最新下級審裁判例

さいたま地裁判決平成20年07月30日

【事案】

 埼玉県立Z高等学校(以下「Z高校」という。)の3年生であった原告の二男Aが,同校の中間考査中にした行為について,同校の教諭らから事情を聴かれた(以下「本件事実確認」という。)後死亡したこと(以下「本件事故」という。)に関し,原告が,Z高校の設置者である被告に対し,本件事実確認に関与した同校の教諭ら5人に,生徒に対する安全配慮義務違反があると主張して,国家賠償法1条1項又は民法415条に基づき,一部請求として8000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案。

 Aは,1時限目に日本史の試験を受験した後,2時限目に物理の試験(以下「本件試験」という。)を受験した。
 本件試験の試験監督であったY1教諭は,同試験中に,Aが,消しゴムに巻かれて文字が記載されているペーパーを見ているのを発見し,同人に声をかけたところ,Aはペーパーを消しゴムとともに上着の右ポケットにしまい込んだ。
 その後,同教諭は,同試験中に,Aからペーパーの提出を受け,それを受領した。同教諭は,その場では同ペーパーを確認せず,職員室に戻った後に内容を確認したところ,同ペーパーには,日本史に関する事項が記載されていた。

【判旨】

 教職員らは,生徒らと学校生活を共にし,直接指導に当たる立場にある者として,生徒らが健全で安定した学校生活を送ることができるように,同人らの生命,身体,精神等の安全に配慮する義務があり,特に生徒指導を行うに際しては,教師・生徒という権力的関係が生徒にとって大きな精神的・心理的負荷につながりやすいこと,思春期の生徒が精神的不安に陥りやすいことから,当該生徒の年齢・性格等を考慮した上で,教育目的の観点から,当該生徒に過度の肉体的・精神的負担を負わせるにいたった場合には,これを除去するなどの教育的配慮を行う義務がある。
 この点,学校教育法11条は「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,学生,生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない。」と定めているところ,本件のような不正行為に関する事実確認は,懲戒そのものではないが,事実確認の結果如何では,生徒に対する懲戒にも繋がる可能性のある行為の一つであるから,生徒に対する指導の一環として教師に認められた権限の範囲内の行為であるというべきである。もっとも,他方において,かかる生徒に対する指導は,生徒の権利侵害を伴うことも少なくはないから,教育的効果と生徒の被るべき権利侵害の程度とを比較衡量し,生徒の性格,行動,心身の発達状況,不正行為の内容,程度等諸般の事情を考慮し,それによる教育的効果を期待しうる合理的な範囲のものと認められる限りにおいて正当な指導の一環として許容されるべきであり,その範囲を超えた場合には,指導としての範囲を超えた違法なものとなり,教師が生徒に対して負う上記安全配慮義務に違反するというべきである。

 本件事実確認の対象となったAの非違行為の内容は決して軽度なものとはいい難いところ,その上で,本件事実確認実施に際し,教諭らが選択した場所,時間等は適切であり,その方法においても,事実確認の開始から終了に至るまで,威圧的ないし執拗にAを追及するものではなく,むしろAの意見を尊重しながら慎重に行われたものといえ,そのため,かえって長時間を要したとさえいえるものである。確かに,教師と生徒の間には,その立場の違いから潜在的に権力的関係が存在し,また,一般的に高校生が思春期の多感な時期にあることを考慮すると,5人の教諭が同時に立ち会ったことや,Aに休憩を全くとらせなかったことについては,結果としてみれば,配慮すべき余地がないとはいえないものの,上記のごとく,本件の非違行為が軽度とはいえないことからすると,自己の行為について認識し,考えることもまた,成長過程にある生徒にとって必要なことであり,本件事実確認が,教師の生徒に対する指導の一環として,合理的範囲を逸脱した違法なものということはできず,教諭らにAに対する安全配慮義務違反は認められない。

 

