平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(刑法1)

法務省の公表した出題趣旨のうち、今回は刑法を検討する(試験問題はこちら)。

第1段落

第1段落は、総論的にどのような能力を試すものであったかを述べている。

(出題趣旨から引用)

 本問は,具体的事例に基づいて甲乙の罪責を問うことによって,刑事実体法の理解,具体的事実に法規範を適用する能力,論理的思考力を試すものである。

(引用終わり)

一般論の理解とあてはめ、論理性ということである。
これは、他の科目でも繰り返し述べられていることである。
具体的にそれがどのように問われていたか。
第2段落以降でそれが述べられている。

第2段落

第2段落は、甲乙の共犯関係についての記述である。

(出題趣旨から引用)

 まず,甲乙の共犯関係については,甲が乙に一緒にA方に盗みに入ろうと誘ったのに対し,乙が「俺はそんな危ないことはしたくない。」と言った上,実際に乙は自らはA方に盗みに入らなかったことに着目し,共謀共同正犯の成立要件ないし共同正犯と幇助犯の区別の判断基準等を念頭に置いて,本問の具体的事実関係の中から評価に値する事実を抽出し,要件に当てはめることが求められる。その際,事実を事例中からただ書き写して羅列するのではなく,犯行に至る経緯,乙が甲に提供した情報の具体的内容,犯行当日の甲乙の行動及び甲乙間の金銭の分配状況等について,これらの事実が持つ意味を的確に評価し,上記要件ないし判断基準に当てはめて結論に至る思考過程を論述する必要がある。また,その際には,(共謀)共同正犯の成否のみの論述にとどまらず,甲乙間の共謀ないし共同実行の意思の内容にも留意し,甲乙が想定していた金品奪取の態様や奪取対象となる金品の範囲を明確に意識しておく必要がある。

(引用終わり)

出題趣旨は、甲・乙それぞれの罪責に触れる前に、共犯関係について言及している。
後述する第3、第4段落では、甲及び乙の個別の罪責について述べられている。
その書き出しは、いずれも「甲乙の共犯関係を前提として〜」となっている。
本問では、甲乙の共犯関係によって、何をどう検討すべきかが変わる。
その共犯関係と個別の論点との関係を問うことで、論理的思考力を試したといえる。
従って、甲乙の共犯関係を先に確定し、それを踏まえて個別の罪責を検討する。
このような構成の方が、出題趣旨に沿う形であったといえる。

論文試験の刑法においては、ほとんどの場合、共犯関係が出題されている。
その場合、各行為者個別の罪責のところで共犯関係を論じるべきか。
それとも、別途冒頭で総論を設けてそこで共犯関係を論じるべきか。
必ずしもどちらが良いとは言い切れない。
最近の問題集や答練の参考答案・解答例は、冒頭に総論を置くのを嫌う。
その理由は、コンパクトに書きにくくなるからである。
総論は、書き方によっては唐突に見えたり、冗長になりがちになる。
また、各論部分とで記述の重複が生じやすい。
そこで、端的に各行為者(甲・乙など)の罪責を検討する。
その中で必要であれば、共犯関係を書く。
このようなスタンスが多数派である。
ただ、本問のように、先に共犯関係を確定しておいた方が書きやすい場合もある。
その場合は、総論で共犯関係を書いた方が良い。
問題は、その見分け方である。
抽象的には、両方の構成を想定し、比較するという方法がある。
どちらの構成が重複が少ないか。
また、論理的に構成しやすいのはどちらか。
すなわち、個別の行為を検討すると共犯関係がはっきりする事例なのか。
それとも、共犯関係を確定すると、個別の行為の意味がはっきりする事例なのか。
そのあたりを考慮して決めることになる。
しかし、それを具体的にうまく判断するのは難しい。
答練や問題演習を繰り返し行って体得するしかない。
慣れないうちは、多数派に従った方がよいかもしれない。
総論は設けず、各行為者の検討の中で書くと決めてしまう。
そうすれば、現場で迷って時間をロスするリスクは避けることができる。

