鳩山法相退任後の法曹人口問題(上)

2度の法相交代

ここ数ヶ月で、法務大臣が2度交代した。
これにより法務省の法曹人口問題に対する立場はどう変化したのか。

鳩山法相時代

鳩山法相時代の法務省の立場は、以下の通りである。

(平成20年6月24日規制改革会議第1回法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○佐々木参事官 法曹人口の拡大に関する法務省の基本的な認識についてということでございますが、これにつきましては昨年の12月に協議させていただいて、そこからほとんど変わっていないと考えていただいて結構かと思います。
 平成14年3月に閣議決定されました司法制度改革推進計画に沿って、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す。平成14年のこの閣議決定は、法曹の質が確保されることが前提であるということと、3,000人という数字はあくまで目標であって、質が確保されなければ結果として目標に到達しないこともあり得るということで、この点につきましては12月の御協議で御了解いただけているものと考えてございます。

(引用終わり)

平成22年(2010年)に3000人を目指す。
しかし、これは質の確保が前提である。
質の確保が出来なければ3000人を達成しないこともあり得る。

この立場は、当時の鳩山法相の私的勉強会の見解によるものである。
この点の詳細は、以前の記事(その1その2その3)を参照。

保岡法相時代

鳩山法相は平成20年8月2日の福田内閣改造により退任した。
後任となったのは、保岡興治さんである。
経歴は以下の通り。

保岡興治公式HPプロフィールより引用)

●現職(主な役職)
■衆議院
裁判官弾劾裁判所・裁判員
■自民党
独禁法調査会・最高顧問
奄美振興特別委員会・顧問
憲法審議会・会長代理
司法制度調査会・最高顧問
知的財産調査会・最高顧問
金融問題調査会・顧問

●略歴
 
昭和27年 八幡小〜鹿児島大付属小学校卒業
昭和30年 鹿児島大付属中〜麹町中学校卒業
昭和33年 日比谷高校卒業
昭和39年 中央大学法学部卒業、司法試験に合格。
最高裁判所司法修習(19期)
昭和42年 鹿児島地方裁判所に裁判官として赴任
昭和47年 衆議院選挙に立候補し、初当選
昭和53年 国土政務次官に就任(大平内閣)
昭和55年 大蔵政務次官に就任(鈴木内閣)
昭和59年 衆議院建設常任委員長に就任(第二次中曽根内閣)
昭和60年 自民党行財政調査会副会長に就任
昭和62年 自民党副幹事長に就任(平成2年まで連続4期)
平成元年 自民党政治改革本部企画委員長に就任
平成5年 衆議院国会等の移転に関する特別委員長に就任
平成8年 自民党財務委員長、衆議院大蔵委員会筆頭理事に就任
平成9年 自民党政務調査会総括副会長に就任
平成10年 衆議院金融安定化に関する特別委員会・筆頭理事に就任
平成12年 衆議院憲法調査会・幹事
平成12年 法務大臣に就任
平成13年 自民党国家戦略本部事務総長に就任
平成15年 自民党緊急金融システム安定化対策本部本部長代理
平成15年 自民党憲法調査会会長に就任
平成16年 自民党新憲法制定推進本部・幹事、同起草委員会事務局長に就任
平成17年 衆議院日本国憲法に関する調査特別委員会・筆頭理事に就任
自民党独禁法調査会会長に就任
平成19年 裁判官弾劾裁判所・裁判長に就任
両院議員総会・副会長に就任
独禁法調査会・最高顧問に就任
憲法審議会・会長代理に就任

(引用終わり)

保岡さんは自民党の司法制度調査会会長を務めるなど、司法改革推進派の第一人者とされる。
本人にもその自負がある。

(保岡法相就任記者会見より引用、下線は筆者)

 法務大臣を拝命しました保岡興治です。宜しくお願いします。総理からは裁判員制度の円滑な導入をはじめ,司法制度改革を推進するということでございました。これは,私が司法改革を始めたという経緯を御存知で,先の法務大臣も推進に努めてくれたものですが,それをしっかり円滑に運用していけるように国民の理解を得て,責任を果たして欲しいと,こういうことでありました。それから再犯の防止策を推進するということです。

(引用終わり)

保岡法相は法曹人口について、以下のように述べている。

(保岡法相就任記者会見より引用、下線は筆者)

Q:司法試験の合格者数について,日弁連は,合格者数を絞り込むということを求めてますが,大臣は,司法試験の合格者数についてはどのようにお考えですか。

A:これは,閣議決定で,2010年で3000人を目標にした政府の対応をしっかり尊重して進めていきたいと考えています。ただ,当然のことながら,量を確保していくということと同時に,質というか,法曹としてのあるべき能力をしっかり身につけてもらうことが極めて重要ですので,やはり法科大学院とか,それから,司法試験のあり方,司法修習のあり方,そのプロセスを通じて優秀な人を選抜するという趣旨に沿って,改善するべき点があれば徹底的に改善に取り組んでいきたい。これは,関係者みんなの協力が必要ですから,その協力体制もしっかり作り上げていきたい。そして,やはり,今は世の中では,リーガルマインドをもった人があらゆる分野で求められていると思います。法廷弁護士のみならず,組織内弁護士といいますか,企業法務ももちろんですが,会社の経営者,私のように政治家であったり,あるいは行政官であったり,NPOであったり,あらゆる分野でリーガルマインドをしっかりもった人材が広がって社会に存在することが国際的な関係でも非常に重要だという認識で,数も思い切って閣議決定の方針に沿って進めて行かなくてはなりません。また,質の確保は,当然ながら努力してまいりたいと思っています。

(引用終わり)

