平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(民法)

法務省が公表した出題趣旨のうち、今回は民法について検討する(試験問題はこちら)。

第1段落

第1段落は、全体的な評価対象についてである。

(出題趣旨から引用)

 本問は,不動産の売買・賃貸借・相続等に関し,財産法と家族法にわたる民法上の様々な問題について,基本的な理解の有無を確認するものである。単に知識の確認をするだけでなく,掘り下げた考察をしそれを明確に表現する能力,論理的に一貫した論述をする能力,具体的事実について法的観点から評価し構成する能力なども評価の対象となる。

(引用終わり)

ここで評価対象とされている能力は、答案技術的には一つのことを指している。
掘り下げた考察とは、抽象的かつ基本的な法原理から、具体的かつ応用的な問題へと演繹していく過程である。
そして論理的一貫性とは、基本原理から演繹的に説明する際の論理が乱れていないことである。
例えば、AならばBであるという基本論理から、本問ではAである(Aでない)からBである(Bでない)と導くことである。
そして、具体的事実を評価し構成する能力とは、基本原理にあてはめる能力である。
上記の例でいうと、本問の場合が、果たしてAといえるのか、ということである。

以上のことは、要するに基本的知識からリンクさせて結論まで導いていくということである。
定型的には、趣旨→論証(規範定立)→規範のあてはめという型である。
その際には、形式的にテクニカルタームをつないでいく。
「趣旨は○○である。○○を考慮すると、××ならば△△と解すべきである。本問では〜であるから、××といえる。よって△△である」という書き方。
これが、論証・あてはめの基本形である。
ただ、これは同じことを何度も書くことになるので、紙面をかなり使う。
従って、すべての事柄についてこれをやると、紙幅が足りなくなる。
ここぞ、というところで用いることが肝要である。

第2段落

第2段落は、設問1の要約である。

(出題趣旨より引用)

 設問1は,マンションの1戸の売買をしたが,買主の代金不払により売主が契約を解除したところ,解除前に,買主が目的物を賃貸し,更に賃借人が無断転貸をしていたという事案で,売主が賃借人及び転借人に明渡しを求める場面の問題である。

(引用終わり)

語尾を「明け渡しを求めることが出来るか」にすれば、そのまま一行問題になる。
もし、仮にそういう問題だと、論点を探すだけで大変だ。
旧司法試験の場合、具体的事情や小問などのヒントが少なく、何を書くか自体で差が付いた。
新試験では、事情が詳細で、かつ、各小問を設けて論点が明確化されている。
その分、何を書けば良いかは比較的わかりやすい。
そのため、論述の正確さで差が付きやすい。
その意味では、個別の論証を正確に理解・記憶しておく必要性は旧試験より高いといえる。

第3段落

第3段落は、小問(1)で検討すべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 小問(1)は,賃借人に対する所有権に基づく返還請求に対し,賃借人の反論(賃借人は売買契約解除前の第三者である。)の当否を問う。民法第545条ただし書の趣旨及び「第三者」の意義,第三者の対抗要件の要否とその意味,賃借人の対抗要件(借地借家法第31条第1項),第三者の善意・悪意など,基本的理解を確認する。「解除と第三者」に関しては,第三者は目的物の譲受人として論じられることが多いが,ここでは目的物の賃借人であるという特色がある。

(引用終わり)

書くべき論点は以下の通り。

●民法544条ただし書の趣旨及び「第三者」の意義
●第三者の対抗要件の要否とその意味
●賃借人の対抗要件
●第三者の善意・悪意(善意の要否)

これらを落とすとその分だけ点が下がるという感じだろう。
もっとも、答練や問題集でも繰り返し出題されている論点であるから、多くの人が全て拾えたはずである。
従って、不正確な論述は、ささいな部分でも点を下げやすい。
なお、「第三者」について、賃借人であるという特色について言及されている。
しかし、利害関係のあてはめで悩むことはほとんどないので、解答にあたってはそれ程問題はなかったと思われる。

第4段落

第4段落は、小問(2)で検討すべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 小問(2)では,賃借人に対する賃貸借契約終了に基づく返還請求について,賃借人の2つの反論の成否を問う。第1の反論(賃借人は買主から賃借したのだから,売主が賃貸借契約を解除することはできない。)に関しては,売買契約の解除に伴う賃貸人の地位の買主から売主への移転,それにより売主が賃貸人として賃貸借契約を解除できるに至ったこと,その前提として売主に目的物の所有権の登記が求められることなど,基本的な理解を確認する。契約解除の場面における「賃貸人たる地位の移転」についての考察や賃貸借契約解除原因の発生時期と賃貸人(売主)による解除権の行使時期との関係についての考察があれば,それも評価する。第2の反論(目的物は現在,転借人が使用しており,賃借人は占有していないので,売主の請求には理由がない。)に関しては,所有権に基づく返還請求ではなく,賃貸借契約終了に基づく返還請求では,相手方の占有の有無は問題とならないという基本的理解を確認する。なお,これは「不動産の間接占有者に対する引渡しないし明渡しの請求」というより高度な問題にもかかわるが,そこまでの叙述を不可欠とするものではない。

