平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(行政法)

法務省の公表した出題趣旨のうち、今回は行政法を検討する(試験問題はこちら)。

第1段落

第1段落は総論的な記述である。

(出題趣旨から引用)

 本問は,県知事が介護老人保健施設に対して勧告をした事案について,勧告を違法と考え従わなかった施設の代理人弁護士という立場から論じさせるものである。問題文と資料から基本的な事実関係を把握した上で,介護保険法や関連法令の趣旨を読み解き,適切な救済手段を選択し,それと結び付いた本案の主張を展開する力を試すものである。

(引用終わり)

1文が端的なテーマである。
かつての旧司法試験では、この部分がそのまま一行問題で出題されていた。
本問の場合、「県知事が介護老人保健施設に対して勧告をした事案について,勧告を違法と考え従わなかった施設の取りうる手段を論ぜよ」というようになる。
これに色々と肉付けをして、最終的に本問のような問題文になっていく。
新司法試験の問題文は、長文である。
しかし、基本的な骨組みは旧司法試験と変わらない。
問題文を読んだ時に、これを一行問題にするとどんな感じになるか。
それを少し考えると、答案構成や論点のウェイトが見えやすくなる場合もある。
詳細に挙がっている事実や資料による誘導がどの部分の肉付けなのかという視点を持つことができるからである。

また、ここではどのような力を試そうとしたかが示されている。
以下の4つである。

●基本的な事実関係を把握する力
●介護保険法や関連法令の趣旨を読み解く力
●適切な救済手段を選択する力
●救済手段と結びついた本案の主張を展開する力

特に処分の根拠法及びその関連法令の趣旨を読み解く力は重要である。
行政法では、普段学習していない法律が処分の根拠法として現れる。
それらの法令の趣旨は、現場で考えることになる。
事前にあらゆる法令の趣旨をフォローすることは不可能だからだ。
もっとも、判例・裁判例がどのような規定に着目して法令の趣旨を読み解いているのか。
これは事前にフォローできる。
すなわち、判断の対象たる法令は事前にフォローできなくても、判断の枠組みはフォローできる。

今後も法令の趣旨解釈を要求する出題は予想される。
その最たるものは、処分の相手方以外の者の原告適格である。
この点については、「保護された利益」か「保護に値する利益」かという対立はある。
しかし、その論証はほとんど重要でない。
それよりも、行訴法9条2項のあてはめをどのようにやるのか。
すなわち、実際にどの規定に着目し、それをいかなる趣旨と解し、そこからどう結論を出すのか。
こちらの方が重要である。
この点についての裁判例は多い。
これは事前にフォローしておくべきだろう。
そうでなくては、現場で具体的な法令を参照したとしても、どう論述してよいかわからない。

第2段落

第2段落は、設問1の解答の大枠を示している。

(出題趣旨から引用)

 設問1は,勧告不服従の公表を阻止するための法的手段(訴訟とそれに伴う仮の救済措置)に関して,基本的理解を問う問題である。勧告や公表が処分に当たるのかといった検討を,介護保険法に即して行うことが前提となる。勧告に従わない場合には,公表や措置命令,業務停止命令,開設許可取消などがなされ得る法的仕組みを正確に把握した上で,勧告や公表の法的性格を分析することが求められている。

(引用終わり)

論理的には、文章の後ろから遡る形となる。
まず、勧告に従わない場合の法的仕組みから、勧告や公表の法的性格を示す。
その法的性格から、勧告や公表が処分に当たるのかを示す。
そして、勧告や公表の処分性に対応した公表阻止の法的手段を示す。
以上のような流れで構成をすべきだった。

これは、問題文に同旨の指摘がある。

(問題文から引用)

弁護士C: D君には,勧告と公表の法的性格を分析した上で,採るべき法的手段について,公表を阻止する観点から検討をお願いします。

(引用終わり)

行政法では、これまでのところ、会話部分を用いて構成の指示を行う傾向がある。
そして、今のところ引っ掛けのようなものはない。
従って、解答するにあたってはそれに素直に従えばよい。

第3段落

第3段落は、設問1で書くべき具体的事項の指摘である。

(出題趣旨から引用)