大阪地裁判決平成20年08月07日

【事案】

 大東市の住民である原告が,市の執行機関である被告に対し,市の非常勤職員が退職する際に退職慰労金を支給していることは,条例の根拠を欠いているから,給与条例主義を定めた地方自治法204条の2等の規定に違反し,違法であると主張して,同法242条の2第1項4号に基づき,市長個人に対して不法行為に基づく損害賠償請求をするよう,担当職員らに対して同法243条の2の賠償命令をするようそれぞれ求めるとともに,同法242条の2第1項1号に基づき,将来にわたり退職慰労金の支給を行うことの差止めを求めている住民訴訟。

【判旨】

 地方自治法203条5項,204条3項,204条の2及び地公法24条6項,25条1項によれば,普通地方公共団体の職員等に対する給与,手当等(以下「給与等」という。)の額及び支給方法は条例で定めなければならず,その支給も法律又はこれに基づく条例に基づかずにはすることができないという給与条例主義が採られている。
 このように,法が,地方公共団体の職員等の給与等の額及び支給方法を条例で定めることとし,条例に基づかなければいかなる給付もなし得ないものとしているのは,第一義的には,職員の給与等は最終的にこれを負担する住民の総意に基づくことが憲法92条の定める住民自治の趣旨に合致するところ,民意に基づいて選出された議員によって構成される議会が形成する団体意思のうち,最も基本的な法規範形式である条例を支給の根拠とすることによって,住民の総意に基づくものとみなすことができると考えられたことによるものと解される(第二義的には,給与等の支給について条例で定めることによって,職務の公共性や中立性を確保すべき地方公共団体の職員等に対し,そこで定められた内容の給与等の支給を受ける地位を保障することにあるものと解される。)。
 大東市における非常勤職員は,地公法3条3項の特別職(具体的には同項3号の嘱託員)に当たり,地公法の規定の適用が排除されている(同法4条2項)から,給与条例主義を定めたものと解される法律の規定のうち,地公法24条6項及び同法25条1項の適用はないことになる。
 しかしながら,大東市の非常勤職員が特別職であり,地公法の適用を受けないとしても,同職員の給与等について最終的に市の住民が負担することとなるという点においては,常勤職員の場合と異なるところはない。そうである以上,本件退職慰労金の定め及びその支給についても,地方自治法上の給与条例主義が妥当するというべきである。
 本件退職慰労金の支給については,これを直接定めた条例の規定はなく,その支給は要綱に基づいて行われてきたというのであるが,要綱は行政内部の規範にすぎず,給与条例主義の前記趣旨に照らせば,要綱をもって条例に代えることができると解する余地はない。
 被告は,本件退職慰労金の支給については,予算として議決を受け,決算上も対象者人数と決算額が明記されていることを理由として,給与条例主義に反しない旨も主張するが,上記のとおり,法は明文で地方公共団体における職員に対する給与等を条例で定めるよう求めていることに加え,条例と,予算の議決及び決算の承認とは,その趣旨・目的が異なり,実質的な審議の在り方も相違している。例えば,予算及び決算を通じて民主的統制が及ぶものとみる余地はあるが,それは単年度を対象として行われるにすぎないのであって,恒常的・継続的な観点をも踏まえた合理的な人事・給与制度の構築は,条例の制定とその検討の過程を経ることで初めて可能になるともいい得る。したがって,議会が予算の議決や決算の承認をしたからといって,給与条例主義の趣旨を完全に確保することは困難と考えられ,これらをもって条例に代えることができると解することはできない。
 行政に対する住民の多様な要請に対応しつつ,弾力的な組織運営と行政経費の抑制を図るという見地から,非常勤職員の任用が多用されており,その勤務条件について,勤務の実質に即したより適切なものにしていくことが望まれるのは被告の主張するとおりであるとしても,そのことから条例の根拠を欠いた退職慰労金の支給が正当化されることはないというほかない。
 以上によれば,本件退職慰労金の支給は,地方自治法の定める給与条例主義に違反し,違法であるというべきである。

