平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(商法・民訴法3)

法務省が公表した出題趣旨のうち、前回に続いて商法・民訴法を検討する(試験問題はこちら)。

第3段落

第3段落は、設問2で書くべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 設問2では,第1に,甲社と乙社との間で行われた不自然な取引が利益相反取引の一つである直接取引(会社法第356条第1項第2号,第365条)に当たるにもかかわらず,取締役会の承認を受けていないことから,それらの一連の取引を無効とすることによって,甲社の責任財産を回復できないかが問題となる。ただし,この点については,一人会社(甲社)の株主自身(乙社)が直接取引の相手方になっている場合には,実質的な利益相反関係が認められないことから,取締役会の承認は要しないとするのが判例の立場である。この考え方で債権者(丁社)の保護を図ることができるのかという点について,悩みを見いだすことができるかどうかが肝要である。第2に,乙社に対する責任追及の可能性が問題となる。この点については,@法人格否認の法理によりその責任を追及する見解,A事実上の取締役として対第三者責任(同法第429条第1項)を追及する見解,B株主の権利の行使に関する利益供与(同法第120条)としてその責任を追及する見解,C隠れた剰余金の配当として分配可能額を超える部分についての返還(同法第462条)を求める見解など,様々な法的構成を用いることが考えられる。第3に,甲社の取締役について,対第三者責任(同法第429条第1項)を追及することが考えられる。その際には,各取締役が本件にどのようにかかわったのかを具体的に吟味しながら,その責任の有無を丁寧に分析することが必要である。

(引用終わり)

まとめると、以下のようになる。

問題点 検討事項
利益相反取引
(直接取引)
・取締役会の承認の要否
・不要説からの丁社の保護
乙社に対する
責任追及
・法人格否認の法理
・事実上の取締役の理論
・利益供与
・隠れた剰余金配当
甲社取締役の
対第三者責任
各取締役につき丁寧な分析

利益相反取引について

問題文から、利益相反取引が行われていることは明らかだった。
しかし、どの点を問題にすればよかったのかはわかりにくかった。
出題の趣旨としては、一人会社における承認の要否を訊いていた。
利益相反取引直前の株式交換によって、甲社は乙社の完全子会社になっている。
従って、確かに甲社は一人会社である。
ただ、これは現場で気づけた人は少なかったのではないか。
また、出題趣旨は、不要説の立場から丁社の保護の余地を検討させたかったようだ。
しかし、これについて気づくのはさらに難しい。
利益相反取引に触れられれば、それで十分合格レベルに達したのではないかと思われる。

乙社に対する責任追及について

利益供与や隠れた剰余金配当については、予備知識が無ければ現場で気づくのは困難だったと思われる。
しかし、平成13年度の商法第1問で同様のことが訊かれていた。
事前に旧司法試験過去問の検討をやっていた人は、気付き易かったはずである。

(平成13年度旧司法試験商法第1問)

 親会社であるP株式会社は,親会社としての影響力を背景に,子会社であるQ株式会社から不当に低い価格で製品を買い入れ,Q社に損害を与えた。Q社の少数派株主Aには,商法上どのような保護が与えられるか。この取引が商法第265条第1項の取引となる場合はどうか。

保護の対象が株主であるか、会社債権者であるかが異なるだけである。
会社法は大きな改正があった。
そのため、あまり過去問を解いても意味が無いようにも思える。
しかし、新司法試験の問題も、旧司法試験の焼き直し的な要素がかなりある。
従って、旧司法試験の過去問の検討は欠かせない。
教材としては、新会社法100問 【第2版】が最適だろう。
会社法立案担当者による解答例であるから、信頼性は高い。
もっとも、解答例がやや詳細に過ぎ、これを実際の答案に書くというのは無理だという短所はある。
勉強法としては、以下のような方法があると思う。

1:単に問題と解答例を、条文を参照しつつ読む。
2:問題を見て条文等を参照しつつ答案構成をする。
3:解答例を要約して実際の答案に書ける文量に書き直す作業をする。
4:問題文を見て実際に答案を書いてみる。

時間のかからない順に列挙している。
3や4は、全問題についてやろうとすると、1年以上かかると思う。
自分が1週間に何問程度こなせるか。
仮に2問程度だとすると、1ヶ月を4週間と考えた場合、1年間(12ヶ月)では、

