平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(商法・民訴法2)

法務省が公表した出題趣旨のうち、前回に続いて、商法・民訴法を検討する(試験問題はこちら)。

第2段落

第2段落は、設問1で書くべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 設問1は,取締役会の承認を受けずに締結された保証契約の効力と, 甲社及び乙社の間で行われた株式交換の問題点を指摘させるものである。まず,保証契約の効力については,甲社が丙銀行との間で締結した金銭消費貸借契約と, これを主たる債務として乙社が丙銀行との間で締結した保証契約は,いずれも, 「多額の借財」(会社法第362条第4項第2号)に当たるものとして,それぞれの会社の取締役会の承認を受けなければならないものと考えられるが,本件では,いずれについても,取締役会の承認を受けていないため,その効力が問題となる。この問題点の解決に当たっては,様々な理論構成を用いることが考えられるが,例えば,民法第93条ただし書を類推適用する判例の立場を採った場合には,取締役会の承認を受けていないことを知らなかったことについて丙銀行の側に過失がなかったかどうかという点につき,事例に即して丁寧に吟味することが求められる。また,上記保証契約は,Bが乙社を代表して締結したものであるとはいえ,Aが甲社を代表して丙銀行と締結した金銭消費貸借契約に基づく借入金債務を主たる債務としながら,Aが代表取締役を務める乙社に保証をさせるという内容のものであることから,その締結が利益相反取引の一つである間接取引(会社法第356条第1項第3号,第365条)に当たるのではないかという点も問題となる。本件では,この点についても取締役会の承認を受けていなかったことから,いわゆる相対的無効説によれば,丙銀行の側がその点について善意かつ無重過失であったかどうかを検討することが必要となる。ただし,本件においては,乙社の株主が上記取引にかかわっているA及びBの2人だけであることから,そもそも取締役会の承認を受ける必要はなかったのではないかという点も問題となる。次に,株式交換の問題点については,@知れている債権者に対する各別の催告(同法第799条第1項第3号及び第2項)が行われていない点,A債権者(丙銀行)の異議を受けた弁済等(同条第5項)が行われていない点,B株主に対して交付する株式交換の対価が不当である点,C株式交換を承認した株主総会の決議に特別の利害関係を有する者が参加していた点(同法第831条第1項第3号参照)などに問題が認められる。果たして,これらが株式交換無効の訴え(同法第828条第1項第11号)の無効原因となるかどうか,また,丙銀行に当該訴訟に関する原告適格(同条第2項第11号)があるかどうかといった点を検討する必要がある。仮に,株式交換を無効とすることができれば,株式交換の対価として不当に流出した会社財産を取り戻すことが可能となるという実益にも言及することが期待される。

(引用終わり)

まとめると、以下のようになる。

  論点 例示された見解 検討事項
保証契約の
効力
「多額の借財」 民法93但書類推 丙の過失(事例に即して丁寧に吟味)
利益相反取引(間接取引) 相対的無効説 ・丙の善意無重過失
・取締役会の承認の要否
株式交換の
問題点
・株式交換の無効原因
・丙の原告適格
・(流出財産取戻しの実益)
---- ・債権者への催告の不履践
・異議に対応した弁済等の不履践
・不当な対価
・総会決議への特別利害関係人の参加

まず、保証契約の効力について。
論点自体は、比較的容易に気づくはずである。
迷うのは、丙の過失等のあてはめの重複である。
本問では、丙銀行の担当者Fの主観を基礎付ける事実が詳細に挙がっている。
多額の借財についても、利益相反取引についても、あてはめで使えそうなものが多い。
かといって、これを両方で書いてしまうと、紙幅をロスすることになる。
出題の趣旨では、多額の借財について、「事例に即して丁寧に吟味することが求められる」とする。
従って、多額の借財の方でこれらの事情を使って欲しかったようだ。
他方、利益相反取引の方は、単に「検討することが必要」としか書いていない。
そもそも取締役会の承認がいるのか、という方に力点を置いて欲しかったのかもしれない。
テクニックとしては、二つ考えられそうだ。
一つは、先に論述した方で詳細に検討し、後の方については「前述の通り」としてしまう方法。
もう一つは、利益相反の方は取締役会を不要であるとし、丙の過失を問題にしない方法である。
この方法だと、重複が生じないので、多額の借財の方で詳細に検討すれば足りる。

