平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(商法・民訴法1)

法務省が公表した出題趣旨のうち、今回は商法・民訴法について検討する(試験問題はこちら)。

第1段落

第1段落は、全体的にどのような事例でいかなる能力を問い、それをどのような作業をさせて試したかという点について述べたものである。

(出題趣旨から引用)

 本問は,会社財産の不適切な運用・管理により財産の流出を来した株式会社をめぐる事例に関し,様々な角度から,会社法上及び民事訴訟法上の問題点等についての基礎的な理解の有無を問う総合問題である。本問においては,比較的詳細に示された事実関係を分析して法的な論点を的確に抽出し,事案に即した有効な解決手段を選択するなど,これまでの学習を通じて培った法制度や法原則に関する理解を多角的に応用し,その結果を論理的に総合して分かりやすく表現する作業を行わせることにより,その理解の正確さを試すこととしている。

(引用終わり)

まず、本問のテーマが述べられている。
すなわち、「会社財産の不適切な運用・管理により財産の流出を来した株式会社」である。
問題文を読んでこのテーマを意識できれば、設問1の株式交換、及び設問2において、流出財産を取戻すという視点に気づき易い。

次に、全体として問われていることが述べられている。
「会社法上及び民事訴訟法上の問題点等についての基礎的な理解」である。

そして、本問によってその正確さをどのように試したかを述べている。
具体的には、以下のことを行わせることによって、である。

1:比較的詳細に示された事実関係の分析
2:法的な論点の的確な抽出
3:事案に即した有効な解決手段の選択

以上を「作業」と称している。
その要素は、以下の通りである。

●これまでの学習を通じて培った法制度や法原則に関する理解を多角的に応用すること
●その結果を論理的に総合して分かりやすく表現すること

以上からは、評価の仕方として以下のことが読み取れる。
まず、評価の対象自体は、基礎的な理解の正確さである。
それを試すために、応用をさせ、その結果を表現させる。
考査委員は応用とその結果の表現がいかになされているかを見て、そこから基礎的な理解が正確かを評価する。

そして、その応用と結果の表現とは、具体的には上記1から3ということになる。
上記の1と2は、答案技術的には、問題文から論点を抽出する作業である。
3は、論証・あてはめである。
これらを行うために必要な技能としては、以下のものがある。

まず、論点の知識である。
論点を知らないと、抽出のしようがない。
従って、基本書ベースで学ぶ場合には論点ごとに印をつけ、意識的に理解・記憶する。
論点ブロックカードの類を使う場合は、それをそのまま使って理解・記憶する。

次に、問題文からの論点抽出能力である。
問題文のどのような部分に着目して論点を拾ったらいいかの訓練である。
論点抽出だけに的を絞る場合、問題文を読み、論点を抽出するべき問題文のポイントに下線を引くという作業が有効である。
その際は、どれだけ短時間で必要な論点の数だけ下線を引けるか、という点を訓練する。
旧司法試験くらいの文量の問題であれば、できれば5分で下線だけは全て引ける、というレベルになりたい。
本試験の文量ならば、大問で10分、大大問なら20分というところか。
公法系とは異なり、民事系は拾った論点の数で点数が決まってしまいがちだ。
従って、この点は意識的に訓練しておくべきである。

最後に、論証・あてはめの能力である。
論証については、基本書や論点ブロック・論証集などの教材で理解・記憶する。
ただ、その際は文章として覚えるのはやめた方がよい。
そうではなくて、理由と結論とに分けて覚える。
そうすることによって、臨機応変に論証形式を変えることができる。
例えば、以下のようなバリエーションが可能である。

「思うに、(理由)である。よって、(結論)と解する。」
「私は、(結論)と考える。なぜなら、(理由)からである。」
「この点、(論点名)が問題となるが、(短い理由)から、(結論)と解する。」
「私は、(結論)と考える。理由は以下の通りである。(改行して) そもそも、(長めに理由)である。よって、(結論)となる」

一つの文章で覚えてしまうと、以上のような融通を付けにくくなる。
また、理由については、最初はキーワードだけを覚える。
例えば、「当事者の合理的意思」とか、「取引の安全の観点」などである。
最低限それだけ覚えれば、「(キーワード)から、(結論)と解する」という論証が可能となる。
例えば、「取引の安全の観点から、110条を類推適用すべきである」などである。
もちろん、全ての論点がその程度では、論述不十分と評価されてしまう。
従って、最低限をクリアした後は、ちゃんとした文章で理由付けができるように何度か論証を回して学習する。

あてはめについては、基本的には問題集などで実際に書いて訓練することになる。
その際のポイントは二つである。
一つは、規範をそのまま繰り返すことである。
例えば、「登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者が「第三者」である」という規範を立てたとする。
その場合、「(問題文の事情)から、甲は「第三者」にあたる」とするのはダメである。
「(問題文の事情)から、甲は登記の欠缺を主張しうる地位にあるから、「第三者」にあたる」も、良くない。
「(問題文の事情)から、甲は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者であるから、「第三者」にあたる」とすべきである。
頭で分かっていても、実際に答案を書いていると、何となく面倒臭くなって端折って書いてしまう人が多い。
特に本試験の現場では、精神的な疲労と焦りのために、答練以上に雑になる。
しかし、こういうところが雑だと、予想外に評価を下げる。
二つ目のポイントは、事実と規範の間にワンクッション評価を加えるということである。
例えば、「甲は賃借権を有するから、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者であり、「第三者」にあたる」はやや不十分である。
「甲は賃借権を有し、乙の所有権の対抗を受けなければ使用収益しうる地位にある。
よって、甲は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者であるから、「第三者」にあたる」の方がよい。
要は、事実がなぜその規範にあてはまるのか、という理由を付するということである。
もっとも、この点は、紙幅・時間との兼ね合いもある。
場合によっては、端折らざるを得ない場合はある。
上記の「第三者」などは前提論点である場合が多い。
そういう場合は、敢えて評価の部分を端折ってしまうことも、必要な場合がある。
そのあたりの匙加減は、答練等の演習で身に付けるしかない。

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