12×4×2=96問

ということになる。
実際には、色々な事情で全然こなせない週もある。
会社法だけに時間を使うわけにもいかない。
そういったことを事前に推計して、無理だと思ったらより簡単なやり方にすべきである。

また、事実上の取締役の理論については、触れられなくてもほとんど問題なかったのではないかと思う。
この部分は、商法担当考査委員の竹濱修教授の関心に基づくものと思われる(平成20年度新司法試験考査委員名簿)。

竹濱修教授の研究者プロフィールより引用)

■研究テーマ

■新保険法の研究 (キーワード:)
概要:2008年に改正が予定されている新保険法の解釈適用についての研究
■保険者免責の研究 (キーワード:)
概要:保険者免責の研究は、保険事故招致免責の人的適用範囲およびその免責要件としての保険契約者側の主観的事由の問題を中心に比較法的検討を加えながら、日本法の解釈的結論を導き出すことである。
■事実上の取締役の研究 (キーワード:)
概要:事実上の取締役の研究は、これもまた、取締役の責任に関する規制が及ぶ人的範囲に関する研究であり、実質的に取締役として経営に参画している者に対して、どの範囲で取締役としての規制が及ぶべきものかを検討するものである。

(引用終わり)

事実上の取締役の理論とは、形式的に取締役でない者について、取締役としての責任(423条、429条)を負わせる理論である。
有名論点である退任登記未了の退任取締役の責任も、広い意味の事実上の取締役の問題である。
なお、名目取締役は、形式的に取締役であるが事実上取締役の業務を行っていない者の免責の問題である。
従って、事実上の取締役の裏面に当たる論点である。

裁判例(東京地裁昭55・11・26、判時1011−113等)では、事実上の取締役といえるためには、

(1)取締役の外観(対外的に取締役として振舞っていること)
(2)会社の業務の運営・執行について取締役に匹敵する重大な権限を有すること
(3)継続的に上記権限を行使して会社の業務執行に従事していること

が必要とされているようである。
近年の裁判例((2)の要件を否定した例)としては、京都地判平18・9・29がある。

京都地判平18・9・29
 「原告は,被告Cが被告会社の事実上の取締役であったと主張するが,被告Cは,平成12年2月21日に取締役を辞任しており,それ以前からT株式会社での勤務で忙しく,被告Bが被告会社を主に運営するようになっていたと認められるのであり,被告Cが被告会社の業務の運営ないし執行について取締役に匹敵する権限を有し,これに準ずる活動をしていたと認めることはできないから,被告Cが事実上の取締役として商法266条の3第1項の責任を負うものであったということはできない」

本問において、そもそも乙社は法人であって取締役たりえない(331条1項1号)。
従って、(1)取締役の外観の要件を欠いている。
また、(3)についても、法人たる乙社が甲社の業務執行に従事していた、というには違和感がある。
このように、上記要件は自然人への適用を前提としていると考えられる。
従って、法人たる乙社について、事実上の取締役の理論を適用するのは難しい。
裁判例においても、法人について事実上の取締役を肯定したものはないと思われる。
もし、仮にこれを展開するとしたら、同理論の法人への適用の可否という更なる問題をもクリアする必要がある。

事実上の取締役の理論は、それ自体ややマイナーな論点である。
しかも、本問では乙社の責任を肯定するのは難しそうである。
そうである以上、仮に気づいても大展開しないのが無難である。
これをしっかりと書いた受験生はほとんどいないはずで、この点は合否に影響はないだろう。

なお、乙社の取締役を甲社の事実上の取締役と構成する余地はある。
しかし、乙社の取締役はABCである。
ABは甲社の取締役を兼任しているから、事実上の取締役の理論は必要ない。
そして、Cについては、甲社の業務に従事したという事情はない。
従って、やはり事実上の取締役の理論を論ずる意味は少ない。

甲社取締役の責任について

各取締役(ABD)について丁寧な分析が要求されていたことは、詳細な問題文から読み取れる。
やや意外だったのが、「取締役の対第三者責任の法的性質」について言及されていないことである。
この点につき、間接損害を含むか、故意過失の対象といった、どの基本書にも触れられている基本論点がある。
これをどの程度展開する必要があったのか。
ほとんど触れずに、あてはめに割いた方が良かったのか。
このあたりは、ややはっきりしない。
ただ、現場では書いた受験生が圧倒的に多かったはずである。
従って、書いた方が無難だったということは言える。

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