なお、利益相反について取締役会の承認が要らないのであれば、同じ理由で多額の借財も取締役会の承認を要しないのではないかとも思える。
出題趣旨はそのような考え方を例示していない。
おそらく、甲社が上場会社であるため、少なくとも甲社については取締役会の承認を要する、という立場だろう。
そう考えると、乙社の方について取締役会承認の要否を論ずる実益はあまりない。
甲社の主債務が不発生ならば、乙社の保証債務も不存在となる(附従性)から、それは妥当に思える。
しかし、本問では、事実16において、「甲社の資金繰りは悪化し,同年5月上旬からは,丙銀行に対する利払いが継続して滞る事態に陥った。」とある。
すなわち、甲社はそれまで利払いを行っていたわけであり、主債務の発生は争われていない。
従って、本問では乙社の保証債務の有効性を問題にすべきである。
そうすると、乙社については利益相反と同様に考えてよいと考えられる。
この点は、細かいが、気になるところである。

次に、株式交換の問題点について。
こちらについては、事前に用意できる論点ではなかった。
従って、論点を正確に摘示して論証するのは、困難だったと思われる。

まず、気をつけたいのは、株式交換における債権者保護手続の要否である。

受験上は、以下のように考えておけば足りる。
すなわち、株式交換においては、原則として債権者保護手続は不要である。
なぜなら、株主構成が変動するのみであり、会社財産の流出が生じないからである。
もっとも、対価が金銭その他の財産(金銭等)の場合は、債権者保護手続を要する。
この場合は会社財産の流出が生じるからである。

そうすると、本問では対価が金銭である(問題文事実13)から、債権者保護手続を要する。
同時に、このことから丙銀行としてはこれを無効とすることで責任財産の保全が図れるという実益があることになる。

厳密に会社法の文言から理解しようとすると、以下のようになる。

会社法では、株式交換完全子会社(本問の甲社)と、株式交換完全親会社(本問の乙社)とで分けて手続が規定してある(782条以下、794条以下)。
本問で、丙銀行は乙社の債権者であるから、株式交換完全親会社の債権者保護手続が問題となる。
株式交換完全親会社については、債権者保護手続が必要な場合を799条1項3号が規定している。

会社法799条1項
 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、存続株式会社等に対し、吸収合併等について異議を述べることができる。
一  略
二  略
三  株式交換をする場合において、株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合又は第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合 株式交換完全親株式会社の債権者

同号は、債権者保護手続を必要とする場合について、以下の二つの場合を規定する。

●株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合
●第七百六十八条第一項第四号ハに規定する場合

後者は、新株予約権付社債に付された新株予約権を株式交換完全子会社の新株予約権者に交付する場合である。

会社法768条
 株式会社が株式交換をする場合において、株式交換完全親会社が株式会社であるときは、株式交換契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
1号から3号略
四  株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる当該株式交換完全親株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権についての次に掲げる事項
イ及びロ 略
ハ 株式交換契約新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権であるときは、株式交換完全親株式会社が当該新株予約権付社債についての社債に係る債務を承継する旨並びにその承継に係る社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
5号以下略

従って、本問ではこれに当たらない。

そこで、前者の方が問題になる。
株式交換においては、株式交換完全子会社の全株主から株式交換完全子会社の株式を取り上げて、株式交換完全親会社に取得させる。
これによって、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の株式を全て取得し、文字通り「完全親会社」になるわけである。
「株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等」とは、その際に株主に交付する株式の対価のことである。
なお、ここでいう「金銭等」とは、金銭その他の財産をいう(151条柱書き)。

会社法151条 
 株式会社が次に掲げる行為をした場合には、株式を目的とする質権は、当該行為によって当該株式の株主が受けることのできる金銭等(金銭その他の財産をいう。以下同じ。)について存在する。
各号略

