平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(刑法2)

法務省の公表した出題趣旨のうち、前回に引き続き刑法を検討する(試験問題はこちら)。

第3段落

第3段落は、甲の罪責について論述すべき事項である。

(出題趣旨から引用)

 甲の罪責については,甲乙の共犯関係を前提として,まずはA方に入った行為及び書斎の机の引き出しから300万円を取り出してジャンパーのポケットに入れた行為について構成要件への当てはめを行うことが求められる。そして,甲が,Bにカッターナイフを示すなどした上,現金2万円を奪った行為については,反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫の有無等を中心に,必要かつ十分な具体的事実を抽出して法的評価を示す必要がある。また,Bが居間から逃げ出し,玄関を出た直後に転倒して怪我をしたことについては,強盗の機会性の有無や因果関係の有無等に留意しつつ,具体的事実を示しながら強盗致傷罪の成否を検討する必要がある。さらに,その後,A方前路上でBが乙から殴る・蹴るなどされて死亡したことに関し,甲が罪責を負うか否かについては,乙との共犯関係に基づく帰責の可否及び甲に成立する強盗罪固有の枠組み(強盗の機会性ないし因果関係等)による帰責の可否を本問の事実関係に即して論ずることが必要である。

(引用終わり)

まとめると、以下のようになる。

  検討事項 検討内容
A方に入った行為及び書斎の机の引き出しから300万円を取り出してジャンパーのポケットに入れた行為 構成要件への当てはめ。
Bにカッターナイフを示すなどした上,現金2万円を奪った行為 反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫の有無等を中心に,必要かつ十分な具体的事実を抽出して法的評価を示す。
Bが居間から逃げ出し,玄関を出た直後に転倒して怪我をしたこと 強盗の機会性の有無や因果関係の有無等に留意しつつ,具体的事実を示しながら強盗致傷罪の成否を検討する。
A方前路上でBが乙から殴る・蹴るなどされて死亡したこと 乙との共犯関係に基づく帰責の可否及び甲に成立する強盗罪固有の枠組み(強盗の機会性ないし因果関係等)による帰責の可否を本問の事実関係に即して論ずる。

1は簡単にあてはめれば足りる。
もっとも、この点はあまりに当たり前すぎて、省略したくなる。
それでも、最低限構成要件へのあてはめはやってくれ。
これが出題趣旨の要求である。
重要でない犯罪でも、一応構成要件にあてはめるという形式は守った方がよい。

2については、1よりも注文が多い。
より丁寧なあてはめが要求されていた。
この点については、カッターナイフの刃の長さなど、細かい事情が挙がっていた。
これらをどれだけ挙げたか。
必要かつ十分な具体的事実の抽出とはそのような意味である。
そして、それらの事実からなぜ犯行抑圧が肯定又は否定されるのか。
その理由、すなわち法的評価を示す必要があった。

3については、「人を負傷させた」(240条)のあてはめである。
「強盗の機会性の有無や因果関係の有無等」は、機会説を前提としている。
この、前提部分の論証について、出題趣旨は詳しい検討を求めていない。
簡単に自説を述べれば足りるだろう。
仮に時間や紙幅が足りない場合には、論証自体省いても構わないと思われる。
あてはめが不十分になるくらいならば、論証を省くべきである。
刑法は、特に当てはめ重視の色彩が濃い。
因果関係についても、相当因果関係説の一般論を述べる必要はなかったと思われる。
書くとしても、ごく簡単に書くべきである。

4については、行為後の事情の問題として処理した人が多かったと思われる。
それは、「甲に成立する強盗罪固有の枠組み(強盗の機会性ないし因果関係等)」に含まれる。
従って、それで十分評価されたはずである。
もっとも、乙との共犯関係を強盗の範囲にまで拡張して認める立場もあり得る。
その場合、乙のBに対する暴行を強盗の機会と評価する余地がある。
そうすると、乙の行為について当然に甲も責任を負うと解しうる。
この場合は、甲にとって乙の行為は「行為後の事情」ではなくなる。
従って、甲独自の因果関係を論ずることなく、一部実行全部責任によって致死まで責任を負う。
このような構成も可能である。
その場合は、付随的に結果的加重犯の共同正犯を論じることになる。
以上とは異なる構成を採る場合、説明を要することになるだろう。
例えば、共犯関係を強盗にまで認めつつ、当然に甲独自の因果関係(行為後の事情)を検討する場合である。
この場合、なぜ乙の行為について甲が責任を負わないのか、説明がないと評価を下げる可能性がある。
機会性を否定するとか、乙が後からBに暴行を加えることは共謀の範囲外であるとか、何らかの説明を要するだろう。
ただ、多くの人は窃盗限度で共謀共同正犯ないし幇助を認めたはずである。
従って、乙との共犯関係に基づいてBの死を帰責する構成は、検討する必要がなかった。
結果として、強盗の機会による甲の追跡行為によって、Bの死が生じたといえるか。
すなわち、因果関係(行為後の事情)のみ検討すれば足りたと思われる。

