平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(刑訴法1)

法務省の公表した出題趣旨のうち、今回は刑訴法を検討する(試験問題はこちら)。

第1段落

第1段落は総論である。

(出題趣旨から引用)

 本問は,捜査・公判に関する具体的事例を示して,そこに生起する刑事手続上の問題点の解決に必要な法解釈,法適用にとって重要な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る過程を論述させることにより,刑事訴訟法等の解釈に関する学識と適用能力及び論理的思考力を試すものである。

(引用終わり)

要は解釈論とあてはめということで、他科目と変わらない。
ただ、他科目よりも一般論・解釈論の比重が大きい。
「解釈に関する学識」という表現は刑訴だけである。
また、解釈論重視の姿勢は、第2段落以降の具体的記述からも読み取れる。
設問1について、出題趣旨は「法解釈の部分では・・」としてかなりの文量を割いている。

第2段落

第2段落は、設問1の大枠についての記述である。

(出題趣旨から引用)

 設問1は,覚せい剤の営利目的所持事件を素材として,被告人甲との会話内容等が記載されたW作成のノートにつき,要証事実との関係での証拠能力を問うことにより,刑事訴訟法において最も基本的な法準則の一つである「伝聞法則」の正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。

(引用終わり)

設問1のテーマは伝聞法則だった。
ということが分かる。
ただ、これは本問では明らかだっただろう。
また、「その立証趣旨を踏まえ」という問題文。
これから、要証事実との関係がポイントだったことも読み取れた。
テーマ自体は、比較的明らかだった。
ただ、その具体的内容について、出題趣旨の要求に答えるのはやや困難だった。

第3段落

第3段落は、設問1の具体的内容のうち、法解釈に関する記述である。

(出題趣旨から引用)

 法解釈の部分では,検察官の立証趣旨を踏まえた要証事実の分析を前提にして(立証趣旨から想定される要証事実は,いずれもWが知覚・記憶してノートに記載した事実の真実性を前提とするものであるから,これが「伝聞証拠」,すなわち刑事訴訟法第320条第1項の定める「公判期日における供述に代えて書面を証拠と」する場合であることは明瞭である。),伝聞法則の例外となる規定を的確に選択した上,その規定に係る各要件を検討することが必要である。各要件を指摘,記述するだけでは,本事例への法適用を前提とした法解釈として不十分であることは言うまでもない。とりわけ,本事例で問題になる「特に信用すべき情況」の意義・解釈等については的確に論じなければならない。例えば,本件ノートを刑事訴訟法第321条第1項第3号に該当する書面であると考えた場合には,証拠能力の要件要素である「特に信用すべき情況」の理論的意味に留意しつつ,その存否につき,供述の内容そのものを直接に判断するのではなく,供述に付随する外部的な情況を主たる考慮事情として判断しなければならず,また,他の供述と比較するのではなく,その供述自体にかかわる絶対的な判断が要求されていることなどを論述することが必要である。また,本件ノートに記載された被告人甲の発言内容の真実性を要証事実とする場合には,「再伝聞」が問題になるので,その構造を正確に分析してその旨を指摘しなければならないことはもとより,それを許容するか否かの結論だけでなく,その文理上の根拠や実質的な考慮等をも的確に論じることが求められている(本事例は,公判期日における供述に代えて用いられる,被告人以外の者Wが作成した「供述書」に,被告人甲の供述を内容とする記述がある場合である。)。

(引用終わり)

基本的には伝聞例外の検討をすればよかった。
そのうち、出題趣旨が特記している論点は、特信情況と再伝聞である。
おそらく、多くの受験生が再伝聞については丁寧に論述したはずである。
一方、特信情況については、解釈論を展開することなく当てはめた人が多かっただろう。
しかし、出題趣旨は、特信情況について、「意義・解釈等については的確に論じなければならない」とする。
これはやや意外である。

特信情況については、判断の基礎事情としてどこまで考慮するかという論点がある。
外部的付随事情に限るか、供述内容も加味できるか、という論点である。
出題趣旨は「理論的意味」に留意せよと言う。
特信情況が証拠能力の要件であって、証明力の問題でないということだろう。
このことからは、供述内容を考慮すべきでない、ということになる。
もっとも、2号(検面調書)における相対的特信情況についてのものであるが、最判昭30・1・11がある。
それによると、供述内容を考慮することは否定されない。
出題趣旨も、その点は慎重な言い回しをしている。
「供述の内容そのものを『直接に』判断するのではなく」
「供述に付随する外部的な情況を『主たる』考慮事情として」
としているのは、その現われである。
この論点自体それほど頻出のものではないため、落とした人は多かったと思う。
この部分は、出題趣旨の要求は厳しめだったといえる。
そして、この部分は、後述するあてはめにも影響してくる。

また、出題趣旨は「その供述自体にかかわる絶対的な判断が要求されていること」を論述すべきとする。
2号の相対的特信情況とは違うという点である。
この点も、しっかり書いた受験生は少ないだろう。
「絶対的特信情況が必要である」というように当然の前提として書いた人が多かったのではないか。

