第1.設問1
1.刑訴法316条の5第3号、5号、同規則208条3項に基づき、「被告人は、Bが乗車した際にバットを持っていることを認識していた」とする間接事実の立証趣旨及び共謀成立時につき求釈明を求める。
なぜなら、「なお」書きの記載ではいかなる犯罪事実と関連する間接事実であるかが明らかでないから、その立証趣旨が明らかにされる必要があり(同規則217条の20、189条1項参照)、仮に、バットの認識を通じて暗黙のうちに強盗の共謀に至ったと主張する趣旨であれば、共謀成立時はBの助手席乗車時となって、証明予定事実と異なることになるからである。
第2.設問2
1.Vの警察官調書
(1) 刑訴法316条の15第2項1号の事項
ア.証拠の類型
Vは甲4号証の供述者であり、同証不同意の場合にはVの証人尋問が予定されていると考えられるから、同条1項5号ロに該当する。
イ.識別事項
本件についてVを取り調べて作成した警察官調書のうち、被害状況に関する供述を含むもの。
(2) 同条2項2号の事項
警察官調書には、事件直後のVの供述が録取されているから、甲4号証の証明力を判断するために重要である。
2.甲1号証の診断に係る診療録(カルテ)
(1) 同項1号の事項
ア.証拠の類型
診療録(カルテ)は特信文書(同法323条2号)と解されるところ、同法316条の15第1項各号が同法323条の書面を直接規定していないのは、特信文書が捜査過程で作成される書面ではなく、その存在、状態等も証拠資料となる書面であることから、証拠物たる書面として1号類型に含まれるからである。
よって、同法316条の15第1項1号に該当する。
イ.識別事項
甲1号証の診断の基礎となった診療録(カルテ)のうち、被害状況に係るVの供述に基づく内容を含むもの。
(2) 同条2項2号の事項
診療録(カルテ)には、診断に当たった医師がVから聴取した内容が含まれるから、甲4号証の証明力を判断するために重要である。
3.甲3号証に係る鑑定書
(1) 同項1号の事項
ア.証拠の類型
鑑定受託者の鑑定書には、同法321条4項が準用される(判例)。よって、同項4号に該当する。
イ.識別事項
甲3号証に係る鑑定書であって、付着物に関するもの。
(2) 同法316条の15第2項2号の事項
Vがバットで殴られたとすれば、バットにVの皮膚組織等が付着するはずであるから、甲4号証の証明力を判断するために重要である。
第3.設問3
1.実行正犯たるBに強盗致傷罪が成立しないこと
強盗の実行行為である暴行は、反抗を抑圧するに足りる程度のものでなければならない。甲5号証によれば、Bは、かばんをつかんで後ろに引っ張ったに過ぎず、反抗を抑圧するに足りる暴行を加えていない。従って、Bに強盗致傷罪は成立せず、窃盗罪及び傷害罪が成立するにとどまる。従って、Aに強盗致傷の共同正犯が成立する余地はない。
2.窃盗罪の正犯意思を欠くこと
共同正犯と幇助の区別は、犯行における役割の重要性、謀議への関与の程度、利益の帰属の程度等を総合考慮して自己の犯罪としてしたと認められるか否かによって判断する。甲5号証によれば、窃盗につき、Aは、車の運転役を引き受けたに過ぎない。どうやってかばんなどを奪うのかという具体的な犯行計画についても、Bから話を聞いていない。奪った現金10万円のうち、Bから受け取ったのは2万円のみである。以上を総合すると、Aが自己の犯罪としてしたとは認められない。従って、Bの犯行を容易にした点について、窃盗幇助となるにとどまる。
3.傷害罪についての共犯が成立しないこと
本件における暴行ないし傷害に係る共謀又は幇助の故意の有無は、Bのバット所持についてのAの認識の有無による。甲5号証には、「当然気付いていたと思う」旨のBの認識が示されているが、バットについてのAの認識を基礎付ける具体的事実は示されていない。甲5号証によれば、Bはどうやってかばんなどを奪うのかについて、Aに話していない。そうである以上、Aが、Bのバット所持を認識していたとは認められない。従って、傷害罪につき、Aに共犯は成立しない。
4.よって、Aは、窃盗幇助(刑法62条1項、235条)の罪責を負うにとどまる。
第4.設問4
1.Aの公判において、検察官は、Bの証人尋問を請求(刑訴法298条1項)すべきである。これに対し、Aの弁護人は、同法316条の32第1項に違反するとして異議を申し立てる(同法309条1項、同規則205条1項)ことが考えられる。しかし、本件では、公判前整理手続後のBの新供述によって証人尋問の必要を生じたのであるから、同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があり、証人尋問の請求は適法である。よって、裁判所は決定で、異議を棄却する(同規則205条の5)。
2.Bが、証人尋問において証言を拒絶(同法146条)し、又はBの公判供述と異った供述をした場合には、検察官は、Bの公判調書を証拠請求すべきである。これに対し、Aの弁護人は不同意とする(同法326条1項)ことが考えられるが、同法321条1項1号に基づき、裁判所はこれを証拠とすることができる。
以上