1.短答の総合評価における寄与度を考えてみましょう。
総合評価は、短答の得点の2分の1に、論文の得点の800分の1400を加えて算出します(司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について)。ですから、論文の1点は、短答の3.5点に相当するわけです。この換算レートを用いて、短答でどのくらいの水準になると、論文で何点くらいリードできるのか、ということをまとめたのが、以下の表です。
短答の 水準 |
得点 | 最下位(210点) との論文での得点差 |
短答合格者平均 (243.3点)との 論文での得点差 |
トップ | 317点 | 30.5点 | 21.0点 |
100番 | 293点 | 23.7点 | 14.2点 |
500番 | 273点 | 18.0点 | 8.4点 |
1000番 | 262点 | 14.8点 | 5.3点 |
短答合格者 平均 |
243.3点 | 9.5点 | --- |
2.トップを取ると、短答をギリギリでクリアした人に対して、30.5点のアドバンテージがあります。これは、論文では設問1個分という感じです。これが、短答で付けうる最大限のアドバンテージなのです。大きいと思う人もいるでしょうが、トップを取ってこの程度か、という気もします。
短答でトップを取れる人が、短答ギリギリセーフの人に対して論文で逆転しないといけない状況になるとは、ちょっと考えにくいですね。そこで、短答合格者平均との差をみてみると、論文換算で21点の差が付きます。これは、小問1~2個分という感じでしょうか。まあ、大きいという感じもしますが、やはりトップを取ってこれか、という感じはありますね。21点という数字はちょうど7で割り切れますから、必須科目7科目で1科目当たりにしてみると、たったの3点です。つまり、短答でトップクラスの点数を取っても、平均短答合格者に対して、必須科目1科目につき3点程度のアドバンテージしか取れない、ということになるのです。この程度の点数差は、論文で基本論点を一つ落とすと簡単に逆転します。論文で安定して基本論点を拾う技術を身に付ける方が、優先順位が高いと考えるべきです。
トップですらこの程度ですから、500番、1000番くらいになると、さらに差は小さくなる。このことは、短答と論文の学習時間の配分を考える際に、参考になるだろうと思います。
3.上記のように、総合評価で差を付けるために短答の勉強をするということは、必ずしも有効とはいえません。しかし、だからといって、単純に論文重視でよいということにはならない。その理由は、以下の2点です。
(1) 短答は勉強量と結果がある程度まで比例するが、論文はそうではない。
(2) 短答の知識は、論文の前提知識となる。
(1)は、論文の方が現場思考の要素が強いという問題の特性と、得点調整(採点格差調整)によって偏差値化されるために、得点幅が抑制されやすいということが要因です。ただ、そうはいっても、短答もある程度以上の点数になると、細かい知識を追いかける領域に入ってしまいますから、得点効率が落ちてきます。今年の問題でいえば、280点以上が取れる人であれば、それ以上の短答の勉強は、効率的とはいえないでしょう。逆に、合格者平均点である243点にも届かない人は、短答の勉強をすることで、より効率的に点が取れるようになるはずです。
(2)は、短答用の条文、判例の知識が、論文の前提知識となるということです。ただ、これもある程度以上の水準を超えると、およそ論文では出ない細かい条文、判例を追いかける領域に入りますから、限度がある。上記と同様、今年の問題で280点を超えるような人は、もはや論文の基礎としての知識は十分ですから、論文主体にすべきです。他方、合格者平均243点に届かない場合は、論文の基礎レベルの条文、判例知識も足りていないおそれがありますから、まずは短答の勉強をメインに据えるべきだといえます。
結論的には、学習初期の頃は短答をメインにして学習し、ある程度短答が取れるような水準になってからは、論文主体に切り替えるのが、効率のよい学習法だ、ということです。
4.ただし、以上のことは、従来の短答7科目時代の話です。来年以降、憲民刑の3科目となった場合に、総合評価としてどのような配分になるのかということは、今のところわかっていません。とはいえ、短答の位置付けが劇的に変化するということはないでしょうから、上記を一応の目安として考えておいて構わないと思います。