平成26年司法試験予備試験論文式民法参考答案

第1.設問1

1.【事実】7のAの請求は、請負人の担保責任に基づく瑕疵修補請求である(634条1項)。

2.Cの反論として、B邸のタイルと同一の商品名であって、耐火性、防水性等の性能も同一であるから「瑕疵」に当たらないというものが考えられる。
 請負人の債務には当然に瑕疵のない仕事の完成が含まれているから、634条は債務不履行の特則である。従って、634条1項の「瑕疵」には、通常有すべき性能・品質を欠く場合のみならず、特に約定され、契約の重要な内容となっている性能・品質を欠く場合も含む(約定違反の太さの鉄骨が使用された事案に関する判例参照)。
 本件では、Aは、発注前のCとの打合せの際に、実際にB邸をCに見せている。これは、外観を重視するAの意思の現れと評価できる。これに対し、Cは、Aの希望に沿った改修工事が可能である旨を伝え、請負契約の締結に至ったのであるから、B邸と同様の外観を有するタイルを用いるということは、特に約定され、契約の重要な内容となっている性能・品質であるといえる。従って、上記の性能・品質を欠いた点において、「瑕疵」がある。
 よって、Cの反論には理由がない。

3.Cの反論として、契約当時は原材料まで同一のタイルを用いるべきことは予見不能であったから、過失がないとするものが考えられる。
 しかし、請負人の担保責任は無過失責任であるから、上記反論はそれ自体失当である。

4.Cの反論として、3か月以内という期間は「相当の期間」に当たらないというものが考えられる。
 「相当の期間」(634条1項本文)とは、修補に通常必要な期間をいう。本件では、B邸で使用したタイルと完全に同じものは、注文を受けてから2週間で製作可能であり、従前の契約期間が1か月であったことを考慮すれば、3か月以内という期間は修補に通常必要な期間として十分である。従って、Aの定めた期間は、「相当の期間」に当たる。
 よって、Cの反論には理由がない。

5.Cの反論として、634条1項ただし書の場合に当たるというものが考えられる。
 同ただし書の「瑕疵が重要でない」の判断は、契約の目的等を考慮して決すべきところ、本件では、前記2のとおり、B邸と同様の外観を有するタイルを用いることが契約の重要な内容であったから、「瑕疵が重要でない」とはいえない。そうである以上、修補に過分の費用を要するか否かにかかわりなく、同ただし書の適用はない。
 よって、Cの反論には理由がない。

6.以上から、【事実】7のAの請求は認められる。

第2.設問2

1.AのCに対する損害賠償請求は、634条2項に基づくところ、Aには財産的損害は生じていないから、Aが被った精神的苦痛が「損害」に含まれるか、含まれるとしても、外壁改修により通常生じる損害とは異なる特別損害であることから、賠償の範囲(416条2項)に含まれるかが問題となる。

2.「損害」とは不利益な事実そのものである(損害事実説)とし、416条は両当事者が契約時に織り込んだ範囲に保護範囲を限定する趣旨の規定である(保護範囲説)とする考え方がある。この考え方によれば、416条2項の「当事者」とは、両当事者を指し、同項の予見可能性の基準時は、契約時と考えることになる。
 上記の考え方から本件をみると、Aが被った精神的苦痛自体が「損害」となるが、契約時にはA及びCのいずれも、Cが当初用意した「シャトー」による施工ではB邸と同一の外観とならない点を予見し得なかったとして、Aの損害賠償請求は認められないとする帰結となり得る。

3.しかし、上記の考え方は、損害の金銭的評価を裁判所の自由裁量とする点で、損害額まで主張・立証の対象とする現在の判例・実務との乖離が大きく、また、結論的にも裁判所に過大な権限を付与するものであって、妥当とはいえない。
 そこで、「損害」とは債務不履行がなかった場合との利益状態の差額である(差額説)と考えるべきである。もっとも、差額説からも、精神的苦痛については、その差額を観念することが困難であることから、具体的金額について裁判所の裁量的な認定を許容すべきである。
 また、416条は、賠償の範囲を相当因果関係のある損害に限定する趣旨の規定である(相当因果関係説)と考えるべきである。この考え方からは、同条2項は債務者が債務不履行時に予見可能な範囲であれば帰責しても酷ではないとする趣旨と考えることになるから、「当事者」とは、債務者をいい、基準時は債務不履行時である。

4.以上を本件についてみると、Aが被った精神的苦痛を考慮して裁判所が相当と認める額が「損害」となる。そして、634条2項の責任の発生時点は目的物引渡時である(判例)ことから、引渡時のCに予見可能性があったかを考えるべきことになる。そこで検討すると、Cは、工事開始時に現場に立ち会ったAから、色がB邸のものとは若干違うのではないかとの疑問を提起されていた。この時点においては、Cにおいて、再度E社に色合いまで含めて同一であるかを問い合わせる動機が存在していたということができる。従って、目的物引渡時において、Cには、工事開始時に使用していた「シャトー」のままで施工すれば、B邸と異なる外観となり、Aに精神的苦痛を生じさせることについて、予見可能性があったといえる。

5.よって、AによるCに対する損害賠償請求は、認められる。

以上

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