平成20年度旧司法試験論文の結果について(2)

新司法試験ではどうか

前回の記事で、旧司法試験においては一応の水準の中間値が合格最低ラインとされたようだと書いた。
では、その一応の水準の中間値が最低ラインを画するという原則は、新司法試験にも適用されているのか。
今回はこれを検討する。

論文式試験における一応の水準の中間値

新司法試験では、論文の配点が科目ごとに異なる。
各科目の満点は以下のようになっている。

科目 満点
公法系 200
民事系 300
刑事系 200
選択科目 100

そして、評価方法は以下の通りである。

「新司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について」より引用)

1 採点方針
(1) 白紙答案は零点とする。
(2) 各答案の採点は,各問の配点に応じ,次の方針により行う。
 選択科目において傾斜配点をするときは,これに準ずる。
ア 優秀と認められる答案については,その内容に応じ,下表の優秀欄の範囲。
 ただし,抜群に優れた答案については,下表の優秀欄( )の点数以上。
イ 良好な水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の良好欄の範囲。
ウ 良好とまでは認められないものの,一応の水準に達していると認められる答案については,その内容に応じ,下表の一応の水準欄の範囲。
エ 上記以外の答案については,その内容に応じ,下表の不良欄の範囲。
 ただし,特に不良であると認められる答案については,下表の不良欄[ ]の点数以下。

配点 優秀 良好 一応の水準 不良
200点 200点から150点
(190点)
149点から116点 115点から84点 83点から0点
[10点]
100点 100点から75点
(95点)
74点から58点 57点から42点 41点から0点
[5点]
50点 50点から38点
(48点)
37点から29点 28点から21点 20点から0点
[3点]

(引用終わり)

要するに、満点との関係では、

●優秀(100%〜75%)
●良好(74%〜58%)
●一応の水準(57%〜42%)
●不良(41%〜0%)

ということである。

そうすると、旧司法試験で合格最低ラインとされた一応の水準の中間値は、

(57%+42%)÷2≒50%

ということになる。

そして、論文式試験の合計点は、

公法系(200)+民事系(300)+刑事系(200)+選択科目(100)=800点

である。
従って、論文試験における一応の水準の中間値に当たる点数は、400点である。

短答式試験との関係による調整

新司法試験では、論文だけでなく、短答と論文の総合得点で合否が判断される。
その際、単なる単純合計ではなく、論文に比重を置いた評価となる(上記資料参照)。
具体的には、短答:論文=1:4とされ、数式にすると、以下のようになる。

総合得点=短答式試験の得点+論文式試験の得点×1400÷800

短答の満点が350点、論文の満点が800点である。
従って、1:4の比重となるには、論文の満点が短答の満点の4倍にならなければならない。
従って、修正後の論文の満点は、350×4=1400となる。
従って、論文の得点に800分の1400を乗じるわけである。

上記数式に、論文試験の得点における一応の水準の中間値にあたる400点を代入する。
そうすると、旧司法試験の132点にあたる想定最低合格点が算定できる。

想定最低合格点=短答の最低合格点+400×1400÷800
想定最低合格点=短答の最低合格点+700

新司法試験の合格点は一応の水準の中間値をクリア

以下は、平成18年度以降について、上記想定最低合格ラインを算出し、実際の合格点と比較したものである。

年度 短答の最低合格点 想定最低合格点 実際の合格点
18 210 910 915
19 210 910 925
20 230 930 940

新司法試験においては、過去の3回はいずれも、実際の合格点が想定最低合格点を上回っている。
やや意外である。
新司法試験の合格者は、一応の水準の中間値をクリアしているということになる。
(なお、にもかかわらずなぜ今年度は目安を下回らせたのか、という疑問については、以前の記事参照)

以上から、今のところ、一応の水準の中間値が合格の最低ラインを画するという原則は、旧司法試験のみに課されたものとはいえない、という結論になる。
(旧司法試験と新司法試験の「一応の水準」が同じか、という疑問はあるが、その点は検討資料を欠く)

来年以降の予測

以上を踏まえて考えると、来年以降は以下のようになると予測できる。

旧司法試験においては、来年度(平成21年度)の合格者数の目安は、100人程度である。

「併行実施期間中(平成20年以降)の新旧司法試験合格者数について」より引用)

 旧司法試験の合格者の概数については,平成17年に合格者の概数を示した際,同18年は500人ないし600人程度,同19年は300人程度を一応の目安とするとしたことを踏まえ,上記2で述べた考慮事項を勘案し,同20年は200人程度を,同21年は100人程度を,同22年はその前年よりも更に減少させることを,それぞれ一応の目安とするのが適当と考える。

(引用終わり)

しかし、論文式試験において132点に達した受験生が100名以下であれば、132点が合格点となる。
合格者数は、132点以上の者がそのとき何人いたかによる。
そして、132点に達した受験生が100名を超えれば、そのときは司法試験委員会の裁量で100名をやや超える人数が合格者数となる。
合格得点は、その合格者数に対応する点数ということになる。
このように、来年度は132点に達した受験生が100名以下ならば絶対評価。
100名を超えれば、相対評価ということになると予測できる。
そして、2年連続で絶対評価となってしまったということから、来年もそのようになる可能性は十分ある。
その場合、答案戦略が変わってしまう。
すなわち、「この論点はみんな書けない、だからこの程度で大丈夫」は、通用しないということだ。
もはや、旧司法試験は他の受験生との戦いではなく、132点を超えられるか、という戦いになっている。
また、現在の132点が、過去の132点と同じとは限らない。
平成初期の問題は極めて基本的だったのに対し、近年の問題は難易度が高い。
従って、当時140点代だった答案を書ける力があれば、来年も140点代が取れるとは限らない。
その意味で、非常に対策がしにくくなったといえる。

他方、新司法試験の受験生にとって、このことは他人事ではない。
新司法試験では、これまでのところ、一応の水準の中間値をクリアしてきた。
しかし、上記の表からわかるように、実際の合格点との差はそれ程大きくない。
以前の記事で述べたように、新試験の受験生の得点も年々低下する傾向にある。
一方で、論文における一応の水準の中間値は、400点(調整後700点)のままである。
そうなると、いずれこの「一応の水準の壁」にぶつかることになる。
来年以降、合格者数が大幅に目安を下回った場合は、合格点が短答合格点+700点になっていないか、に注目する必要がある。

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