民事系第3問設問3の参考判例

 最高裁判所第二小法廷判決 昭和43年03月15日より引用、太字強調は当サイトによる)

 一般に、不法行為による損害賠償の示談において、被害者が一定額の支払をうけることで満足し、その余の賠償請求権を放棄したときは、被害者は、示談当時にそれ以上の損害が存在したとしても、あるいは、それ以上の損害が事後に生じたとしても、示談額を上廻る損害については、事後に請求しえない趣旨と解するのが相当である。
 しかし、本件において原判決の確定した事実によれば、被害者Dは昭和三二年四月一六日左前腕骨複雑骨折の傷害をうけ、事故直後における医師の診断は全治一五週間の見込みであつたので、D自身も、右傷は比較的軽微なものであり、治療費等は自動車損害賠償保険金で賄えると考えていたので、事故後一〇日を出でず、まだ入院中の同月二五日に、Dと上告会社間において、上告会社が自動車損害賠償保険金(一〇万円)をDに支払い、Dは今後本件事故による治療費その他慰藉料等の一切の要求を申し立てない旨の示談契約が成立し、Dは右一〇万円を受領したところ、事故後一か月以上経つてから右傷は予期に反する重傷であることが判明し、Dは再手術を余儀なくされ、手術後も左前腕関節の用を廃する程度の機能障害が残り、よつて七七万余円の損害を受けたというのである。
 このように、全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない

(引用終わり)

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