第4段落

第4段落は、乙の罪責について論述すべき事項である。

(出題趣旨から引用)

 乙の罪責については,甲乙間の共犯関係を前提として,甲によるA方への侵入と300万円の窃取に関する罪責を示すほか,甲がBにカッターナイフを示すなどして2万円を奪った行為等については,甲乙間の共犯関係の内容を踏まえ,乙が予見していた事情と実際に甲が行ったことの間のずれの有無とその内容を的確に示した上,予見と異なる事態が生じた場合における乙の罪責を本件に即して具体的に論ずることが必要である。また,乙がA方前路上でBを殴る・蹴るなどして死亡させたことについても,その段階において乙に成立する犯罪を念頭に置きながら,適切な犯罪を選択した上,その犯罪の構成要件要素を示しつつ,設問から抽出した具体的事実をこれに当てはめることが必要である。

(引用終わり)

まとめると、以下のようになる。

  検討事項 検討内容
甲によるA方への侵入と300万円の窃取 罪責を示す。
甲がBにカッターナイフを示すなどして2万円を奪った行為等 ・乙が予見していた事情と実際に甲が行ったことの間のずれの有無とその内容。
・予見と異なる事態が生じた場合における乙の罪責。
乙がA方前路上でBを殴る・蹴るなどして死亡させたこと 適切な犯罪を選択し、その犯罪の構成要件要素にあてはめる。

1については、簡単に結論だけ示せば足りる。

2は、共犯の過剰による錯誤の処理である。
法定的符合説を採って窃盗限度で乙の罪責を認める処理をすれば足りる。

3については、「その段階において乙に成立する犯罪を念頭に置きながら,適切な犯罪を選択」する必要がある。
「適切な」とあるから、選択の正しさが求められている。
その段階の成立犯罪に対応する正しい犯罪を検討しなければならない。
窃盗幇助であれば、単なる暴行に基づく傷害致死。
窃盗の共謀共同正犯であれば、事後強盗の実行行為たる暴行による強盗致死。
強盗の共謀共同正犯であれば、強盗の機会による暴行に基づく強盗致死。
以上を正しく検討できているかによって、評価が分かれることになる。
なお、問題文6の事実から、因果関係について触れた方がよさそうに思える。
しかし、出題趣旨では直接触れられていない。
「構成要件要素」の中に含んでいるのか、その点は判然としない。

第5段落

第5段落は、最終的な結論において示すべき事項の確認である。

(出題趣旨から引用)

 なお,甲乙に成立する個々の犯罪を前提に,これらに関する罪数評価及び共犯の成立範囲を的確に示すことが必要であることは言うまでもない。

(引用終わり)

併合罪か、科刑上一罪(牽連犯又は観念的競合)か、包括一罪か。
共同正犯の場合、どの限度で共犯関係となるか。
これは結論を示す際に必要である。
他方、刑種の選択、刑の量定までは不要である。
問題集や答練の参考答案・解答例などを見ていれば当然のことである。
しかし、出題趣旨でわざわざ触れてある。
できていなかった人がそれなりにいたのかもしれない。
十分な演習をせずに本試験を迎えてしまうと、こういうつまらないところで差が付いてしまう。
論文試験は、形式的な作法がある程度ある。
それを身に付けるためにも、出来る限り答練を受けるべきである。
最低限、問題集の解答例を読むくらいは必要だろう。

第6段落

第6段落は、第1段落の繰り返しである。

(出題趣旨から引用)

 いずれの問題点についても,論点に関する法解釈論を抽象的に論ずるにとどまることなく,事例に示された具体的な事実関係を分析し,論点の解決にとって必要な事実を抽出し,的確に法的評価をすることが求められている。

(引用終わり)

具体的事実へのあてはめの重要性が強調されている。
全体的に、刑法の出題趣旨は、抽象的な論点についての言及がほとんどない。
あてはめについての言及がほとんどである。
事実の分析・抽出・評価。
刑法ではこの点が重視されている。
答案を作成する際には、これを意識すべきである。
予備校答練では、論証への比重がやや高い。
また、事実の評価という視点が薄い。
優秀答案とされる答案は、論証が厚く、あてはめは問題文を列挙しただけである場合も少なくない。
従って、その点において答練の採点・講評が本試験とズレることになる。
そのあたりは、答練を利用する際に注意する必要がある。

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