(規制改革・民間開放の推進に関する第2次答申より引用、太字強調は筆者)
イ 規制に関わる通知・通達等の在り方
当会議は、前述の有識者との意見交換や個別の通知・通達等についての所管府省との意見交換を踏まえ、規制に関わる通知・通達等の在り方について、次のように考える。
(ア)通知・通達等の法的効果について
講学上、行政機関が定める不特定多数の事案に適用されるルールは、「法規命令」と「行政規則」の2つに大きく整理・分類できる。ここでいう「法規命令」とは、行政機関が私人に対し私人の権利・義務に関して定める一般的規律であり、制定の主体に着目した分類として、政令、内閣府令・省令、外局規則等がある。「法規命令」は、私人に対して法的拘束力を有するものであり、基本的に法律の根拠を必要とする。この「法規命令」に対する概念として「行政規則」があり、通知・通達等法令以外の規定とはこの「行政規則」に該当するものと考えられる。通知・通達等は、私人を法的に拘束せず、私人の権利・義務を直接規律しない定めと整理されている。
しかし、例えば、上級行政機関が、所管する法令の解釈を定めてそれを下級行政機関に「通達」のかたちで発出するケースにおいて、当該「通達」は、下級行政機関を法的に拘束する一方、私人を直接法的に拘束する効力を有するものではないが、下級行政機関が当該「通達」に則って法令を解釈適用することにより、当該「通達」を踏まえた法律の運用に抵触した私人に対して下級行政機関が何らかの処分行為を行うことにより、結果として私人が不利益を被るといったように、私人に対して間接的な法的効果を及ぼす場合がある。私人の権利義務に関わる事項について定める通知・通達等に関しては、平等原則や信義則(信頼保護、禁反言の原則)を根拠にして、私人から行政機関に対して通知・通達等に従うよう求めることも考えられ、さらに、行政機関の裁量権行使の基準を定める通知・通達等は、裁判所における法律解釈に際して取り上げられることによって合理性を審査されていると考える余地もある。あるいは、法令違反の行為に対する刑罰が法定されている場合、行政機関が当該法令の解釈を示す通知・通達等は、私人が従うインセンティヴが極めて高く、事実上の強い効果を持つ。以上のように、法令の解釈や運用の基準などを示すことによって、私人の権利義務に関わる事項について定める通知・通達等は、「外部効果」を持つものと言える。
そもそも、法治主義・民主政の下においては、国民代表からなる議会の意思が国民の意思であるとされているが故に国民に法的義務を課すことができると考えられ、国民を法的に拘束する場合には、法律によることが原則である。一方、専門技術的事項は国会の審議になじまないことや、状況の変化に対応した柔軟性を確保するためには「法規命令」に委ねるほうが適切であるとの観点から、国民の権利義務に関する一般的定めをする場合には、法律の委任に基づき「法規命令」のかたちによることができると考えられている。そして、国民の権利義務に関する一般的定めをする場合には、原則としては、こうした法律又は法律の委任に基づく「法規命令」によるべきであると考える。
他方、行政の判断の基準を通知・通達等のかたちで定めることは、行政の透明性、行政の行為に対する予測可能性を高める、公平中立な行政が期待できる等のメリットがある一方で、私人に対する「外部効果」があるものを行政が法律の委任に基づく「法規命令」以外のかたちで定めてよいのかといった問題が生じると考える。通知・通達等で定めることができるものとしては、予測が困難な状況の変化に迅速かつ臨機応変に対応することが特に必要な事項、個別の事案における事情を考慮して判断する必要が大きいために法律又は法律の委任に基づく「法規命令」であらかじめ具体的に規定しつくすことができない事項等、行政機関の判断に委ねることが国民にとって望ましいものに限定することが必要であると考える。
(イ)「外部効果」の有無による通知・通達等の分類
a 「外部効果」があると整理されるもの
(a)行政手続法に定める審査基準・処分基準として取り扱うべきもの
私人の権利に制限を加えたり義務を創設したりするルールは本来法令で定めるべきものであるが、具体の事案の処理に当たって法令の規定のみではその解釈や運用等に疑義が生じる場面も多いことから、法令の解釈や運用に関する事項などについて通知・通達等のかたちで定められることが多い。これら法令の解釈・運用について定める通知・通達等は、結果的に許認可を行う範囲を確定したり、処分を行う場合の基準を明確化したりする効果を持つことにより、私人の権利義務に影響を与えることがある。典型的には行政手続法に定める審査基準ないしは処分基準(地方自治法第245条の9に定める法定受託事務の処理基準を内容とするものの一部も含まれると考えられる。)がこれに当たる。しかし、これまで行政庁が審査基準、処分基準に当たらないとして運用してきた通知・通達等の中にも、前述イ(ア)のように私人の権利義務に「外部効果」を及ぼすものがあると考えられる。
このため、審査基準ないし処分基準の範囲を明確化し、審査基準ないし処分基準としての性格を有することを明示するとともに、次項(b)で述べるように審査基準・処分基準に該当しない通知・通達等についても、私人の権利義務に及ぼす影響等を精査し、私人の権利義務に「外部効果」を及ぼすものについては、審査基準・処分基準に準じた適正な取り扱いを行う必要がある。
審査基準・処分基準については、法律又は法律の委任に基づく「法規命令」で定めるべき部分については、原則として法律又は法律の委任に基づく「法規命令」のかたちで定められるべきものであるが、通知・通達等のかたちで定められるものであっても、以下の観点での見直しを行う必要があると考える。
①通知・通達等の中には、根拠となる法律又は法律の委任に基づく「法規命令」の趣旨・範囲を超えて過剰な規制を定めているものや、法律又は法律の委任に基づく「法規命令」に明確な規定がないにもかかわらず規制を設定しているものが存在する。行政機関が定めることができるのは、あくまでも立法者が法律の枠内で行政機関に認めた判断の余地の範囲内であるべきことからすれば、かかる過剰な規制は法律に違反するものであり、見直されるべきであると考える。
