平成20年度新司法試験論文出題趣旨検討(刑訴法2)

法務省の公表した出題趣旨のうち、前回に引き続いて刑訴法を検討する(試験問題はこちら)。

第5段落

第5段落は、設問2のうち、入室措置について検討すべき事項の記述である。

(出題趣旨から引用)

 設問2は,捜索差押許可状の呈示に先立って捜索場所であるマンションの甲方の窓ガラスを割って入室した措置について,刑事訴訟法第111条第1項(同法第222条第1項により捜査段階に準用)の「必要な処分」といえるのか否かにつき,この規定の趣旨・目的を踏まえて,事例中に現れた具体的事実を前提に,被疑事実の内容,差押物件の重要性,差押え対象物件に係る破棄隠匿のおそれ,財産的損害の内容,被捜索者の協力態様などの諸事情を具体的に論じて,その適否に関する結論を導かなければならない。

(引用終わり)

「必要な処分」(222条1項・111条1項)の解釈・あてはめを書けばよかった。
この点は頻出論点の一つである。
多くの人が拾えた論点だろう。
それだけに、落としたり、雑だったりすると、大きく評価を下げる。
出題趣旨は解釈論について具体的記述をしていない。
他方、あてはめについては具体的に論ずべき事実を挙げている。
出題趣旨は以下のものを挙げる。

1:被疑事実の内容
2:差押物件の重要性
3:差押え対象物件に係る破棄隠匿のおそれ
4:財産的損害の内容
5:被捜索者の協力態様

やや抽象的である。
具体的には、以下のような事実と対応するだろう。

1は、覚せい剤取締法違反事件は重大犯罪であること。
2は、覚せい剤等は重要な証拠であること。
3は、覚せい剤等は隠匿容易であること。
4は、ガラス一枚であり、直ちに修補され、費用も2万円(ただし誰が負担したか不明)にとどまること。
5は、来意を告げたにも関わらず開錠せず、むしろ逃亡・隠匿の様子がうかがえること。

上記を摘示すればよかったものと思われる。

なお、ガラス窓を割って入室した行為の適法性については、大阪高判平7・11・1がある。
この裁判例は、本問の素材の一つであろうと考えられる。

大阪高判平7・11・1
 「本件のように薬物犯罪容疑で捜索を受ける者は、その対象物件である薬物を撒き散らして捨てたり、洗面所等で流すなど極く短時間で容易に隠滅することができるから、この種の犯罪においては、証拠隠滅の危険性が極めて大きく、また捜索を受ける者が素直に捜索に応じない場合が少なくないのも顕著な事実であることを考慮すれば、本件においてある程度の緊急性が認められたことは明らかであり、その際、捜査官Pらがガラスの一部損壊以外に適当な手段を持ち合わせていたことを認めるに足りる証拠もなく、また、Pらにおいて殊更性急に事を運んだことを窺わせるような証拠もない。また、そのガラスの破壊方法、程度等も相当性を超えるものではなく、加えて、Pらは入室後速やかに一審原告に対して捜索差押令状を示しているのであるから、これら一連の事態の推移の下でみると、Pらのなした本件ガラスの損壊行為は、当時の事情に照らして概ね適切にして妥当なものといえ、これをもって、必要やむをえない限度を逸脱した違法なものということはできない」

第6段落

第6段落は、設問2のうち、令状呈示の適否に関する記述である。

(出題趣旨から引用)

 また,令状呈示の時期の適否についても,関連規定の有無等を指摘し,令状呈示の趣旨等を論じた上,事例中に現れた具体的事実関係を前提にして,事前呈示の要請と現場保全の必要性等に係る諸事情を具体的に摘示した上,結論を導かなければならない。

(引用終わり)

書くべき事項は以下の通りである。

1:関連規定の有無
2:令状呈示の趣旨
3:事前呈示の要請と現場保全の必要性等に係る諸事情
4:結論

1の関連規定が具体的に何条を指すのかについては明確でない。
最低限110条を挙げる必要があり、おそらくそれで足りたと思われる。
それ以外だと111条1項と114条2項くらいだろう。
111条1項を用いる場合は、二つの構成があり得る。
一つは、令状呈示前の処分も捜索の執行行為と考える構成。
この場合、110条(事前呈示の原則)の例外を111条1項によって認めるという考え方になる。
もっとも、この場合は必ずしも111条1項を用いる必要はない。
もう一つは、令状呈示前の処分を捜索執行前の保全処分とする構成である。
この場合は、保全処分は111条1項の「必要な処分」であり、事前呈示の原則は維持されているという考え方になる。
114条2項については、被処分者以外の者に呈示する方法もあるという根拠になる。
例えば、本問で、マンションの管理人に呈示するという余地があった、という指摘をする場合に用いることができる。

2の令状呈示の趣旨は、事前呈示の原則を導く根拠となるものである。
最判平14・10・4は以下のように述べる。

最判平14・10・4
 「222条1項,110条による捜索差押許可状の呈示は,手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから,令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきである」

