Amazonより、「司法試験平成27年出題趣旨の読み方(行政法)」を発売しました。
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【内容紹介】
本書は、平成27年司法試験における出題趣旨の行政法について、各段落、文章ごとに、ポイントとなる事項を説明したものです。
出題趣旨には、考査委員の想定した「正解」が書いてあります。ただ、その内容が、ときに抽象的であったり、わかりにくかったりする。漫然と読んでいると、正確な意味が読み取れないことも、珍しくありません。
特に、今年の行政法は、難問でした。「漫然と解いていると、それが難問であることにすら気が付かない」くらいの難しさです。そして、出題趣旨もまた、漫然と読んだだけでは、その真の意図が読み取れないような文章になっています。
例えば、出題趣旨には、「Y市長が本件命令を発するに当たり,裁量が認められるか」という記述がありますが、この「裁量」が、要件裁量を指すのか、効果裁量を指すのか、ぱっと見ただけでは判然としません。漫然と読むと、何となく要件裁量っぽいよね、という感じになる。しかし、詳細に検討すれば、そのような読み方が難しいことがわかります。
また、問題文では、危険物政令9条1項1号ただし書の市町村長等が「安全であると認め」る行為が行政処分でないことは明らかであるとされています。他方、出題趣旨では、本件基準が「上記の裁量を前提にすると裁量基準(行政手続法上の処分基準)に当たる」とされている。漫然と読むと、「ああ、やっぱり裁量基準ね。知ってた。」ということになるのですが、それでは、なぜ、「行政手続法上の処分基準」なのか。このことの意味を正確に理解すると、本問の違法事由の捉え方が、実は多くの受験生が現場で考えたものとは異なるものでなければならないということに気付きます。
それから、裁量逸脱濫用の判断の場面で、出題趣旨は判断過程審査の方法を用いています。これを漫然と読むと、「ああ判断過程審査は最近のトレンドだからね。これからはいつも裁量は判断過程審査で書けばいいんだね。」という意味で理解してしまいます。しかし、よく検討すると、本問は判断過程審査を採用しなければならない事案だったということがわかるのです。
さらに、設問3では、「少なくとも本件取扱所の所有者等が当該事情の発生を本件取扱所の設置時にあらかじめ計画的に回避することが可能であった場合」という言い回しをしていますが、この「少なくとも」には、どのようなことが含意されているのか。これも、言われなければ気が付かないのが普通でしょう。
このように、今年の行政法の出題趣旨は、一般的な受験生が独力で読んでも、その正確な意味を読み取ることが極めて困難なようになっています。そこで、本書では、その具体的な意味を、法律の基本的な読み方、行政法の基本的な検討手順を積み重ねながら、詳細に検討しました。そのような、階段を一歩一歩登っていくような地道な作業を経ることによって、ようやく考査委員の想定していた「正解」や、本問がなぜ難問だったのか、ということが見えてきます。そして、そのような検討を経て明らかになった「正解」は、多くの受験生が採る構成とは、かなり違ったものです。だからこそ、「難し過ぎて難問であることにすら気付かないレベル」だったのです。
各項目の概要は、以下のとおりです。
第1段落では、事案の全体像や設問の骨格を把握することの重要性について説明しました。
第2段落では、設問1について、「抗告訴訟」という文言から除外されるもの、行政法と民法、会社法とで仮の救済を検討すべきか否かの判断基準が異なること、「重大な損害を生ずるおそれ」の当てはめ方などを説明しました。
第3段落では、とりわけ難問であった設問2について、詳細に検討しました。
第1文では、本件命令の根拠法令である消防法12条2項の要件、効果を起点として、本問の関係法令の基本的な条文構造を確認しました。
第2文では、出題趣旨のいう「裁量」とは何についての裁量なのか、要件裁量か効果裁量か、本問では解く際の前提となる「市町村長等が「安全であると認め」る行為が行政処分でないことは明らか」という部分は、実際には疑問の余地があること、本件命令の正確な違法事由は何か、本問における利益衡量の在り方と危険物政令9条1項1号ただし書の趣旨などについて、説明しました。
第3文では、危険物政令9条1項1号ただし書と同令23条との相互関係の考え方について、趣旨、要件・効果及び適用範囲を具体的に比較して、出題趣旨が想定していたであろう「正解」を明らかにし、そのことが問題文から推測可能であったことを説明しました。
第4文では、委任命令と行政規則の見分け方、行政手続法上の「審査基準」と「処分基準」の意義、出題趣旨が本件基準を「行政手続法上の処分基準」とすることの意味、「上記の裁量を前提にすると」との関係、判断過程審査によるほかない理由、本問で個別事情考慮が要求される理由などを説明し、補足として、裁量統制における審査密度の概念の多義性について説明しました。
第5文では、本件基準の合理性及びその例外の余地について、30メートルは徒歩表示だと「22.5秒」であるなど、具体的なイメージを示しながら詳細に検討しました。
第4段落では、設問3について、例外的な補償の余地を中心に、詳細に検討しました。
第1文では、論点抽出自体は極めて容易だったこと、「前提に」と「踏まえて」の司法試験用語としての意味の違いなどを説明しました。
第2文では、本問における財産権の制約が一般的なものであることについて、消防法12条の構造からわかる適合性維持義務と本件命令の関係、本件命令の名宛人が特定人であることが制約の一般性とは無関係であること、適合性維持義務の性質をなぜ考慮する必要があるのか、補償の要否の枠組みの中でどのように考慮するのかなどを説明しました。
第3文では、本件葬祭場が後から割り込んできたという事情が、例外的に補償を要する事情となるかについて、モービル石油事件と本問との関連性の程度、状態責任の法理と危険責任の法理はほぼ同趣旨であるのに、前者に違和感を持つ受験生が多く、後者に違和感を持つ受験生が少ない理由、状態責任の法理を理解するための正確な対立構造の把握、後から保安物件ができたという事情は法が想定しない事態なのか、などの観点から説明しました。
第4文では、用途地域の指定替えの事情が、例外的に補償を要する事情となるかについて、状態責任の法理からの素直な帰結と、それにもかかわらず出題趣旨が「少なくとも」として示す考え方とは何か、「少なくとも」という文言を付した意味などについて説明しました。
第5文では、本問が計画的に回避可能な事案であったか否かについて、問題文のどの部分に着目すべきであったかなどを説明しました。
第5段落では、配点との関係を簡単に説明しました。
本書を読むと、「確かに、ここまで手取り足取り教えてもらえればわかるけれど、こんなの本試験の現場でゼロから考えるのは無理だ。実戦的にはどうしたらよかったんだ。」という感想を持つでしょう。その点については、「採点実感等に関する意見の読み方」において、詳しく説明する予定です。
本書が、出題趣旨を読み解く上で少しでも助けになれば幸いです。