平成28年司法試験論文式民事系第3問参考答案

【答案のコンセプトについて】

1.現在の司法試験の論文式試験において、ほとんどの科目では、現在の合格ラインである「一応の水準の真ん中」に達するための要件は概ね

(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。

という3つです。
 もっとも、従来は、民訴法に限り、上記が当てはまらない独特の出題傾向となっていました。設問の結論を答えようと思えば、誰もが比較的簡単に正解できるのですが、その説明の仕方が出題趣旨に沿っていないと、点が取れない。過去の傾向では、同じような筋で書いていても、以下のような書き方を守っているかどうかで、大きな差が付いていました。

(4)問題文で指定されたことだけに無駄なく答えている。
(5)参照判例がある場合、まずその判例の趣旨を確認している。
(6)例外が問われた場合、まず原則論を確認している。

 逆に、上記を守っていれば、それほど知識や文量は問われていなかった。そのため、短めの答案でも、上位になったりすることがあったのです。これは、他の科目と比較して顕著な傾向の違いでした。

2.今年の特徴は、上記のような従来の傾向と、他の科目同様の事例処理的な傾向とが混在しているという点です。
 今年の問題でも、問題文で示された参照判例については、その趣旨の確認が必要でしょうし、所々で原則論を確認した方がよいと思われる箇所があり、その意味では、従来の傾向が残っています。他方で、単に規範を示して当てはめれば足りるような部分も多く、しかも、処理すべき量が多い、という事務処理型の特徴もみられます。これは、例の漏洩事件によって考査委員が交代したことが影響しているのでしょう。出題形式を従来のものに似せて作ったために、一部は従来の傾向が残ったものの、内容面では他の科目同様の事務処理型になってしまった。その結果、今年の問題のような一貫性のない出題になったのだろうと思います。

3.そこで、今回の参考答案は、上記の(1)から(6)までを組み合わせたようなものになっています。今年は文量が多かったので、参考答案レベルを書き切るだけでも、相当に困難だったでしょう。このレベルを書き切れば、優に良好の上位くらいにはなるだろうと思います。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.総有権確認請求訴訟において原則として構成員全員が原告とならなければならないとされる理由

(1)構成員全員が原告とならなければならないか否かは、総有権確認請求訴訟が固有必要的共同訴訟であるか否かによる。

(2)固有必要的共同訴訟であるか否かは、主に管理処分権の帰属という実体法的観点から判断すべきであるが、紛争解決の実効性、手続保障、訴訟経済等の訴訟法的観点も考慮すべきである。
 本件で、権利能力のない社団への権利義務の帰属は構成員全員の総有とされ、各構成員は潜在的にも持分を有しない(杉並支部マーケット事件判例参照)こと、構成員全員に攻撃防御の機会を与え、判決効を及ぼす必要があることからすれば、実体法的観点及び訴訟法的観点のいずれの観点からも、総有権確認請求訴訟は固有必要的共同訴訟となると考えられる。

(3)固有必要的共同訴訟においては、当事者となるべき者全員が当事者とならなければ当事者適格が認められない。

(4)よって、総有権確認請求訴訟においては、原則として構成員全員が原告とならなければならない。

2.構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策

(1)反対する者が原告とならない場合、当事者適格を欠くから、適法に訴えを提起できないのが原則である。

(2)もっとも、このような場合には、総有権の存在を主張する構成員が原告となり、反対する者を被告に加えて、総有権確認請求訴訟を提起することも許される(馬毛島事件判例参照)。

(3)よって、構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合には、その者を被告として訴えを提起すべきである。

3.訴訟係属後に新たに構成員となる者が現れた場合の訴訟上の問題点

 訴訟要件は本案判決をするための要件であるから、訴訟係属中に当事者適格を欠くに至った場合には、訴えは却下される。そこで、どのようにして新たな構成員を当事者に加えるべきかが問題となる。