(引用終わり)

書くべき論点は以下の通り。

●賃貸人の地位の移転
●賃貸人の地位の対抗のための登記の要否
●賃貸借終了に基づく返還請求における相手方の占有の要否

この点は問題文から明らかだから、落とした人はほとんどいないと思われる。
従って、それなりにちゃんと論述していないと、点差が付いてしまうところだろう。
また、以下の点が加点事由とされたようである。

●契約解除の場面における「賃貸人たる地位の移転」についての考察
●賃貸借契約解除原因の発生時期と賃貸人(売主)による解除権の行使時期との関係についての考察
●不動産の間接占有者に対する引渡しないし明渡しの請求

契約解除の場面における賃貸人の地位の移転については、多くの人が何らかの論述をしたと思われる。
他方、その他の二つについては、触れた人は皆無に近いのではないか。
解答に当たって直接必要な論点とは言い難いからである。
従って、この部分ではそれ程差が付かなかったと思われる。

第5段落

第5段落は、小問(3)で検討すべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 小問(3)は,無断転貸を理由とする解除における「背信行為と認めるに足りない特段の事情」となるべき具体的事実の指摘とその理由の説明を求める。賃貸借と転貸借との利用形態がほぼ同様で賃貸人の許諾した範囲内にあるといえること,両者の契約内容が同じであること(特に転貸人に差額による利益を取得する意図がないこと),転貸人の主観的悪性が低いことなどを示す事実を挙げ,整理して理由付けることが求められる。背信行為論の抽象的説明のみをするのではなく,具体的事実との関係で説得的な論述ができるかを問うている。

(引用終わり)

検討すべきは、背信性を否定する特段の事情となるべき事実とその理由である。
列挙すべき事実は以下の3つである。

●賃貸借と転貸借との利用形態がほぼ同様で賃貸人の許諾した範囲内にあるといえること
●両者の契約内容が同じであること(特に転貸人に差額による利益を取得する意図がないこと)
●転貸人の主観的悪性が低いこと

どれも問題文からは容易に読み取れる。
そうすると、どのような理由付けをするかが問題となる。
出題趣旨では、理由付けの具体例などは挙がっていない。
従って、どの程度の理由付けまで要求していたのかは明らかでない。
ヒアリングの方で言及があれば注目したい。

第6段落

第6段落は、設問2で検討すべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 設問2は,マンションの1戸の賃貸人が死亡し,その9か月後に遺産分割がされた場合について,相続開始時から遺産分割時までの間に支払われた賃料の帰属を問うものである。関連する近時の最高裁判決の判旨を問題中で示した上,その評価も求めている。賃料債権が相続財産(遺産)の範囲に含まれるかどうか(民法第896条),及び,遺産分割の遡及効との関係(同第909条)を明確にした上,判例の見解に対する評価を述べ,自らの見解に基づく具体的結論とその法的構成を示すことが求められる。本問の賃料の性質(法定果実であること,相続開始後に発生した分であること,金銭債権であることなど)のどこを重視するかなどにより,複数の考え方があり得るが,それぞれの問題点についての基本的な説明と説得的な理由付けのほか,論述全体としての論理的整合性が求められる。

(引用終わり)

書くべき事項は以下の4つである。

●賃料債権が相続財産(遺産)の範囲に含まれるかどうか(民法第896条)
●遺産分割の遡及効との関係(同第909条)
●判例の見解に対する評価
●自らの見解に基づく具体的結論とその法的構成

ただ、これは以下の問題文から明らかだ。

(問題文より引用)

 本問の検討に当たっては,どのように相続財産の範囲を考えるかという問題や,遺産分割の効力との関係などの問題に言及するとともに,上記の見解に対する評価も示しなさい。

(引用終わり)

従って、本問では何を書いたかより、どう書いたかという点が重要となる。
この点、出題趣旨は以下の点を要求する。

●基本的な説明
●説得的な理由付け
●論述全体としての論理的整合性

この点は第1段落の繰り返しといえる。
答案技術的には、基本事項からフレーズをリンクさせて結論まで持っていくということになる。
ここでいう基本事項とは、相続財産の範囲(相続開始時に存する財産)、遺産分割の効力(遡及効)ということである。
あとは、そこから本問の賃料は相続開始時に存するといえるのか、遡及効が及ぶとどうなるのか、という観点から丁寧に論理を繋いでいけばよい。
この辺りの書き方で、本問は差が付いたと思われる。

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