 本件各支出負担行為は,総務部長又は人事課長の専決により行われたものであり,本件各支出命令も,同様に専決により発出されたものであるが,本件各支出負担行為及び本件各支出命令に給与条例主義という地方自治法の基本原則に反する違法があることからすれば,これらの財務会計行為の本来的権限者である大東市長の職にあるAとしては,専決権者が違法な財務会計行為をすることを阻止する指揮監督上の義務を負っているというべきであるところ,それにもかかわらず,Aは,故意又は過失によって専決権者の違法な本件各支出負担行為及び本件各支出命令を阻止しなかったのであるから,同人に指揮監督上の義務違反による損害賠償責任がある。
 総務部長B,人事課長C及び同Dは,前記のとおり違法な本件各支出負担行為又は本件各支出命令を,それぞれ専決により行ったものであり,それぞれ故意又は重大な過失により法令の規定に違反して財務会計行為をしたというべきであるから,同人らは,地方自治法243条の2第1項の賠償責任を負う。
 なお,地方自治法243条の2第2項によれば,損害が2人以上の職員の行為によって生じたものであるときは,当該職員は,それぞれの職分に応じ,かつ,当該行為が当該損害の発生の原因となった程度に応じて賠償の責めに任ずるものとされているところ,生じた損害の全額について各人が連帯して責任を負担する旨の規定はなく,B総務部長の行った支出負担行為とC人事課長の行った支出命令との間において,損害の発生の原因となった程度について有意な差を見いだし難いことからすれば,両名はそれぞれ損害額の2分の1の範囲で地方自治法243条の2の賠償責任を負うものと解すべきである。

 原告は,請求の趣旨5項において,地方自治法242条の2第1項1号に基づき,被告に対し,将来の退職慰労金支給の差止めを求めている。
 同規定に基づく差止請求は,執行機関等に対して一定の行為を行うことを事前に禁ずるものであり,同法242条1項が,「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」に,これを監査請求の対象とすることを許容していることに照らすと,違法行為が実施されることが相当の確実さをもって予測されることを要件としていると解されるところ,被告は,将来退職する非常勤職員に対しても退職慰労金の支給を命ずることが推認でき,この推認を覆すに足りる事情はうかがわれない(被告において,報酬要綱を改廃したり,これに基づく退職慰労金の取扱いに変更を加えたりする予定がある旨が表明された事実もない。)。
 したがって,被告によって違法行為が行われることが相当の確実さをもって予想されると判断するのが相当である。

 

高松高裁判決平成20年09月17日

【事案】

 被控訴人学校法人Y1学校(以下「被控訴学校」という。)の設置するA高校(以下「A高校」という。)に在籍し,サッカー部に所属していた控訴人X1が,平成8年8月13日,同校の課外のクラブ活動の一環として大阪府高槻市で開催されたサッカー競技大会である「第10回Bフェスティバル」(以下「本件大会」という。)に参加していた際に出場した試合の開始後間もなく落雷を受けた事故に関し,同校サッカー部の引率者兼監督であったC教諭(以下「C教諭」という。)及び上記大会の主催者であった被控訴人財団法人Y2協会(以下「被控訴協会」という。)の担当者には落雷を予見して回避すべき安全配慮義務を怠った過失があるなどとして,同控訴人の母である控訴人X2及び兄である控訴人X3とともに,被控訴人らに対し,債務不履行又は不法行為(民法715条の使用者責任)に基づき,損害賠償を請求する事案。

【判旨】

 教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。
 落雷による死傷事故は,平成5年から平成7年までに全国で毎年5ないし11件発生し,毎年3ないし6人が死亡しており,また,落雷事故を予防するための注意に関しては,平成8年までに,各文献上の記載が多く存在していたのであり,A高校の第2試合の開始直前ころには,本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると,上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても,同校サッカー部の引率者兼監督であったC教諭としては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは,たとえ平均的なスポーツ指導者において,落雷事故発生の危険性の認識が薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら,上記のような認識は,平成8年までに多く存在していた落雷事故発生の危険性に関する当時の科学的知見に反するものであって,その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである(本件における上告審判決参照)。