3については、来意を一応告げていること。
また、対象物件が隠匿容易であること。
さらに、「やばい」などの言動から、隠滅の危険が大きく、保全の必要性が高いこと。
などを摘示することになると思われる。

4の結論については、どちらでもよいが、適法方向の事情の方が多い。
適法の結論が無難と思われる。
この点、今年度の旧司法試験の方でも同じ論点が出題されているが、こちらの方が悩ませる事例となっている。

平成20年度旧司法試験論文式刑訴法第1問

 警察官は,甲に対する覚せい剤所持被疑事件に関し,「甲が宿泊中のホテルの客室」を捜索場所,「覚せい剤」等を差し押さえるべき物とする捜索差押許可状の発付を受け,同客室に赴いた。証拠が隠滅されることをおそれた警察官は,ホテルの支配人に協力を求めてマスターキーを借り受け,来意を告げることなく,マスターキーでドアを開錠し,同客室内に立ち入った。すると,在室していた甲が,ビニール袋に入った覚せい剤を持ってトイレに駆け込もうとしたので,警察官は,甲を制止して持っていた覚せい剤を取り上げ,その後,甲に捜索差押許可状を示した上,同覚せい剤を差し押さえ,引き続き同客室内の捜索を実施した。
 同客室内には甲の知人らしき乙が居合わせており,同人がボストンバッグを携帯していたことから,警察官は乙に同バッグの任意提出を求めた。しかし,乙がこれを拒否し同バッグを抱え込むような態度をとったため,警察官は,乙の抵抗を排除して同バッグを取り上げ,その中を捜索したところ,ビニール袋に入った覚せい剤を発見したので,これを差し押さえた。
 以上の警察官の行為は適法か。

旧試験の問題の方は、対象物件の占有移転の後になって呈示が行われている。
そのため、違法で書く場合はそれを摘示すればよい。
だが、本問の場合は、入室後具体的捜索活動に入る前に呈示を行っている。
他に違法とすべき事情があまりない。
にもかかわらず、無理に違法としようとして的外れな事情を摘示すると、評価を下げることになる。

刑事訴訟法は、学習の進度に応じて一定の傾向性がある。
初学者は、違法の筋で書きたがる。
法の趣旨から素直に考えると、ほとんどの捜査が違法に見えるからである。
他方、実力者は、適法の筋で書きたがる。
判例を学ぶにつれ、現実の捜査の実効性とのバランスも必要だと思えるようになる。
そして、法の例外を苦心して認めるのが刑訴法解釈の醍醐味と感じるようになるからである。

今年度は、新旧で同じ論点が出た。
新試験は適法とするのが自然な事例。
旧試験は違法とするのが自然な事例。
新試験は初学者が多く、旧試験は実力者が多そうだ。
受験生の傾向の逆をいく事例を出している。
これは考査委員が敢えてやったのか、興味がある。

出題趣旨は現行犯逮捕の適法性については全く触れていない。
この点、営利目的との関係で犯罪の明白性(事前捜査資料を加味しうるか)が問題となりそうだ。
しかし、これは問われていなかったようである。
そもそもそのようなことは問題とならないという認識なのか。
それとも、本来問題になるが、本問では現行犯逮捕の適法性は検討しなくてよい。
設問2の「捜索の適法性について」との文言はそのような限定の趣旨だったのか。
ヒアリングでの注目点である。

第7段落

第7段落は、全体の書き方についての記述である。

(出題趣旨から引用)

 いずれの設問についても,法解釈論や要件の存否を抽象的に論じるにとどまることなく,事例中に現れた具体的事実を指摘しつつ,個々の事実がどの要件の存否を基礎付けているのかを的確に論じることが要請されている。

(引用終わり)

刑法についても、最終段落で同様の指摘がある。
ただ、出題趣旨の内容を見る限り、刑法よりも解釈論が重視されている。
今後もこれが一つの傾向として続くのかはまだわからない。
ただ、それでもあてはめに相当の比重があることは、最後の段落で論及されていることからわかる。
このあてはめ重視の傾向は、新試験の問題の性質上、変わらないはずである。
従って、あてはめをしっかり書く訓練は、欠かさずやっておくべきである。
あてはめは、見た目ほど簡単ではない。
記憶する必要がないので、それほど事前準備は要らないと思われがちだ。
しかし、これは事前に相当訓練しておかないと、現場でつい端折って書いてしまう。
精神的に非常に疲れる作業でもある。
丁寧に、と思っていても、根負けして端折って書いてしまうことが少なくない。
答練では雑になってしまうが、本試験のときは真面目に頑張れるはずだ、というのは甘い。
むしろ、かえって本試験の方が雑になることの方が多い。
答練で出来なければ、本試験ではもっと出来ないと思っておくべきだ。

論証については、刑訴法は重要判例のある論点のみで足りる。
百選掲載判例の論点だけで十分である。
論証を覚える時間は出来るだけ少なくし、演習を重視すべきである。

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