第1.設問1
1.Xの採り得る方法として、Wに対する建物退去土地明渡しを求める訴訟を別訴として提起した上で、裁判所に本件訴訟との弁論の併合(152条1項)を求めることが考えられる。
(1) 弁論を併合するためには、共同訴訟の要件(38条)を充たす必要がある。
本件では、本件訴訟は乙建物収去甲土地明渡しを求めるものであるのに対し、Wに対する訴訟は乙建物退去甲土地明渡しを求めるものである。建物収去と建物退去は執行方法の違いに過ぎないから、訴訟の目的であるY及びWの義務は同一の甲土地明渡義務である。従って、義務共通(同条前段)の場合に当たり、共同訴訟の要件を充たす。
(2) もっとも、この方法では、裁判所の裁量により併合するか否かが判断されることになるので、Xにとって確実な方法とはいえない。
2.そこで、Xの申立てにより当然に本件訴訟に併合される方法として、主観的追加的併合の可否を検討する。
(1) 主観的追加的併合とは、係属中の訴訟に第三者が当事者として追加されて共同訴訟となる併合形態をいう。
(2) 判例は、訴訟の複雑化、濫訴の増加、訴訟遅延等の弊害を理由として、主観的追加的併合を否定する。しかしながら、判例はあくまで一般論を示したに過ぎず、併合審理の必要があり、かつ上記判例の理由とする弊害の生じるおそれが認められない場合には、上記判例の趣旨は及ばないと考えられるから、主観的追加的併合の方法を採ることができる。
(3) 本件で、本件訴訟の既判力及び執行力は、Wに及ばない(115条1項1号)。従って、本件訴訟の目的である甲土地の明渡しを実現するためには、Wに対する債務名義を要するところ、本件訴訟とWに対する訴訟を別々に審理・判決する場合には認定判断が異なるおそれがあるから、証拠共通の作用する併合審理とする必要性がある。
また、本件訴訟とWに対する訴訟は、執行方法が異なるに過ぎず、訴訟物は同一である。従って、両訴訟の争点及び証拠は共通する。さらに、共同被告となる者はYとWの2名だけであり、設問1の時点において、YW間に利害対立がある等の事情はうかがわれない。仮に、事後にYW間の利害対立等が顕在化した場合には、その時点で弁論を分離することも可能である。そうである以上、訴訟の複雑化や訴訟遅延のおそれがあるとはいえない。そして、本件訴訟の認容判決を執行するためには、必然的にWに対する債務名義も必要となることからすれば、Wに対する提訴はいずれにせよ必要となるのであるから、濫訴のおそれも認められない。
よって、判例の指摘する弊害が生じるおそれは、認められない。
(4) 以上から、Xは、主観的追加的併合の手段を採ることができる。
第2.設問2
1.Yの陳述が裁判上の自白(179条、以下単に「自白」という。)に当たり、その当事者拘束力が設問の各場合におけるWにも及ぶかが問題となる。
2.まず、Yの陳述が自白に当たるかを検討する。
自白とは、相手方の主張する自己に不利益な事実を認める旨の一方当事者の期日における陳述をいう。
本件訴訟において原告Xの主張すべき請求原因は、Xの甲土地所有及びYの甲土地占有であるところ、本件売買契約締結の事実は、Xの甲土地所有を基礎付ける事実である。従って、本件売買契約締結の事実は、相手方の主張する自己に不利益な事実である。そして、Yの陳述は、本件訴訟の口頭弁論期日にされた。
よって、Yの陳述は、自白に当たる。
3.自白には、不要証効(179条)のみならず、当事者が当該事実を争うことができないという当事者拘束力がある。設問の各場合において、当事者拘束力がWに対する関係でも生じるかを検討する。
(1) ①の場合
Wの参加は、本件訴訟の係属中に訴訟の目的である甲土地明渡義務を承継したことを主張してする訴訟参加であるから、参加承継(51条)である。
参加承継人は、参加するまでの訴訟状態に拘束される。なぜなら、口頭弁論終結後の承継人に既判力が及ぶ(115条1項3号)ことと同様に、いわば生成中の既判力が参加承継人に及ぶと考えられるからである。
本件では、Wの参加前にYの自白がされたから、これにより発生した当事者拘束力にWも拘束される。
よって、Wは、本件訴訟において、本件売買契約締結の事実はないと主張することはできない。
(2) ②の場合
Wの参加後においては、必要的共同訴訟の規律が及ぶから、Yの自白は効力を生じない(51条、47条4項、40条1項)。
よって、Wは、本件訴訟において、本件売買契約締結の事実はないと主張してXの甲土地所有権を争うことができる。
(3) ③の場合
Wに訴訟を引き受けさせる旨の裁判所の決定により、義務承継人の訴訟引受けの効果が生じる(50条1項)。
訴訟引受けの生じた訴訟は、同時審判申出訴訟の規律に従う(50条3項)。同時審判申出訴訟は通常共同訴訟であるから、共同訴訟人独立の原則(39条)により、共同訴訟人の1人のした自白は、他の共同訴訟人を拘束しない。
従って、本件で、Yの自白は、Wを拘束しない。
よって、Wは、本件訴訟において、本件売買契約締結の事実はないと主張してXの甲土地所有権を争うことができる。
以上