すなわち、株式の対価が、「株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外」であった場合は、債権者保護手続を要する。
従って、株式の対価が株式交換完全親株式会社の株式のみであった場合は、前者の債権者保護手続を要する場合に当たらない。
では、「その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもの」とは何か。
ここにいう「法務省令で定めるもの」については、会社法施行規則198条が規定する。

会社法施行規則198条
  法第七百九十九条第一項第三号に規定する法務省令で定めるものは、第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を減じて得た額が第三号に掲げる額よりも小さい場合における法第七百六十八条第一項第二号及び第三号の定めに従い交付する株式交換完全親株式会社の株式以外の金銭等とする。
一  株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等の合計額
二  前号に規定する金銭等のうち株式交換完全親株式会社の株式の価額の合計額
三  第一号に規定する金銭等の合計額に二十分の一を乗じて得た額

ここで、今度は会社法768条を参照する必要がある。

会社法768条
 株式会社が株式交換をする場合において、株式交換完全親会社が株式会社であるときは、株式交換契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
一  略
二  株式交換完全親株式会社が株式交換に際して株式交換完全子会社の株主に対してその株式に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等についての次に掲げる事項
イ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の株式であるときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法並びに当該株式交換完全親株式会社の資本金及び準備金の額に関する事項
ロ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ハ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)であるときは、当該新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ニ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の新株予約権付社債であるときは、当該新株予約権付社債についてのロに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのハに規定する事項
ホ 当該金銭等が株式交換完全親株式会社の株式等以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
三  前号に規定する場合には、株式交換完全子会社の株主(株式交換完全親株式会社を除く。)に対する同号の金銭等の割当てに関する事項
4号以下略
2項以下略

この規定は要するに、対価として何をどの程度交付するかを特定する趣旨である。
そうすると、施行規則198条の後半部分、すなわち、「法第七百六十八条第一項第二号及び第三号の定めに従い交付する株式交換完全親株式会社の株式以外の金銭等」という部分は、対価として交付するものとされた株式交換完全親会社の株式以外の金銭等という程度の意味になる。
株式交換完全親会社の株式を除いているのは、前述のように会社法799条1項3号の方に規定があるからである。
そうすると、重要なのは、施行規則198条の前半部分ということになる。
すなわち、「第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を減じて得た額が第三号に掲げる額よりも小さい場合」。
これに、各号を代入して算式にすると、

(株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等の合計額)−(前号に規定する金銭等のうち株式交換完全親株式会社の株式の価額の合計額)<(第一号に規定する金銭等の合計額に二十分の一を乗じて得た額)

ということになる。
これをやや砕いて表現すると、

(対価全体の合計額)−(対価のうち株式交換完全親会社株式の価額合計)<(対価全体の合計額の5%)

これを変形すると、

(対価全体の95%)<(対価のうち株式交換完全親会社株式の価額合計)

要するに、対価全体に占める株式交換完全親会社株式の価額が、95%を超えていれば、施行規則198条の前半部分に該当するということである。
そうすると、法799条1項3号のいう「株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもの」の中身が確定する。
すなわち、株式交換完全親株式会社の株式そのもの、及び、対価全体の95%超を株式交換完全親株式会社の株式が占めている場合の残り5%以下の株式交換完全親会社の株式以外の金銭等を指す。

そうすると、法799条1項3号のいう「株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合」とは、対価の全部が株式交換完全親株式会社の株式であるか、又は対価全体の95%超を株式交換完全親株式会社の株式が占めている場合である。
従って、「株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等が株式交換完全親株式会社の株式その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもののみである場合以外の場合」とは、対価が全部株式交換完全親株式会社の株式でなく、かつ、対価全体の95%超を株式交換完全親株式会社の株式が占めている場合ではない場合である。

