Amazonより、「司法試験平成27年出題趣旨の読み方(民法)」を発売しました。
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【内容紹介】
本書は、平成27年司法試験における出題趣旨の民法について、各段落ごとに、ポイントとなる事項を説明したものです。
出題趣旨は、考査委員の想定した「正解」が書いてあります。しかし、必ずしも、常に正しいことが書いてあるわけではない。法科大学院や予備校等では、出題趣旨や採点実感等に関する意見に書いてある内容を所与のものとし、「出題趣旨にこう書いてあります。だから皆さんもこのように書いて下さい。」、「採点実感にこういう書き方はダメだと書いてあります。だから皆さんもこういう書き方はやめて下さい。」というように、なぞるような解説がされがちです。そこに書いてある内容の意味は、厳密にはどのようなものなのか、それは本当に正しいのか、という検証がされる機会は、実はほとんどないのです。しかし、実際に検証してみると、明らかに不適切な記述が見つかることがあります。平成27年の民法の出題趣旨の設問1に関する記述には、単純な誤記(平成28年7月現在でも、法務省HP上で訂正されないままになっています。)だけでなく、内容的にも不適切な記述が散見されます。その意味で、「出題趣旨は絶対ではない。」ということが、よくわかる例といえるでしょう。今回は、特に問題の多い設問1について、詳細に解説しました。
また、設問2も、簡単なようで、実は緻密な検討を要する内容を含んでいます。本問における対抗要件具備による所有権喪失の抗弁と、対抗要件の抗弁は、典型的なものとは異なります。また、留置権の成否については、単純に「目的物の所有権者と被担保債権の債務者が異なる場合には、留置によって間接的に履行を強制する関係にないので、牽連性が否定される。」という命題を適用してよいのか、という点について、実は難しい問題を含んでいます。それらの点について、詳細に検討しました。
設問3は、本問で最も単純な設問で、理論的に難しい点は、それほどありません。ただ、現在では、本問が出題される直前に出されたサッカーボール事件判例(最判平27・4・9)や、本問の実施後に出されたJR東海認知症事故事件判例(最判平28・3・1)を参照しつつ検討する必要があります。また、相当因果関係の当てはめを巡っては、予見可能性の具体性の程度との関連で、債権法改正案による改正がされた場合の416条2項の意味と、その改正経緯を参照しつつ、それが現在の解釈論にどのように関わってくるかを考慮する必要があります。設問3では、このような、本問の出題前後に生じた新しい動きを加味した検討を行いました。
各項目の概要は、以下のとおりです。
第1段落では、出題趣旨の書出し部分をどのようなことの参考にすればよいかについて説明しました。
第2段落では、「物権法」と記述され、「担保物権法」とされなかったことについて説明しました。
第3段落では、所有権留保の法的性質について、現在の判例は、旧司法試験時代の基本書やテキストなどの記載とは異なり、担保権的構成であると評価されていること、倒産実務において、所有権留保は当然に別除権(担保権)と扱われていること、本問と同年に出題された選択科目の倒産法でも所有権留保が出題され、別除権(担保権)と考えることが当然の前提とされていたこと、現在の学説上も、担保権的構成が通説であるとされていること等を示し、それにもかかわらず、出題趣旨が所有権的構成を前提にしなければ理解困難な内容を記載していることを説明しました。
第4段落では、Cの反論として出題趣旨に挙がっている即時取得について説明した上で、出題趣旨が看過しているその他の反論について説明しました。
第5段落では、CD間の契約が製作物供給契約であること、付合による償金請求の法的性質、担保権的構成に立った場合の担保権消滅の根拠等について、説明しました。
第6段落では、248条が適用される場合の703条、704条の要件の検討について、「付合に関する当てはめをする中で,これらの要件を実質的に検討することでも足りる。」とする出題趣旨の記述の意味を説明しました。
第7段落では、「Aが受けた損失を勘案するならば,AがDに対して請求できる額は150万円にとどまる」という結論は、出題趣旨が前提とする所有権的構成の考え方からは導くことが困難であり、不適切であること、担保権的構成からはどのように考えることが可能であるか等について説明しました。
第8段落では、Dの反論について、出題趣旨に明らかな誤記があることを指摘した上で、一見しただけでは理解困難な出題趣旨の言おうとする法律構成を解明し、その内容が現在の判例・通説とは距離のある不適切なものであること、転用物訴権が問題となる場面とは異なること等を説明しました。