 次に,A高校の第2試合の開始直前ころまでに,C教諭が落雷事故発生の危険を具体的に予見していたとすれば,どのような措置を執ることができたか,同教諭がその措置を執っていたとすれば,本件落雷事故の発生を回避することができたかについて検討する。
 ・・・平成8年8月当時,落雷に対する安全対策に関する科学的知見として,避雷法,安全空間,保護範囲については広く一般に知られていたものと認められる。
 ・・・本件運動広場においては,各コンクリート製柱を中心とした半径8メートル(同柱の高さに相当する。)の円内で,かつ,柱から2メートル程度以上離れた部分が避雷のための保護範囲となり,この範囲内にとどまる限り,落雷の直撃に遭う危険性はかなりの程度軽減されることが明らかであり,また,コンクリート製柱は同広場の外周の東側,北側,西側に10ないし11メートルの間隔をもって合計50本が存在していたことからすると,これにより形成される保護範囲は相当広範囲に及び,A高校の第2試合開始直前ころ同広場にいた約200名の生徒ら全員が一時的にしゃがむなどしてとどまり,避雷する場所としては十分な面積があったものということができ,C教諭としては,少なくとも当面同高校の生徒らを上記保護範囲に避難させ,姿勢を低くした状態で待機するよう指示した上,同試合の対戦相手である「Gチーム」の監督であるとともにBコートの会場担当者であったTに対し,試合の延期や中止の場合の通例に従って,落雷の危険が去るまで同試合の開始を延期することを申し入れて協議をし,他校の生徒らについても同様に保護範囲に避難させるなどの措置を執り,天候の変化に注目しつつ,更に安全空間への退避の方法についても検討するなどの措置を執ることが可能であり,そうしていれば,同試合開始後間もなく発生した本件落雷事故を回避できたものといえる。

 C教諭は,A高校の第2試合開始直前ころまでには本件落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であり,これを予見すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,同校サッカー部の生徒らを保護範囲(本件運動広場外周に存する50本の各コンクリート製柱を中心とした半径8メートルの円内で,かつ,柱から2メートル程度以上離れた場所)に誘導し,姿勢を低くした状態で待機するよう指示し,かつ,Tに対し,同試合の開始の延期を申し入れて協議の上,更に安全空間に生徒らを退避させる方法を検討,準備するなどの措置を執るなどの落雷事故発生の回避のための措置を執ることなく,漫然と同試合に控訴人X1を出場させ,その結果,同控訴人を本件落雷事故に遭わしめた過失があるものというべきである。
 したがって,被控訴学校は,本件落雷事故について,C教諭の使用者として,民法715条に基づき不法行為責任(使用者責任)を負うものというべきである。

 本件大会の主催者である被控訴協会ないしTその他本件大会運営担当者は,本件大会が,高等学校における教育活動の一環として行われる課外のクラブ活動の参加により成り立っていることからすれば,本件大会に参加する生徒の安全に関わる事故の危険性をできる限り具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,本件大会に参加する生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。
 そして,落雷による死傷事故は,平成5年から平成7年までに全国で毎年5ないし11件発生し,毎年3ないし6人が死亡しており,また,落雷事故発生の危険性に関しては,平成8年までに文献上の記載が多く存在していたのであり,さらに,本件運動広場のBコートにおけるA高校の第2試合の開始直前ころには,同広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのであるから,上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても,同コートの会場担当者であり高校教諭としてサッカーの指導にも当たっていたTとしては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり,また,予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは,たとえ平均的なスポーツ指導者において,落雷事故発生の危険性の認識が薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら,上記のような認識が,平成8年までに多く存在していた落雷事故発生の危険性に関する上記文献上の記載と相いれないものであり,当時の科学的知見に反するものであって,その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭でありかつクラブ活動チームによるサッカー競技大会である本件大会の会場担当者である者の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。