出題趣旨の挙げる共犯関係についての論点は一つ。
共謀共同正犯の成立要件と共同正犯と幇助犯の区別である。

共謀共同正犯論や幇助との区別については、実行行為や正犯概念との関係で学説が錯綜している。
このあたりを説得的に論述しようとすると、それなりに紙幅を要する。
しかし、この一般論について、出題趣旨は単に「念頭に置いて」としか書いていない。
もし、考査委員がこの点を重視していれば、何らかの視点等を提示してくるはずである。
例えば、「正犯概念についての学説の状況を踏まえた上で、説得的な論述が期待される」などである。
しかし、そのような記述は無い。
従って、一般的な論証は短く、コンパクトなものでよかったと思われる。
逆に、この点があまりに長いと、あてはめに使うべき時間・紙幅を失ってしまう。
あてはめについては、出題趣旨は具体的に様々な指摘をしている。
従って、あてはめを落とすと、点数を大きく落とすことになる。
出題趣旨は、第1段落において、「刑事実体法の理解」を問うとしている。
しかし、これは一般論を長々と説明することを求めているわけではない。
むしろ、具体的事案に適用する過程で、その理解が現れる。
従って、あてはめの段階で理解がなされているかを確認する、という感覚なのだろう。
その意味で、「論証はコンパクト、あてはめ重視」と考えてよい。

あてはめをする際に注意すべきこととして、以下の点が挙がっている。

●事実を事例中からただ書き写して羅列するのではない。
●事実が持つ意味を的確に評価する。
●要件ないし判断基準に当てはめて結論に至る思考過程を論述する。

言っていることは共通している。
要するに、あてはめる際に、理由を付せということである。
ここでいう「事実が持つ意味の評価」とは、当該事実が要件・判断基準を肯定する要素なのか。
それとも、否定する要素なのか、その理由は何か。
ということである。
例えば、共謀共同正犯の成立要件として、正犯意思が必要だと考えたとする。
その場合、計画段階で300万のうち乙の分け前が100万だったことをどう評価するか。
甲と同じく金目当てであること(利欲的動機)の現われであると評価するとしよう。
そうすると、正犯意思を肯定する根拠となりうる。
他方、甲より分け前が少ないことから、乙の役割は従たるもの、単なる手助けだったと評価することもできる。
そうすると、正犯意思を否定する根拠となりうる。
すなわち、金銭の分配という事実について、正犯意思という要件との関係で、どう評価するか。
正犯意思を肯定する根拠とするのか。
むしろ、否定する根拠とするのか。
いずれの結論を取るにせよ、そこに至る理由を書いてくれ、ということである。
「結論に至る思考過程を論述する」とは、そういう意味である。

試験が終わった後に受験生が気にするのは、結論であることが多い。
しかし、その思考過程の方が評価の対象になっている。
出題趣旨には、「正しい結論を選択していること」は要求されていない。
従って、本問は共謀共同正犯としようが幇助としようが、どちらでもよい。

具体的に、評価の対象とすべき事実として、以下のものが挙がっている。

1:犯行に至る経緯
2:乙が甲に提供した情報の具体的内容
3:犯行当日の甲乙の行動
4:甲乙間の金銭の分配状況

1、2、3については、問題文の1、2、3と対応している。
旧司法試験では、問題文に数字が振られているということはほとんどなかった。
新司法試験では、刑法に限らず、問題文に数字が振られるようになった。
この数字は、無意味に振られているはずはない。
考査委員は当該事実を一定の意味づけの下に、区分しているはずである。
従って、現場で事実関係を整理する際に、この数字は利用すべきである。
それぞれの数字に対応する事実を要約するとどういうことか。
そういう感覚で、問題文をみるとよいだろう。
本問では、考査委員は上記のような意味のかたまりとして、数字を振っていた。
これを意識できれば、あてはめも考査委員の要求に近い構成になりやすい。

技術的には、あてはめの際に時間・紙幅が無い場合に、「問題文1の事実から・・・」という書き方もできる。
出来れば具体的に引用すべきであるが、どうしてもというときに使える記述法である。

出題趣旨は、共謀共同正犯の成否以外に、以下の点を留意・意識しておく必要があるとする。

●甲乙間の共謀ないし共同実行の意思の内容
●甲乙が想定していた金品奪取の態様や奪取対象となる金品の範囲

共謀・共同実行の意思が強盗にまで及んでいるか。
300万円のみならず2万円をも奪取対象となるか。
この点をどう考えるかにより、乙の罪責が変わってくる。
その具体的内容は、乙の罪責で論じることになる。
出題趣旨は「言及すべき」とか、「触れることが望ましい」とはしていない。
「(留意ないし意識)しておく必要がある」という言い回しをしている。
それは、共犯関係段階では具体的に論述する必要はない。
ただ、それが後で問題になるとわかっていることが必要だ、という意味だろう。

戻る