平成26年司法試験短答式試験の結果について(4)

1.短答の総合評価における寄与度を考えてみましょう。
 総合評価は、短答の得点の2分の1に、論文の得点の800分の1400を加えて算出します(司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について)。ですから、論文の1点は、短答の3.5点に相当するわけです。この換算レートを用いて、短答でどのくらいの水準になると、論文で何点くらいリードできるのか、ということをまとめたのが、以下の表です。

短答の
水準
得点 最下位(210点)
との論文での得点差
短答合格者平均
(243.3点)との
論文での得点差
トップ 317点 30.5点 21.0点
100番 293点 23.7点 14.2点
500番 273点 18.0点 8.4点
1000番 262点 14.8点 5.3点
短答合格者
平均
243.3点 9.5点 ---

2.トップを取ると、短答をギリギリでクリアした人に対して、30.5点のアドバンテージがあります。これは、論文では設問1個分という感じです。これが、短答で付けうる最大限のアドバンテージなのです。大きいと思う人もいるでしょうが、トップを取ってこの程度か、という気もします。
 短答でトップを取れる人が、短答ギリギリセーフの人に対して論文で逆転しないといけない状況になるとは、ちょっと考えにくいですね。そこで、短答合格者平均との差をみてみると、論文換算で21点の差が付きます。これは、小問1~2個分という感じでしょうか。まあ、大きいという感じもしますが、やはりトップを取ってこれか、という感じはありますね。21点という数字はちょうど7で割り切れますから、必須科目7科目で1科目当たりにしてみると、たったの3点です。つまり、短答でトップクラスの点数を取っても、平均短答合格者に対して、必須科目1科目につき3点程度のアドバンテージしか取れない、ということになるのです。この程度の点数差は、論文で基本論点を一つ落とすと簡単に逆転します論文で安定して基本論点を拾う技術を身に付ける方が、優先順位が高いと考えるべきです。
 トップですらこの程度ですから、500番、1000番くらいになると、さらに差は小さくなる。このことは、短答と論文の学習時間の配分を考える際に、参考になるだろうと思います。

3.上記のように、総合評価で差を付けるために短答の勉強をするということは、必ずしも有効とはいえません。しかし、だからといって、単純に論文重視でよいということにはならない。その理由は、以下の2点です。

(1) 短答は勉強量と結果がある程度まで比例するが、論文はそうではない。
(2) 短答の知識は、論文の前提知識となる。

 (1)は、論文の方が現場思考の要素が強いという問題の特性と、得点調整(採点格差調整)によって偏差値化されるために、得点幅が抑制されやすいということが要因です。ただ、そうはいっても、短答もある程度以上の点数になると、細かい知識を追いかける領域に入ってしまいますから、得点効率が落ちてきます。今年の問題でいえば、280点以上が取れる人であれば、それ以上の短答の勉強は、効率的とはいえないでしょう。逆に、合格者平均点である243点にも届かない人は、短答の勉強をすることで、より効率的に点が取れるようになるはずです。
 (2)は、短答用の条文、判例の知識が、論文の前提知識となるということです。ただ、これもある程度以上の水準を超えると、およそ論文では出ない細かい条文、判例を追いかける領域に入りますから、限度がある。上記と同様、今年の問題で280点を超えるような人は、もはや論文の基礎としての知識は十分ですから、論文主体にすべきです。他方、合格者平均243点に届かない場合は、論文の基礎レベルの条文、判例知識も足りていないおそれがありますから、まずは短答の勉強をメインに据えるべきだといえます。
 結論的には、学習初期の頃は短答をメインにして学習し、ある程度短答が取れるような水準になってからは、論文主体に切り替えるのが、効率のよい学習法だ、ということです。

4.ただし、以上のことは、従来の短答7科目時代の話です。来年以降、憲民刑の3科目となった場合に、総合評価としてどのような配分になるのかということは、今のところわかっていません。とはいえ、短答の位置付けが劇的に変化するということはないでしょうから、上記を一応の目安として考えておいて構わないと思います。

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