 次に,A高校の第2試合の開始直前ころまでに,Tが落雷事故発生の危険を具体的に予見していたとすれば,どのような措置を執ることができたか,同人がその措置を執っていたとすれば,本件落雷事故の発生を回避することができたかについて検討する。
 本件落雷事故発生当時の本件運動広場の状況等,落雷に対する安全対策に関する科学的知見を前提とすれば,本件運動広場においては,各コンクリート製柱を中心とした半径8メートル(同柱の高さに相当する。)の円内で,かつ,柱から2メートル程度以上離れた部分が避雷のための保護範囲となり,この範囲内にとどまる限り,落雷の直撃に遭う危険性はかなりの程度軽減されることが明らかであり,また,コンクリート製柱は同広場の外周の東側,北側,西側に10ないし11メートルの間隔をもって合計50本が存在していたことからすると,これにより形成される保護範囲は相当広範囲に及び,A高校の第2試合開始直前ころ同広場にいた約200名の生徒ら全員が一時的にしゃがむなどしてとどまり,避雷する場所としては十分な面積があったものということができ,Bコートの会場担当者であり「Gチーム」の監督であるTとしては,同コートで開始直前の試合の対戦相手であるA高校の監督であるC教諭に対し,試合の延期や中止の場合の通例に従って,落雷の危険が去るまで同試合の開始を延期することを申し入れて協議をし,他校の生徒らについても同様に保護範囲に避難させるなどの措置を執り,天候の変化に注目しつつ,更に安全空間への退避の方法についても検討するなどの措置を執ることが可能であり,そうしていれば,同試合開始後間もなく発生した本件落雷事故を回避できたものといえる。

 Bコートの会場担当者であったTは,A高校の第2試合開始直前ころまでには本件落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であり,これを予見すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,同コートで同試合に出場するチームに属する生徒らを保護範囲(本件運動広場外周に存するコンクリート製柱を中心とした半径8メートルの円内で,かつ,柱から2メートル程度以上離れた場所)に誘導し,姿勢を低くした状態で待機するよう指示をし,かつ,C教諭に対し,同試合の開始の延期を申し入れてその間により安全な場所に生徒らを待避させる方法を検討,準備するなどの落雷事故発生の回避のための措置を執ることもなく,漫然と同試合を開始するに任せ,その結果,同試合に出場した控訴人X1を本件落雷事故に遭わしめた過失があるものというべきである。そして,被控訴協会は,本件大会の主催者としてTにBコートの会場担当者としての業務をなさしめていたものであるから,同人の使用者として,本件落雷事故について,民法715条に基づき不法行為責任(使用者責任)を負うものというべきである。

 

東京地裁判決平成20年09月18日

【事案】

 原告が,(1)主位的に,原告と被告との間で,被告の開発したデジタルテレビ用ソフトウェアを組み込んだデジタルテレビ用モジュール及びその関連電子機器の日本を含むアジア地域における独占的販売権を原告が取得する旨の契約を締結したにもかかわらず,被告が,上記契約に違反して,@原告以外の第三者に対して,被告の開発したソフトウェアのライセンスを付与し,製品を販売させたほか,被告自らも製品を顧客に直接販売したこと,A原告に対して,製品の販売を一切委託しないこと,を理由に上記契約を解除したと主張し,債務不履行解除に基づく原状回復請求又は損害賠償請求として,(2)予備的に,被告は,当初より実際には原告に製品を供給する意思がなかったにもかかわらず,決算対策(株価対策)のために1億円を取得する目的で原告に上記契約を締結させたなどと主張し,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告に対し,1億0500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年4月7日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

