度メモとしてこれに記載しており,勤務していた新宿警察署の当番編成表をもこれにちょう付するなどしていた。
 本件メモは,B警察官がAの取調べを行う前ないしは取調べの際に作成したものであり,B警察官は,記憶喚起のために本件メモを使用して,Aの警察官調書を作成した。
 なお,B警察官は,本件大学ノートを新宿警察署の自己の机の引き出し内に保管し,練馬警察署に転勤した後は自宅に持ち帰っていたが,本件事件に関連して検察官から問い合わせがあったことから,これを練馬警察署に持って行き,自己の机の引き出しの中に入れて保管していた。
 原々審である東京地方裁判所は,本件メモの提示を受けた上で,その証拠開示を命じたため,その命令の適否が争われている。

【判旨】

 本件メモは,B警察官が,警察官としての職務を執行するに際して,その職務の執行のために作成したものであり,その意味で公的な性質を有するものであって,職務上保管しているものというべきである。したがって,本件メモは,本件犯行の捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものに該当する。また,Aの供述の信用性判断については,当然,同人が従前の取調べで新規供述に係る事項についてどのように述べていたかが問題にされることになるから,Aの新規供述に関する検察官調書あるいは予定証言の信用性を争う旨の弁護人の主張と本件メモの記載の間には,一定の関連性を認めることができ,弁護人が,その主張に関連する証拠として,本件メモの証拠開示を求める必要性もこれを肯認することができないではない。さらに,本件メモの上記のような性質やその記載内容等からすると,これを開示することによって特段の弊害が生ずるおそれがあるものとも認められない。
 そうすると,捜査機関において保管されている本件メモの証拠開示を命じた原々決定を是認した原判断は,結論において正当として是認できるものというべきである。

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