第9段落では、出題趣旨が、「対価の控除」の問題を一般的な理解と異なり、「利得の消滅」の場面で考えていることを示した上で、出題趣旨が唐突に仮定の話をした意味を、不当利得類型論における侵害利得と物権的請求権の関係の理解に遡って説明し、「Dにおいて材木2の価値に相当するものを即時取得したと評価することができる場合に,Dの利得について法律上の原因が認められ,DはAの償金請求を拒絶することができる」とする出題趣旨の意味を明らかにするとともに、「Dは,乙建物の鍵のうちの1本をCに交付して仮住まいの家に移っただけであるから,Cを通じて乙建物を間接的に占有していると評価することができ」とする記述が、間接占有の理解としても、請負のための立入りによって占有権を取得するという理解としても、不適切であることを指摘し、その他、問題文にも不自然な点があることを説明しました。
第10段落及び第11段落では、出題趣旨が、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を本筋として考えていたことを示す記述となっていることを説明しました。
第12段落では、典型的な二重譲渡の事例における対抗要件具備による所有権喪失の抗弁と対抗要件の抗弁の関係を整理した上で、出題趣旨が、「丸太3をEが所有することを争うことによって」という問題文の文言を強調して引用していることの意味を説明しました。
第13段落では、請求原因事実の背後にある実体法的な理解について、改めてその理論的な意味を確認しました。
第14段落では、本問における対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の内容と、その実体法的意味を確認した上で、出題趣旨が「厳密に言うと」として言い直していることの意味等を説明しました。
第15段落では、本問における対抗要件の抗弁の内容と、本問の場合には、典型的な二重譲渡の場合と異なり、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁が、対抗要件の抗弁との関係でa+bの関係とならないことを示し、各抗弁事実の実体法的意味が、177条の「第三者」該当性についての理解によって異なること等を説明しました。
第16段落では、問題文の記述から、Eに対する保管料相当額の費用償還請求権(196条1項)を被担保債権とする留置権の主張が解答とならないこと等を説明しました。
第17段落では、なぜ、商事留置権が問題とならないのか、出題者側が商法の適用を排除しようとすることの実戦的意味等について説明しました。
第18段落では、「民事留置権の要件の全て」、「主張・立証責任の所在にも留意しつつ」という出題趣旨の記載の意味等を説明しました。
第19段落では、留置権の目的物の所有者と被担保債権の債務者が異なる場合の処理について、判例によれば「他人の物」の問題ではなく、牽連性の問題であることを示した上で、2つの典型事例を補助線として、本問が肯否の結論を分ける2つの典型事例の中間的な事例であることに着目しつつ、どちらの事例に近づけて考えるべきか、という観点から、牽連性を詳細に検討しました。
第20段落では、295条2項との関係について、Gの行為自体が不法行為になる余地があるか、出題趣旨は、Fの不法行為をもってGの占有取得を不法行為と同視する構成を念頭に置いているのではないか、等について説明しました。
第21段落では、留置権の成立を否定する場合には全ての要件を検討する必要がないことと論点落ちや主張立証責任との関係について説明しました。
第22段落では、設問3がオーソドックスな問題であったこと等について説明しました。
第23段落では、法定監督義務者該当性について、JR東海認知症事故事件判例(最判平28・3・1)を参照しつつ説明しました。
第24段落では、Hの責任能力について説明しました。
第25段落では、未成年者に責任能力がある場合の監督義務者の責任について、判例が固有の規範を定立していることを示した上で、Cの監督義務違反について、少年院退院者強盗傷害事件判例(最判平18・2・24)及びサッカーボール事件判例(最判平27・4・9)を参照しつつ説明し、相当因果関係については、416条2項の予見可能性の程度との関係で、債権法改正案及びその改正案に係る法制審議会民法(債権関係)部会の資料及び議事録も参照しながら説明しました。
第26段落及び第27段落については、出題趣旨に付け加えて解説すべきことはありませんでした。
第28段落では、「判例と異なる構成を採る場合であっても,適切な理由付けが行われ,その要件等が的確に検討されていれば,それに相応した評価がされる」とする出題趣旨の実戦的な意味について説明しました。
本書が、出題趣旨を読み解く上で少しでも助けになれば幸いです。