再伝聞については、出題趣旨は以下の3点を求めていた。

1:再伝聞の構造
2:再伝聞を許容するか否か
3:その文理上の根拠や実質的な考慮

1は、甲→W→本件ノートという二重の伝聞過程があることを文章で指摘すればよい。
2は、用意した論証を書くことになる。
3は、2の形式的な理由と実質的な理由の両方を書けということである。
2と3の要求から、再伝聞は十分に論証しなければならなかったことになる。
なお、出題趣旨のかっこ書は、形式的理由についてのものである。
すなわち、本件ノートは321条1項3号によって、公判廷供述に代えることができる。
そうすると、本件ノートに含まれるWの供述は、公判期日のものと同視できる。
従って、被告人以外の者の公判廷供述で被告人の供述を内容とする場合における324条1項・322条1項が適用できる。
よって、321条1項3号及び324条1項・322条1項の要件を充たせば、伝聞例外を充たしうる、ということになる。
この点については、検面調書の場合における最判昭32・1・22がある。
この条文操作が正確に出来たかどうか。
刑訴の条文に慣れていないと、なかなか難しい。
これは差が付いたところではないかと思う。
なお、出題趣旨のかっこ書で、わざわざ「供述書」と鍵括弧をつけて強調している。
供述録取書と混同している人が多かったのかもしれない。
署名押印は供述録取書には必要であるが、供述書には不要である(最判昭29・11・25)。
録取過程の伝聞性が無いからである。
従って、本問で本件ノートについてのWの署名押印を問題にするのは誤りである。

やや意外だったのは、精神状態の供述について、何らの記述も無いことだ。
本問では、検察官の立証趣旨は以下の3つである。

1:Wが平成20年1月14日に甲方で本件覚せい剤を発見して甲と会話した状況
2:本件覚せい剤を甲が乙から入手した状況
3:X組が過去に覚せい剤を密売した際の売却価格

1はW供述の真実性だけが問題になるから、単純な伝聞。
2はW供述中の甲供述の真実性が問題になるから、再伝聞。
そして、3は形式的には2と同様の再伝聞である。
しかし、本問の公訴事実は営利目的所持であって、譲渡罪ではない。
そうすると、要証事実は売却の事実ではなく、甲の営利目的である。
従って、甲の供述内容の真実性(実際に0.1グラムを1万5千円で売っていたのか)は問題にならない。
Wに対してそのような発言をしたという事実自体が、甲の営利目的を根拠づける。
よって、一種の精神状態の供述として、甲の供述部分は非伝聞と解される。
従って、Wの供述内容の真実性(及び甲の発言の真摯性)のみが問題になる。
結局、全体としては単なる伝聞となる。

以上のように考えるのが、すっきりしているように感じられる。
1で特信性を、2で再伝聞を、3で精神状態の供述を、それぞれ論述するという形式に収まるからだ。
しかし、出題趣旨では精神状態の供述はまったく触れられていない。
しかも、3について何を書くべきだったのかについて、全く記述が無い。
ヒアリングの方で何らかの言及があれば注目したい。

第4段落

第4段落は、設問1についての事例への法適用、すなわち、あてはめについての記述である。

(出題趣旨から引用)

 事例への法適用の部分では,自らが論じた伝聞法則の例外となる規定や再伝聞の解釈等に従って,事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,分析し,個々の事実が持つ法的な意味を的確に示して論じることが求められている。例えば,供述に付随する外部的な情況にかかわる具体的事実を抽出,分析する際には,個人の日記と解されるノートに,1週間に3日ないし5日程度の割合で,出来事やその感想等がその経過順に記載されていることや,空白の行やページが無かったことなどという具体的事実を指摘した上で,Wがその日にあった出来事をその都度記載している事情等が認められることを論じたり,また,鍵が掛けられていた机の引き出しの中から本件ノートが発見されたことなどという具体的事実を指摘した上で,ノートを他人に見せることを予定しておらず,うそを記載する理由がないことなどを論じたりすることが必要である。つまり,具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すれば足りるものではなく,個々の事実が持つ意味を的確に分析して論じなければならない。

(引用終わり)

どのような事実を拾ってどのような評価をすべきだったかが例示されている。
まとめると以下のようになる。

抽出すべき事実 事実に対する評価(事実が持つ意味)
・個人の日記と解されるノートに,1週間に3日ないし5日程度の割合で,出来事やその感想等がその経過順に記載されていること
・空白の行やページが無かったこと
Wがその日にあった出来事をその都度記載している事情等が認められること
鍵が掛けられていた机の引き出しの中から本件ノートが発見されたこと ノートを他人に見せることを予定しておらず,うそを記載する理由がないこと

いずれも特信情況を肯定する要素となる事情である。
これらのことは、比較的容易に抽出・評価できたと思われる。
むしろ、気になるのは、出題趣旨に記載の無い事柄だ。
それは、捜査の結果と本件ノートの記載内容との一致である。
特信情況の判断事情に供述内容を考慮すべきでないとする立場。
これによると、上記のことをあてはめで使ってはいけないことになるはずである。
特信情況の一般論のところで、外部的事情のみと論じた後であれば、上記事情を書くことは矛盾として評価を落とすだろう。
他方、特信情況の一般論をあまり論じていない場合、上記事情を使うとどう評価されるのか。
出題趣旨に何の記載もないからはっきりしない。
ヒアリングで言及があるか、注目したいところである。

出題趣旨では、特信情況に相当の文量を割いている。
これがメインの論点であったということになるだろう。
従って、この点を落とせば、かなり低い点数になってしまったはずである。
本件ノートに関する詳細な事実から、特信情況がメインだと読み取れたか。
それが、設問1のポイントだったといえる。

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