平成29年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
25 2739 1456 2444 2198
26 2936 1846 2838 2298
27 3092 1710 2875 2233
28 3268 1611 2881 2265
29 3527 1408 3004 2353

 前々回の記事(「平成29年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、20代が減少傾向にあることを確認しました。職種別の受験者数でみると、それが法科大学院生の減少に対応していることがわかります。他方、大学生は昨年より123人増加しています。昨年は6人しか増えていませんでしたから、随分増えたな、という印象です。19歳以下の受験者は昨年から14人増えただけですから、20代の大学生がかなり増えています。大学生がこれだけ増えているのに、20代が減少しているのは、法科大学院生が203人も減っているからです。20代の予備受験者は、法科大学院生から大学生へと、受験者層がどんどんシフトしています。
 一貫して増加傾向にあるのが、有職者です。今年は、259人の増加です。この有職者のカテゴリーには、旧司法試験時代から受験を続けているような、苦節20年、30年というタイプの人が含まれます。もっとも、そのような人は、基本的に毎年受験するので、昨年と比較する場合の増加要因とはなりません。この層が増加していることは、新たに法曹を目指して予備試験に参入する人や、司法試験で受験資格を喪失し、就職したが、諦めきれずに予備試験を受験する人が増えているという可能性を示唆します。
 無職の受験生も、基本的に増加傾向です。今年は、88人の増加となっています。平成27年にややイレギュラーな減少をみせたのは、受験回数制限緩和の影響です。受験回数制限が5年5回に緩和されたために、一時的に受験回数を使い切る人が減少した。受験回数制限を使い切って予備に回る人は、無職(アルバイトを含む)であることが多いので、これが無職のカテゴリーの数字に反映されているというわけです。

2.では、最終合格者数でみると、どうか。以下は、直近5年の職種別の最終合格者数の推移です。


(平成)
有職者 法科大学院生 大学生 無職
25 38 162 107 36
26 38 165 114 34
27 54 137 156 35
28 39 153 178 31
29 50 107 214 66

 一貫して増加傾向にあるのが、大学生です。一方で、法科大学院生は、大幅に合格者が減少している。前々回の記事(「平成29年予備試験口述試験(最終)結果について(2)」)で、20代の合格者の増加が頭打ちになったことを説明しました。上記の数字から、20代の増加が全般的に抑制されたわけではなく、大学生が増加する反面で法科大学院生が減少したために、トータルで頭打ちになっていたことがわかります。
 今年の特徴として、論文の若年化方策の効果が、わずかながら薄まっている、ということがありました。そのことがわかるのが、有職者と無職の合格者の増加です。これまでは、有職者や無職の予備受験生が増加しても、合格者は増えない、という傾向でした(平成27年の有職者は例外です。)。それが、今年は有職者、無職ともに増加しています。無職に関しては、倍以上になっている。とはいえ、絶対数としては圧倒的に大学生が強いことには変わりがありません。若年化方策の効果はわずかに薄まったとはいえ、いまだに強力に作用しているのです。

3.短答合格率をみてみましょう。以下は、今年の職種別の短答合格率(受験者ベース)です。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 3527 729 20.6%
法科大学院生 1408 292 20.7%
大学生 3004 556 18.5%
無職 2353 613 26.0%

 短答は、勉強時間が長く確保できれば、受かりやすくなる。無職は、多くの場合、専業受験生です。したがって、最も多く勉強時間を確保できる。それが、短答合格率に反映されています。他方、勉強時間が最も少ないのは、大学生です。大学生は、短答では最も苦戦しているのです。このことは、若年化方策をとることなく、知識で勝負がつく試験にした場合、専業受験生の無職が合格し、大学生は受からない試験になってしまうことを意味しています。

4.では、論文になると、どうなるか。以下は、今年の職種別の論文合格率(短答合格者ベース)です。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 729 57 7.8%
法科大学院生 292 110 37.6%
大学生 556 222 39.9%
無職 613 72 11.7%

