平成27年予備試験論文式試験の結果について(4)

1.予備の場合には、論文に合格しても、まだその先に口述試験が待っています。ただ、口述試験は、基本的には落ちない試験です。毎年、口述受験者ベースの合格率は9割を超えています。短答や論文のように、「できる人を受からせる」試験ではなく、「不適格者を落とす」試験なのです。その意味で、短答や論文とは位置付けが随分違います。また、試験時間という点でも、短答・論文は長時間にわたる試験で、体力勝負という側面がありますが、口述は1日(1科目)当たり15分から25分程度です(ただし、待機時間は順番によっては数時間に及ぶ場合があります)。しかも、考査委員を目の前にして口頭で答えるわけですから、多少疲れていても、集中力が切れるなどということはまずない。ですから、体力(疲労による集中力・気力の衰え)よりも精神面(緊張や動揺)の要素の方が合否に影響し易いといえるでしょう。この点も、短答・論文とは少し違うところです。
 口述試験で不合格になると、来年はまた短答からやり直しです。旧司法試験では、翌年のみ再度口述から受験できました。この点は、かなり厳しくなっています。論文までは、低い合格率だからダメでも仕方がないという意味で精神的に楽な部分がありますが、口述になると、「せっかく論文に受かったのに、こんなところで落ちるわけにはいかない」という心理が生じます。また、慣れない試験会場の張り詰めた雰囲気の中で長時間待たされ、考査委員を目の前にして受け応えをするわけですから、その緊張感は短答・論文とは比較になりません。普段ならやらないような、とんでもない勘違いをしてしまいがちです。そのために、数字の上ではほとんど落ちない試験であるにもかかわらず、最も恐ろしい試験であると感じさせるのです。

2.口述試験の試験科目は、法律実務基礎科目の民事及び刑事の2科目です。 それぞれの科目について、以下のような基準で採点されることになっています。

 

(「司法試験予備試験口述試験の採点及び合否判定の実施方法・基準について」より引用、太字強調は筆者)

1.採点方針

 法律実務基礎科目の民事及び刑事の採点は次の方針により行い,両者の間に不均衡の生じないよう配慮する。

(1) その成績が一応の水準を超えていると認められる者に対しては,その成績に応じ,

 63点から61点までの各点

(2) その成績が一応の水準に達していると認められる者に対しては,

 60点(基準点)

(3) その成績が一応の水準に達していないと認められる者に対しては,

 59点から57点までの各点

(4) その成績が特に不良であると認められる者に対しては,その成績に応じ,

 56点以下

2.運用

(1) 60点とする割合をおおむね半数程度とし,残る半数程度に61点以上又は59点以下とすることを目安とする。
(2) 61,62点又は58,59点ばかりでなく,63点又は57点以下についても積極的に考慮する。

(引用終わり)

 

 口述では、得点にほとんど差が付かないことが知られています。上記引用部分の2(2)では、「63点又は57点以下についても積極的に考慮する」とは記載されていますが、実際にはまず付かない点数です。さらに言えば、62点と58点も、なかなか付かないと言われています。ですから、大雑把に言えば、半数が60点、残る4分の1が61点、残る4分の1が59点、という感じになっていると思っておけばよいでしょう。

各科目の
得点
評価 受験生全体
に対する割合
59点 一応の水準
に達しない
25%
60点 一応の水準 50%
61点 一応の水準
を超える
25%

 このことから明らかなように、口述は、個々の質問に何個正解したから何点、というような点の付き方はしない。飽くまで、考査委員の裁量、もっといえば印象によって、ざっくりと点が付く。ですから、考査委員に悪い印象を与える受け応えをしてしまうと、個々の質問にはそれなりに答えているのに、59点にされる、ということは、普通にあることなのです。それぞれの質問に対する回答が正解であるか否かは、そのような考査委員の印象に影響を与える1つの要素に過ぎないと思っておいた方がよいと思います。これも、口述の怖さの1つといえるでしょう。

3.口述試験の合否は、民事と刑事の合計点で決まります。ただし、どちらか一方でも欠席すると、それだけで不合格です。

 

(「司法試験予備試験口述試験の採点及び合否判定の実施方法・基準について」より引用、太字強調は筆者)

3 合否判定方法

 法律実務基礎科目の民事及び刑事の合計点をもって判定を行う。
 口述試験において法律実務基礎科目の民事及び刑事のいずれかを受験していない場合は,それだけで不合格とする。

(引用終わり)

 

