大幅に目安を下回った
10月9日、平成20年度旧司法試験論文式試験の結果が公表された。
合格者数は141人。
合格率は、論文受験者(1605人)ベースで、8.78%。
択一受験者(18201人)ベースで、0.77%。
そして、出願者(21994人)ベースで、0.64%だった。今年度の旧司法試験の合格者数の目安は、200人程度である。
(併行実施期間中(平成20年以降)の新旧司法試験合格者数について(平成19年6月22日)より引用)
旧司法試験の合格者の概数については,平成17年に合格者の概数を示した際,同18年は500人ないし600人程度,同19年は3
00人程度を一応の目安とするとしたことを踏まえ,上記2で述べた考慮事項を勘案し,同20年は200人程度を,同21年は100人程度を,同22年はその前年よりも更に減少させることを,それぞれ一応の目安とするのが適当と考える。(引用終わり)
実際の合格者数は、それをはるかに下回る141人だった。
合格者数の目安を下回るだろうということは、予想できた。
昨年度の旧司法試験もそうであったし、今年度の新司法試験もそうだったからだ。しかし、昨年度の旧司法試験は、300人のところを250人。
変化率にすると、(300−250)÷300≒16.66%。
今年度の新司法試験は、2100人のところを2065人。
変化率にすると、(2100−2065)÷2100≒1.66%。
それに対して、今年度の旧司法試験は、200人のところが141人である。
変化率にすると、(200−141)÷200≒29.5%である。
目安より30%近く少なかったということになる。これは、予想外だった。
せいぜい180人くらいではないのか、と思っていた。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
点数で切った
以下は、平成6年以降の旧司法試験論文式の合格点及び合格者数の推移である。
年度 合格点 丙案合格点 合格者数 6 144.00 --- 759 7 144.25 --- 753 8 145.50 141.50 768 9 148.00 143.25 763 10 145.50 140.75 854 11 144.00 140.25 1038 12 145.00 141.25 1026 13 143.50 139.50 1024 14 140.75 137.25 1244 15 140.75 137.25 1201 16 136.50 --- 1536 17 132.75 --- 1454 18 133.75 --- 542 19 132.00 --- 250 20 132.00 --- 141 合格点は全体的に低下し続け、昨年度と今年度が最低点であることがわかる。
そして、昨年度と今年度は、目安を下回った。
このことから、昨年度と今年度は人数ではなく、点数で切ったのではないか、と推測できる。その一つの根拠になるのが、132.00点という点数である。
旧司法試験において、論文の点数は、以下のように算定される。(司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)
○ 合否判定方法・基準
(1) 6科目の得点の合計点をもって合否の決定を行う。
(2) 1科目の得点は,1,2問の平均点とする。(引用終わり)
そうすると、(1)から、合格点の132.00点とは、1科目あたりにすると22点(132÷6=22)である。
そして、(2)から、各科目の1問と2問の平均が22点であれば、その科目全体の点数も22点となる。
結局、1通の答案の評価が平均で22点である場合、全体の点数が132点となる。この、22点という点数は、どの程度の水準なのだろうか。
答案の採点方針では、以下のようになっている。(司法試験第二次試験の合否判定等に関する情報より引用)
○ 採点方針
1 1問の採点は,40点満点とし,白紙答案は0点とする。
2 各答案の採点は次の方針により行う。
(1) 優秀と認められる答案については,その内容に応じ30点から40点。
ただし,その上限はおおむね35点程度とし,抜群に優れた答案については更に若干の加点を行えるものとする。
(2) 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ25点から29点。
(3) 一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ20点から24点。
(4) 上記以外の答案については,その内容に応じ19点以下。
