1.今年は、5967人が受験して、1543人合格ですから、受験者合格率は、25.8%ということになります。概ね4人に1人が受かる、という感じですね。以下は、これまでの受験者数、合格者数及び受験者合格率の推移です。
年 | 受験者数 | 合格者数 |
受験者 合格率 |
18 | 2091 | 1009 | 48.2 |
19 | 4607 | 1851 | 40.1 |
20 | 6261 | 2065 | 32.9 |
21 | 7392 | 2043 | 27.6 |
22 | 8163 | 2074 | 25.4 |
23 | 8765 | 2063 | 23.5 |
24 | 8387 | 2102 | 25.0 |
25 | 7653 | 2049 | 26.7 |
26 | 8015 | 1810 | 22.5 |
27 | 8016 | 1850 | 23.0 |
28 | 6899 | 1583 | 22.9 |
29 | 5967 | 1543 | 25.8 |
合格率は、分母の受験者数と、分子の合格者数の相関関係で変動します。平成23年までの合格率の低下傾向は、主として分母の受験者数の増加によるものでした。新しい司法試験の開始当初は受験回数制限による退出者が生じないので、どんどん不合格者が滞留していき、それが合格率を押し下げたのです。
平成24年及び平成25年に、合格率が上昇に転じたのは、主に受験者数の減少によるものです。それ以前から生じていた志願者数の減少が、この頃になって、法科大学院修了生の減少、すなわち受験者数の減少という形で、表れるようになってきたのです。
平成26年に2つの特殊要因が生じます。1つは、平成27年から受験回数制限が緩和されることが明らかになったことによる受控えの減少です。これは、分母の受験者数を増加させ、合格率の下落要因となりました。もう1つは、分子である合格者数の減少です。平成20年から平成25年まで、2000人台であった合格者数が、平成26年になって、1800人台となったのです。こうして、分母が増加する一方で分子が減少した結果、平成26年は、受験者合格率が急激に下落したのでした。
一昨年と昨年は、数字の上では合格率はほぼ同じです。ただ、一昨年は、平成26年から受験者数も合格者数もほぼ変化がなかった結果の数字でしたが、昨年は、分母(受験者数)と分子(合格者数)の減少が同時に生じた結果、昨年と同じ水準に落ち着いた、というものでした。
今年はどうかというと、分母である受験者数が減少する一方で、合格者数は昨年とほぼ同様の水準です。その結果、合格率が平成25年以前の水準まで上昇したというわけです。
2.数字の上では、今年の合格率は平成25年以前と同じような水準となったのですが、実際の難易度という意味では、必ずしもその頃と同水準というわけではないことに注意が必要です。前記1で説明したように、平成26年以降は受験回数制限の緩和の影響で、受控えが大幅に減少しています。つまり、平成25年以前であれば、受かる見込みがないとして受控えをしていたような人たちも、受験するようになった。このことは、受験率に現れています。以下は、受験予定者ベースの受験率の推移です。
年 | 受験率 |
18 | 98.4% |
19 | 87.3% |
20 | 81.2% |
21 | 77.3% |
22 | 74.8% |
23 | 75.0% |
24 | 75.6% |
25 | 75.2% |
26 | 87.5% |
27 | 89.5% |
28 | 90.2% |
29 | 90.0% |
現在の司法試験が始まった初期の頃は、今後合格率がどんどん下がるということがわかっていたために、受控えはかえって不利になる時期でした。ですから、極端に受験率が高くなっています。その後は、受控えの発生により概ね75%の受験率で推移しました。それが、平成26年以降は、ほぼ9割になっています。この差は、受控え層の受験によって生じたものと考えることができるでしょう。
この受控え層が合格する可能性は、かなり低いはずです。そこで、受控え層を除いた合格率を考えれば、受験回数制限の緩和の影響を除去した合格率を試算することができるわけです。仮に、今年も、平成22年から平成25年までと同水準の受験率(75%)であったとすると、今年の受験者数は、
6624人(受験予定者)×0.75=4968人
ということになります。実際の受験者数との差である999人が、受控え層であった、ということになるわけですね。
上記の仮の受験者数を基礎に受験者合格率を計算すると、
1543÷4968≒31.0%
となります。前記1の合格率の推移の表のうち、平成26年以降の部分について、括弧書きで上記の修正された合格率を記載したのが、以下の表です。
年 | 受験者 合格率 |
18 | 48.2 |
19 | 40.1 |
20 | 32.9 |
21 | 27.6 |
22 | 25.4 |
23 | 23.5 |
24 | 25.0 |
25 | 26.7 |