(1)その者がBに同調する場合

 固有必要的共同訴訟において、共同訴訟人となるべき者が当事者となっていない場合には、その者が共同訴訟参加(52条1項)することによって、当事者適格を追完することができる。
 本件で、新たに構成員となる者がBに同調する場合には、その者に共同訴訟参加してもらうことによって、その者を原告に加えることができる。

(2)その者がBに同調しない場合

ア.新たに構成員となる者がBに同調しない場合には、その者が共同訴訟参加することは期待できない。そこで、Bが、その者を係属中の訴訟の被告に追加することは可能か。主観的追加的併合の可否が問題となる。

イ.判例は、通常共同訴訟の関係にある訴えの主観的追加的併合を否定している。しかし、総有権確認請求訴訟は固有必要的共同訴訟であり、合一確定が要請される(40条1項)こと、弁論の併合(152条1項)に係る裁判所の裁量を認める余地がないことからすれば、本件においては上記判例の趣旨は及ばず、主観的追加的併合が認められる。

ウ.よって、新たに構成員となる者がBに同調しない場合には、主観的追加的併合の方法によって、その者を被告に加えることができる。

第2.設問2

1.確認の利益

 確認の利益の肯否は、即時確定の利益、確認対象の適否、手段選択の適否の観点から判断すべきである。

(1)即時確定の利益があるというためには、権利・法的地位の不安・危険が現実に存在することを要する。
 本件では、Bが会長であるかのように行動していることから、Xの会長の地位にあることを主張するZの権利・法的地位の不安・危険が現実に存在するといえ、即時確定の利益がある。

(2)確認対象の適否は、原則として、自己の現在の法律関係に係る積極的確認であるか否かによって判断すべきである。

ア.本件では、ZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えについては、自己の現在の法律関係に係る積極的確認であるから、確認対象は適切である。

イ.他方、解任決議が無効であることは、過去の法律関係であることから、確認対象が適切であるというためには、その法律関係の確定が現在の紛争の抜本的解決のために有効かつ適切であることを要する。
 本件では、解任決議が無効であるとすれば、規約上1名に限られる会長が既に存在する状況でされた新会長の選任決議も無効となることから、会長の地位に関する現在の紛争の抜本的解決のために有効かつ適切である。
 よって、解任決議が無効であることの確認を求める訴えについても、確認対象は適切である。

(3)手段選択の適否は、確認の訴えよりも有効かつ適切な紛争解決手段があるかという観点から判断すべきである。

ア.まず、ZがXの会長の地位にあることを前提とする給付の訴えによったのでは、ZがXの会長の地位にあることに直接の既判力が生じないため、抜本的な紛争解決とはならない。

イ.また、訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法とした判例の趣旨は、本案の前提として判断される手続的事項については、その訴訟において異議を述べる(90条参照)手段がより有効かつ適切であるから、手段選択の適切性を欠くという点にある。したがって、単なる手続的事項にとどまらず、その確定が紛争の抜本的解決のために有効かつ適切である事項といえる場合には、上記判例の趣旨は及ばない。
 本件では、ZがXの会長の地位にあることは、単なる手続的事項にとどまらず、本件不動産の帰属及びXの運営に関する紛争の抜本的解決のために有効かつ適切である事項といえる。したがって、上記判例の趣旨は、本件に及ばない。

ウ.以上から、手段選択は適切である。

(4)よって、確認の利益が認められる。

2.反訴の要件

(1)146条1項の要件のうち、口頭弁論終結前であること(柱書本文)、専属管轄に属しないこと(1号)、著しく訴訟手続を遅滞させないこと(2号)については問題なく充足する。

(2)では、本訴請求又は防御方法との関連性(柱書本文)を満たすか。
 関連性の有無は、訴訟資料及び証拠資料を利用できるか、社会生活上同一又は一連の紛争といえるかによって判断する。
 本件で、本訴であるBへの所有権移転登記手続請求の訴えは、BがXの現在の代表者であることを前提とするから、解任決議の無効及びZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えにおいて訴訟資料及び証拠資料を利用でき、社会生活上同一又は一連の紛争といえる。
 よって、本訴請求と関連性がある。