【判旨】

 まず,被告による本件製品の直販が本件契約に違反するか否かについて検討する。
 本件合意書第2条(1)は,被告が,原告に対し,本件製品に組み込まれた本件ソフトウェアのソフトウェア・ライセンスの再使用許諾の権利及び本件製品の販売を行う代理権を付与する旨,同条(2)は,被告が,所定の期間中,本件販売地域において,原告の承諾なしに本件製品の販売を第三者に代理させまたは委託することはできないものとする,と定めている。このような条項が存在する場合には,被告が原告の承諾なしに本件製品を直接第三者に販売できないことがその前提になっており,被告の直販を認める場合にはその旨の条項が別途設けられるのが通常であると考えられるところ,本件合意書中には,本件製品を被告が直接第三者に販売することを前提とした条項は存在しない。
 本件合意書が作成された後の平成17年4月28日に作成された「デジタルTVソリューションビジネス当社事業戦略」と題する文書10頁の「ビジネススキーム」という表題の図によれば,このビジネススキームは,ケイテック社のみならず,インポーテック社及びその他不特定の会社からなる各生産協力会社において本件製品の開発及び生産をし,被告が本件製品の供給元となって本件製品を一元的に原告に販売し,原告が本件製品を顧客に販売するか若しくは原告からリョーサンを通して顧客に販売するというものであったことが認められる。また,本件契約締結の前後に作成された会議資料等にも,同様の趣旨が図示されているほか,原告について,「総代理店」,「販売統括」などの表示がされている。また,Bは,同月12日に,被告が製造・開発するデジタル放送受信用チューナーモジュールを販売しようとしていたインドネシアのモダン社社長をAに引き合わせ,その際,Aを商談の引継先として紹介している。
 これらの事実によれば,本件契約を締結した原告と被告が予定していたビジネススキームは,被告が生産協力会社に委託して生産させた本件製品を一元的に原告を通じて販売することにより,原告と被告との間で販売利益を配分するというもので,被告による直販は予定されていなかったことが推認される。
 原告と被告は,平成17年3月末日までに本件契約を締結するために急いで本件合意書の条項を詰める作業を行ったこと,3月29日合意書案において,被告から原告に対し,@原告が被告に支払う費用の名目を暖簾代からソフトウェア・ライセンスの再使用許諾権料に改めること,A原告が被告に1億円を支払う期日を同月31日とすること,B本件不返還条項を盛り込むことを提案し,原告がこれを了承したことが認められ,これらの事実に,暖簾代には会計上全額を受領した日の売上げとして計上することができない(契約期間が数年にわたる場合,分割して期間計上しなければならない)という問題があることを併せ考えると,被告が,同日までに原告から1億円の本件許諾権料を受け取り,これを平成17年度の売上げとして計上することを強く望んでいたことが推認される。
 また,被告は,本件契約締結当時,転換社債(転換価格は24万6800円である。)を発行していたところ,被告の株価は,平成17年3月においては21万円台であって上記転換価格に達していなかった。ところが,本件契約が締結された後,被告の平成17年3月期末の連結業績における経常利益は2億8200万円,当期純利益は2億4700万円となり,同年1月31日の時点での予想に比べて,経常利益が8100万円,純利益が1億4400万円それぞれ増加した。
 そして,本件契約が締結された後,被告の株価は上昇して同年7月には約40万円に達し,これに伴って,被告の転換社債の残高は,同年6月末における残高6億3000万円から,同年7月31日における2億7000万円に減少した。
 これらの事実を併せ考えると,被告が,決算対策上の理由から,平成17年3月期末までに原告から1億円の本件許諾権料を受け取り,これを売上げとして計上しようとしていたことが推認される。
 原告が,被告に対し,平成17年9月30日に,本件製品の販売をすべて原告を介して行うことが本件契約の前提になっていることを指摘し,被告がこれ以外のビジネスルートを考えているのであればその内容及び方針を教えて頂きたい旨を記したメールを送信し,同年12月1日,同月28日及び平成18年2月3日にも,被告の考え方をただす内容のメールを送信したのに対し,被告は,明確な回答をしなかった。また,同年10月のトップ会談において,Aが本件製品の販売をすべて原告を介して行うことが本件契約の想定する販売ルートであると述べた際にも,被告側はAの考えを否定する反論をしていない。
 これらの事実は,本件製品の販売をすべて原告を介して行うことが本件契約の前提になっていたことを被告が認めていたことをうかがわせる。
 これらの点を考慮すれば,本件契約においては,原告のみが本件製品を販売することが予定されていたと認められるから,被告が原告の承諾を得ずに本件製品を第三者に直接販売することは,本件契約に違反するというべきである。