②審査基準・処分基準は、前述のとおり、「外部効果」があるものと考えられることから、このような基準を課長名義や局長名義で定めてよいかといった問題がある。私人に対する「外部効果」があるものを制定・発出することは、所管府省における重大な行為であることを考えれば、その制定・発出の名義は、原則として所管府省名又は大臣名であるべきであり、かかる観点で見直されるべきである。
また、通知・通達等が行政手続法に定める審査基準・処分基準に該当するかどうかについては、その通知・通達等の内容を確認しなければならないのが現状である。所管府省によっては、個々の通知・通達等を一括して行政手続法に定める審査基準・処分基準とする旨の通知・通達等を制定・発出しているケースがあるが、個々の通知・通達等について、行政手続法に定める審査基準・処分基準に該当するかどうかが明らかになっていなければならないと考える。行政手続法に定める審査基準・処分基準として取り扱うべきものについては、個々の通知・通達等について「審査基準」「処分基準」との名称を明記し、行政手続法に定める審査基準・処分基準に該当するものであることを明確にすべきであり、かかる観点で見直されるべきである。
(b)審査基準・処分基準以外のもの
私人の権利義務に関わる事項について定める法律又は法律の委任に基づく「法規命令」について、行政機関としての解釈や、行政機関が運用するための標準を定める通知・通達等で、審査基準・処分基準に当たらないものは、最終的には法令の定めに基づき行政処分を行うとしても、制定・発出時点における行政としての法令解釈・運用の判断基準を定めたものであり、私人に対する「外部効果」があるものと考えられる。(地方自治法第245条の9に定める法定受託事務の処理基準を内容とするものの一部もこれに含まれると考えられる。)
このように、私人の権利義務に関わる事項について定める通知・通達等で、審査基準・処分基準に当たらないものについては、法律又は法律の委任に基づく「法規命令」のかたちで定めることができる部分については法律又は法律の委任に基づく「法規命令」のかたちで定めることが望ましいが、一方で、制定・発出時点において行政機関が最適と考える法令解釈・運用の標準を定めたものであり、法令を個々の事案に適用する段階では事情の変化や個別の事情も考慮されるという性格を踏まえれば、一般的には、法律又は法律の委任に基づく「法規命令」のかたちで定めることになじまないものと理解されている。このような私人に対する「外部効果」を有するものが通知・通達等のかたちで定められている場合においては、以下の観点での見直しを行う必要があると考える。
①これらについては、制定・発出時点において行政機関が最適と考える法令解釈・運用の標準を定めたものであり、所管府省の中には、個別の事案において何らかの行政処分を行うに当たっては法令の定めに従い判断することになるから、私人に対する法的拘束力はないと説明するところもある。一方、私人にとっては、これまでに説明したような「外部効果」があり、当該基準が一種の規律として認識されている。所管府省の説明を踏まえれば、当該基準は「法規命令」と異なり、基本的には絶対的な規律ではないとのことであるから、私人の混乱を招かないよう、このような当該基準の性格について通知・通達等の中で明確にすべきであり、かかる観点で見直されるべきである。
②私人に対する「外部効果」を有する通知・通達等の制定・発出に際しては、私人に対して、当該通知・通達等の内容に関し事前に意思表示を行わせる機会を持つ必要があると考える。例えば、審議会や検討会といった第三者機関による検討、意見公募(パブリック・コメント)等の手続を経るなど、通知・通達等の合理性が確保されているかどうかを事前に確認できることが重要であり、かかる観点で見直されるべきである。
b 「外部効果」がないものと整理される通知・通達等
私人に対する「外部効果」を有しないものとして整理される通知・通達等としては、様々な形式・性格のものがあるが、その典型例としては、(i)行政手続法に定める行政指導指針、(ii)地方自治法第245条の4に定める技術的な助言、勧告を内容とするものが該当すると考えられる。(i)は、私人の任意の協力により実現されるものであり、また(ii)には、法令を解釈・適用する地方公共団体を拘束する効力がなく、いずれも私人に対する「外部効果」を有しないものであることから、(ⅰ)は通知や通達等のかたちで、(ⅱ)は通知等のかたちで定めることに問題はないと考えるが、以下の観点での見直しを行う必要があると考える。
①地方自治法第245条の4に定める技術的な助言、勧告を内容とする通知の中には、全国一律で義務付けを行う方が国民にとって望ましいものが存在する。このような場合、地方分権の精神を念頭に置きつつ、法的拘束力のない技術的な助言、勧告によらずに法律又は政令で定めるべきであり、かかる観点で見直されるべきである。なお、技術的な助言、勧告の場合、それを受ける地方公共団体において当該技術的な助言、勧告を採用するかどうかを判断するためには、当該技術的な助言、勧告の内容がどのような考え方で定められたのかが明確になっている必要があると考える。技術的な助言、勧告をなすに当たっては、推奨される施策の結論だけではなく、その結論に至った考え方も併せてなされることが望ましいと考える。
②現在制定・発出されている通知・通達等は、私人に対し法的効果を有しないかどうかが不明確であり、それが私人の活動を不当に拘束する原因となっている。私人に対し法的効果を有しないのであれば、そのことを明確にする必要があり、このために、当該通知・通達等の冒頭に「この通知・通達等には拘束力はありません」「この通知・通達等に従うかどうかは任意です」という趣旨の注意書きを付するべきであり、かかる観点で見直されるべきである。
(引用終わり)