1.今回は、選択科目についてみていきます。まずは、選択科目別にみた短答の受験者合格率です。
科目 | 短答 受験者数 |
短答 合格者数 |
短答 合格率 |
倒産 | 906 | 666 | 73.5% |
租税 | 412 | 250 | 60.6% |
経済 | 867 | 552 | 63.6% |
知財 | 803 | 526 | 65.5% |
労働 | 1738 | 1215 | 69.9% |
環境 | 353 | 201 | 56.9% |
国公 | 81 | 36 | 44.4% |
国私 | 769 | 491 | 63.8% |
短答は、選択科目に関係なく同じ問題ですから、どの科目を選択したかによって、短答が有利になったり、不利になったりすることはありません。ですから、どの選択科目で受験したかと、短答合格率の間には、何らの相関性もないだろうと考えるのが普通です。しかし実際には、選択科目別の短答合格率には、毎年顕著な傾向があるのです。
その1つが、倒産法の合格率が高いということです。今年の数字をみても、倒産法が合格率トップ。しかも、他の科目選択者にかなり差を付けています。このことは、倒産法選択者に実力者が多いことを意味しています。倒産法ほどではありませんが、労働法も似たような傾向です。
逆に、国際公法は、毎年短答合格率が低いという傾向があります。今年も、国際公法はダントツの合格率ワースト1位。全体の短答合格率は65.9%ですから、それよりも20%以上低い合格率です。このことは、国際公法選択者に実力者が少ないことを意味しています。国際公法ほど顕著ではありませんが、環境法も類似の傾向です。また、新司法試験開始当初は、国際私法も合格率が低い傾向だったのですが、最近では、そうでもなくなってきています。その原因の1つには、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えている、ということがありそうです。国際私法は、他の選択科目よりも学習の負担が少なく、渉外系法律事務所への就職を狙う際に親和性がありそうにみえる、ということが、その理由のようです。
2.論文合格率をみてみましょう。下記は、選択科目別の短答合格者ベースの論文合格率です。
科目 | 短答 合格者数 |
論文 |
論文 合格率 |
倒産 | 666 | 270 | 40.5% |
租税 | 250 | 94 | 37.6% |
経済 | 552 | 220 | 39.8% |
知財 | 526 | 201 | 38.2% |
労働 | 1215 | 480 | 39.5% |
環境 | 201 | 73 | 36.3% |
国公 | 36 | 16 | 44.4% |
国私 | 491 | 189 | 38.4% |
論文段階では、どの科目を選択したかによる影響が、多少出てきます。もっとも、各選択科目の平均点は、全科目平均点に合わせて、全科目同じ数字になるように調整され、得点のバラ付きを示す標準偏差も、各科目10に調整されます。ですから、基本的には、選択科目の難易度によって、有利・不利は生じないはずなのです(※1)。したがって、論文段階における合格率の差も、基本的には、どのような属性の選択者が多いか、実力者が多いのか、そうではないのか、といった要素によって、変動すると考えることができるのです。
※1 厳密には、個別のケースによって、採点格差調整(得点調整)が有利に作用したり、不利に作用したりする場合はあり得ます。極端な例で言えば、ある選択科目が簡単すぎて、全員100点だったとしましょう。その場合、全科目平均点の得点割合が45%だったとすると、得点調整後は全員が45点になります(なお、この場合は調整後も標準偏差が10にならない極めて例外的なケースです。)。この場合、選択科目の勉強をたくさんしていた人は、損をしたといえるでしょうし、逆に選択科目をあまり勉強していなかった人は、得をしたといえます。もっとわかりやすいのは、ある選択科目が極端に難しく、全員25点未満だった場合です。この場合は、素点段階で全員最低ライン未満となって不合格が確定する。これは、その選択科目を選んだことが決定的に不利に作用したといえるでしょう。このように、特定の選択科目が極端に難しかったり、易しかったりした場合などでは、どの科目を選んだかが有利・不利に作用します。とはいえ、通常は、ここまで極端なことは起きないので、科目間の難易度の差はそれほど論文合格率に影響していないと考えることができるのです。
新司法試験が始まってしばらくの間は、論文合格率も倒産法が高く、国際公法が低いという傾向で安定していました。ところが、平成26年になって初めて国際私法がトップとなり、平成27年は経済法がトップ、そして昨年は、また倒産法がトップに返り咲きました。今年はといえば、予想外にも国際公法がトップです。今まで、国際公法は合格率最下位で安定していたのに、いきなりのトップ。これは、これまでの司法試験の歴史の中で、初めてのことです。もっとも、国際公法は母集団が少ないので、ちょっとしたことで合格率が大きく変動してしまいます。今年は、イレギュラーな結果だったと考えるべきでしょう。むしろ、イレギュラーが生じやすいにもかかわらず、これまで安定して最下位にいたことこそが、国際公法の傾向性の強さを示していたともいえそうです。倒産法は、この国際公法に次いで高い数字です。とはいえ、他の科目とそれほど大きく差を付けているわけではない。論文に関しては、合格率上位の傾向性は、やや薄れているといってよいでしょう。もっとも、倒産法と同様に、従来から高めの合格率を出している労働法は、今年もそれなりに高い数字です。このように、薄れているとはいえ、それなりの傾向性は維持しています。
上記のように、これまで安定して最下位にいた国際公法が、今年はトップに抜け出してしまいました。代わりに、環境法が最下位になっています。環境法は、従来から、国際公法ほどではないけれども、下位で安定していました。租税法は、昨年に引き続いて、今年も低い合格率です。一方、かつては国際公法と同様に低い合格率だった国際私法は、平成26年は首位となるなど、近年は合格率を高めています。前記のとおり、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えていることが、その原因となっているようです。