1.論文合格者数等の予測です。昨年と短答合格者数がほとんど変わらなかったことからすれば、今年も同じようなものではないか。すなわち、論文合格者数は380人前後で、難易度も同じくらい。これが、最も単純な予測です。結果的には、このようになるかもしれません。
しかし、そのような予測をするためには、これまで一貫して合格者数が増えてきた原因と、他方でこれを抑制する要因があるのか、という点を考えてみる必要があります。前者が合格率の均衡であり、後者が予備論文の合格点の下限の問題です。
2.合格率の均衡とは、ロー修了生と予備合格者の司法試験合格率を事後的に同水準にする、という原則です。
(規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定)より引用、太字強調は筆者)
法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争となるようにするため、予備試験合格者数について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。
これは、法科大学院修了者と予備試験合格者とが公平な競争となることが根源的に重要であることを示すものであり、法科大学院修了者と同等の能力・資質を有するかどうかを判定することが予備試験制度を設ける趣旨である。両者における同等の能力・資質とは、予備試験で課せられる法律基本科目、一般教養科目及び法律実務基礎科目について、予備試験に合格できる能力・資質と法科大学院を修了できる能力・資質とが同等であるべきであるという理念を意味する。
(引用終わり)
上記のポイントは、「事後的には」という部分です。毎年、予備とロー生の合格率が同じになる必要はないが、予備の方が合格率が高い場合には、予備試験で絞りすぎていることを意味するから、以降の予備試験を緩和する。このような運用をすることによって、事後的に合格率が均衡するようにしていこうということです。
上記の閣議決定は、今のところ、まだ生きているというのが政府の理解です。今後これが見直される可能性はありますが、逆に言えば見直されるまでは、これに沿った運用がされるということです。
(法曹養成制度改革顧問会議第7回議事録より引用、太字強調は筆者)
○吉戒顧問 確認ですけれども、先ほど松本副室長の方から御説明のあった3か年計画の一番おしまいのものですね、平成21年の3月31日の閣議決定があります。これの現状はどうなっているのかなのですけれども、3年経ってしまったので、これはもう失効していると、そして、更なる計画はないというふうに見ていいのか、そこらあたりはどうなのですか。
○松本副室長 端的に申し上げますと、まだ、これは死んでいないという位置づけでございます。
(引用終わり)
昨年の司法試験で、予備試験合格者は上位ローにもかなりの差を付けて、トップの合格率でした(※)。これを受けて、昨年の予備の論文合格者は前年より148人も増えた。そうすると、9月に出る今年の司法試験の結果において、予備合格者の合格率がロー生全体の合格率より高いのであれば、今年の予備試験も、昨年より合格者数を増やさなければならない、ということになります。ほぼ間違いなく、予備組の方が合格率が高いでしょうから、合格者増は確定、と考えてよさそうにも思えます。
※上位ロー既修に限定すれば、実はほぼ予備組と同水準でした(「平成25年司法試験の結果について(6)」)。とはいえ、上記閣議決定は、上位ロー既修ではなく、法科大学院修了者全体の合格率との均衡を要求していますから、いずれにしても、現状は予備を絞りすぎている、という評価は変わらないでしょう。
3.しかし、現在のようにロー在学生が自由に予備を受験できる状況では、予備の合格者をどんなに増やしても、合格率の均衡は達成されません。
予備の合格者を増やすと、その分だけロー在学生は予備に受かり易くなり、上位者からどんどん抜けていきます。従って、ロー修了生の資格で受験する人は、「在学中予備に受からなかった人」ということになる。先に予備に受かった上位者と、在学中予備に受からなかったロー修了生の合格率が、均衡するはずはありません。どんどん予備を簡単にしても、その簡単な予備にも受からない修了生との合格率の均衡が求められる。際限がありません。予備合格者の数を極限まで増加させた先にあるのは、「予備が簡単過ぎてロー在学生が全員合格してしまい、わざわざローを修了する人がいなくなる」という状況です。
このようなことは、少し落ち着いて考えればすぐわかることですから、額面どおりに合格率均衡を実現するわけにはいかない。このことは、司法試験委員会もわかっているでしょう。どこかで、歯止めとなる防壁が必要となる。その防壁となり得るのが、冒頭で紹介した合格者数抑制要因である合格点の下限です。これについては、次回お話ししたいと思います。