平成27年司法試験の結果について(10)

1.今回は、選択科目別の合格率をみていきます。まずは、短答の受験者合格率です。

科目 短答
受験者数
短答
合格者数
短答
合格率
倒産 1519 1101 72.4%
租税 531 339 63.8%
経済 887 591 66.6%
知財 1060 676 63.7%
労働 2309 1615 69.9%
環境 522 297 56.8%
国公 124 69 55.6%
国私 985 620 62.9%

 短答は、選択科目に関係なく同じ問題ですから、どの科目を選択したかによって、短答が有利になったり、不利になったりすることはありません。ですから、どの科目を選択したかと、短答合格率の間には、何らの相関性もないだろうと考えるのが普通です。しかし実際には、選択科目別の短答合格率には、毎年顕著な傾向があるのです。
 その1つが、倒産法の合格率が高いということです。今年の数字をみても、倒産法が合格率トップ。しかも、他の科目選択者にかなり差を付けています。このことは、倒産法選択者に実力者が多いことを意味しています。倒産法ほどではありませんが、労働法も似たような傾向です。
 逆に、国際公法は、毎年短答合格率が低いという傾向があります。今年も、国際公法は合格率ワースト1位。全体の短答合格率は66.2%ですから、それよりも10%低い合格率です。このことは、国際公法選択者に実力者が少ないことを意味しています。国際公法ほど顕著ではありませんが、環境法も類似の傾向です。また、新司法試験開始当初は、国際私法も合格率が低い傾向だったのですが、最近では、そうでもなくなってきています

2.次に、論文合格率をみてみましょう。下記は、選択科目別の短答合格者ベースの論文合格率です。

科目 論文採点
対象者数

論文
合格者数

論文
合格率
倒産 1101 388 35.2%
租税 339 115 33.9%
経済 591 222 37.5%
知財 676 225 33.2%
労働 1615 579 35.8%
環境 297 82 27.6%
国公 69 17 24.6%
国私 620 222 35.8%

 新司法試験が始まってしばらくの間は、論文合格率も倒産法が高く、国際公法が低いという傾向で安定していました。ところが、昨年になって、国際私法がトップとなり、今年は経済法がトップ。倒産法は、微差ではありますが、国際私法、労働法に敗れて4位となっています。上位に関しては、これまで安定していた傾向性が、薄れつつある、という感じです。今年に関しては、環境法と国際公法以外の科目は、ほぼ横並びと言ってもよい状態です。
 一方で、安定しているのは、下位の国際公法です。毎年、最下位の合格率。今年も、他と比較するとダントツの低さです。環境法は、年にもよりますが、国際公法と似た傾向で、今年も低い合格率となっています。一方、かつては国際公法と同様に低い合格率だった国際私法は、昨年は逆にトップとなり、今年も上位の合格率となっています。国際私法については、選択者の層に変化があったのかもしれません。

3.選択科目は、基本的には自分が興味・関心のある科目や、自分の通うローで講座の設定されている科目を選べばよいとは思います。ただ、複数の科目で迷っている場合には、上記のことも、一応考慮に入れてもよいでしょう。
 例えば、倒産法は、実力者が選択する傾向が強く、過去の数字では最低ライン未満者が生じ易い科目です。得点調整(採点格差調整)を考えると、実力者の多い科目は、得点調整の結果、他の科目より低い数字に調整される可能性が高い。ですから、他に興味・関心のある科目があるのであれば、倒産法は避けるという考え方は、あり得るでしょう。他方で、倒産法は民法との親和性の高い科目ですから、民法が得意な人は、敢えて倒産法にするという選択も、十分合理性があるように思います。倒産法選択者の短答合格率の高さも、民法が得意な人が選択し易いという側面を表しているといえるでしょう。
 逆に、国際公法は、実力者が少ないので、得点調整で有利になり易いかもしれません。それを狙って、敢えて選択してみるという考え方も、あり得るでしょう。ただ、国際公法は、必須科目との親和性が低いので、学習効率が良いかといえば微妙です。また、受験者数が少なすぎるので、マニアックな人が選択している可能性もあります。そのような人と争うと考えると、必ずしも有利とはいえないかもしれません。さらにいえば、将来的に、選択科目の見直しがされる場合には、最も削除の可能性が高い科目であることも、考えておく必要があると思います。

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