26 | 22.5 (26.3) |
27 | 23.0 (27.5) |
28 | 22.9 (27.6) |
29 | 25.8 (31.0) |
修正された合格率で比較すると、今年は、平成20年に近い非常に高い合格率であったことがわかります。このことは、当サイトが、「今年1500人合格させると、合格率が高くなりすぎる。」と考えた根拠の1つです。合格者数1500人が維持されたということは、このような意味を持っているのです。逆にいえば、来年以降も合格者数1500人が維持されたなら、実際上の難易度は、平成20年の水準よりも甘くなる可能性があるでしょう。その意味でも、来年以降も合格者数1500人が維持されるという予想は、簡単にはできないのです。
3.各年の受験者合格率は、「修了生7割」という累積合格率の目標値との関係でも、重要な意味を持ちます。
「修了生7割」というのは、「法科大学院では修了生の7~8割が合格するような教育をすべきだ。」という理念のことです。これは、司法制度改革審議会の意見書に記載され、閣議決定にも盛り込まれています。
(司法制度改革審議会意見書より引用。太字強調は筆者。)
「点」のみによる選抜ではなく「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備するという趣旨からすれば、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要である。このような観点から、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が後述する新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。厳格な成績評価及び修了認定については、それらの実効性を担保する仕組みを具体的に講じるべきである。
(引用終わり)
(規制改革推進のための3か年計画(再改定)(平成21年3月31日閣議決定) より引用。太字強調は筆者。)
法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう努める。
(引用終わり)
ポイントは2つあります。1つは、「司法試験委員会が、修了生の7~8割を受からせる」のではなく、「法科大学院が、修了生の7~8割が合格するような教育を行うべきだ。」というにとどまるということです。つまり、法科大学院は修了生の7~8割が受かるように教育すべきではあるが、合否を決めるのは司法試験委員会なので、必ず7~8割が受かるとは限らない、ということです。
(参院法務委員会平成17年03月18日議事録より引用。太字強調は筆者。)
国務大臣(南野知惠子君) 審議会の意見には、法曹となるべき資質また意欲を持つ人が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることがこれ不可欠の前提といたしていますので、その上で法科大学院では、課程を修了した人のうち相当程度、それが先生がおっしゃった七割から八割という方たちに相当するわけですが、その方が新司法試験に合格できるように充実した教育を行うべきであるという願望がそこの中にございますので、七、八割の人をオーケーよということとはちょっと違うかなというふうに思います。
そういうふうに教育を行うべきであるとされておりますが、これは法科大学院におけます教育内容、もう今進みつつありますが、それとか教育方法に関する記述でありまして、新司法試験におきましては法科大学院の修了者の七、八割が合格することを記述したものではないということでございます。
七、八割は必ず合格しますよということじゃなく、七、八割が合格するようにみんな総力を挙げて教育に当たりましょうというようなところが一つの大きなポイントでありまして、したがって、この点、審議会意見とは矛盾するものではないと思うということが、そのように御答弁申し上げたいところでございます。
(引用終わり)
もう1つのポイントは、この「7~8割」というのは、単年の受験者合格率ではなく、修了生が受験回数制限を使い切るまでに、最終的に7~8割が合格すればよいという意味だ、ということです。この点については、一時期、マスコミで各年の受験者合格率を指すという誤った報道がされ続けていました。当サイトでは、かなり以前から、それが誤りであることを指摘し続けてきました(「法科大学院定員削減の意味(2)」、「平成22年度新司法試験の結果について(2)」) 。政府の公表資料でも、一時期、この点についての混乱がありました。しかし、現在では、修了生が受験回数制限を使い切るまでの最終的な合格率を「累積合格率」という用語で定義し、「7~8割」とは、この累積合格率を指す、という形で、正しく説明されています。
(「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」より引用。太字強調は筆者。)
