最新下級審裁判例

知財高裁決定平成20年09月29日

【判旨】

 特許権侵害禁止仮処分決定の後,同特許を無効とする審決があっても,その取消訴訟において同審決が取消しを免れない場合には,仮処分決定を取り消すべき事情変更があるとはいえないと解するのを相当とする。
 これを本件についてみると,・・・相手方が本件特許に関して主張する無効理由は存しないと解すべきである。
 ・・・以上によれば,大阪地裁が平成18年(ヨ)第20021号事件につき平成18年7月25日になした本件仮処分決定につき,これを取り消すべき事情の変更があったと認めることはできない。

 

東京地裁判決平成20年09月29日

【事案】

 被告の元従業員である原告が,被告に対し,被告在職中にした「半導体レーザ装置」に関する発明等,合計6件の職務発明について特許を受ける権利を被告に承継させたとして,特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下「改正前特許法」という。)35条3項に基づき,上記承継の相当の対価である金7億5378万円のうち,一部請求として金1億円及びこれに対する平成18年12月22日(原告が,被告に対し,上記承継の相当の対価の未払額の支払を請求した日の翌日)から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。

【判旨】

 勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
 そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の額ではなく当該発明を実施する, 権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)の額と解すべきである。
 本件では,被告が,少なくとも競業他者の一部に対し,本件各特許の実施を許諾しているものと認められるところ,原告においては,被告が本件各特許を自ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張している。このような場合においては,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実施許諾を受けている者以外の競業他者が実施品を製造,販売等を禁止することによって得ることができたと認められる収益分をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」というべきである。
 なお,改正前特許法35条3項及び4項の規定は,職務発明についての特許を受ける権利の承継時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにすることを趣旨とする規定と解される。もっとも,特許を受ける権利自体が,将来特許登録されるか否か不確実な権利である上,当該発明により使用者等が将来得ることができる利益を,その承継時において算定することは,極めて困難であることにかんがみれば,その発明により使用者等が実際に受けた利益の額に基づいて,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を事後的に算定することは,「利益の額」の合理的な算定方法の1つであり,同条項の解釈としても当然許容し得るところというべきである。
 そして,当該特許発明の実施について,実施許諾を得ていない競業他者に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他者の排除との間に因果関係が認められることが必要であるところ,その存否については,@特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,A当該特許の実施許諾を得ていない競業他者が一定割合で存在する場合でも,当該競業他者が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,B包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに,C特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別な時期に,他の代替技術も実施しているか等の事情を総合的に考慮して判断すべきである。

 原告は,本件発明D及びEについて特許を受ける権利を被告に承継した時点で,被告に対する相当の対価の請求権を取得したものであるから,相当の対価の請求権に関しては,改正前特許法35条3項及び4項が適用されるところ(平成16年法律第79号附則2条1項),勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)。
 また,原告は,アメリカ合衆国において出願された本件発明Fについても,改正前特許法35条3項の類推適用により,被告に特許を受ける権利を承継させたことによる相当の対価の請求権を取得したものと解され,相当の対価の額を定めるに当たっても,本件発明D及びEの特許を受ける権利の承継の場合と同様,改正前特許法35条4項を類推適用すべきであると解される(最高裁平成16年(受)第781号同18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁参照)。
 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(改正前特許法35条3項)。対価の額については,勤務規則等により定められる対価の額が同条4項の規定により算定される額に満たない場合は,同条3項に基づき,その不足する対価の額に相当する対価の支払を求めることができるのであるが,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,その定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきである。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)。

 

知財高裁判決平成20年09月30日

【判旨】

 発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいい(特許法2条1項),「産業上利用することができる発明をした者は,・・・その発明について特許を受けることができる」と規定されている(同法29条1項柱書き)。そして,発明は,その技術内容が,当該の技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されたときに,完成したと解すべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。したがって,発明者とは,自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者,すなわち,当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきである。もとより,発明者となるためには,一人の者がすべての過程に関与することが必要なわけではなく,共同で関与することでも足りるというべきであるが,複数の者が共同発明者となるためには,課題を解決するための着想及びその具体化の過程において,発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与したことを要する。そして,発明の特徴的部分とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち,従来技術には見られない部分,すなわち,当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである。

