平成26年司法試験予備試験論文式行政法参考答案

第1.設問1

1.不許可処分の実体的要件

(1) 占用許可申請を拒否する処分と理解する場合

 占用不許可処分をするためには、新たな申請を拒否するための要件を充足すれば足りる。

(2) 占用許可の撤回処分と理解する場合

 占用不許可処分をするためには、授益的行為(行手法2条3号)を撤回するための要件を充足する必要がある。
 授益的行為の撤回をするためには、相手方の信頼保護の観点から、原則として相手方の同意又は帰責事由を要する。それ以外の場合でも、高度の公益性があるときは撤回が許される余地があるが、その場合には相手方の不利益に対する相当の補償を要する。
 本件で、占用許可の相手方であるCの同意はない。また、撤回の必要性は本件事業の構想によるから、Cの帰責事由によって生じたものではない。もっとも、本件事業に上記高度の公益性があると認められる余地はある。
 以上から、本件不許可処分は、撤回の要件を欠く違法なものであるか、仮に適法であるとしても、Cは相当の補償を受けることができる。従って、Cにとって利点がある。

2.不許可処分の手続的要件

(1) 占用許可申請を拒否する処分と理解する場合

 原則として理由の提示が必要である(行手法8条1項)。

(2) 占用許可の撤回処分と理解する場合

 撤回は不利益処分(同法2条4号柱書)であるから、理由の提示(同法14条1項)に加えて、聴聞の手続を要する(13条1項1号イ)。聴聞の機会がある点において、Cにとって利点がある。

3.提起すべき訴訟

(1) 占用許可申請を拒否する処分と理解する場合

 占用許可処分の申請型義務付けの訴え(同法3条6項2号、37条の3第1項2号)に加えて、占用不許可処分の取消しの訴え(行訴法3条2項)を併合提起する必要がある(同法37条の3第3項2号)。

(2) 占用許可の撤回処分と理解する場合

 占用不許可処分の取消しの訴えのみを提起すれば足りる。併合提起を要しない点で、Cにとって利点がある。

第2.設問2

1.小問(1)

(1) 地方自治法238条の4第7項は、行政財産が本来的に公用又は公共用に供される財産であり(同法238条4項)、性質上私人の自由な目的外利用は認められないとする趣旨から、当該行政財産の用途又は目的を妨げる利用については許可をすることはできないものとし、その用途又は目的を妨げない場合であっても、許可をしない余地を認めている(「することができる」)。

(2) これに対し、法39条2項は、漁港の区域内の公共空地の利用につき、漁港の保全に著しく支障を与える場合等以外の場合に、許可をしない余地を認めない(「しなければならない」)。これは、漁港の区域内の公共空地については、法の目的を促進する利用(以下「目的内利用」という。)を広く認めるべきであるとする立法政策に基づき、地方自治法238条の4第7項が広く許容する効果裁量を羈束する趣旨の特別の規定である。

(3) 以上のように、地方自治法238条の4第7項の基準に従って判断する法律論は、A県知事の効果裁量を羈束されないという点で、A県側に利点がある。

2.小問(2)

(1) 法39条2項又は地方自治法238条の4第7項の基準によって判断するためには、本件不許可処分が撤回ではなく、申請拒否処分であることを要する。
 期間の定めのない行政財産の使用権は、行政財産本来の必要を生じた時に消滅する(判例)。このことは、期間の定めがある場合において、行政財産本来の必要を生じた後に当該期間が満了したときにも妥当する。
 本件では、本件事業の構想が取りまとめられた後に占用期間が満了したから、行政財産本来の必要を生じた後に期間が満了したときに当たる。従って、期間満了によりCの占用権は消滅するから、本件不許可処分は、新たな占用権取得のための許可申請を拒否する処分である。

(2) では、本件における占用の許否は、法39条2項の基準に従って判断すべきか。

ア.漁港の区域内の公共空地も行政財産である以上、本来の用途又は目的を妨げる利用は性質上許されない。ところが、法39条2項はその用途又は目的を妨げないことを許可要件としていない。これを合理的に解釈するには、同項の趣旨は目的内利用を広く認めるべきとの立法政策にあることから、許可対象が目的内利用に限られることとなる結果、その用途又は目的を妨げるものは当然に対象から除外されるためと考えるべきである。
 以上からすれば、法39条2項の基準に従って判断すべき場合とは、許可対象が目的内利用である場合に限られる。

イ.本件では、Cの経営する飲食店は、かつては本件公共空地の近くにあった魚市場の関係者によって利用されており、その占用は「豊かで住みよい漁村の振興」(法1条)を促進するものであった。
 しかし、現在では、同魚市場は関係施設も含め完全に撤去され、Cの飲食店は観光客などの一般利用者をターゲットとしているというのであるから、もはや法1条の定める目的を促進するものとはいえなくなっている。

ウ.以上から、本件は目的内利用の場合には当たらないから、法39条2項ではなく、地方自治法238条の4第7項の基準に従って判断すべきである。

(3) よって、A県側の主張する法律論は認められる。

以上

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