 次に,被告が第三者にライセンスを付与することが本件契約に違反するか否かについて検討する。
 被告は,本件合意書第2条(2)によって禁止されているのは,本件製品の「販売を第三者に代理させまたは委託すること」のみであり,同項はソフトウェアのライセンスの付与に何ら言及していないから,被告が第三者にソフトウェアのライセンスを付与することは,本件契約に違反するものではない旨主張している。
 しかしながら,本件合意書第2条(1)において,被告は,原告に本件ソフトウェアのソフトウェア・ライセンスの再使用許諾の権利を付与していること,本件契約においては,本件ソフトウェアを組み込んで生産されるモジュール及びその関連電子機器の販売をすべて原告を介して行うことが前提となっていたと見られるところ,仮に被告が上記ソフトウェアのライセンスを原告以外の第三者に自由に付与することができるとすれば,前記の前提が崩れ,原告が本件契約を締結した目的を達せられなくなることは容易に想像できるから,本件契約においては被告が原告の承諾なしに本件ソフトウェアのライセンスを第三者に付与する行為も禁止されていると解すべきであり,被告の主張は採用できない。
 以上によれば,本件契約において,原告と被告との間で,原告が本件製品を本件販売地域内で独占的に販売することを被告が認める旨の合意が成立したものと認められる。

 被告が,インポーテック社にARIB規格のモジュール基板の製造を委託し,これに被告のソフトウェアを搭載したモジュール製品の直販を行っていること,被告が,デジタルワールド社及びインポーテック社に対して本件モジュールに組み込まれるソフトウェアのライセンスの付与を行っていることが認められる。
 そして,上記で検討したところからすれば,被告がモジュール製品を直販すること及び被告のソフトウェアのライセンスを第三者に付与することは,いずれも本件合意書に違反する行為であると認められる。
 また,被告のモジュール(ARIB規格)である「Kabuto」の製品番号は「ML997 」,「Kabuto Lite」の製品番号は「ML991」であり,「Kodachi」の製品番号は「ML191」であるのに対して,インポーテック社においても製品番号「ML191」,「ML991」及び「ML997」のモジュールを製造,販売していることが認められる。被告は,インポーテック社が販売している製品には,被告のソフトウェアが搭載されているものの,モジュール基板はインポーテック社が開発したもので,インポーテック社が販売している製品と被告が開発した製品とは異なる製品である旨主張し,インポーテック社の上席副社長であるI作成の陳述書中にも,この主張に沿う記載があるけれども,インポーテック社が販売している製品と被告が開発した製品との型番が同一であること,被告が,インポーテック社にARIB規格のモジュール基板の製造を委託していることからすれば,インポーテック社が販売している製品の基板が被告からの技術情報の提供と無関係に製造されたものとは考え難い。
 そうすると,インポーテック社が販売している上記製品は,被告が開発した製品と同視することができ,上記製品は,本件製品に当たると解されるから,インポーテック社が上記製品を製造,販売することを被告が容認していたことは,本件製品の販売を第三者に代理させ又は委託することを禁止した本件合意書第2条(2)に違反するというべきである。
 そして,原告が被告に対して書面で是正を求めたにもかかわらず,被告がこれに応じなかったため,原告が本件訴訟を提起し,訴状の送達をもって本件契約を解除する旨の意思表示をしたことから,結局,本件契約自体が被告の債務不履行によって解除されたと認められる。

 以上のとおり,原告の主位的請求には理由がある。

戻る