 例えば,処分性の定義を前提として,勧告が処分に当たることを具体的に説明した上で,その執行停止を解答する場合には,勧告の取消訴訟を論じることに加えて,行政事件訴訟法第25条所定の要件について検討する必要があろう。勧告の処分性を否定する場合には,勧告に対して公法上の当事者訴訟を提起するとともに,仮の権利救済手段として仮処分を検討することが考えられる。確認訴訟を利用する場合には,確認の利益を中心に詳細な検討が期待される。また,公表の処分性を肯定した上で,その差止め訴訟,仮の差止めを提案する解答もあり得る。この場合には,差止め訴訟の要件(行政事件訴訟法第37条の4)や仮の差止めの要件(特に,同法第37条の5第2項,第3項)について,法文の解釈や当てはめが的確になされていることが必要となる。さらに,公表の処分性を否定し,公表に対する民事の差止め訴訟ないし公法上の当事者訴訟を提案し,仮処分の可能性を検討することも考えられる。民事の差止め訴訟を選択する場合には,差止めを根拠付ける権利について詳細な言及が望まれよう。このように,様々な法的手段が考えられる中で,複数の法的手段を提案し,それらの比較を通じて最も適切と考える法的手段を提示しなければならない。

(引用終わり)

出題趣旨の示す解答の筋をまとめると、以下のようになる。

勧告の
処分性
公表の
処分性
訴訟 仮の救済 検討事項 検討の程度
肯定 --- 勧告の
取消訴訟
勧告の
執行停止
25条(執行停止)
の要件
---
否定 --- 公法上の
当事者訴訟
仮処分 確認の利益 詳細な検討
--- 肯定 公表の
差止め訴訟
仮の差止め ・差止め訴訟の要件
・仮の差止めの要件
法文の解釈や
あてはめが的確
--- 否定 ・公表に対する
民事の差止め訴訟
・公法上の
当事者訴訟
仮処分 差止めを
根拠付ける権利
詳細な言及

基本的には、それぞれの手段の要件を検討すればよかった。
ただ、検討の際に要求される水準が異なっていることに注意を要する。
勧告の取消訴訟とその執行停止を用いる手段は、特に検討の程度の記載が無い。
他方、その他の手段は、やや要求水準が高い。
このことから、考査委員は、勧告の執行停止による手段を本筋と捉えていると考えられる。
この点は、昨年度の考査委員ヒアリングでも指摘のあったところである。

(平成19年度公法系考査委員ヒアリングから引用)

 普通,行政訴訟であれば,行政処分をつかまえて取消訴訟を起こし執行停止を求めるというのが,実務家的,実務的には当たり前の話である。ただ,それが行き過ぎている面もあって,行政訴訟はもっと多様であるべきではないかと学者は指摘しているところであるし,また,先般の行政訴訟法改正もその方向であった。とはいえ,基本は取消訴訟である。とにかく基本は取消訴訟であるということが分かっておらず,いろいろ新しい,改正行政訴訟法でもって新しく付け加わったものを一つ一つ全部吟味するという,そういったタイプの答案が相当程度あり,これもやはり法科大学院での教え方の一つの問題かなという気がした。

 行政訴訟の体系では取消訴訟というのがスタンダードなものだといういわば原則があるわけで,それと違うことをあえて言うのであれば,かなりシビアな議論を経る必要があるということが分かっていない。したがって,いわば,こちらが出した船には一応乗ってくれているけれども,それをうまくこいでいくというところまでは行っていないというのが気になるところである。

(引用終わり)

従って、結論的に肯定するかは別として、今後抗告訴訟が出題された際には、取消訴訟の検討は落とさないようにすべきである。

また、論述の際には、上記の表のどの筋を書いているのかを明示しなければ、得点が付かない可能性が高い。
昨年度のヒアリングでは、その点の指摘がなされていた。

(平成19年度公法系考査委員ヒアリングから引用)

 細かい話になるが,採点をしていて特に感じたことを若干申し上げると,一つは,例えば設問1の(1)で,行政事件訴訟法上の手段を論ぜよと言っているわけであるが,取消訴訟といいながら,どの処分を対象にする取消訴訟なのかということを全然書いていないというものがあったりして,これでは採点する方も困るわけである。一体何を念頭に置いて書いているんだろうかということが分からない,理解に苦しむところである。

