民事系第3問設問1の参考裁判例

広島高判昭40・1・20より引用、太字強調は当サイトによる)

 裁判上の和解は、裁判所又は裁判官の面前で争いある事件につき互に譲歩してその争を終了せしめる当事者間の合意である。そして右合意は私法上の和解に外ならないのであるが、その私法上の和解は、訴訟行為たる裁判上の和解の一つの構成要素であつて、裁判上の和解が有効に成立するためには、その要素である私法上の和解が有効に成立すると同時に、更に訴訟法上の要件の具備をも必要とする。すなわち、裁判上の和解は私法上の和解を含む一の訴訟行為であつて、私法上の和解に荷われた存在というべきものである。従つて、基礎となる私法上の和解が何等かの理由により無効となるならば、裁判上の和解もまた当然無効となることは明らかである。しかし、その反対に裁判上の和解が訴訟法上の要件の欠缺のために無効となつても、そのためにその基礎たる私法上の和解が常に無効となるとは限らない。たとえば裁判官が関与せず裁判所書記官のみの面前でなされたというが如き理由によつて裁判上の和解が無効となつても、そのために右書記官の面前で成立した私法上の和解もまた当然に無効となるいわれはない。勿論、訴訟行為たる裁判上の和解の無効原因が同時に私法上の和解の無効原因となる場合のあることは明らかであるが、その場合でも私法上の和解が無効となるのは裁判上の和解が無効となつたためではない。裁判上の和解が訴訟行為として無効となつても、その基礎たる私法上の和解の効力については別にそれが実体法上の要件を充足しているか否かを判断してその有効、無効を定むべきものである。

(引用終わり)

戻る