ただし,特に不良であると認められる答案については,9点以下。(引用終わり)
22点とは、一応の水準(20〜24)の中間値((20+24)÷2=22)である。
すなわち、一応の水準の中間値の答案をそろえると、全体として132点となる。
この、一応の水準の中間値は、法曹の質との関係で、意味のある数字である。
これを下回る受験生は、一応の水準にすら達していない、といいうるからである。このことから、司法試験委員会は132点を絶対的な最低合格ラインとして設定したのではないかと考えられる。
すなわち、この点を切る受験生は、合格者数の目安に関係なく絶対に受からせない。
昨年度と今年度の結果は、その現われとみることができる。このことは、法務省が近年「質の確保が前提」と言い出したことにリンクする。
(衆院法務委員会平成20年04月04日議事録からの河井副大臣答弁より引用、下線は筆者)
先生おっしゃるとおり、平成十四年三月十九日の閣議決定、法曹人口の拡大、これはあくまでも法曹人の質の確保ということが大前提で司法試験合格者数三千人程度を目指すということでありまして、これは大臣も繰り返し会見等で表明をしていらっしゃるとおりであります。
ということですから、その質の確保ということが図られないで数だけふやしていくということは、私はあり得ないというふうに考えておりまして、忠実かつ誠実な閣議決定の遵守ということは、つまり質の確保をしながら数の増加を目指していくということにつながっていくと考えております。(引用終わり)
(平成20年度規制改革会議第1回法務・資格タスクフォース議事録より引用、下線は筆者)
○佐々木参事官 平成14年3月に閣議決定されました司法制度改革推進計画に沿って、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す。平成14年のこの閣議決定は、法曹の質が確保されることが前提であるということと、3,000人という数字はあくまで目標であって、質が確保されなければ結果として目標に到達しないこともあり得るということで、この点につきましては12月の御協議で御了解いただけているものと考えてございます。(中略)
○福井主査 仮に3,000人の目標年次においてふさわしい能力の者が、今年は特別できが悪くて300人しかいなかったというときに、10分の1の300人を合格者にするということは少し考えにくいのではないですか。
○佐々木参事官 我々としては、300人であれば300人でしょうし、6,000人ならば6,000人なのではないか,と申し上げることになります。
○福井主査 一応、政府の方針は司法試験委員会としては勘案されるわけでしょう。
○佐々木参事官 勘案はしますけれども、質を低下させるということはできない,質を維持し確保しながらの増員というのが閣議決定の内容と考えているわけです。
○福井主査 司法試験合格者数の目安のようなものが、それぞれ年次ごとに、合格者の採点をする前に、ある程度はあったと思うのですが、これまで、合格者を徐々に増やしてきていると思いますが、その乖離の度合はどの程度になっておりますでしょうか。
○佐々木参事官 もともと、この合格者数の概数の目安は,新司法試験が始まってから設けられたものですが,この目安の幅の中に新司法試験の合格者数は収まっています。それはたまたま、そういうような資質の方が目安の数程度おられたということではないでしょうか。
○福井主査 それはかなり苦しい説明ではないですか。やはり、建前としてはそうおっしゃらざるを得ないというお立場はわかりますが、政府として掲げた目標に合わせて、ひょっとしたらペーパーテストの出来、不出来で言いますと、うんと少なかったときよりは、多少は見劣りする答案も多数混入しているにしても、一定の割り切りの下に必要な能力自体の下限が下がった、という一種の政策判断をしながら合格者を出されているのではないですか。
○佐々木参事官 そこは下げてはいないと考えてございます。法科大学院によってきちっと教育をされていることによって、従前の旧司法試験よりは素質・能力のある者がより多数育成された結果であると考えております。(引用終わり)
以上の法務省の見解を見たとき、これは新司法試験の話だろうと考えてしまう。
しかし、むしろ旧司法試験の方で、「質の確保の原則」が先に発動されてしまった。ただ、ここで一つ疑念が生じる。
旧司法試験にだけこのような絶対評価を設けたのではないか?という疑念である。
そうだとすると、これは不当な二重基準である。
そこで、一応の水準の中間値が合格の最低ラインを画するという原則を、新司法試験はクリアしているか、を次回検討する。