(引用終わり)

行政法は、個々の論点の論証よりも、こういった当たり前なところで差が付いている印象が強い。
選択科目廃止以降の旧司法試験には存在しない科目だったことが影響しているかもしれない。
答案スタイルのようなものが確立していないために、全体として論述が雑になりがちなのだろう。

また、本問では複数の手段の比較検討が求められていた。
しかし、実際のところ、紙幅や時間の関係でそれはかなり難しかった。
それぞれの手段を単に列挙し、要件を検討するだけでもかなり大変だ。
さらに比較するという場合、いかなる視点で比較すべきだったのか。
また、処分性についての一定の理解を前提にすると、かなり手段が絞られる。
考査委員は、処分性の肯否も含めて比較すべきと考えていたのだろうか。
出題の趣旨には、その点が具体的に触れられていない。
それぞれの手段の具体的あてはめに紙幅を割くべきか。
それとも、要件の軽重、判決の効果などの比較に紙幅を割くべきか。
現場の受験生はかなり迷ったはずである。
設問の趣旨からは後者のようにも思えるが、そもそも要件を充たさない手段を比較しても仕方がないという面もある。
出題の趣旨を読んでも、その答えは見えてこない。
この点は、ヒアリングの方で明示されることを期待したい。

第4段落以下

第4段落以下は、設問2で書くべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 設問2は,調査,勧告の適法性を論ずる問題である。調査については,帳簿書類等を段ボール箱に詰めて持ち帰った行為が強制力の行使に当たるとすれば,介護保険法第100条の解釈として許容されるのかを検討する必要がある。また,調査に当たりB県職員が身分証を提示しなかった点について,同法第100条第2項,第24条第3項に違反するのかが論じられなければならない。このほか,行政指導として行われる調査を同法第100条の調査に先行させる義務を知事は負っているのかという問題も,検討すべき対象である。
 上記の検討を通じて,調査の違法が認められる場合に,それが勧告にどのような影響を及ぼすのかを検討することも,本問では要求されている。
 勧告の違法性に関しては,基準違反を内容とする県の指摘について,事実誤認を主張することが考えられる。このほか,勧告に関しては,勧告の手続法的違法が問題となろう。その前提として,勧告にはどのような行政手続が要請されるのかが論じられなければならない。例えば,勧告を不利益処分ととらえる場合には,行政手続法の不利益処分手続が適用される。この場合には具体的にどのような手続規制が要求されるのかを明らかにした上で,本件事案でそうした手続が踏まれていたのかを検討することとなろう。これに対し,勧告を行政指導と解する場合には,知事の行う行政指導については,行政手続法は適用除外となり,B 県行政手続条例の定める行政指導手続が要求される。この点を指摘した上で,本件で手続に関する違法が認められるのかを同条例に即して検討することが求められる。

(引用終わり)

設問2は本案の主張、すなわち処分の適法性についての検討である。
検討事項としては、以下のものが列挙されている。

調査の違法性

●強制力の行使の可否
●身分証不提示
●行政指導としての調査の先行義務

勧告の違法性

●調査の違法の及ぼす影響
●事実誤認
●勧告に要請される行政手続の履践

以上のうち、勧告に要する手続以外の点については、現場で参照法令を見ながら適当にあてはめれば足りる。
他方、勧告に要する手続については、現場でなかなか気づくのが難しかったかもしれない。
行手法3条3項に気づけば、行政指導であれば同法が適用除外になることに気づく。
ただ、勧告に処分性を認めつつ不利益処分でないと考えることが出来るのか。
また、逆に、一般に行政指導に該当するとされる勧告を不利益処分と考えていいのか。
この辺りはかなり迷うところである。
おそらく、結論的にはどちらでもよく、理由付けもその場で思いついた適当なものでよかったはずである。
この部分は触れられただけでも点数がもらえるというところだろう。

全体的に、行政法の出題趣旨は、検討事項の列挙で終わっている。
検討の中身に対する注文は少ない。
従って、検討すべき事項を薄く広く拾うことが重要である。
その意味で、同じ公法でも憲法とは書き方がかなり異なる。

戻る