1.今回は、科目別の平均点、最低ライン未満者の状況をみていきます。以下は、直近5年間の科目別の平均点及び最低ライン未満者割合の推移です。今年は3科目となったので、公法は憲法、民事は民法、刑事は刑法を示します。また、平均点の括弧内には、昨年以前との比較のため、倍にした数字を示しました。
年 | 公法系 平均点 |
民事系 平均点 |
刑事系 平均点 |
公法系 最低ライン 未満割合 |
民事系 最低ライン 未満割合 |
刑事系 最低ライン 未満割合 |
23 | 59.3 | 102.6 | 57.3 | 4.4% | 1.7% | 8.0% |
24 | 54.8 | 97.6 | 72.0 | 11.3% | 3.2% | 1.3% |
25 | 65.1 | 104.8 | 63.1 | 2.9% | 1.4% | 5.2% |
26 | 61.0 | 99.8 | 57.9 | 3.9% | 3.9% | 9.0% |
27 | 32.8 (65.6) |
51.6 (103.2) |
36.3 (72.6) |
2.3% | 4.1% | 4.3% |
公法(憲法)の平均点をみると、易しめだった平成25年に近い数字です。最低ライン未満者数も、同じくらいになっています。
民事(民法)は、平均点をみると、易しめだった平成23年と平成25年の間くらい。ところが、最低ライン未満者割合をみると、直近5年で最大の数字になっています。
刑事(刑法)も同様です。平均点をみると、易しめだった平成24年に近い数字。ところが、最低ライン未満者割合は、平成23年や昨年ほどではないものの、平成24年と比べるとかなり高い数字になっています。
今年、最も平均点が低かったのは、憲法でした。他方、最も平均点が高かったのは刑法でした。民法は、憲法と刑法の中間くらいの平均点です(※1)。ところが、最低ライン未満者数をみると、憲法が188人と最も少なく、民法が336人、平均点が最も高かった刑法は、350人と最も最低ライン未満者が多かったのです。
普通に考えると、平均点が高い問題は、多くの人が点を取れるわけですから、最低ライン未満者も少ないはずです。逆に、平均点が低ければ、多くの人が点を落としますから、最低ライン未満者も多くなる。過去の数字をみても、概ねそのように推移しています。しかし、それが今年は逆の結果になっているのです。この逆転現象が、今年の特徴といえるでしょう。
※1 民法の51.6点は、50点満点に換算すると、34.4点となります。
2.なぜ、このような逆転現象が生じるのでしょうか。その謎を解く鍵は、得点分布にあります。以下は、法務省の公表した得点別人員調を、より大掴みなものに集計し直したものです。
憲法 | 民法 | 刑法 | |||
得点 | 人員 | 得点 | 人員 | 得点 | 人員 |
40~50 | 1202 | 60~75 | 2044 | 40~50 | 3299 |
30~39 | 4433 | 45~59 | 3958 | 30~39 | 2989 |
20~29 | 2114 | 30~44 | 1599 | 20~29 | 1299 |
10~19 | 187 | 15~29 | 332 | 10~19 | 336 |
0~9 | 1 | 0~14 | 4 | 0~9 | 14 |
憲法は、真ん中辺りに集中し、得点のバラ付きが少ないことがわかります。他方、刑法は、40点以上が3千人以上いる一方で、20点未満が350人もいる。すなわち、得点のバラつきが大きい。民法は、その中間という感じになっています。この得点のバラ付きの違いが、前記のような逆転現象を引き起こしていたのです。
なぜ、得点のバラ付きが逆転現象を引き起こすのか。極端な数字で確認しておきましょう。憲法の得点が、全員21点だったとします。この場合、平均点は21点と非常に低いですが、最低ライン20点未満の者は、1人もいません。他方、刑法の得点が、全体の9割の人が満点(50点)で、他の1割の人が0点だったとしましょう。この場合、平均点は45点と非常に高くなりますが、最低ライン未満者割合は10%にもなってしまいます。このように、平均点が低くても、バラ付きが小さいと最低ライン未満者は少なくなり、平均点が高くても、バラ付きが大きければ最低ライン未満者は増えるのです(※2)。
※2 このことは、論文でも生じることです。ただ、論文には得点調整(採点格差調整)があります。得点調整がなされると、標準偏差が一定に調整され、バラ付きの格差はなくなります。そして、法務省が公表する得点別人員は得点調整後の数字ですが、最低ラインの判定は素点ベースで行われる。このことが、論文でのデータの読み方を複雑にしています。予備校やローの関係者でも、誤解している人が多いところです。
3.では、なぜ、今年の憲法はバラ付きが小さく、刑法はバラ付きが大きかったのでしょうか。その原因は、問題の質にあります。
今年の憲法を解いた人は気付いたと思いますが、曖昧な表現の肢が多かった。読み方によって、正しいとも誤りとも読めそうな肢です。そういった曖昧な肢の多い問題が出題された場合、知識のある人でも迷います。このことが、上位層の得点を抑えたのです。他方で、易しい問題は、極端に易しかった。そのため、勉強不足の人であっても、何とか20点を確保できた。その結果、中央に密集する得点分布となったわけです。
一方、刑法は、知識のある人がみれば、紛れのある肢はほとんどなかったという印象です。この問題なら、満点を取りたい。実際のところ、今年の刑法は、満点を取った人が182人もいます。これは、憲法の満点が8人、民法の満点が9人であったことと比べると、突出しています。そのくらい、今年の刑法は確実に点が取れる問題だったのです。他方で、極端に易しい問題は少なかった。論理問題は、旧試験を経験している人からすれば極端に易しいのですが、慣れていない現在の受験生にとっては、それなりに難しかったのでしょう。場合によっては、論理問題を捨ててしまった人もいたのかもしれません。結果的に、勉強不足の人は、ほとんど点が取れなかった。そのために、上下にバラ付きの大きい得点分布となったのです。
民法に関しては、どちらかというと刑法に近い印象です。知識があれば、それほど紛れはなかった。ただ、やや細かい知識も問われたので、刑法ほどは上位陣が伸びなかったのでしょう。
4.上記のように、今年の憲法は、実力者でも高得点を取りにくい問題でした。他方、刑法は、実力者であれば満点を狙えるような問題だったわけです。ですから、例えば、今年どの科目も6割、すなわち、憲法30点、民法45点、刑法30点の合計105点で不合格になった場合、憲法はある程度やむを得ません。しかし、民法、刑法は明らかに勉強不足です。来年に向けて、今から学習計画を見直しておくべきでしょう。
短答は、基本的には勉強時間さえ確保すれば、ダイレクトに得点につながります。勉強方法に迷ったなら、とにかく肢別の問題集をこなすことです。過去問ベースの肢別本と、新作問題ベースの伊藤塾の肢別問題集を全肢潰しましょう。「肢別本はやりました」という人の中には、漫然と3回程度回した、というくらいの人が多いのですが、それではあまり意味がありません。各肢について、正しいのであれば、それは条文か判例か学説か。誤りなら、どの部分が誤りで、正しくはどうなのか。そこまで詰めて解答できて初めて、その肢は潰したといえるのですね。その状態になるまで、全肢を潰していく。これができたなら、短答で苦しむということは、まず無くなるはずです。また、どうしても肢別形式で勉強するのが嫌だ、という人は、レックの柴田講師の一問一答式の問題集を使ってもよいでしょう。