 年配者の多い無職や有職者を落とし、ロー生と大学生を受からせることに成功しています。これが、若年化方策の効果です。ロー生や大学生は、特に対策を考えなくても、普通の感覚で受ければ、論文はクリアできます。ところが、社会人や無職の専業受験生は、知識・理解が過剰になっているので、普通に受けると極端に受かりにくい。当サイトで繰り返し指摘している、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則です。そのような人は、まず、勉強の範囲を規範部分に絞ることが必要です。その上で、当てはめに入る前に規範を明示する、事実は問題文から忠実に引用する、というスタイルを守った答案を書けるようにする。そのためには、一定の文字数が必要になりますから、速く書く訓練をし、試験時間中に書き切れるだけの筆力を身に付ける。やろうと思えば、訓練次第で十分可能なことなのですが、これを実行できる人は、少ないのが現実です。障害になるのは、心理面の抵抗です。上記のような割り切った書き方は、今まで自分がやってきたこだわりと衝突する。「趣旨・本質に遡るんだ。いきなり規範なんて書きたくない。」、「自分は○○先生の連載を読んで、○○先生の考え方が正しいことを理解している。だから、その考え方で書きたい。」、「今まで勉強してきた深い理解を答案に表現したい。規範と事実だけを書くなんて我慢できない。」、「判例の規範は、実は間違っているんだ。そんな間違った規範は使いたくない。」、「問題文の事実をそのまま引くなんてバカみたいだ。そんなものは省略して、自分の言葉で事実の評価を書きたい。」、「コンパクトな答案の方が切れ味があると思う。自分は規範や事実を書き写すようなバカっぽい答案は書きたくない。」、「速く字を書く訓練なんて法の知識、理解と何の関係もなくてバカバカしいからやりたくない。」。このようなことは、長期間勉強した受験生なら、誰しも思うことです。これを捨てることは、今までの数年間(場合によっては数十年間)は何だったのか、ということになる。この未練が、とても大きな障害になってしまうのです。これを乗り越えることが、何より重要です。
 実際に、これを乗り越えて合格する有職者、無職の人が少しずつ増えてきています。以下は、職種別の論文合格率(短答合格者ベース)の昨年、今年の比較表です。

職種 昨年 今年 前年比
有職者 5.6% 7.8% +2.2%
法科大学院生 40.9% 37.6% -3.3%
大学生 32.2% 39.9% +7.7%
無職 5.8% 11.7% +5.9%

 大学生の合格率上昇が目立ちますが、その影で、有職者や無職が合格率を伸ばしていることも、無視できない事実です。若年化方策の効果が、わずかながら薄まっているのです。若年化方策の仕組みを理解し、これに対応した努力をすれば、年配者でも障害を克服できるそれが、この数字に表れているといえるでしょう。一方で、法科大学院生の合格率が下がり、大学生に逆転されていることも、気になるところです。大学生と法科大学院生を比較すると、むしろ若年化方策の効果が強まっているともいえる。興味深い現象です。法科大学院生は、ローで、「本質を書きなさい。本質を書けばきっと受かります。」という指導を受けてしまいます。これを真に受けて、「受かりにくい人」になってしまう人が、一定数いるのです(※)。ローでは、当サイトで説明しているような論文のカラクリについては教えてくれないので、一度「受かりにくい人」になってしまうと、なかなか是正できない。一方で、有職者や無職は、情報源が少なく、当サイトを閲覧する割合がロー生より相対的に高いので、論文のカラクリを理解している人が増えてきているのでしょう。その結果、ロー生の一部には若年化方策が強く作用する反面、有職者、無職に対しては、相対的に若年化方策の効果が薄まってきている。そういうことなのではないかと思います。
 ※ それでも、ロー生全体からみると、そのような人は少数派です。ほとんどのロー生は、教わったとおりに趣旨・本質まで学習しようとしても、試験当日までの時間が限られているために、結局は判例の規範を書けるようになるだけで精一杯の状態で試験当日を迎えるからです。それが実際にはとても良いことであることは、合格した本人もよくわかっていなかったりします。

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