 では、実際の合格点は、どうなっているか。以下は、これまでの合格点の推移です。


(平成)
合格点
23 119
24 119
25 119
26 119

 毎年、119点が合格点になっています。前記のとおり、通常は、各科目最低でも59点です。民事と刑事が両方59点だと、118点で不合格になります。しかし、一方の科目で60点を取れば、片方が59点でも119点になりますから、ギリギリセーフ、合格となるのです。ですから、不合格になるのは、民事も刑事も59点を取ってしまった場合だ、と思っておけばよいわけです。
 各科目、概ね4分の1が59点を取るとすると、両方の科目で59点を取る割合は、16分の1、すなわち、6.25%です。ですから、93.75%が、理論的な口述合格率ということになるわけです。
 実際の合格率をみてみましょう。以下は、口述試験の合格率(口述受験者ベース)の推移です。


(平成)
受験者数 合格者数 合格率
23 122 116 95.08%
24 233 219 93.99%
25 379 351 92.61%
26 391 356 91.04%

 概ね、93.75%に近い数字で推移していることがわかります。ただ、年々低下傾向にあることは、気になるところです。平成25年に初めて93.75%を下回り、昨年は93.75%を2%以上下回っていますから、58点以下が付いてしまった人が増えている可能性もありそうです。ただ、この程度の数字だと、必ずしもそうとはいえないのかな、というのが、今のところの筆者の感覚です。なぜなら、先ほどの93.75%という数字は、民事と刑事の成績が完全に独立に決まるという前提で算出された数字だからです。口述試験の形式自体に弱い人は、民事も刑事も59点を取りやすいでしょう。また、全体的な知識量が足りない人も、民事と刑事両方で59点を取り易いはずです。このように、実際には、民事と刑事の成績には一定の相関があるでしょう。そのような相関性を考慮する場合には、合格率は93.75%を下回ることになります(※)。ですから、現段階では、まだそれほど心配する必要はないのだろうと思います。また、後記4で述べるとおり、仮に58点が付く可能性がそれなりにあったとしても、その可能性は敢えて考えない方が、結果的に受かり易いのです。

※ 極端な例として、仮に、受験生全員について、民事・刑事の成績が完全に相関する(民事と刑事で常に同じ点を取る)場合を考えると、合格率は75%になります。民事で59点を取る25%の人は、必ず刑事も59点を取りますから、この25%の受験生が不合格になるわけですね。

 

4.以上のことからわかる口述の基本的な戦略は、民事と刑事の両方で失敗しない、ということです。逆に言えば、片方を失敗しても、もう一方で60点を守る。そうすれば、119点で合格できるわけです。ですから、仮に初日の感触がとても悪かったとしても、翌日を普通に乗り切ればよい。このことは、とりわけ精神面の影響の大きい口述では、重要なことだと思います。
 口述試験は、1日目は出来が悪く、2日目はそれなりに答えられたと感じる人が多い試験です。初日は、試験の会場や待機の方法、試験室への入室までの流れなど、ほとんど全てのことが初めての経験で、極度に緊張します。このような状態では、普通の受け応えすらうまくできないのが普通です。ですから、初日の受験後の気分は最悪であることが、むしろ通常の心理状態なのですね。多くの人が、「1日目で落ちたかもしれない」と感じてしまう。これが、口述試験の最も恐ろしいところです。中には、自暴自棄になって2日目を欠席しようと思ったりする人もいる。そうではなくても、2日目は「1日目の失敗を挽回しよう」と思って無理をしてしまいがちです。そうすると、問われていないことまで答えようとしたり、パーフェクトな答えを思い付くまで回答できなくなり、焦って沈黙したり、法文を見たり撤回すると点が下がるなどと心配して頑として法文を見なかったり、頑なに撤回しない等のとんでもない受け応えをしてしまったりして、かえって失敗してしまうのです。これが、民事・刑事の両方で失敗する典型例です。ですから、1日目で失敗しても、2日目は普通に切り抜ければ合格できる、という信念を心の中に強く持っておく。これが、心理面の要素が強く作用する口述試験では、重要なキーポイントになります。2日目は、想像以上に1日目の体験が大きく、様々なことに慣れてしまっています平常心を維持してさえいれば、意外と普通に受け応えができるでしょう。
 前記3で、58点の可能性はあまり心配しない方がいい、と説明したのも、同様の理由です。実際には、58点が付いてしまう可能性はゼロではないでしょう。しかし、その可能性を頭の片隅に置いてしまうと、ほとんどの人が最悪な気分で1日目を終えるので、自分は58点だと思い込んでしまい易い。そうなると、上記のように無理をしてしまうことになる。仮に、1日目で58点が付いてしまったとしても、2日目に狙って61点を取れるものではありません。結局のところ、61点を取る最善の方法は、平常心で普通に受け応えをするしかないのですね。ですから、「58点は付かない」という信念を持っていた方が、口述試験には受かり易いといえるでしょう。

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