(保岡法相初登庁後記者会見より引用、下線は筆者)

Q:法曹人口についてですけれども,大臣のお考えは,質を落とさずに,さらに閣議決定の尊重をしていくというお考えだと思うのですけれども,一部の指摘でですね,法科大学院の供給の能力がかなり限界に近づきつつあって,2010年までに質を落とさずに法曹の人口をそこまで持って行くことは困難ではないかというような指摘もあるのですけれども,具体的にどのような方法で,質を落とさずに3000人という目標を達成されようとお考えですか。

A:この法科大学院制度は,昨晩申し上げましたけれども,司法改革の,やはり最も根幹的なテーマです。これはやはり制度を美しく作っても,結局,担う人が大事だということから,法曹人口の質,量共に拡大するという大きな方針を閣議で目標に定めたわけですから,やはりそれを歯を食いしばっても努力して実現するということは大事だと思います。それで,今,ご指摘の法科大学院の問題ですけれども,法科大学院にも改善すべき点がたくさんあると思います。そしてまた,司法試験の在り方にも改善すべき点もあるでしょう。修習についても同じようなことが言えます。そういったプロセスとしても法曹養成というこの新しい仕組みは,そんなに始まってまだ数年ですし,まだ,旧試験を受けた学生も多いし,社会人からいきなり未習で入った院生もいるわけですし,教えてる先生方にも新しい仕組みをしっかり体現できるような力を持った先生もいるだろうし,旧法学部のマスプロ講義みたいなものがまだ抜けきらない先生もいるかもしれません。一方,法科大学院を卒業した修習生などの状況を見たり,いろいろ2回試験の答えぶりを見ますと,やはり事実を中心に,一生懸命,自分の頭で,自分の意見を論理的に表明していくという,新しい力が湧き上がってきているということが,よく見てとれます。やはり,こういう制度の充実,強化,完成というのは,少なくとも10年かかるのではないですか。ですから,せっかくみんなやろうと,力を合わせてやろうということで,入ってきた院生も含めて,みんなが努力している中ですから,その努力の中から改善点をしっかり見いだして,そこにピシッと焦点を合わせて,みんなの知恵を活かしてやる。そのためには,一番基本的なのは,やはり,最高裁,法務省,それから文科省が,プロセスとしての教育の在り方について,きちっと議論をすることでしょう。また,党内にもいろいろ意見もあります。社会にもあるでしょうし,また,在野法曹からもいろいろな意見もあります。いろいろな意見を聞いて,そこから知恵をもらって,思い切って変える努力を力を合わせてやらないといけないと思います。

(引用終わり)

2010年3000人は何としても実現する。
それには、質の問題を何とかしなくてはいけない。
そのために、法科大学院や司法試験の在り方等を改善する。

これが、保岡法相の基本的な立場である。
量を増やすためには、質を確保しなければならないという発想には変わりがない。
しかし、向いている方向が違う。
質の確保ができないなら量は増やさない。
量を増やすために質の確保に努力する。
これは、180度方向性が異なる。

事務方の見解はどう変化したか。
保岡法相就任後の規制改革会議において、佐々木参事官は以下のように説明している。

(平成20年8月20日規制改革会議第10回法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○佐々木参事官 法曹人口の拡大に関します法務省の基本的な認識でございますが、法曹人口の拡大に関しましては、平成13年6月12日の司法制度改革審議会意見書を受けた平成14年3月19日の司法制度改革推進計画におきまして、法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22年ころには3,000人程度を目指すと閣議決定されているところであります。
 この点につきまして、保岡新法務大臣は、平成22年ころには3,000人程度を目指すという閣議決定を最大限尊重して進めていくが、量を確保していくと同時に質の確保は当然ながら努力していかなければならない。そして、法曹としてのあるべき能力をしっかり身につけてもらうことが極めて重要なので、法科大学院を中核とする法曹養成プロセスを通じて優秀な人を選抜していくという設計の過程におきまして、改善すべき点があるならば徹底的に改善すべきであるということを述べておられます。
 そうしますと、保岡新法務大臣も、鳩山前法務大臣も、ともに平成22年ころには3,000人の司法試験合格者数を目指すという目標に向けて、質を確保しながら法曹人口の拡大を目指していこうといった、この方針につきましては全く変わっていない。共通して、その閣議決定は遵守しますし、その遵守の過程で質の確保が重要であって、質の確保があっての増員であると言っていることは変わりがないというふうに我々事務局も考えてございます。

(引用終わり)

佐々木参事官は、全く変わっていないという。
しかし、質の確保が前提であるとか、あくまで目標であって、到達しないこともある。
こういう部分が消えている。
保岡法相の影響力が及んでいる。
ただ、「質の確保があっての増員である」という部分。
「質の確保が重要」という保岡法相の言葉を言い換えたものである。
読みようによっては、これは質の確保が前提とも解釈できる。
佐々木参事官は、やや事務局に都合のいいように解釈をしている。

なお、当時の鳩山法相の指示で立ち上げられた増員見直しの勉強会は解散したようである。

(平成20年8月20日規制改革会議第10回法務・資格TFより引用、下線は筆者)

○福井主査 法曹人口ですけれども、少し前には、例えば、3,000人は多過ぎるのではないかという議論が法務省の中にもあったように仄聞しておりますが、現在の新大臣体制の下では、それはないと理解してよろしいですか。

○佐々木参事官 前回、そういう観点も踏まえて、大臣の私的な勉強会で検討していたのですが、私的な勉強会でありますから、更にどのような勉強会を、そもそもやるのか、やらないのかということも新大臣の御判断になると思います。

(引用終わり)

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