薬事法事件判例の理解が問われた

1.今年の憲法は、「薬事法事件をちゃんと理解していますか」という問題でした。特に、薬事法事件判例がLRA(より制限的でない他の選びうる手段)の存在を主要な違憲の理由としたのではなく、目的と手段の不均衡を直接の理由として違憲と判断したことについては、意外なほどに知らない人が多いのです。

 

薬事法事件判例より引用、太字強調は筆者)

   無薬局地域等の解消を促進する目的のために設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは、目的と手段の均衡を著しく失するものであつて、とうていその合理性を認めることができない
 本件適正配置規制は、右の目的と前記(2)で論じた国民の保健上の危険防止の目的との、二つの目的のための手段としての措置であることを考慮に入れるとしても、全体としてその必要性と合理性を肯定しうるにはなお遠いものであり、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければならない。

(引用終わり)

 

2.通常のレベルなら行政上・警察上の手段でもって十分である(LRAがある)が、さらに万全の予防的措置を採るとすれば、それは制約の重大性と均衡しているのか。均衡を失しているなら、そのような万全の措置まで要求してはならないから違憲となる。この薬事法のロジックが問われたのが、今年の憲法です。

 

薬事法事件判例より引用、太字強調は筆者)

  現行法上国民の保健上有害な医薬品の供給を防止するために、薬事法は、医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障及び保全上の種々の厳重な規制を設けているし、薬剤師法もまた、調剤について厳しい遵守規定を定めている。そしてこれらの規制違反に対しては、罰則及び許可又は免許の取消等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改繕命令、薬剤師の増員命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、更に行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構として薬事監視員が設けられている。これらはいずれも、薬事関係各種業者の業務活動に対する規制として定められているものであり、刑罰及び行政上の制裁と行政的監督のもとでそれが励行、遵守されるかぎり、不良医薬品の供給の危険の防止という警察上の目的を十分に達成することができるはずである。もつとも、法令上いかに完全な行為規制が施され、その遵守を強制する制度上の手当がされていても、違反そのものを根絶することは困難であるから、 不良医薬品の供給による国民の保健 に対する危険を完全に防止するための万全の措置として、更に進んで違反の原因と なる可能性のある事由をできるかぎり除去する予防的措置を講じることは、決して 無意義ではなく、その必要性が全くないとはいえない。しかし、このような予防的措置として職業の自由に対する大きな制約である薬局の開設等の地域的制限が憲法上是認されるためには、単に右のような意味において国民の保健上の必要性がない とはいえないというだけでは足りず、このような制限を施さなければ右措置による職業の自由の制約と均衡を失しない程度において国民の保健に対する危険を生じさ せるおそれのあることが、合理的に認められることを必要とする

(引用終わり)

 

 3.今回の条例は、「ここまでやるか」という内容ですね。わかりやすいのは、電気自動車です。確かに、ここまでやれば万全ですし、このレベルを要求するなら、他に手段はないでしょう。排出量ゼロを要求するなら、ハイブリッド車でもダメなのです。しかし、そこまで要求するのは、職業活動の自由に対する制約の程度に比して均衡を失していないか、その点が、今年のメイン論点です。

4. これは、講学上の概念で言えば、「相当性」を満たすかという議論です。適合性(関連性)、必要性(LRA不存在)、相当性(法益均衡)の3点を検討するアプローチが流行しているのは、どこがメインになっても拾いやすいからです。刑法各論で構成要件をくまなく検討する方法論に似ていますね。

5.それ以外の点でも、薬事法事件判例の考え方をそのまま応用すれば解答できる点ばかりです。この機会に一度判決全文を読み、その上でもう一度、今年の問題を読んでみることをオススメします。「あっ」と気付く点がたくさんあるでしょう。

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