さて、本問の株式交換は、対価が全て金銭である(問題文の事実13)。
よって、債権者保護手続を要する、ということになる。

問題文を見ても、明らかに債権者保護手続の履践が問題になりそうだ、ということはわかるはずである。
従って、この点は比較的多くの人が気づけたのではないか。
あとは、条文を参照して、799条2項の催告と、5項の弁済等が行われていないこと(問題文事実14)を確認する。
そうすると、債権者保護手続不履践が株式交換の無効事由となるか、という論点に到達することができる。
あとは、適当な理由付けを考えて結論を出すということになる。
なお、769条6項に気付いた場合、これを摘示すれば足りるとも思える。
ただ、考査委員の側は実質的理由を期待しているはずである。
従って、解釈論を展開して結論を出した方がよいと思う。

また、株式交換の対価の不当性については、これ自体を論点として準備していた人は少ないはずである。
しかし、類似の論点である合併比率の不公正は、平成14年度の旧司法試験でも出題されおり、事前準備できる論点である。
従って、その論証を参考にして論述できればよかった。

他方、出題の趣旨は利害関係人の株主総会への参加を挙げる。
しかし、この点について触れられた人はほとんどいなかったのではないか。
なぜなら、問題文にそれを覗わせる記述がないからである。
本問の株式交換の承認については問題文事実15で触れられているが、たった2行だけである。

(問題文より引用)

15. 平成20年1月17日,甲社及び乙社の双方において,臨時株主総会が実施され,株式交換契約の承認決議が成立し,その後,株式交換の効力発生日が経過した。

(引用終わり)

この問題文だけから、利害関係人の参加が論点として訊かれていると判断するのは難しい。
仮にこれに気付いたとしても、本問では決議のあった1月17日から、既に決議取消しの訴の提訴期間の3ヶ月(831条1項)を徒過している。

(問題文から引用、下線は筆者)

16. ・・・同年5月上旬からは,丙銀行に対する利払いが継続して滞る事態に陥った。他方で,乙社は,甲社より財産の移転を受けたものの,株式交換の対価として巨額の現金を流出させたことによる財務状態の悪化は解消しなかった。
17. そこで,丙銀行は,前記9の30億円の融資について,甲社に支払を求める訴えを提起したいと考えたが,同社の弁済能力には不安があったので,併せて,乙社に対して前記9の保証債務の履行を求めることができるかどうか,さらに,甲社と乙社の間で行われた株式交換に法的な問題がないかどうかを,山野弁護士に相談した

(引用終わり)

従って、決議取消しの訴えは無理である。
あり得るのは、株式交換無効の訴えで決議取消事由を主張して争うことである。
この点、合併承認決議取消事由については、合併の効力発生後は合併無効の訴のみで争うべきとされている(千葉地判平14・4・12等)。

千葉地判平14・4・12
 「合併登記が経由されて合併の効力が生じた場合には,合併無効の訴えによってのみその効力を争うことができるというべきであり,したがって,合併にかかる決議の取消訴訟の係属中に合併の効力が生じた場合には,訴えの利益を欠くものと解するのが相当である」

株式交換無効の訴えについても、これと同様に考えることは可能だろう。
そうすると、株式交換承認決議取消事由は、株式交換の効力発生後は株式交換無効の訴えによってのみ争いうるということになる。
もっとも、そう解したとしても、期間を経過した決議取消事由は、もはや争うことはできないと解される(最判昭51・12・24参照)。

最判昭51・12・24
 「株主総会決議取消しの訴えを提起した後、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、取消しを求められた決議は、たとえ瑕疵があるとしても、取り消されるまでは一応有効のものとして取り扱われ、会社の業務は右決議を基礎に執行されるのであつて、その意味で、右規定は、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるためその取消しの訴えを提起することができる期間を決議の日から三カ月と制限するものであり、また、新たな取消事由の追加主張を時機に遅れない限り無制限に許すとすれば、会社は当該決議が取り消されるのか否かについて予測を立てることが困難となり、決議の執行が不安定になるといわざるを得ないのであつて、そのため、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるという右規定の趣旨は没却されてしまうことを考えると、右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである」

そうすると、結局、この点を争うのは無理である。
従って、論ずる実益は少ない。
論点自体がマイナーであり、しかも、論ずるとすると相当の紙幅を要し、にもかかわらず実益が少ないという以上、書かないのが無難である。
考査委員がこの点につきどの程度の論述を期待したのかという点について、ヒアリングで言及があれば注目したい。

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