法科大学院は、司法試験(法科大学院の教育内容を踏まえた新たな司法試験をいう。以下同じ。)、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関として位置付けられており、多様なバックグラウンドを有する人材を広く受け入れ、密度の高い授業により、将来の法曹として必要な学識、その応用能力等を修得させることが求められている。
これについては、「司法制度改革審議会意見書-21 世紀の日本を支える司法制度-」(平成 13
年6月。以下「審議会意見」という。)において、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきとされている。また、この内容は、「規制改革推進のための3か年計画」(平成
19 年6月 22 日閣議決定)、「規制改革推進のための3か年計画(改定)」(平成 20 年3月 25
日閣議決定)及び「規制改革推進のための3か年計画(再改定)」(平成 21 年3月 31 日閣議決定)に重点計画事項として盛り込まれている。
各年度の法科大学院修了者を母数として、法科大学院修了後5年間の受験機会を経た後の合格率(以下「累積合格率」という。)をみると、平成
17 年度修了者は 69.76%と目標の中で例示された合格率の下限にほぼ到達したが、18 年度修了者は 49.52%と目標の中で例示された合格率に達していない。
これを法科大学院別にみると、平成 17 年度修了者が目標の中で例示された合格率を達成したものは、57 校中 26 校(45.61%)、18
年度修了者では、68 校中7校(10.29%)である。
平成 17 年度修了者と 18 年度修了者との達成状況に相当な差異があるのは、17
年度修了者が既修者(注) のみであるのに対し、18 年度修了者は未修者と既修者の両方となっていることによる。
(引用終わり)
なお、「合格者数3000人の目標が撤回されたのだから、修了生7割の目標も既に撤回されたのではないか。」と思っている人もいるかもしれませんが、修了生7割の目標については、現在でも維持されています。
(「法曹養成制度改革の更なる推進について」平成27年6月30日法曹養成制度改革推進会議決定より引用。太字強調は筆者。)
平成27年度から平成30年度までの期間を法科大学院集中改革期間と位置付け、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図ることにより、各法科大学院において修了者のうち相当程度(※)が司法試験に合格できるよう充実した教育が行われることを目指す。
※ 地域配置や夜間開講による教育実績等に留意しつつ、各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上。
(引用終わり)
この累積合格率と、単年の合格率には、どのような関係があるのか。これは、簡単な試算が可能です。累積合格率とは、失権する前に合格する者の割合ということになりますから、単純化すれば、5年連続で不合格になった者以外の者の割合ということになる。そこで、単年の合格率をPと仮定し、全体から5回連続で不合格になる割合を差し引いた数字を考えると、以下の算式となります。
1-(1-P)5
ここに、今年の合格率である25.8%を代入して計算すると、累積合格率は、約77.5%となります。目標の7割を優に超える数字です。ちなみに、当サイトが予想した1374人であれば、合格率は23%となり、その場合の累積合格率は、72.9%になる。このことが、合格者数1374人を予測した根拠でした(「平成29年司法試験の出願者数について(2)」)。仮に、来年以降も合格者数1500人が維持され、さらに合格率が上がってしまうと、累積合格率は上限である8割を超えてしまうのではないか(※)。そこで、修了生8割の上限を超え、9割に入る単年の合格率を考えると、ちょうど単年の合格率が37%のところで、累積合格率は約90%となります。つまり、単年の合格率が37%以上にならない限りは、累積合格率は8割台に収まることになる。では、合格者数1500人の場合に、単年の合格率が37%となるような受験者数はというと、これは4054人です。現在の受験率約9割を前提にすると、これは出願者数が約4500人の場合です。つまり、出願者数が4500人を下回るようなら、さすがに合格者数1500人は維持されないだろう。累積合格率との関係では、そのような予測ができるということになります。
※ 厳密には、8割が上限であるかというと、必ずしもそうではありません。法科大学院の教育が充実し、多くの優秀な修了生が輩出された結果として、ほとんど全員が受かる試験になるのであれば、それはむしろ好ましいことです。とはいえ、現状はそのようにはなっていないわけですから、それにもかかわらず累積合格率が8割を超えるということは、試験としてどうなのか、ということになる。当サイトでは、そのような理由から、当面は8割を超える累積合格率には容易にならないだろうと考えています。