平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(商法・民訴法4)

前回に続いて、出題趣旨のうち、商法・民訴法を検討する(試験問題はこちら)。

第4段落

設問3において論ずべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 設問3は,取締役解任の訴えが,被告側の固有必要的共同訴訟であることを理解した上で,原告の立場から,主観的追加的併合(原告による被告の追加)が許容されるべきことの主張を具体的な事案に即して行わせるものである。周知のとおり,主観的追加的併合が理論的に許容されるか否かは,民事訴訟法の著名な論点の一つであるが,そこで論じられていることを踏まえつつも,より実務的な観点から,少なくとも本件の具体的な事例の下においては主観的追加的併合が許容されるべきことを示すことが必要になる。具体的には,取締役解任の訴えが被告側の固有必要的共同訴訟であって,訴訟共同と合一確定が要請される場面であることを考慮すべきであることはもとより,取締役解任の訴えにおいては,出訴期間が法定されており,本件においては,改めて再訴を提起する方法によっては期間徒過により対応できないということ,そして被告追加の申立てがされたのが,訴訟の極めて初期段階にあること,といった本件固有の事情を的確に抽出し,それを最高裁判決摘示の理由に対する反論の形で展開していくことが求められる。

(引用終わり)

まとめると、以下のようになる。

基礎となる理解 抽出すべき事情 論述の形式
・取締役解任の訴えが被告側の固有必要的共同訴訟であること
・主観的追加的併合の理論的許容性についての一般論
・少なくとも本件の具体的事情の下においては許容されるべきこと
・合一確定が要請される場面であること
・出訴期間により再訴不能であること
・訴訟の極めて初期段階にあること
最高裁判決摘示の理由に対する反論の形

解任の訴えが固有必要的共同訴訟であることについては、問題文が855条まで明示してくれている。
また、判例(最判平10・3・27)もある。
従って、これに気づかなかった、という人はあまりいないはずである。

主観的追加的併合の一般論についても、判例がそのまま挙がっているから、忘れていたとしてもそれほど問題が無い。
あとは、判例の理由付けが本問に妥当しないことを淡々と列挙すれば、合格レベルに達しただろう。

差が付くのは、判例の挙げる複数の理由付けに対して、的確な反論をしているかという点である。
判例の理由付けを分割して、整理する必要がある。
旧司法試験ではかつて、見解論評型という出題形式があった。
その際のテクニックとして、見解を分割して、個別に評価するというものがある。
本問でも、それは有効だった。
引用された判例の理由付けは以下の通りである。

(問題文より引用)

 けだし,かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく,これを認めた場合でも,新訴につき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があり,必ずしも訴訟経済に適うものでもなく,かえつて訴訟を複雑化させるという弊害も予想され,また,軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり,新訴の提起の時期いかんによつては訴訟の遅延を招きやすいことなどを勘案すれば,所論のいう追加的併合を認めるのは相当ではないからである。

(引用終わり)

これを箇条書き的に分割すると、以下の4項目になる。

1:新訴につき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があること
2:必ずしも訴訟経済に適うものでもなく,かえつて訴訟を複雑化させるという弊害が予想されること
3:軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれがあること
4:新訴の提起の時期いかんによつては訴訟の遅延を招きやすいこと

このように分割した上で、個々の項目について反論するという形をとると、的確な論述になる。

なお、主観的追加的併合については、肯定説から判例に対する一般的な批判がある。
しかし、出題趣旨はそのようなことは要求していない。
従って、論点ブロックの類による「この点判例は〜しかし〜から妥当でない」をそのまま吐き出すと、いい評価にはならないだろう。
一般論ではなく、本問の特殊事情を考慮して反論して欲しいというのが本問の要求である。
出題の趣旨が「少なくとも本件の具体的事情の下においては」としているのは、その意味である。

第5段落

第5段落は、設問4において検討すべき事項の列挙である。

(出題趣旨から引用)

 設問4は,文書提出命令に違反した場合の効果について,一般的な考え方を整理した上で,その具体的適用を考えさせる問題である。一般に,民事訴訟法第224条については,概説書においても取り上げられており,条文自体の存在についてはその重要性も含めて理解されているが,その具体的な適用(特に効果)については,さほど言及されていない。受験生が,これまでの学習を通じて培ってきた基本的理解(例えば,当事者主義の下での立証の困難の克服手段,真実に合致した裁判の要請,訴訟上の協力義務,当事者の手続保障等)を活用して,その場で考え,解決に導く応用能力を試すべく出題したものである(出題に当たって,詳細な誘導を施したのはそのためである。)。小問(1)では,裁判所が,必要性及び要件充足を認めて発出した文書提出命令に当事者が従わない場合に,民事訴訟においてどのような「不都合」が生じるのかを考えながら,その解決手段としての民事訴訟法第224条第3項の効果を論じるものであるが,その際には,問題文で指摘した各説の長所短所を,同項が定める要件(特に,同条第1項の要件との違い)や同条第3項の効果に関する「真実と認めることができる。」という規定の文言に留意しながら,多角的に検討することが求められる。小問(2)では,小問(1)での自説を前提に,文書提出命令の申立てに「証明すべき事実」を記載すべきものとされていることの意義や,本件において申立書に証明すべき事実として実際に記載されている各事項が,本件訴訟における立証命題との関係でどのように位置付けられるか(主要事実又は間接事実のいずれであるのか,法的評価であるのか等)を考えながら,検討することが求められる。また,小問(3)は,固有必要的共同訴訟という合一確定が要請される場面における民事訴訟法第224条第3項の効果を考えさせるものである。心証説以外の立場からは特に共同被告のうちの一人による文書の不提出という態度の訴訟法上の位置付け(民事訴訟法第40条第1項との関係)を,心証説の立場からは特に証拠共通の原則との関係を,両被告の実質的関係を考慮し,また,他方被告への手続保障にも配慮しながら,論じることが求められよう。

