1.短答の論文に対する寄与度をみてみましょう。
従来は、短答の得点の2分の1に、論文の得点の800分の1400を加えて総合評価を算出していました(司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について(平成26年のもの))。今年からは、総合評価の点数は、短答の得点に、論文の得点の800分の1400を加えて算出されます(司法試験における採点及び成績評価等の実施方法・基準について)。昨年までと比較すると、短答の得点を2で割らずに、そのまま加算する点が異なっています。もっとも、満点が従来の350点の半分(175点)となったので、総合評価の際の短答と論文全体の比重は、従来と変わりません。
2.満点をベースにして総合評価段階の比重をみてみると、短答:論文=175:1400=1:8ということになります。論文は、憲法、行政法、民法、商法、民訴法、刑法、刑訴法、選択科目の8科目があります。そう考えると、1:8という比重から、短答は9個目の科目、と位置付けることもできるでしょう。そう考えると、意外と大きいという感じもしますが、選択科目と同じ比重と考えると、逆に小さいと感じるかもしれません。
ただ、論文における満点の75%以上とは優秀の水準を意味し、現実にはほとんど取ることができないのに対し、短答における満点の75%(131.25点)とは、短答合格者平均点(133.6点)よりも低い点数であることを考慮しておく必要があります。その意味では、短答は稼ぎやすいといえるのです。
3.もう少し具体的にみてみましょう。短答の1点は、論文の1点の800分の1400に等しいわけですから、論文の1点は、短答の得点に換算すると、14÷8=1.75点となります。例えば、論文の20点は、短答だと35点ということになるわけですね。
では、短答で140点を取ったから、論文で140÷1.75=80点有利になるかというと、そうではありません。今年の短答の合格点は114点ですから、論文段階の短答最低点は114点です。それ未満の点数の人は存在しません。ですから、140点取ったとしても、最大で26点しか差が付かないのです。これを論文換算すると、26÷1.75≒14.8点の差にしかなりません。また、短答合格者の平均点は133.6点ですから、これが論文段階の受験生の平均点となります。これとの差でみると、短答では6.4点、論文換算ではわずか3.6点の差にしかなりません。合格ライン上で競り合う状態になった場合に、相手が短答ギリギリ合格の114点であると期待するのは甘いでしょう。現実的には、論文受験生の平均点を意識すべきです。
そこで、これらの数字との関係で、短答で何点を取れば論文でどの程度のアドバンテージとなるかということをまとめたのが、以下の表です。
短答の 水準 |
得点 | 最下位(114点) との論文での 得点差 |
短答合格者平均 (133.6点)との 論文での得点差 |
トップ | 173 | 33.7 | 22.5 |
100番 | 159 | 25.7 | 14.5 |
500番 | 150 | 20.5 | 9.3 |
1000番 | 145 | 17.7 | 6.5 |
短答合格者 平均 |
133.6 | 11.2 | --- |
トップを取ると、短答をギリギリでクリアした人に対して、論文換算で33.7点のアドバンテージがあります。これは、論文では、1科目に3つ設問があった場合の1問分という感じです。ただ、論文では、配点の満点を取るということはほとんどありません。見方を少し変えてみましょう。昨年の論文の全科目平均点は、344.09点でした。これは、1科目の平均でみると、43点に相当します。33.7点のアドバンテージは、1科目の平均点から10点を引いた程度の数字です。このようにみると、それなりに大きいと感じるかもしれません。もっとも、これはトップを取り、かつ、短答ギリギリ合格の者と比較した場合の話です。逆に言えば、どんなに頑張っても、短答で付けることのできるアドバンテージとは、この程度のものなのです。
短答合格者平均、すなわち、論文段階の平均的な受験生の得点である133.6点との比較で見ると、トップでも22.5点程度のアドバンテージしかありません。上位1000番に入った程度では、わずか6.5点です。
4.以上みてきたように、短答の論文に対する寄与度というのは、極めて微妙です。無視できるほど小さくもないし、決定的なほど重要でもない。その程度だということです。少なくとも、短答で圧倒的なアドバンテージを取ろうと思って勉強することは、適切とはいえません。では、短答をどの程度勉強すべきか、ということなのですが、これを考えるに当たり、重要な視点は、以下の2つです。
(1) 短答は勉強量と結果がある程度まで比例するが、論文はそうではない。
(2) 短答の知識は、論文の前提知識となる。
(1)は、論文では、知識よりも現場での頑張り、とりわけ問題文から当てはめの事情を丁寧に引っ張ってくるだけの筆力や精神力の要素が得点にダイレクトに影響することと、得点調整(採点格差調整)によって偏差値化されるために、得点幅が抑制されやすいということが要因です。論文は、勉強量を増やしても、結果に繋がりにくいのです。これに対し、短答は、勉強量を増やして知識を習得していけば、効率よく得点に繋がっていきます。ただ、そうはいっても、短答もある程度以上の点数になると、細かい知識を追いかける領域に入ってしまいますから、得点効率が落ちてきます。今年の問題でいえば、145点以上が取れる人であれば、それ以上の短答の勉強は、効率的とはいえないでしょう。逆に、合格者平均点である133点にも届かない人は、短答の勉強をすることで、より効率的に点が取れるようになるはずです。
(2)は、短答用の条文、判例の知識が、論文の前提知識となるということです。ただ、これもある程度以上の水準を超えると、およそ論文では出ない細かい条文、判例を追いかける領域に入りますから、限度がある。上記と同様、今年の問題で145点を超えるような人は、もはや論文の基礎としての知識は十分ですから、論文主体にすべきです。他方、合格者平均133点に届かない場合は、論文の基礎レベルの条文、判例知識も足りていないおそれがありますから、まずは短答の勉強をメインに据えるべきだといえます。
結論的には、学習初期の頃は短答をメインにして学習し、ある程度短答が取れるような水準になってからは、論文主体に切り替えるのが、効率のよい学習法だ、ということです。