(3)よって、146条1項所定の要件を満たす。

第3.設問3

1.①について

(1)①の判例の趣旨は、29条は、権利能力のない社団の当事者能力だけでなく、構成員全員に代わって当事者として訴訟を遂行する法定訴訟担当をも認めたものであることから、権利能力のない社団に対する判決の既判力が構成員全員に及ぶ(115条1項2号)とする点にある。
 そして、同号の趣旨は、訴訟担当による代替的手続保障があることから、既判力による拘束力を及ぼすことが正当化されるという点にある。したがって、上記代替的手続保障があるといえない場合には、同号の既判力は及ばない。

(2)本件で、Zは、第1訴訟においてXと対立する被告の地位で訴訟追行していたから、上記代替的手続保障があるとはいえない。

(3)よって、①の判例の趣旨は本件に及ばず、同号による既判力は、第2訴訟には及ばない。

2.②について

 第2訴訟におけるYとZの主張の対立点は、YZ間の抵当権設定契約時にZが本件不動産を所有していたか否かであるから、その点について既判力が作用するかを検討する。

(1)既判力が作用するのは、前訴判決の主文(114条1項)と後訴の訴訟物の間に、同一関係、矛盾関係又は先決関係がある場合である。

(2)本件で、前訴判決の主文は、本件不動産がXの構成員全員の総有に属することを確認するものであるのに対し、第2訴訟の訴訟物は、債務不履行に基づく損害賠償請求であるから、同一関係又は矛盾関係にない。
 では、先決関係にあるといえるか。確かに、一物一権主義から、本件不動産がXの構成員の総有に属していれば、Zの所有には属しないといえる。しかし、既判力の基準時は事実審の口頭弁論終結時である(民執法35条2項参照)こと、YZ間の抵当権設定契約の後に第1訴訟が提起されたことからすれば、前訴判決はYZ間の抵当権設定契約の時点における本件不動産の帰属を確定するものではない。そうである以上、先決関係にあるとはいえない。

(3)よって、前訴判決の既判力は、第2訴訟におけるYとZの主張の対立点に関して作用し得ない。

3.③について

 Zの主張は、第1訴訟の蒸し返しであり、訴訟上の信義則(2条)に反し、許されないのではないか。

(1)信義則による拘束力を認めるべきか否かは、前訴で容易に主張し得たか、相手方に前訴判決によって紛争が解決したとの信頼が生じるか、相手方を長期間不安定な地位に置くものといえるか等の観点から判断すべきである(判例)。

(2)本件で、Zは、第1訴訟中の総有権確認請求訴訟において、Aから本件不動産を買い受けたのはZ自身であると容易に主張し得た。他方で、前訴判決から第2訴訟の提起までの間に長期間が経過し、Yが不安定な地位に置かれたという事実はうかがわれない。

(3)では、Yに第1訴訟によって紛争が解決したとの信頼が生じるといえるか。上記信頼が生じるというためには、相手方が前訴でなすべき手段を尽くしたことを要する。

ア.本件で、Yは、第1訴訟中の総有権確認請求訴訟において、Xに対し、抵当権設定契約時に本件不動産がZの所有であったことの確認を求める中間確認の訴え(145条1項)をすることができたか。訴えの利益を検討する。
 中間確認の訴えは、既に提起された訴えの前提問題となる限り訴えの利益が認められ、確認対象として、過去の他人の法律関係の確認を求めることもでき、即時確定の利益等を要しない(判例)。
 本件で、抵当権設定契約時に本件不動産がZの所有であったことは過去の他人の法律関係であるが、総有権の存否の前提問題となる以上、訴えの利益が認められる。

イ.したがって、Yは、第1訴訟中の総有権確認請求訴訟において、中間確認の訴えをすることができた。そうである以上、Yがなすべき手段を尽くしたとはいえないから、Yに第1訴訟によって紛争が解決したとの信頼が生じるとはいえない。

(4)以上からすれば、Zの主張は、信義則に反するとはいえない。

4.よって、裁判所は、第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて審理・判断をすることができる。

以上

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