(引用終わり)

第1文は、この問題の本質部分である。
一般論を考えさせ、そこから演繹するとどのような適用になるかということ。
これは法解釈の基本である。
本問の主題はそこにあった。
これを問うにあたり、基本書等に記述のある部分を出題してしまうと、知識で答えられてしまう。
そこで、あまり基本書等で言及されていない部分を出題した。
第2文、第3文では、そのようなことが書かれている。
本問のような細かい部分まで知識として問うたわけではない。
そういうことを言いたいのだろう。
従って、本問は完全に応用、現場思考問題である。
とはいえ、出題趣旨が述べる通り、それは基本的理解を前提にしている。

小問(1)は、当事者が文書提出命令に従わないときの民事訴訟法第224条第3項の効果について問うものである。
出題趣旨は以下のことに留意すべきとしている。

●224条3項が定める要件(特に同条1項の要件との違い)
●「真実と認めることができる。」という規定の文言

上記に留意しながら、各説(転換説、軽減説、擬制説、心証説)の長所短所を多角的に検討せよという。
しかし、これでは「条文を読め」としか言っていないに等しい。
具体的にどのように考えるべきだったのか不明である。
おそらく、特定の筋を答えとして想定するものではないのだろう。
どの説も一応学説として存在する以上、文言から直ちに排斥されるということはないはずである。
従って、それなりに筋が通っていれば、ある程度自由に書いても評価されたということだろう。
ただ、その際、上記文言に着目しているか、という点は、一つの尺度となったものと思われる。
着眼点としては、3項が主張立証の困難性を要件としていること。
すなわち、主張立証の困難という不都合性の解消を趣旨としていること。
それから、「できる」とするのみで「みなす」とはなっていないこと。
すなわち、当然に擬制する趣旨とは読みにくいこと、などが挙げられるだろう。

小問(2)は、「真実と認めることができる」Kの主張とは何かを問うものである。
出題趣旨は考慮事項として以下のものを挙げている。

1:文書提出命令の申立てに「証明すべき事実」を記載すべきものとされていることの意義
2:本件訴訟における立証命題との関係での位置付け(主要事実又は間接事実のいずれであるのか,法的評価であるのか等)

上記を、小問(1)の自説を前提にして考えよという。
しかし、その内実についての記載は無い。
やはり、特定の正解を想定していないのだろう。
上記の事項に触れた上で自説から結論を導いていれば、合格点がもらえたものと思われる。
ただ、1については、224条とは別の条文(221条1項4号)に着目しなければならない。
そのため、気づくのはちょっと難しかったかもしれない。

最もあり得る考え方としては、以下のようなものが考えられる。

1について、証明対象を明らかにする趣旨と考える。
そうすると、証明対象=証明責任を負っている事実=主要事実と考えられる。
従って、2について、本問のアイウの事実のいずれが主要事実かが問題となる。
ウは、形式的には主要事実となりそうである(会社法854条1項柱書)。
しかし、これは抽象的に過ぎるので法的評価と解すべきである。
従って、ウを基礎付ける具体的事実が主要事実である。
そうすると、イが主要事実である。
よって、イを「真実と認めることができる」。

ただ、このように考えると、小問(1)でどの説をとっても結論が変わらないということになってしまう。
考査委員はこの辺りをどのように考えていたのか。
各説について、ある程度想定される思考の分岐点を想定していたのか。
それとも、受験生に丸投げしていたのか。
その辺りがヒアリングの方で読み取れるか、注目したい。

小問(3)の論点は、「固有必要的共同訴訟という合一確定が要請される場面における民事訴訟法第224条第3項の効果」である。
この点については、出題趣旨が説による違いを示している。
心証説以外と心証説とに分けている。
心証説以外の説からは、特に40条1項との関係。
心証説からは、特に証拠共通との関係。
心証説からは、証明妨害の事実を一種の証拠として考える以上、証拠共通を問題にするのが素直である。
他方、心証説以外は、妨害行為の法的効果として捉える。
従って、それを訴訟行為に準ずるものと考えれば、40条1項が問題になる。
その辺りの論理性が示せると、高い評価になったものと思われる。
もっとも、「特に」とあるから、それだけが問題になるわけではない。
従って、心証説以外から事実認定の矛盾防止を重視して証拠共通を問題にしても、それなりの評価はされたと思われる。
また、心証説から合一確定の要請を重視して40条1項の関係を論じても、それなりに評価されたはずである。
いずれにせよ、いかに自説とリンクさせながら論理的に結論を導いたか。
その点が、評価の対象となっていたと思われる。
その際には、「両被告の実質的関係」及び「他方被告への手続保障」を考慮していると、評価は高くなったと考えられる。
前者については、会社とその取締役の関係であり、利害の共通性があることを指摘すべきだろう。
後者については、擬制説以外からは、B独自の反証が可能であることを指摘することになる。

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