 

知財高裁判決平成20年09月30日

【判旨】

 特許法は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合には,拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する(同法159条2項,50条)。同法159条2項の趣旨は,審判官が,新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは,あらかじめその理由を出願人(拒絶査定不服審判請求人)に通知して,弁明ないし補正の機会を与えるためであるから,審判官が拒絶理由を通知しないことが手続の違法を来すか否かは,手続の過程,拒絶の理由の内容等に照らして,拒絶理由の通知をしなかったことが出願人(拒絶査定不服審判請求人)の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かの観点から判断すべきである。

 

東京地裁判決平成20年09月30日

【判旨】

 一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して上記額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって,上記判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第849号,同10年6月12日第二小法廷判決,民集52巻4号1147頁)。

 民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,上記訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号,同63年1月26日第三小法廷判決,民集42巻1号1頁)。
 そして,上記判示は,当該敗訴の確定判決に係る訴えの提起自体についての不法行為の該当性を判断する場合だけでなく,当該敗訴の確定判決後の,実質的に同一の訴訟の提起・維持に係る不法行為の該当性を判断する場合についても,同様に適用されると解するのが相当である。

 

東京地裁判決平成20年09月30日

【事案】

 原告において,第三者から購入して取得した別紙名簿目録記載の顧客名簿(以下「本件名簿」という。)が不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当し,被告乙2がこれを不正に取得し,被告株式会社ジュエリー・フオンド(以下「被告会社」という。)がこれを不正に利用したなどと主張して,それぞれ,被告会社の行為については同法2条1項5号又は6号の不正競争に該当し,被告乙2の行為については同法2条1項4号の不正競争に該当することを理由に,被告らに対し,連帯して損害賠償金11億4840万6348円及びこれに対する不正競争行為のあった後(訴状送達の日の翌日)である,被告会社については平成19年12月21日から,被告乙2については同月22日から,支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払と,本件名簿の使用又は開示の禁止等を求める事案。

【判旨】

 不正競争防止法2条6項によれば,「『営業秘密』とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」であり,このうちの「秘密として管理されている」といえるためには,当該情報が客観的に秘密として管理されていると認識することができる状態にあることが必要である。
 そこで,本件名簿についてこの秘密管理性の有無を検討すると,本件名簿は,もともと訴外会社において作成,管理され,これが第1売買と第2売買を経て,原告が管理するに至ったものであるから,@訴外会社における秘密管理性,A第1売買の買主であるAにおける秘密管理性,B原告における秘密管理性がそれぞれ問題となり得る。
 原告は,訴外会社における本件名簿の管理について,管理者と取扱者を特定の者に固定し,バックアップ用の情報媒体を鍵付きの引出し等に管理し,マル秘指定をして一般従業員のアクセスを制限していたなどと主張する。しかしながら,原告は,本件訴訟の審理において,訴外会社のもとにおける本件名簿の管理状況の手がかりとなる資料が残っていない旨を述べており,原告において,原告の上記主張を裏付ける証拠を準備することができなかったものである。
 そして,仮に,訴外会社における秘密管理性が認められたとしても,次に,第1売買の買主であるAにおける秘密管理性が問題となる。この点について,原告は,BとAとの間で,@本件名簿と本件機器が営業秘密であり,その内容を開けてはならないこと,A受け皿会社(原告の前身会社)の設立準備ができ次第,譲渡すること,BもしAのもとで漏洩された場合に責任を追及すること,が確認されたなどと主張する。
 しかしながら,本件名簿の第1売買の契約書には,このような営業秘密であることを前提とした条項は存在せず,同契約書は,単なる名簿とその機材の売買契約書というほかないものであって,この点は,第2売買の契約書も同様である。このほか,本件名簿がAのもとで営業秘密であることを前提として管理されていたと理解し得るような客観的な証拠はない。
 以上のとおりであるから,本件名簿については,原告のもとで,秘密管理性などの営業秘密の要件を充たしているか否かを検討するまでもなく,原告が本件名簿を取得する以前の時点において,営業秘密としての秘密管理性を充たしていたことの立証がないものというほかない。

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